ダーク・ファンタジー小説
- Re: No_signal ( No.5 )
- 日時: 2023/02/26 22:10
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第3話「完璧主義者」
太陽が燦々と照りつける昼下がり、ハルトは一人中庭で黄昏れていた。
流れる雲は見方によって色んな形に見え、混乱する思考を落ち着かせてくれた。
「...」
静寂。音すらも忘れるほど、彼は思考を奪われていく。
後ろから目を覆う真っ白な肌。
「だーれだ?」
「コルニア」
「ごめーとー♪」
コルニアはハルトの前に出て、笑顔を見せた。
「俺の邪魔をしに来たのか?」
溜め息をつきながらハルトは問う。
「違うよ!術式の模擬戦闘があるから、ペア探しにきただけ」
「はぁ...あのな、大体俺は不完全で使用にはかなりの負担がかかるんだ。俺は模擬戦なんてやだね」
この前の謎男との戦闘がハルトにとって10年ぶりの使用だったため、負担が大きすぎた。
しかしコルニアは諦めない。
「お願い!今度美味しいご飯屋さん連れてってあげるから!」
「いつまでそこに突っ立ってんだ、さっさと連れてけ」
先ほどの態度とは一変し、中庭を出ようとした。
食べ物とはここまで人を変えるのだと、コルニアはまた一つ学んだ。
「コルニア・アストレーリア、ハルト・ヴァースタインペア対ユリウス・アーガイル、バルト・ホーネットペアの模擬戦闘を開始します」
今のハルトには勝ったら美味しいご飯というご褒美がかかっている。これが何を意味するかと言うと、今のハルトは無敵である。
「行くぞ」
「うん!ポリゴンミラー!」
コート内を囲むように、無数の立方体が日光を反射する。
しかし相手ペアはそれを防御する。が____
「コントロール・タイプソル」
反射した日光が光のカーテンとなり、コートの地面をえぐった。
そこで大型液晶に-GAME SET-と表示された。
「コルニア、ハルトペアの勝利です」
一気にギャラリーが静まり返った。
それもそのはず、試合時間わずか17秒で決着がついたからだ。
「ふぅ...コルニア」
「ひゃ、ひゃい!」
ハルトはがっしりとコルニアの肩を掴んだ。
「...飯、行こうぜ」
「...え?う、うん」
なんか思ってたのと違う。もっとロマンチックな展開が起こると思ってた。
まあこれで模擬戦闘には勝ったので、特に言うことはないが、何故か奢るという行為に対してこのときだけ憎悪に似た感覚になった。
「んぅ!!うまっ!」
「そんな急いで食べなくても、ご飯は逃げないよ」
「んぐっ...!?」
「あー、言わんこっちゃない...はいお水」
食には貪欲なハルトなので、こういうことは日常茶飯事というかなんというか。とにかく世話の焼ける男だ。
コップ一杯の水を飲み干し、真っ赤だった顔が徐々に元の透き通った白に変わっていく。
「ぷはぁ!はぁー...死ぬかと思ったぁ...」
「ハルトくんは相変わらずだね...」
「どういう意味だそれ」
「ん?なんというか、食べ物に対してすごく貪欲というか」
「そうか?それなら先輩の方が貪欲だと思うぞ。あの胸、脂肪の塊だから食べ過ぎでああなったんだろ?それに比べてコルニアは慎ましいサイズで、少食で」
殺気に気づいたハルトは席からすぐに離れた。
「...うん、それで?私の胸が?」
目が笑っていない。
ハルトは隙を見て、飛行術式で逃げようと____
「どこ行くのかなハルトくん。私とゆっくり話をしましょうか...」
逃げられなかった。
「ハ、ハルトその怪我どうしたのよ!誰かにやられたの?」
「えーっと...」
「ハルトくん?」
「...技能試験で怪我しました」
「...っぷ、ははははは!!!あんたバカみたい!」
果たして名家の次期当主であろうお嬢様がそんな下品な笑い方をして大丈夫なのだろうか。
まあ、ハルトにとって今の脅威はコルニアだ。
「ただいまー...って、なんでハルトは正座してるの?」
「訊くなクリス、察しろ」
「と、言われても...」
「察しろくそイケメン野郎!」
「なんか今日ハルトいつになく辛辣ぅ!?」
「またサボりですか?いい加減にしないと進級させませんよ?」
「先生か、邪魔しに来たならお帰りください」
ルカは表情を若干歪ませる。
「全く、少しは授業に出席しなさ___」
ドゴンッ!!!
轟音と共に、図書室の壁が破壊された。
土煙が晴れると、そこには異形の人形が浮いていた。
頭部は放射状に潰れ、皮膚は黒く焼きただれ、かなりきついビジュアルだ。さらに謎の言葉のようなものを発声し、こちらに近づいてくる。
「なんだ、こいつ...」
「ハルトさんは下がって。ドラゴニックスケール!」
背後から青い龍の形の炎が人形に直撃したが、それには全く効かず、人形は怒り狂うように暴れた。
「一体何がしたいの...?」
「@&#*#!37#?-#*#6$^"¥8¥+3<>_^^+^.{+^|}!!」
脳に突き刺さる甲高い声で喋り続け、ハルトはその場にうずくまった。
ルカはハルトを庇うように術式を展開し応戦するが、歯が立たない。
「ハルト!はっ!これは...」
異変に気づいたクリスが図書室まで駆けつけた。
「クリスさん!危険です!下がって!」
「一人じゃこれはどうにもなんないでしょ!ディープブリザード!」
強烈な吹雪を人形に向けて放つが、二人がかかっても足止め程度にしかならない。
___君はこのままでいいのかい?
(だ、誰だ!)
___強いて言うならば、君の中の怪物さ。
(怪物...?)
___まあ、とにかくこのままだと彼らは死んでしまう。
(...助けたい)
____分かった。お望み通り助けてあげよう。
「ストライク・タイプストーム」
黒く雷を帯びた竜巻が人形を呑み込み、バラバラにしていく。人形の紫色の体液や内臓、四肢などが辺りに飛び散り凄惨な光景になった。
たちまち人形は動かなくなった。
「す、すごい...すごいよハル___」
「クリエイト・タイプウォール」
「え?」
クリスの四方を瓦礫でできた壁が囲んだ。
「プレス」
壁がものすごい勢いで中心に集まっていく。
「っ!チェンジ!」
クリスとルカの位置が入れ替わる。
そのまま壁は中心でぶつかった。
「あ、あ...」
「...俺は何を...」
「...人殺し」
クリスは拳を握りしめた。血が滲むほど、血が滴るほど強く。
ルカを殺したのだ、ハルトは。
「...ふざけるなっ!なんで先生まで殺したぁぁ!!」
「ち、違う...俺はただ、助けたかっただけで...」
「答えろぉぉ!!!」
氷の槍をハルトに向け、クリスは怒鳴る。
そして突き刺そうとした。
「アサルトソーラー」
緑色の熱光線が氷の槍を溶かした。
アイナ・フィオス・カーテナル。
「あんたら血気盛んすぎでしょ...先輩の手を煩わせんなっつー...の!!」
クリスとハルトに向かって本気の顔面パンチをお見舞いした。
どちらも後方に吹き飛び、そこで倒れたまま唖然としていた。
「はぁ...仲間内での殺し合いは禁止されていたはずよ。あんたら今日は自室で反省しとけ」
ハルトの暴走、異形の人形、次々と起こる異変。
残るのは残酷な未来か、はたまた...。