ダーク・ファンタジー小説
- Re: No_signal ( No.8 )
- 日時: 2023/03/02 18:52
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第6話「花束の代わりに」
ハルトは今日も今日とて図書室に居た。
壁は穴が空き、規制線が張られ、瓦礫の下から滲んだ血液。
全て自分がやってしまったのだ。自分が、ルカを殺した。
「...意味、わかんねえよ」
____でもこれは結果だ。あのまま君が何もできずに居たら、辿る結末は最悪だということが分かるはずだ。
あの時の声。
「要望に答えた相応の見返りが、誰かを殺すことだったのか」
____失礼だなぁ。殺すなんてそんな物騒なことじゃない、ただ邪魔だったんだ。しかしあの女のせいであの男に退場してもらえなかった。
「ふざけやがって...!っ!?」
____うるさい口だなぁ。少し黙っていてくれ。
朦朧とする意識のなか、必死で足掻こうとしてもそれは叶わなかった。
次に目が覚めたとき、高く昇っていた太陽もすっかり落ちていた。
紫色の空と朱色の空が分かれた、不思議な空だった。
「なんだよ、これ...」
割れたガラスの破片に写る自分を見ると、紫色のはずの頭髪がつむじから黒に変わっていて、さらに目の色も白から若干黄色みがかっていた。
とにかく気持ちを落ち着かせようと、走って住居まで戻った。
「あれ、ハルトおかえりって...その目とその髪...」
「ああ...なんか変わってた」
「変わってたって...何も知らないのか?」
「ああ、気付いたらこーなってた...」
原因が分からず、頭を抱えていると奥からピンク色の頭髪であるサラが出てきた。
「抜け出す準備はいつでも...って、お兄さま!?なんですのその頭と目は!!」
なんというか、予想通りの反応というか。
ハルトはクリスに言ったことをそのまま言った。
「訳が分からないですわ...まあ、お兄さまはかっこいいので関係ないですが」
「妹からもかっこいいって言ってもらえるなんて、最高じゃないかハルト!」
「...うるせえよ」
顔が熱くなるのが分かって、余計に恥ずかしくなってきた。
というか、さっき抜け出すとか言っていたような...。
「抜け出すって...」
「ああ、抜け出すのよ。ここを」
「うわぁ先輩!?どっから出てきやがった!」
「あのね...まあいいわ。今夜20時から学園を抜け出して、敵討ちしに行くのよ」
なにそれ初耳。
とにかく、敵討ちは別に今じゃなくてもいい気がするのだが。
「と、いうことなので早速行こう!!」
「まだ18時だけど」
「えぇー!?クリスくん時間ぐらい飛ばせるでしょ!?」
「そんな禁忌術式できるわけないでしょ...」
とはいえ流石に急すぎるので、何も準備していないのだ。
ハルトが珍しく焦っているのを見て、アイナは不適な笑みを浮かべた。
「ハールト♪早く早くぅ」
後ろから勢いよく抱きつき、ハルトはバランスを崩しながらもなんとか立て直した。
「ば、バカ!!危ねえだろ!!そ、それにその...」
「その?」
ハルトはどんどん赤面していき、アイナはハルトの言いたいことを察したのかニヤニヤが止まらない。
「む、胸が...」
「胸が?」
「うるせえなぁ!わかってんだったら察しろよ!」
「はいはい、先輩その辺にしといてください」
クリスの制止が入り、ようやく解放されて安堵した。
アイナは悪戯な笑みを浮かべ、さーせんとだけ言った。
「はぁ...一気に疲れた...。行く時間になったら起こしてくれ」
「!!私もお供しますわ!!」
「やめろぉ!!お前が一緒に寝るとか言ったら、俺は追われる身になるんだぞ!?勘弁してくれぇ...」
「なら私と一緒に逃げましょう!」
サラは学園内ではかなりの美人で、ハルト自身もそれなりに可愛いとは思っている。
さらにスタイル抜群で成績も優秀、文武両道の完璧人間だ。
それゆえに男子からは絶大な人気を誇っており、今まで告白された回数は100を超えているだろう。
ただそんな彼女にも重度のシスコンという欠点を持っており、ハルトの存在は、影が薄いのでバレてはいないが、その内ハルトは追われる身になるということをなんとなく覚悟している。
「...あの二人ほんと仲いいよね」
「そうだね。小さい頃から結構遊んでいたイメージだけど、気付いたらあんな口調になってたなんて」
「あれが13歳だとはとても思えないわよ...スタイルよすぎ」
「おーい、二人とも起きろー」
「うーん...もう行くのかよ...」←結局一緒に寝た
時刻は19時54分、少し早いが先生に見つからないように行くにはこの辺りの時間帯がちょうどいい。
部屋の電気を消し、二グループに分かれて駅まで全力疾走する。ちなみに駅まではAグループが林を直線的に突っ切るルートで7分。Bグループは学園街を通るルートで6分。
まあ、Bグループは誰にも遭遇しなかった場合だが。
「よし、出発しよう」
「うん」
それぞれ出発し、闘いの火蓋が切って落とされた。