ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.8 )
- 日時: 2023/04/02 14:24
- 名前: htk (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第1幕、2話ーー副題(未定)
私達は喚術陣の円陣が描かれていた中央に寄り集まっている。
日記なのだろうかーー?
最初のページには既に誰の手によるものか、これは言われなくてもわかるがーー。
それを見た後輩女子が、剣吞さを隠さずに言う。
「、、ちっ!?
何がラブリーアツアツですか!?あの女、、
、、消し炭にしてしまいましょう!是が非でも」
「待って待って!?前垣さん!
ほら?たぶん、せっかくヒョコ先輩が用意してくれたものだし、、?」
「、、っち!?
仕方ないですね、、」
後輩君のお陰で危うく消し炭の末路を免れた日記ーー〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉は風でパラパラとページが捲れた。
最初のページ以外、全て白紙なのだろう。
テツヲは怪訝そうにその日記を拾い上げる。
「アア?交換日記かァ」
「……みたいね
……ヒョコったら、こんなもの用意して……」
ジワリとくるものがあったが、此処はみんなの前だ。
私は手渡された日記の最初のページをゆっくりと開いた。
『やっほ〜、元気〜?
うへへ〜、びっくりしたかな〜?
どうも〜、みんな大好き愛の戦士ヒョコちゃんだよ〜?
あ、これね〜?文字を転送する術式とか色々組み込んで出来ないかと思ってね〜?
結果はどう出るのかな〜?
い〜やはや楽しみですな!
あ、そうそう〜
あの後、みんなを送ってから色々あってね〜?
何日かゴタゴタしてたんだけど、』
「待て待てェ!何だァ今のは、、!?」
違和感に気付いたテツヲを、私は窘める。
「……煩いわ!?ちょっと黙ってなさい!」
「、、っち
トンデモナイ女ですね!?
まさか異世界にまでストーキングしてくるなんて、、」
ストーキング、と口にした沙梨亜ちゃんとひよ子との間に何があったのかは分からないし、詮索する気もないのだがーー今は煩い。
私の眉間に皺が寄ったのを察した声が、クラスメイトの沈静化を図る。
「まあまあ、落ち着いて落ち着いて?
早く続き読もう?前垣さん?」
後輩君の取りなしに沙梨亜ちゃんも口を噤み、文章の羅列を静かに追った。
ひよ子曰く、何日かゴタゴタしてーー?
こちらとあちらでは時間の流れが違うとでもいうのだろうかーー?
ひとまず読み進めてみる。
『あ、そうそう〜
あの後、みんなを送ってから色々あってね〜?
何日かゴタゴタしてたんだけど、なんか家に偉い人が来てね〜?
たぶんそっちで、私の推測が正しければ喚術陣の真下にあった地盤ごと転移してる可能性が考えられるんだけど、どうかな〜?
色々ハショるけど状況の説明するね〜?
つまり、こっちではいきなりくっきりと学校の屋上から地盤ごと消失する事件があってね〜?
そりゃもう大騒ぎなわけですな!うっへっへ〜!
ともかくそんな流れでみんな!聞いて驚くなよ!?
私こと愛の戦士ヒョコちゃんは晴れて晴れて何と!?
国家機密の研究機関に務める事になりました〜!
まだまだ研究者じゃないんだけどね〜?内定ってやつかな〜?
そんなわけでこっちはすこぶる順調です!世間一般は大変なんだけどね〜
あ、そうそう〜
みんなの手荷物の中になんか色々術式組み込んで再現した便利アイテム仕込んどいたよ!
ブランド名は、ヒョコティティル製品とかかな〜?
ちゃんとそっちに持ち込めてるといいね〜?
この〈ヒョコちゃんとのラブリーアツアツ通信記〉もその一つなんだけどね〜
無事届いたかな〜?
それとみんなも無事異世界に行けたのかな〜?
心配だし〜?出来るだけ早い返信求む!
首を長くして待ってるからね〜?
by 愛の戦士ヒョコティティル』
「……まさか、私の知らない間にそんなとこまで手を回していたとはね
いやはや、畏れ入ったのだわ……!
さすが私の唯一無二の友人……」
ホロリときた。
涙を零す程では無いにしても、少し目元を拭うのは不可抗力だ。
ジワリときてる隣で後輩君がそっとハンカチを差し出してくる。
「ありがとう……。
私ったら、こんなに友人に恵まれていたのね……」
「はは、そうですね!
ヒョコ先輩は規格外な人でしたから、敵わないですよね
本当に、、」
彼がみんなの気持ちを代弁した。
さしもの沙梨亜ちゃんも舌打ちはするが、脱帽してるらしい。
「、、っち
不本意ですがあの女が仕込んだブツを見ますよ?」
「だなァ?
、、ヒョコのクセにやりやがる!
思えば小っこい頃からいつもだけどなァ、、」
ひよ子とは幼馴染みのテツヲも、何処か遠くを見るような趣きだ。
私は瞳がジワリと滲みそうなのを堪え、彼女が仕込んでくれた〈ヒョコティティル製品〉とやらの確認を始めた。
「……現状、よく分からないものが多いわね」
ひよ子特製の便利アイテムの数々は、私達を困惑させた。
用途不明のものが多いーー。
そもそもそれぞれ各人が持つ荷袋自体もそうなのだが、外観上のサイズと内容量をまったく無視した代物だった。
よく異世界系小説で登場する、空間ボックスというものなのだろう。
見た目は片手で持ち運べる程度の荷袋だが、中身に簡単な食料品等も含まれているのを見ると、従来のーー腐食を防止する為、時間が止まっている類のものかもしれない。
その内容量は明らかに外見を裏切っていて、袋の口にサイズが合う物ならまだまだ入りそうだった。
中身から取り出されたのは先に触れた食料を始め、水、ガスコンロや携帯用トイレ等は勿論だが、折り畳み式テントや寝袋、果ては化粧品やら応急セットにも加え、ちょっとした小物まで様々だ。
それら必需品を押し退けて並べられたものはーー。
「あ、これ何ですかね?
、、モノクル?」
「アア、あれじゃねェのかァ?
異世界ものでよくある鑑定のヤツ、、」
試しにと眼帯の付いていない方の左目で片眼鏡を着用するテツヲだが、特に変わった事は無いらしい。
他にも何も描かれていない羊皮紙だとか、ペットボトルサイズの大型キャンドル、栓のされた内容物の怪しげなフラスコが複数種及び、明らかに尋常では無い毒々しい液体まである。
沙梨亜ちゃんはその一つを手に取り、困惑顔だ。
「、、これをどうしろと?
飲め、ですか?」
「まさか……?
いくらひよ子でもヤバイ薬飲ませようとはしない筈なのだわ?たぶん……」
言いはしたが、自信は無い。
彼女にとっては便利アイテムでも、私達が使えば危険物となり得るかもしれないのだ。
沙梨亜ちゃんは嫌そうにフラスコから手を離し、こちらの荷袋を窺ってくる。
「、、先輩の方はどーなんです?
何か、状況を打開出来そうなものとか、、」
聞かれ、私が皮袋から取り出したのはーー箒だ。
各人それぞれの手荷物の中には〈ヒョコティティル製品〉が幾つか入っていそうだったが、魔女に箒とはーー。
よく分かっていたのだろう。
「最高よ……!さすが我が愛する親友、愛の戦士ヒョコティティルなのだわ!」
時々冗談めかして、異世界風ネーミングとして考案されたヒョコティティルが、唯一無二の親友にランクアップした。
次話、>>9