ダーク・ファンタジー小説
- Re: No_signal ( No.9 )
- 日時: 2023/03/03 18:18
- 名前: 叶汰 (ID: 5R9KQYNH)
第7話「凱旋」
Aグループであるクリスとコルニアは、予行演習通り順調に駅へと向かっていた。
このままのペースなら、Bグループよりも先に到着ができることになる。
「よし!このままのペースだ!」
「うん!」
体力的にもかなり余裕がある。
体に当たる風は少し冷たいが、それが火照った体に気持ちよく当たって、冷却を効率よく行えている気がする。
「止まれ!!」
「っ!?」
突然の制止に思わず体を飛び上がらせ、地面を削りながら止まった。
防弾チョッキを着たガタイのいい男。
魔術特殊部隊A.I.M.Sだ。
よりにもよって駅を目前にして足止めされるとは、最悪の事態だ。
「君ら、こんな時間帯に何してるんだ?」
「え、えっと、ランニングです」
「ほー?にしてはこんな不安定な林道、それも結構なスピードでよく走ろうと思ったね?」
「た、体力作りの意味合いで...」
冷や汗が滝のように流れ、心臓の音がやけにうるさい。
A.I.M.Sの男は、表情ひとつ変えずに何かをタブレット端末に打ち込んでいた。
「そういえば、セントラル学園から抜け出した生徒5人が居るって聞いて、ウチに依頼が入ったんだけどさ、」
完全に我々である。
「君たちじゃないよね?」
思わず動き出したくなる足を必死で抑え、普通に受け答えようとする。
「そんな人たち居るんですね...僕らではないですよ」
「ふーん...ならなんでそんなに落ち着きがないんだい?クリス・ガルフェナンドくんにコルニア・アストレーリアさん」
「...逃げるぞ」
ついに正体までバレてしまったとなると、逃げるしかない。
クリスとコルニアは先程の倍の速度で走った。
「逃げられると思うなよ!ローズウィップ!」
背後から刺のついたツルが伸びてきて、ギリギリのところで回避した。が、ツルは動きを止めずぴったりクリスたちの背後に迫ってきている。
「コルニア!コンボ!」
「分かった!」
コルニアは指示のあと親指を立てながら、近くの木に上った。
「コールドカノン!」
クリスの右腕から絶対零度の青みがかった光線が放たれる。
光線はツルに直撃し、凍らせ動きを止めることができた。
「それを止めたぐらいで、勝った気になるなよ!」
結界破壊弾の装填されている銃をこちらに向け、トリガーに指をかけた瞬間クリスは叫んだ。
「コルニア!今だ!」
「ミラージュサテライト!」
頭上から降る無数の光の矢の雨が、A.I.M.Sの男に直撃し、男は気絶し動けなくなった。
クリスは動かなくなった男を見て、殺してないかと心配になった。
「大丈夫、この程度じゃ死なないよ」
一方Bグループは街に出た瞬間追われ始めている。
というのも、学園側から捕縛依頼が出されたため、警戒がかなり厳重になっていた。
「このまま駅まで走るぞ!」
「は!?無茶言わないでよ!この量かわしながら走るとか無茶の極みよ!」
「お兄さま!後ろはお任せくださいませ!コントロール・タイプルナ!」
刹那、月明かりが屈折し、追手に直撃した。
「バカ!強すぎんだよ!」
「でもこれでだいぶ減ったわよ!」
「結界オーライじゃねえんだよ!怪我とかさせたら大変なことに____」
突如轟音とともに視界が土埃で覆われた。
土埃が去ると、そこには疑似魔獣がこちらを睨んでいた。
「...私たちを殺しに来てますわね、これ」
「...あー、俺ら死んだかもしれんな」
「諦めてんじゃないわよ!いいから走りなさい!」
アイナに押され、再び全力疾走が始まる。
当然疑似魔獣の方が速いので、すぐに追い付かれもはや戦うしかないようだ。
「ほう...血が騒ぐじゃない...!」
「サラ、今のうちに行くぞ」
「は、はい」
ハルトたちはその場から逃げるように駅へと向かって走った。
アイナは完全に殺人気の眼光である。
「人工ワンちゃんに誰が負けるか。先手必勝!デモリッションスケール!」
遅れて飛びかかる疑似魔獣が、真っ暗なゲートから出てきた無数の腕によって石のように崩れて灰となってしまった。
「ふん!雑魚が」
アイナはそう吐き捨てて、先に行ってしまったハルトたちを追った。
電車の発車まで残り2分、余裕だ。
「なんとか間に合った~...」
一同息を切らし、電車内で安堵の息を漏らしていた。
車内は乗客が少なく、A.I.M.Sが追ってきている様子もない。あの人数で捕まえることができると思ったのだろう。ナメられたものだと、アイナは思った。
「とりあえずこれで一安心だな。このあとについてなんだが、俺の家に行こう。宿に泊まれるほどの金だってないからな。そこからだ、犯人探しは」