ダーク・ファンタジー小説
- Re: No_signal ( No.10 )
- 日時: 2023/03/04 22:51
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第8話「ただいま」
電車に揺られること4時間、あたりは街灯一つも見当たらない真っ暗闇。
車内はついにハルトたちのみとなってしまった。
「0時46分、か」
時間帯的には夢の中なので、ハルトとアイナ以外は爆睡状態だった。
もうかれこれ1時間は沈黙が続いており、気まずい空気が漂っていた。
スマホを触る指すらも、ついには動きを止めてしまった。
「...」
「...」
「...ねえ、」
「なんだ」
「...なんでもない」
せっかく続いたと思った会話も、一瞬で途切れてしまった。
アイナは何もない外の景色を車窓越しに眺めていた。
「...先輩」
「なに」
「なんであんたは俺らの敵討ちに着いてきた」
少しの沈黙があったあと、車窓から目線を外した。
「...仲間のためとか、後輩のためとか、そんなテンプレみたいなこと言えないよ。ただ、私の好きなようにしたかっただけ。私にできることじゃなくてしたいことをするだけ」
「あんたらしいな」
「それってどういう意味よ」
「深い意味なんてねえよ、ただ先輩だったら言うだろうなっていう長年付き合ってきた経験」
「...ふふ、ハルトって興味なさそうでちゃんと見てるよね」
よく分からない微笑みを浮かべ、ハルトは再びスマホに目を落とした。
実際興味がないものにはとことん興味はない、だが気づかぬうちに見てしまうものがあるのだろう。
「起きろお前ら、着くぞ」
「...んぇ?もう?」
「もうじゃねえお前ら普通の睡眠時間取ってんじゃねえ」
時刻は6時を回ったところ。
すっかり外は明るくなり、朝日が昇っていた。
「5年ぶりだな、ここも」
辺り一面の田園風景で、5年前から姿を変えていなかった。
懐かしいような、よく分からない感情が喉の奥でつっかえてもどかしい気分になった。
「...歩くぞ」
「うわぁ...お兄さまおぶってください」
「は!?嫌だね!クリス!」
「なんで僕なんだよ!あの距離歩くこと忘れようとしてたのに、思い出させないでよ!おんぶっていう地獄も付け加えないでよキツいわ!!」
なぜそんなに嫌がっているかというと、ハルトの家は最寄り駅から5時間かかる。
その苦労をコルニアとアイナ以外は知っているので、地獄でしかない。
しかしここは田舎中の田舎。タクシーやバスなど、2時間に一本通っているか通っていないかである。
「...歩くか」
「くっそ」
「なんでみんな暗い顔してるの?」
あれから5時間。正確には5時間26分だが。
ようやくヴァースタイン家に到着し、完全に疲れはてていた。
「おかしいだろ...なんであんなに歩くんだよ...俺ん家おかしいだろ...」
「仕方ないですわよ...これだけ大きな家建てるには敷地が必要なんですから...」
「だからって、山の上に造るとか...アホなの...?」
この言われようである。
外観は5年前と変わらずで、無駄なサイズ以外は特に言うことはない。
「ただいまー...って、母さんたち居ないんだった」
なんだか寂しい気持ちになって、忘れかけていた鼻を突き刺すような悲しみが溢れだしそうになった。
どれだけ離れようが居なくなろうが、家族は家族。一生このまま埋まらない心の穴を抱えて生きていくのだ。
「...うし、やるか」
こんなところで立ち止まっていてもどうにもならないから。
無駄に広いリビングで、犯人探しをどうやってするかの会議を始めた。
「というわけでだ、父さんと母さんを殺害したときの凶器らしきものは見当たらなかった。...あるわけないか」
「ねえ、この資料とか警察からもらってきたの?」
「そうだ。で、死因は心臓の破裂」
「うわグロ...」
外傷がほとんどなく、その上内部からの破裂となると、術式によるものだと思われる。
とはいえ、警察が動けない事件に素人が犯人探しなど、無謀なことだと思う。
「この破裂具合から見るに、血液操作系の術式でしょうね。それも他人の血液が操れるとなると、世界でも五本指に入るか、あるいはもっと少ないかもしれません」
司法解剖の写真を、平然と見るサラに対し驚きが隠せないコルニアは思わず訊いてしまった。
「な、なんでそんなに平然と見られるの?」
「今まで育ててくれた両親ですもの。このぐらい、大したことはありませんわ」
「...」
思わず黙ってしまった。彼女の大人な考えに。
少しの沈黙が漂ったので、ハルトが咳払いをして話を続けた。
「んん...!血液操作系の術式で間違いないと思われるが、"引き出し"には該当データがなかった」
"引き出し"とは、リアルタイム型自動検索図書館の通称だ。
この"引き出し"は撤退したヴァースタイン家率いる魔術専門特別強襲部隊ガーベラの前身であるディーヴァトリニティの大賢者ユーラムが遺した、方舟だ。
400年間、色々な場所で保管されてきたが、最終的に200年前にヴァースタイン家が秘密裏に保管されるようになった。
「ぶっちゃけ追跡術式も使えないとなると、これ詰んだんじゃないの?」
「...」
「おいハルト黙らないでくれ、本当にこれで終わりかよ」
「...終わっちまったぞおい!」
「まだ終わっとらん!」
長い栗色の髪に、黒の眼帯をした少女。
「え、誰」
「わしはムーナ・プロアディス、人は大賢者ユーラムと呼ぶ!」