ダーク・ファンタジー小説
- Re: No_signal ( No.3 )
- 日時: 2023/02/25 20:11
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第1話「キラー」
「ハルトー、一緒に帰ろー」
「ん、これ終わったら行く」
「相変わらず、図書室に授業にも出席しないで引きこもるなんて、ハルトさんらしいですね」
窓から差し込む夕日は、それぞれの帰宅の時を示していた。
図書室にこもっていたのは、ハルト・ヴァースタイン。成績優秀でおまけに家庭的。だが授業に出席しないため、どんどん先生からの信頼などは落ちている。
「げっ、ルカ先生...」
「げっ、とはなんですか。大体午後の授業に出席しないことに学園長も怒ってましたよ?」
「でも問題は解決したんでしょ?」
「なぜそうと言い切れるんです?」
「先生、何かしら問題が解決したすぐあとは腕組むクセがあるから」
ハルトから指摘され、ルカは動揺を隠しながら腕を直した。
「あのー...僕忘れてない?」
「なんだクリス、居るなら居るって言えよ」
「僕ずっとここに居たよ!?じゃあ帰ろうって言ったの誰だよ!?」
「俺のイマジナリーフレンド」
「悩みがあるなら聞こうか?」
ハルトははぁ、とため息をつきイスから立ち上がり、本を棚に戻して図書室を出ようとした。
この男、全く興味を示さない。
「それじゃあ先生、これで俺らは帰ります。んじゃ」
「さようなら」
「さ、さようなら。気を付けて帰ってくださいね。...あのくそガキ」
ハルトたちの寮は学校から歩いて10分ほどだ。
一グループ一部屋といった感じだ。
「ただいまー」
「あ、ハルトくんにクリスくんおかえりー」
早速出迎えてくれたのは、同級生のコルニア・アストレーリアだ。
コルニアは御三家アストレーリア家の人間で、いわゆる貴族だ。
クリスも御三家ガルフェナンド家の人間で、クリスに関しては次期当主になろうという男である。
「あれ、先輩は?」
「あー...なんか親御さんに呼び出し食らったみたい...また喧嘩じゃない?」
「はぁ...喧嘩喧嘩って、あの先輩も変な人だ」
「だーれーがー変だってー...?」
ハルトは背後に殺気を感じ、咄嗟に声のする方から離れた。
声の主は喧嘩した張本人の、アイナ・フィオス・カーテナルだ。
アイナは御三家カーテナル家の次期当主なのだが、当主になることを拒み親と喧嘩していたのだ。
「せ、先輩...」
「ハルトぉ...歯ぁ食いしばれよぉ...?」
ニコニコの笑顔なのに、指をパキパキと鳴らしながら歩み寄る姿は悪魔も同然だった。
「ま...待ってよ先輩、話し合えば分かることだって」
「お前だけは許さんぞ...!」
「あー待って待って!俺が悪かったっtアァァァァァァ!!!!????」
「痛い...容赦なさすぎでしょ...」
「まあなんというか、どんまい...」
見事アイナの本気の腹パンを食らい、ダウンしてしまった。
当のアイナはとてもすっきりとした表情だった。
「はーあ、すっきりしたー♪」
「僕から言えることは何もないよ、うん」
「なんだクリス、まだ居たのか」
「ねえどんだけ忘れられてんの!?流石にこれ泣いていいかな!!」
クリスは忘れられ、ハルトはだんだん回復していってコルニアの膝枕から起きた。
『非常警報発令、寮内に居る生徒は速やかに避難しなさい。繰り返します___』
突如鳴り響いた警告音と機械音声に、思わず心臓が飛び出しそうになる。
一体何があったのかと、スマホと財布を持って外に出てみると、暗くてよく見えないが巨大な"何か"が寮の南棟を破壊していた。
「なんだ、あれ...」
「分からない、けど逃げよう!」
ハルトはクリスに腕を掴まれ、必死に南棟とは逆方向に逃げた。
かなり遠くに逃げると、他の生徒たちがざわめいていた。
「大丈夫ですか?」
「ルカ先生!あれは一体...」
するとルカは少し表情を歪めてから、答えた。
「...文献の情報が正しければ、あれは587年前に起こった黒歴史で人類の半数を殺した張本人...禁忌だと思われます」
「く、黒歴史って...」
「何か知ってるの?」
「はい。ガルフェナンド家にはかつての当主、クラナス・ガルフェナンド筆頭で終わらせた世界最悪の終焉レベルの出来事だと伝えられています」
黒歴史。587年前、何者かが禁忌となるモノの封印を解き放ち、人類の半数を無差別的に大量虐殺した。
クラナス・ガルフェナンド筆頭に、その他当時の御三家当主であるレーテル・ヴァン・アストレーリア、ウォルターナ・カーテナルたちが黒歴史を終わらせたという文献が残っている。
「でも、なんで今...」
「分かりません...。ですが、封印が再び解かれてしまったとして、また黒歴史のような被害を出すことはないでしょう」
「?なんで...」
「文献によれば、一世紀ごとに力は衰退していってるためです」
しかし、人が殺されないという確証もないため、現在はここに居る方が安全策だと言える。
「...っ!」
急にハルトの頭に頭痛が走り、その場で膝から崩れ落ちた。
「...!?どうしたハルト!」
「ハルトくん!」
「ハルっ...!?血が...!」
ハルトの頭には傷はないはずなのに、鮮やかな赤色の液体が芝生を赤く染めていた。