ダーク・ファンタジー小説

Re: No_signal ( No.13 )
日時: 2023/03/07 20:30
名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)

第11話「むかしむかし」


「えっと...ムーナ・プロアディスさん、ですよね?」
白髪の少年はわしに訊いた。
なぜわしの名を知っているのかは知らないが、質問にはしっかりと返す。
「そうじゃが、お主は誰じゃ?」
「えと、僕はレオニオ・ヴァースタインと言います」
レオニオと名乗った少年は笑顔で手を出した。
握手、の意味があるのだろうがわしはそれを払った。
「悪いが、まだ用を聞いていないのでな。その手は払わせてもらった」
「ああ...僕は魔術専門特別強襲部隊ディーヴァトリニティの代表をやらせてもらっている者で...そこで僕はあなたの噂を聞いてここに来たのです。単刀直入に言うと、ディーヴァトリニティに入ってほしいんです」
真っ直ぐな瞳だが、その奥には緊張や恐怖などが混じっていて、それは純粋な震えだった。
所詮は噂だが、わしはレオニオの頼みを断れなかった。
真っ直ぐで、曲がることを知らない瞳だったから。
「...分かった。だからそんなに震えないでくれ」
「え、震えてました!?」
「そりゃ生まれたての小鹿みたいな震え方だったが?」
反応が面白くて、ついつい弄ってしまった。

「先輩!」
「おうよ!ドラゴフレア!」
時は経ち半年後。いつの間にかレオニオはわしのことを先輩と呼ぶようになった。
わしとレオニオのコンビネーションは、誰にも再現のできない最強だった。
「流石です先輩!」
「当たり前じゃ後輩!さあさあ!大賢者ユーラム様を崇めたまえ!」
そしてわしもレオニオのことを後輩と呼ぶようになった。
わしのことを国は三銃士の一人である、大賢者としての称号を与えた。
一方でレオニオは三銃士の剣豪としての称号が与えられた。
それでもレオニオは、わしに対して先輩呼びと敬語をやめなかった。
「僕、いつかこの組織が全ての人類が苦しまなくて済む平和な世界を創るっていう願いを込めて作ったんです」
ある夜突然、レオニオは告白した。
語るレオニオは、どこかに悲しさを宿していた。
「なんで、そんなことを目指そうとしたのじゃ?」
「...僕の父親は腐りきった人でした」
そしてレオニオは語ってくれた。
父親が最低なこと、自分を殺そうとしたこと、自分は一つの誤りで生まれたこと。そして、自分が呪われていること。
そんな理由で嫌われる世の中を変えたいと思った。
「...」
「...嫌われることは慣れてるけど、そのターゲットが僕だけならって話で、他の人だったら嫌だっていう矛盾なんです」
「わしは嫌われる感覚が分からん。分かり合えるのは、同じ境遇の人間だけじゃ。だが、何年お主と一緒におると思っているのだ。お主の孤独ぐらい、わしが埋めて見せる」
笑うわしを見て、レオニオは泣き出してしまう。
その涙は悲壮ではない。歓喜だ。
「うぐっ...ひっ...僕は、頼ってもいいんですか?」
「もう十分じゅうぶんお主は人を頼っておる。そしてわしらが頼る」
「僕は、誰かを好きになってもいいんですか?」
「なぜそんなことを訊く?お主はとっくに、仲間を好きになっておるだろ」
そんな彼は今までで溜め込んできた物を全て吐き出したせいで、一つ大人になれた。

「これなんですか?」
「ふっふっふ...使徒じゃ!これでラブアンドピース計画は完遂目前じゃぞ!」
「おお!これでガーベラの目標も達成できそうですね!」
レオニオの望んだ世界を創る手助けとして、使徒を作った。
使徒で儀式を行い、この世の愚かな争いを止めるために。
「でもなんだか不思議です。僕らが世界平和へ導くなんて」
「そうじゃな...じゃが、それが現実なのだ」
レオニオの望んだ世界を、自らの手で創るということに、今になって違和感を覚え始めてしまったのだ。
「チョコかバニラ、どっちがいいですか?」
「バニラ」
わしが感傷に浸っているところで、レオニオはアイスクリームを持ってきた。
白いアイスは、冷たくて甘く、それでいて儚かった。

「今年でガーベラ解散から90年か...」
90年経っても、レオニオは呪縛の影響で、わしは術式の影響で見た目が変わらず不老不死となっていた。
それどころか、わしは死ねても、レオニオは死ぬことが叶わない。
「...なあレオニオ」
「?どうしたんです?先輩」
「わしらはガーベラとしての目標が達成された。そしてガーベラもなくなった。...もう、いいんじゃないか?」
レオニオは俯いた。
「...僕はいいんです。僕はいつか誰かがこの呪縛を解いてくれて、それで殺してくれると思うから」
「わしは死ねる。お主は死ねない。...そんなの、不平等だろ!!いいか、わしはお主の先輩で相棒じゃ!お主より先に楽になってたまるか!!」
わしは初めて怒鳴った。この男に、いや、人生で初めて。
レオニオは目を見開いて、唖然としていた。
「お主の、お主の呪縛を解いてお主を殺してやる!お主を知らない人間より、お主をよく知っているわしが殺した方がいい!知らない人間に殺させてたまるか!」
この日は一度に二回人生で初めてを味わった。
二回目は人生で初めて泣いた。
「...もし、僕が生まれ変わったら、僕が寂しくならないように何か遺してください」
「っ...!ああ!お主が寂しささえ忘れる、最高の図書館を!わしの魂の入った図書館を遺しといてやる!お主の傍に、ずっと...ずっと居てやれる図書館だ!」
遠い遠い、400年前の話。