ダーク・ファンタジー小説

Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.7 )
日時: 2023/04/02 14:21
名前: htk (ID: OHC2KpRN)

1章〜〜第1幕、1話ーー副題(未定)



 見渡す限り、森林ーー。
 遠く霞んだ山々が雲を纏い、私の頬へと息を吹きかけてくる。
 東西南北何処を見下ろしても、森、森、森、森だらけだった。
「はあ……高いわね、後輩君」
「はい、、そうですね、リン先輩」
 簡易な装具を身に付けた男子は応じ、辺り一帯を見下ろす。
 もう一度言うが森、森、森ーー。
 遠く見下ろした視点は遥か下方の森との間に切り立った崖を映していて、思わずーー身震いが肌を伝ってくる。
 後輩君が同意を示したように、高いという言葉だけでは足りない程度には高いーー。
 円形の断崖の上に、私達は居た。
 あの学校の屋上の足場ごと転移してしまったらしく、私達は今ーー少し途方に暮れている。
 この状況ははっきり言って、斜め上なのだろう。
 私達がこうして無事に五体満足で居るのを見れば、転移自体は成功裡に終わったといって差し支えない。
 しかし、その転移先が例えば海中とか地中とか、それとも或いは宇宙等ーーは、喚術陣に組み込んだ術式で避けたから有り得ないが、想定外の座標なり次元なりに繋がった挙げ句、まったく未知の環境で数分と保たずに死ぬ可能性は幾分かはあったのだ。
 それを考えるとーーひとまずは僥倖といって差し支えないのだろう。
 転移術式に組み込んだ衣装ーー武闘服の上着を肩で纏った眼帯ヤンキーが言う。
「しっかしなァ、、
、、高ェ!高過ぎじゃねェかァ!?」
 円形の足場の端でしゃがみ込んだ彼、迦具土テツヲは真下を覗き込んだ。
 眩暈がしてくるような高さーー。
 武闘家になりきった格好のテツヲにとっては平気なのかもしれないが、この高さはーーたとえ苦手でなくても、足場の端に寄るのすら躊躇ってしまいそうな高所だ。
 思わず後退りしたのは、身体のラインが幾分か際立つ魔女装束を着た、私だけでは無い。
 隣で立っていた歳下の後輩君ーー下級騎士というよりも、従者然とした簡易な軽装を身に付けた天ヶ嶺開人君も恐る恐る、といった様子だった。
 そして、発動を終えた喚術陣が描かれた中央から、まったく身動ぎもしない女の子は項垂れている。
「、、む、無理です
わ、わたし、、高い所だけは駄目なんです、、」
 ガクブルと震えているあたり、高所恐怖症なのだろう。
 その場から一歩たりとも動けそうにない後輩女子ーー前垣沙梨亜ちゃんは、場所が場所なら闇に溶け込みそうな生地の衣装に身を包んでいた。
 身体にフィットした薄い布地の上からフード付きの上衣を羽織った、アサシンスタイルだ。
 しかしこの様子では、最初のクラス選択を誤ったと言わざるを得ないのかもしれないーー。
 大体、高所が駄目なアサシンが果たして任務を遂行出来るのかと疑わしく思えてくる。
 そもそも沙梨亜ちゃんが本当に戦えるのかどうかを、生憎と私は知らない。
 次いでにいうと私達のこの格好は予め、喚術陣に組み込んだ術式が置き換えられたものだった。
 これを使いこなせば大概の事は実現可能ーーとひよ子が以前言っていたのを思い出すが、前世の記憶があやふやな私にとってはそこまでの見地に至っていない。
 ともあれ、こうして異世界ーーなのかどうかはまだ未確認だがそれはともかくとして、転移自体は成功したのだーー!
「遂にやったわね……!
思えば永かったのだわ……。
成長するにつれ自覚せざるを得なかった記憶と現実との乖離……周囲の無理解と己が異物であるという根拠の無い確信に、幼少の頃の私は囚われていたの……。
けれども、それももうお終いね……!」
「良かったですね!リン先輩」
 後輩君が祝福してくれた。
 そう、今の私は無力で愚昧なただの一般市民では無い。
 終期末を司ると謳われし大魔女の魂をその身に宿す者なのだからーー!
 手にした長杖を高々と掲げた私の後ろから、後輩君の拍手が鼓膜を打ってくる。
「おお!格好良いですよ!
、、ところで、此処からどうやって降りるんですか?」
 そう、問題はそこなのだ。



「よっしゃ、飛び降りるかァ、、!」
「却下よ……!
はあ……どうしてそういう発想になるのかしら?」
 あまりに乱暴な意見を私は一蹴した。
 発言者は、これはもう言うまでもないと思うが、脳が筋肉の鼓動だけで動いていそうな人物ーーテツヲだ。
 電気信号の司令など、彼にとっては瑣末なものに違いない。
 私は既に一蹴したつもりだったが、テツヲは抗弁してくる。
「でもなァ、術式とかナンとかの中に色々仕掛けたんだろうがァ、、?真島とヒョコでコマゴマと、、
そういやァ、この服もソレだったんじゃねェのかァ?」
 それは、確かにそうなのだ。
 転移の際に様々な恩恵が得られるよう、私とひよ子は多様な術式の開発に取り組んだ。
 向こうの世界ーー。
 今居る此処が異世界と仮定するならば、という但し書きは付くが、テツヲを止めたのにはそれなりの理由がある。
 元居た向こうの世界では、不可視の比定物質ーープラーナと確か、前世でそう呼ばれていた存在の源のようなものが薄いらしく、仮に大掛かりな術式を組んだとしても制御が難しい事が予想され、迂闊に発動しないようにしていたのだ。
 それでも細々と安全を確保しながらの実験で、高校一年生の間に様々な異世界文字を用いた術式をひよ子と共に開発したは良いがーー。
 元居た世界のプラーナが薄い影響下での実証実験は、生憎とほとんど果たせなかったのである。
 だから、つまりーー。
 体内に含有されるプラーナとの適合の術式も喚術陣には予め組み込んでおいたのだから、もしーー此処が異世界なら身体能力向上などの恩恵やら各員装備の耐久力で飛び降りたとしても、何の問題も無いのかもしれない。
 だが、これが単なるーー世界間を跨がない転移だったとすると非常に危ういのである。
 だから私は、まだ飛び降りたそうにストレッチするテツヲに釘を刺す。
「そうね……。
此処がもし、異世界じゃなく元居た世界ならテツヲ、あなた……潰れるわよ?」
「アアン?そうなのかァ、、?
、、なら仕方ねェ」
 諦めてくれたらしい。
 彼が好き勝手に動けばその余波で私達諸共詰みかねないのだから、そこは自重して貰うつもりだった。
 遣り取りを聞いていた後輩君が、何か思い付いたらしく手を挙げる。
「はいはい!リン先生」
「質問タイムね……?後輩君」
 私は発言を許可した。
 彼ならば、テツヲよりも具体的で建設的な案を出してくれると期待したい。
「スキルって無いんですかね?
確か、リン先輩とヒョコ先輩でそんな話してたような、、?」
「ええ……そうだったわね
けれども、各人の適性に裏打ちされたスキルのようなもの……。
ある種の超常的な能力がどういった経緯、どんな形で発現するか、はたまた発現しないのかはまったくの未知数なのよ……?
申し訳無いのだわ……」
 これは正直、詰んでるのかもしれない。
 此処がどれくらいの高さかは目測で測りようも無いが、遠く霞む山々とそれ程変わらなそうなのを見るとーー。
 少なく見積もっても、千メートルはあると考えた方が無難なのだろう。
 私の謝罪を耳にした後輩君は、項垂れた。
「はは、、そうですか」
 失望させてしまったかもしれない。
 少々の間、私達の間には沈黙が流れた。
 気不味いーー。
 どうにかしなくては、と私は手荷物の中を改める。
 術式に組み込んでおいた装備一式だ。
 中を漁っていると、皮袋の中から奇妙なものを見付けた。
「あら……?これは何かしら……」
 異世界に来たとしても早々、必要になるとは思えないものだ。
 私が掴んだのは、一冊の本ーー。
 その表題には、こう書かれていた。
〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉とーー。



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