ダーク・ファンタジー小説

Re: No_signal ( No.6 )
日時: 2023/02/27 19:08
名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)

第4話「願い」


「はぁ...」
「どうしたんだよ、先輩らしくないよ?」
「あのね、先輩には敬語で話しなさいよ。まあいいけど...」
アイナは午前からずっと溜め息をついていたのだ。
それを不思議に思ったハルトが声をかけた。
「それで?話ぐらいなら聞くけど」
アイナの隣に座り、コップに入ったコーヒーを渡す。
「大した話じゃないけどね...。私、また親と喧嘩しちゃって」
「なんだいつものことじゃないか。そんな頻度で喧嘩って、生理?」
「このっ...!はぁ...殴る気にもならないわよバカ...」
ここまで落ち込んだアイナは見たことがない。
こんなにも弱々しい目付きを、覇気のない彼女を。
「どうせ、お父さんとの後継ぎの喧嘩だろ?言われなくとも分かる」
「察しがいいわねほんと...そうよ、父さん私が帰ってくると、後継ぎとかの話すぐするから」
「なるほどねぇ...ま、自分の気持ちを全部吐き出せばいいんじゃないか?先輩そういうの得意だろうし。それにあんただけの人生だから、その...困ったら俺とか頼れよ」
少し恥ずかしそうに言うハルトの姿は、アイナにとって好印象の姿だった。
「たまにはいいこと言うじゃん!ありがと、あんたのお陰で元気になった」
「う、うるせえ...」
「ったく、素直じゃないなーハルトは」
「そういうのは柄じゃねえ...」

「家の娘の花婿だ」
「カーテナル家の一員として婿になれるなんて、この身に余る光栄です」
アイナは聞いてしまった。
自分の結婚相手を勝手に決められてしまうなんて、そんなこと父親がするはずもないだろう。
「ふざけないでよ!私の結婚相手って...勝手に決めないでよ!」
「...盗み聞きとは感心しないぞ、アイナ」
父親であるレコニスはゆっくりと立ち上がる。
「なんで、なんで勝手に全部決めるのよ!」
「この家の名誉を守るためだ。お前も知っているだろう、カーテナル家は御三家だ。この家系は貴族、決して恥じる行為はしてはいけない。だから___」
「だから私の未来を奪うの!?...いい加減にしてよ...!どうして縛られる生活を強いられるの!?」
アイナは怒鳴る。
「はぁ...埒があかない、彼との家に連れていけ」
「承知しました」
「な、なによ!離して!離せ!こんなの、アサルトソーラー!」
術式は使用できない。

「先輩遅いね...」
「大丈夫だよ、きっと」
時刻は既に19時を回った。
門限の時刻はとっくに過ぎているので、余計に不自然だ。
「...ちょっと行ってくる」
「え?ハルト、もう門限は...」
「黙れ。俺がどうしてもやりたいことだ、口を出してんじゃねえ」
ハルトはクリスを睨み付ける。が、クリスは退かない。
「僕も行く。ハルトが不機嫌な時って、大体何かあるから」
「なら私も行く。二人だけに任せられない」
「ちっ...好きにしろ」

「っふふふふ...こんなに最高の発育具合、綺麗な肌。ああ、本番までが楽しみだ...」
不気味に笑い、裸体のアイナを舐め回す男。
婿であるフラナ・サークロム。
「...っは!?ちょ、何これ!ひやっ!?」
「なんだ起きたのか...。これから僕の子種を植え付ける儀式をするのさ...楽しみだろ?」
「は!?ふざけないでよ!!誰があんたみたいなクズと___」
パチンッ!!と乾いた音が鳴り響き、フラナは怒鳴る。
「高貴な人間にそんなこと言っていいのか!?僕は元王家のサークロム家の人間だぞ!まあいいさ、そんな生意気な顔も大好きさ。大丈夫、挿れるときだけだよ痛いのは...」
「やめて...いや...助けて...!」
___ハルト!
ドゴォン!!
「...よお、フラナ・サークロム」
「だ、誰だお前は!」
額に血管が浮かんでいる紫髪の少年。
「俺?名乗るほどのもんじゃねえ...強いて言うなら、その人の後輩だよ」
ハルト・ヴァースタイン。
「僕とアイナの子作りの邪魔をするのか!!許さんぞ!!!」
飾ってある大剣を鞘から抜く。
「...その粗末なもん仕舞った方がいいんじゃねえか?」
「死ねえ!!」
眼前を緑色の熱光線が横切った。
アサルトソーラー。
「ハルトくん一人じゃないからね!」
「全く、ハルトは突っ走りすぎだよ」
「コルニアに、クリスまで...」
フラナは三人の覇気に狼狽え、後退りする。
そして負け犬のごとく吠える。
「さ、三対一は卑怯だぞ!!」
「はぁ...呆れた。そんなに卑怯だって言うなら俺と戦うか」
そう言うと、コルニアとクリスは頷き後ろに下がった。
「うおぉぉぉ!!!死ねぇぇぇぇ!!!!」
長く大きな刃が振り下ろされてくる。
「...っ!!」
パキィィィィン!!
甲高い音を響かせ、剣は折れた。というより、折った。
「こんなもんかよ...こんなもんかよぉぉ!!!」
全体重を右拳に乗せ、力のままに殴った。
フラナは血を撒き散らせながら、後方に吹っ飛んだ。
「あがっ...」
「てめえの粗末なもん出してんじゃねえよ、さっさとしまえ」
「い、いた___」
鈍い音とともにさらにフラナは吹き飛ぶ。
「しまえぇぇぇ!!!てめえが、アイナ先輩に手を出してんじゃねえ!!!俺らの、俺の大切な先輩をキズモノにしてんじゃねえよ!!!」
「っ!」
アイナはこんなに怒り、怒鳴り散らすハルトを見たことがなかった。
自分を守るために怒ってくれる人を、見たことがなかった。
アイナは涙を流した。
「アイナ先輩を利用したのは性欲処理のためにか?地位を築くためか?」
「ひっ!?せ、性欲処理のためです!!」
「くせえ口を閉じろよ、クズがうつるだろ」
頭を掴み上げ、フラナの腹部を思いっきり殴った。
ドゴォン!という快音が鳴った。
「おえぇぇぇ...」
「ゲロ撒き散らしてんじゃねえぞ。...もういい、用済みだ。失せろ」
ハルトの手には光の剣が握られていた。
「今ここで死ぬか、俺らの前から失せるか。選べ。5、4、3、」
「き、消えます!!」
フラナはその場から立ち去った。
「...かひゅっ!?」
ハルトの口から血が溢れ、拘束を解かれたアイナが走って向かう。
「ハルト!!」
「はぁ、はぁ...。言ったろ先輩、頼れって。こんな不様な有り様だが」
「そんなことより、ハルトが...」
「俺はいいよ、俺は。お父さんに言ってこいよ、自分のしたいこと。もう一度、しっかり話せば分かってもらえるはずだ」

「お父さん」
「...」
アイナは深く息を吸って吐く。
「私、後は継がない。学園の仲間たちと一緒に過ごしたい」
「...」
父は黙ったまま。
心拍数は上昇し、呼吸が荒くなる。
「...今まで押し付けてすまなかった。お前の好きなようにしなさい。お前の人生だ。私は応援している」
「っ!!ありがとう、父さん!」

「上手くいったみたいだね」
「...お前らもついてきたのかよ」
「そりゃ先輩のことだもん気になるだろ?ハルトが一番気になってたじゃないか」
「...うっせ」
素直じゃないなぁと二人は笑い、星降る夜に親子の絆が芽生えた。
娘の願いは、しっかりと父親に届いた。そう願う。