ダーク・ファンタジー小説
- Re: No_signal ( No.11 )
- 日時: 2023/03/06 09:55
- 名前: 叶汰 (ID: mwHMOji8)
第9話「復活祭」
「...は?」
「だ、だから!わしは大賢者ユーラムじゃ!」
目の前の見た目10歳程度の少女は、伝説とまで言われた大賢者ユーラムの名を名乗っていた。
「えーっと...お家はどこかな?」
「わしの家などもう残っておらぬ!というかここが家じゃ!」
「じゃあユーラムなら証拠を見せろ」
ハルトがやや乱暴な口調で言うと、ユーラムを名乗る少女は自信満々に胸を張った。
「いいじゃろう!アルヴァフォートル!」
術式詠唱をした瞬間、真っ黒な穴が少女の横に出現した。
そこに腕を突っ込むと、自分の身の丈の倍はある槍が出てきた。
「ウヴァルファランの槍、どうじゃ!」
ウヴァルファランの槍とは、三大神器の内の一つであり、使用できるのは大賢者ユーラムだけとされている。
ユーラムの死後、槍の行方は400年間分からないままだった。
「なっ...!?」
「ばっちり本物じゃぞ?自動追尾まで当時のままじゃ」
「それで?なんで今ユーラムが居るんだ?幽霊か?」
「幽霊とは失礼じゃな!わしの魂は引き出しのシステムの一部となっていたのだが、お主が引き出しを使う順序を間違えたせいで、わしの魂は引き剥がされた。そこで精霊の体を拝借して、今に至るというわけじゃ」
「なるほど全くわからん」
「分からないんだ...」
「まあ要はわしが蘇った話じゃ」
ユーラムはコップに注いだココアを飲み干すと、話を続けた。
「まあ今は精霊として魂が定着しておる。じゃが、わしの体がまだどこかで封印されてるはずじゃ。そこでお主らに提案じゃ。お主らの目的の手伝いをする、その代わりにわしの目的も手伝ってもらう。これでwin-winじゃろ?」
今のままでは犯人探しはかなり難しい。
「...分かった。協力してくれ」
ハルトが返事を出すと、ユーラムは笑った。
「よし!これで契約は完了じゃな」
「契約って...まあ、これから頼む」
「...この術式...」
「なにか知っているのか?」
「これ、人間ができるような術式じゃないぞ」
ユーラムの突然の発言に、一同騒然とした。
人間ができるような術式じゃない、じゃあ一体誰が。
「どういうことだよ...」
「デトラクロム、こいつは厳密に言えば血液操作系ではない。金属操作系の術式じゃ」
「でも金属操作系なら、僕だって使えるけど」
「デトラクロムは禁忌術式で、使えるのは400年前の人間か、あるいは人智を超えた何か...いずれにせよ、現代に使用できる人間は存在しないってことじゃ」
となると、犯人は人間ではない何かということになる。
「だが厄介なのはそいつの痕跡らしきものが無いのじゃ。本来であれば追跡術式が反応するのだが、全くと言っていいほど反応を示さん」
「ここまできて手詰まりか...」
「いや、そうとも限らないわよ」
アイナが口を開き、いきなり術式詠唱を始めた。
「...コントロール・タイプアンノウン」
「なっ...!バカ!あんたここ俺ん家だから!」
「大丈夫大丈夫、ちょっと試したぐらいで禁忌の存在がここに来るわけ____」
ドゴォン!!という轟音とともに家の壁が壊れた。
土埃が去って、その姿が露になった。
頭部のない、黒い体。その右腕には、釘のようなもので無理矢理固定された刃物。
まさかアイナの発言がフラグになるとは思わず、本人も唖然としてしまっている。
「何をぼーっとしとる!とっとと戦え!」
「お、おう!コントロール・タイプボム!」
爆発音とともに、ソレは爆炎に包まれたが、傷一つついていなかった。
耐久力はしっかりと見た目に伴っているようだ。
「伏せろ!ミラージュサテライト!」
ユーラムの放った一撃は、ソレの腹部に大きな風穴を空けるほどの威力を誇っていた。
ソレは形状崩壊しないまま、倒れて動かなくなった。
「...なあ、こいつどうするんだ?」
「しばらく地下室で保管する。何か手がかりがあるかもしれんからな」
そのままユーラムは表情一つ変えずに、地下室に運んでいった。
「えっと、ユーラムさん。僕らが戦ったさっきのやつって...」
「使徒、いわゆる天使じゃ」
「天使?あれが?」
恐らくコルニアの想像しているのは、絵画などに登場する天使だろう。
「天使、といっても厳密に言えば天使ではない。やつらは模造品、いわゆるコピーじゃ」
「コピー...ってことは人が作ったということですの?」
「そうじゃ。わしが作った、それが何者かに利用されているというのが今分かった」
「作ったって...なんで作ったの?」
アイナの質問に、一瞬躊躇ったが、ユーラムは答えた。
「...元々は人間に危害を加える予定で作っていない。儀式のための駒だったのだが、わしが死んでからは不要になった。だから封印したのだが、」
「今回みたいに使われたってことですか?」
「そうみたいじゃな。筋組織が剥き出しになっていたり、武器が無理矢理固定されていたり、頭がなかったり、悪趣味極まりない」
ユーラムは少し悲しい顔をした。
自分の作ったモノが、悪意のある者に利用されたとなると、心底腹が立った。
「...」
ハルトは今までの話を聴きながら、タブレット端末で先ほどの使徒の写真を眺めていた。
そこには、何かの家紋のようなものが彫られていた。
「これ...」
「どうしたんだハルト」
「...これだ」
ユークリウス家の家紋と一致した。
なぜ彫られていたのか、想像は一瞬でついた。
「ユークリウス家に利用された、ってとこかな」
「ユークリウス家って、王族の家系でしょ?なんで...」
「...これはあくまでわしの憶測じゃが、ユークリウス家は黙示録を実行しようとしてるかもしれん」
雨が降り始めた。