ダーク・ファンタジー小説

Re: 命懸けの人狼ゲーム 第6話前編 ( No.7 )
日時: 2023/04/05 01:50
名前: Riaゆく (ID: MRwb6zkQ)

〈三日目の夜になりました。能力の使用を開始してください〉
「さて…」
思わず、そんな言葉を零す。
俺は今夜の襲撃先を考えていたのだが、どうも考えがまとまらない。
そんな時、タブレットに一件の通知が来た。

近藤勇斗
今夜の襲撃は俺にやらせてくれ

議論の中で狩人らしき人物でも見つけたのだろうか。
どちらにせよこのまま悩んでいるくらいなら、近藤に任せた方がいいだろう。

あなた
分かった。気をつけてな

近藤勇斗
当たり前だ!

どうも胸騒ぎがする。
なんだ、何かがおかしいのか?
いや違う。
何もおかしいところはない。
それなのに何故か引っかかっている。
…まあ、そんなこと考えていたって仕方がないだろう。
俺がそう結論付け、気分転換するために窓を開けるとそこには…
美しい満月が輝いていた。

「そろそろ行こうか」
俺はそうつぶやき、人狼の能力を覚醒させる。
初めてここまで能力を使用したから不安はあったが、やってみれば案外あっさりしたものだった。
そうして俺は家を出て、その男の家の前まで来ていた。
中田孝介。
俺がこいつを狙ったのには理由がある。
俺には2歳下の妹がいる。
妹は中田と同じ職場で働いており、仲も悪くはなかった。
しかしある日、事件は起きた。
妹が交通事故にあった。
その時俺は妹より少し早く歩いていたため事故を免れたが、悲しくて悔しくてたまらなかった。
俺は妹を轢いた車のドライバーの顔を捉えた。
俺は絶句した。
何せそのドライバーは、中田だったのだから。
誰にでも失敗はある。
中田だって悪気はなかったはずだ。
俺はそう信じていた。
しかし中田は、あろうことか妹を轢いた後に逃げ去って行ったのである。
俺はすぐさま救急車と警察を呼んだ。
妹は無事病院へと搬送されたが、中田が警察にとらえられることはなかった。
妹は今も入院している。
しかし本業のボディビルダーだけでは手術費が足りなかった。
だからこそ俺はこのゲームに参加した。
妹の手術費を手に入れるために。
だがまさか中田もこのゲームに参加しているとは思わなかった。
俺は人狼になった瞬間喜びを覚えた。
この手で中田に復讐ができるのだから。
「誰だ」
家の中から声がする。
間違いない、中田だ。
「人狼か」
「俺は何があってもお前を殺す。覚悟しろ」
刹那、俺は中田との距離を一瞬にして詰める。
「その声は、近藤か」
今更正体がバレたところで関係はない。
俺はこの右手を伸ばし、奴の左腕を引きちぎった。
「待て、少しだけでいい。少しだけでいいから俺の話を聞いてくれないか」
話とは何だ。
命乞いか?謝罪か?
どちらにせよ中田を殺すことに変わりはないが、話くらいなら聞いてやろう。
「1分で済ませろ」
「わかった、簡潔に言う。俺がこのゲームに参加した理由は、お前の妹を怪我をさせる前に戻すためなんだ」
俺はわずかに動揺する。
しかしそれを表に出すことはない。
「俺はお前の妹に深刻な怪我を負わせてしまった。だからこそ、俺はその罪を償うべきだと思ったんだ」
だからなんだ。
そんなの嘘に決まってる。
「本当にすまなかった」
謝って済むのなら警察はいらない。
そして俺はその謝罪を許すつもりはない。
「どうか俺のことを、許してくれないか?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
怒りを爆発させる。
「お前のことの言葉がたとえ本心であろうが何であろうが、お前を許すつもりは毛頭ない!」
俺は久々に怒鳴ったからか、だいぶ息を切らしていた。
あたりを沈黙が包み始めたとき、中田が話し出した。
「そうか、それなら仕方ない」
「最初から許してもらえると思っていなかったが、まさかここまでとは」
その辺りから中田の雰囲気が異質なものに変わり始めていた。
「そろそろかな」
こいつは何の話をしている?
俺がそう考えた、瞬間だった。
突如激しいめまいに俺は襲われた。
「早く俺を殺さないと、無駄死にしちゃうよ?」
嘲笑うかのように中田は続ける。
「俺の役職は猫又だから。しかし、兄妹揃って俺に騙されるとかどんだけお人好しなんだよ」
「まさか、さっきの話は…」
「もちろん嘘だよ?俺の本当の目的はお前の妹を怪我させた罪を消すことだからね」
その発言を聞いた瞬間、俺は考えるより先に中田の心臓を貫いていた。
しかし俺の体はどんどん毒に蝕まれていく。
「佐倉、後藤…後は任せたぞ」
その発言を最後に、俺の意識は途絶えた。