ダーク・ファンタジー小説
- Re: 転移後即日死した後輩君を魔女先輩は甦らせたい!? ( No.9 )
- 日時: 2023/04/02 14:27
- 名前: hts (ID: OHC2KpRN)
1章〜〜第1幕、3話ーー副題(未定)
「それで、どうやって使うんですかね?リン先輩
魔女といえば箒なのは分かりますけど」
後輩君が訊ねてくる。
おそらく術式を施した特別な箒なのは間違いないのだが、問題は使い方だ。
「待ってて……なんかこう?
今少し思い出せそうだから……」
私には、前世由来の知識がある。
それは今世の記憶ーー例えば昨日食べたご飯みたいにいつでも思い出せるようなものでは無く、ちょうど数ある記憶の糸を手繰り寄せるようなものなのだ。
目を閉じた私は意識を深く沈め、静かな時間が訪れたかに思えた。
だが、喧しい奴が何か言ってくる。
「おォ、またいつものヤツかァ、、
、、今度は何日かかんだろうなァ?」
「、、しっ
黙りやがれですよ!テツ先輩」
沙梨亜ちゃんに諌められ、余計な茶々入れは入ってこなくなった。
じっくりと集中する必要があるだろう。
私は意識を閉ざし、辺りは沈黙した。
「これは……プラーナに働きかける事で効能を発揮する導器具の一種ね
その証拠にほら……?
……ここに紅い金属が埋め込まれているのが見えるのだわ?」
「、、紅い金属、です?
どれですか?」
箒のボサボサ部分を掻き分け、その奥に見えた紅い金属を指し示した。
沙梨亜ちゃんの疑問に、私は答える。
「これはフィフィーロカネン……。
プラーナに干渉する際に必要とされる力……さっき次いでに思い出したのだけれど、通力解放と呼ばれる力の干渉により感応する貴金属よ?」
「、、なるほど、フィフィーロカネン?
聞き覚えはありますが、、?」
沙梨亜ちゃんが言い、それに頷いたのはテツヲだ。
「ヒヒイロカネ、だなァ?確か、、
訳すなら紅銅、とかかァ?
またひよ子がナントカいうアレで引っ張りだしてたみてェだなァ?」
「そうね……。
ナントカじゃなくて、術式変換品……とひよ子は呼んでいたのだわ?」
先程広げていた〈ヒョコティティル製品〉を正確に言い表すと、そんなところだろう。
私の記憶にある異世界原語はあらゆる事象に作用するらしく、記憶の当事者よりもその効果を理解していた友人には脱帽する。
フィフィーロカネンーーテツヲが言い表した紅銅が元の世界でいわれるそれと同じかはともかくとして、前世の世界では確か希少金属だった筈だ。
「そんなに流通するようなものでは無かった筈だけれども……。
……ひよ子ったら、いつの間にこんなもの再現させてたのね?
ま……いいわ!
早速使ってみましょう!」
そう言って私は、ベンチにでも腰掛けるような姿勢で箒の柄に座る。
ふわりと浮きかけたーーが、そこは習熟が必要なのだろう。
ぽすんと下に落ちた私はぼそりと呟く。
「……練習が必要みたいね」
「ですね、リン先輩
おれ、応援してます!」
後輩君に頷き、私はもう一度箒の柄に座った。
木ーーというのはそもそも、通力を通しやすい。
だから魔女が乗る箒や振るう杖は押し並べて木を素材に作られていたりするのだが、この箒も例に漏れずーー木で出来ている事が功を奏したと言えた。
もしこれがフィフィーロカネンのような貴金属でもなく、ただの鉄製の柄だったらーー飛び続ける自信はとても、さしもの大魔女といえども無い。
そんな私達は今ーー空中に居る。
箒の柄に腰掛けた私は勿論だがーー。
「おいッ!?沙梨亜ァ!
、、テメェガタガタ震えてんじゃねェ!?」
「、、ご、ごめんなさい!?テツ先輩
、、で、でも怖いんです、うぅ、、」
眼帯ヤンキーの小脇に抱えられた彼女はもう、箒の柄にまで振動が伝わってくるぐらいに震えていた。
他方の手で箒のボサボサを掴むテツヲは、その両手が塞がっているにも関わらずーー更には口で荷物を咥えているのだから、まさに筋肉お化けだ。
そもそも口が塞がったままどうやって怒鳴っているのか、さしもの私でも見当が付かない。
そして、もう一方の箒の先端を掴むのはーー必死に脂汗を浮かべる後輩君だ。
彼も残りの手荷物を他方の手にぶら下げてから、既に体感で数十分あまりが過ぎている。
「もう駄目です、リン先輩
おれ、、
、、落ちます」
「後輩君……!?
待って早まらないで……!?
もう少し、もう少しだから……!」
思わず声が裏返りそうになった。
何とかしなければーー彼が落ちていくところなんて見たくない。
たとえ座り続けたせいでお尻が痛くても、前世を跨いで十数年ぶりの通力のコントロールが覚束なくても、後輩君に死なれてはその後の異世界ライフがーーきっとその後の私の人生にも深く関わってくるのだ。
若干の焦りを覚えつつ閃く。
「そ……そうなのだわ!?
つ、通力よ……!通力循環!
体内のプラーナを意識しなさい……!?今すぐ!」
「む、無理ですって!?先輩
通力とか何の事かさっぱり、、」
無茶振りが過ぎるのは分かっていた。
それでも今ここを乗り切らなければ、私は後悔してもしきれないだろう。
荒療治だが、それに今後色々と差し障るかもしれないが、この際だから仕方ない。
柄の先端を掴む後輩君の手に、私は手を伸ばす。
「せ、先輩!?」
「……良いからそのまま握ってなさい!?
今から私の通力解放による外気への干渉で、直接後輩君のプラーナ……内気へと働きかけるのだわ!」
もうヤケクソだった。
私は触れ合った手と手で別の妄念が浮かんできそうになるが、そうした想いを排してーー自身の指先へと意識を向ける。
後輩君の、ピクピクと震える指先ーー。
そこに被せた掌から直接相手の体内へと私自身のプラーナを流し、それによって押し出された彼の内気はーー今度は逆に私の中へと流れ込んでくる。
後輩君は、何かを感じたらしいーー。
「お!?おお、、!?
な、なんかこれ、、す、凄く熱いです!
凄く熱くてなんだか、、い、色々とヤバイです
それにこれ、ちょっとなんか、、気持ち良く、、?」
「……い、言わなくていいから!?
そ、それ以上言ったら、わ……分かってるわよね!後輩君……!?」
言論の封殺は本来的な私の信条とは異なっていても、こればかりは言わせてはならない。
禁則事項だ。
後輩君の内気ーープラーナが今度はこちらへ逆流してくるが、他者の身体を媒体とした通力循環は幸いにも上手くいっている。
「はぁハァ……私も何だか……。
身体が熱くなってきたのだわ……?」
「せ、先輩!?
、、それ以上は駄目です!?
おれ、、おれも何だか色々と力が溢れて
とにかくヤバイです、、!?」
「……わ、分かってるから落ち着いて!?
へ……平静を保つのよ?そう……。
……ゆっくり、ゆっくりでいいから……」
「は、はい
こ、、こうですね?」
「そ……そうよ?
上手に出来てるわね……?
何だか凄く……良い、イイのだわ……?」
「せ、先輩ぃ!?
も、戻ってきて下さい、、!?先輩っ、リン先輩ぃ!?」
周りも頭に入らず、後輩君ーーヒラト君に呼ばれる度にズキュンとしてきた。
その際、腰掛ける箒の他方からボソッと聞こえてくる声をーー今は気にする余裕も無い。
「イチャついてやがんなァ、、」
「、、うぅ
、、怖いです、ぐスン、、」
最早、誰の目を憚ろうともこの時の私は気にならなかった。
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