ダーク・ファンタジー小説
- プロローグ1 ( No.1 )
- 日時: 2023/03/22 18:55
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
目を開けるとそこは雲一つない青い空だった。
あれ?
僕は今まで何をしていたのだろう?
なんで寝ころんでいたのだろう?
そもそもここはどこだろう?
色んな疑問が僕の中で駆け巡る。
とりあえず僕は体を起こすことにした。
僕「え?」
周りを見て唖然とした。
全く見たことのない景色に全く見たことのない動物。
虹色に光る植物。そして.....アニメなどで見たことがある耳がとがったエルフのような女性。
エルフ「あ、こんにちは」
訳が分からない。
どういう訳か、記憶もない。
いや正確に言うと自分が何者であるかなんかはわかるのだが、
自分の情報とアニメや本などの情報しか思い出せない。
というかこの人は誰なんだ?
エルフ「君…ここら辺じゃ見ない顔だよね?どこから来たの?」
???
この人発言からして、誘拐や拉致などの犯罪に巻き込まれているのではないことがわかる。
しかしだとしたここは本当にどこなんだ?
アニメなどの異世界転生と言われるものなのであれば死んだときの記憶が――とか、
何かしらのきっかけがあってそれを覚えていることが多いはずなのに。
しかし今起きている場面は紛れもなくアニメやラノベの『ソレ』だし、
エルフなどがいるのもより異世界転生説を確信に近づけるものだ。
そんなことを考えていると女の人は少し悩み、閃いたような顔をしながらつぶやいた。
エルフ「もしかして――人なのかな?」
そういうと、女の人はよくわからない言葉を使い始めた。
エルフ「!#$%’’:))%##$$%*#$?」
聞いた感じだと、英語や中国語や韓国語などの言語の発音ではなかった。
というか聞こえるとも言わないのかもしれない。
その人は口を動かしているのだが言葉自体が頭に響いて音としては聞こえないような感じなのだ。
とりあえず僕は女の人に自分の事を伝えることにした。
僕「あの―――」
エルフ「うわ!?喋った!?」
エルフ「っていうかまさか、私と同じ国のトレイト人なのか!?」
女の人はトレイトという聞き覚えのない言葉を言った、それにより僕は自分の身元を言うことよりもトレイト人という新たに聞く言葉に興味が湧きそれについて聞くことにした。
僕「…トレイト人?とは何でしょうか?」
女の人は僕にトレイト人について、やその中に出てくるノブレス人についても説明してもらった。
この世界は人種というものは大まかに二つに分けられている。
その二つがトレイト人とノブレス人だ。
トレイト人はエルフのような見た目の人や、オークのような見た目の人がいて、奇術(僕たちの世界で言う魔法)と呼ばれるものを扱うことができるらしい。
次にノブレス人と呼ばれるものについてだ。
ノブレス人は黒人と白人の見た目をしていて、頭がトレイト人より良く、奇術が使えない代わりにとんでもなく強い兵器を開発しているらしい。
そして全体的にノブレス人はトレイト人を差別する風潮があり、
今現在、あるトレイト人の国とあるノブレス人の国では冷戦状態が続いている。
何となくだが、今僕がどんな状況にあるかを理解した。
ここで一つ疑問が生じる。
僕の見た目は完全にノブレス人なのに、なぜこの女の人は僕の寝ている間に殺したりしなかったのだろうか?なぜとなりにいたのだろうか?
差別をされている対象の子供が目の前にいるのに、何もしないなど少し考えにくい。
そこで僕は女の人に聞いてみることにした。
僕「なんで僕に何もしなかったんですか?差別を受けさせている奴の子供なのかもしれないのに」
すると女の人は一回真顔になってしばらくたった後、ハッとしたかのように
エルフ「確かに…!」
と言った。
この人は頭が弱いのかもしれない…
というか、つまりこの人は何となくで敵を信用する可能性がある。
本当に危なっかしい。
エルフ「…っで!私は知っていることを全部話したんだからあなたの事も教えてよ!」
そういわれて僕は一番最初に言おうとしていたことを思い出した。
そうだった、僕の事を伝えようとしていたんだった。
僕「僕の名前は――――」
第一話 ここはどこだろうか?
次回へ続く…
- プロローグ2 ( No.2 )
- 日時: 2023/03/22 18:59
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
僕「―――です」
僕は自分の名前を言った後、どこから来たのかわからない旨を伝えた。
すると女の人は驚いたような表情で、僕の顔をまじまじと見つめると、
エルフ「もしかしてあなたは、記憶喪失ってやつなんじゃないの?」
記憶喪失か…否定はできない。
なにせ僕が知らないことはまだまだあるのだから。
転生、または転移にはそりゃ負荷もかかるはず、その負荷に脳が耐え切れず記憶が飛んでしまう
ということもあるのかもしれない。
エルフ「あっそうだ!私の名前を言ってなかったね!私はサリー・ノエドっていうの!サリーって呼
んでね!」
女の人――サリーは自己紹介をするとなんやかんやで自分の住んでいる家へと招いてくれることになった。
家がある街は中世ヨーロッパのような雰囲気で、見る人見る人みんなトレイト人だった。
予想通り、街の人たちは僕の顔をジロジロとみて、ヒソヒソ話していた。
そんなことはつゆ知らずサリーは少し大きめの家の前に止まると、こっちに振り返り、大声で言った。
サリー「ここだよ!私のおうち!!」
周りの人たちの視線が集まり、背中越しからでも見られていることが分かった。
サリーの家は正直に言うと、街の雰囲気とまっっっったく合っていなかった。
この家の雰囲気を一言で言うならば『和』だろう。
すっごい古風な感じだ。
サリーはそんな僕の考えていることが分からないようで、どう?いいでしょう?
みたいな感じで聞いてくる。
僕は笑顔(多分苦笑いだった)で
僕「い、いいと思います…」
サリー「でしょ!!」
サリーはドヤ顔でこっちを見てくる。
そして僕は家の中へ招かれた。
やっぱり中も古風…じゃなかった。
意味が分からない。
中は周りの家の雰囲気に合っていた。
つまり外は和風、中は中世ヨーロッパっぽい家だ。
僕はびっくりしつつも、一つ一つの部屋を説明された。
その中の一つの日差しが入る窓があり綺麗な部屋でサリーは驚くべきことを言った。
サリー「――でここが君の部屋ね!」
僕「え?」
彼女の中ではもう僕はここに住むことになっているようだ。
まるで何か変なことを言ったかのように不思議そうにこちらを見てきた。
サリー曰く、僕を保護をするつもりらしい。
僕は遠慮したが(この人を本当に信用していいのかっていう不安もあった)
子供なんだから大人に遠慮しないで!と言われてしまい
半ば強引に住むことが決定したのだ。
僕の部屋にはいろいろなものが用意されていた。
まず机に椅子、クローゼット、クローゼットの中に入っていた衣服(大きさ不明)、本棚(結構分厚い本多め)、机の上に置いてあった手を置くことができる溝?のようなものがあるひらべったいガラスの何か、…とまぁ思っていた以上になぜか生活必需品が置いてあった。
なんでこんなに用意されているのかものすごく怖いから、何か起きても対処できるように今日は寝ないでこの部屋を調べようか。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
部屋のものを見ているとご飯ができたようでサリーが呼びに来た。
ご飯は見たことのないものばかりだが全部おいしそうなものだった。
ご飯に何か入っているかもと気づいたのは口に入れた直後だ。
毒を食らわば皿まで、もうどうでもよくなってたらふく食べた。
お風呂にも入ったがやっぱりとても広く、死ぬほど熱かったため、シャワーだけにした。
すべての事が終わりサリーに寝る挨拶を交わす。
―――――――とここまでが僕が部屋を調べるまでに行ったことだ。
そして僕は今、謎のガラスの溝に手を置いてみてここが異世界であることを確信した。
【ガラス】➡ ○▲ ▽◇ セイベツ;オトコ
所持シテイル奇術 バリア level1 自分の前方に半径1メートルの絶対に割れない
円形のバリアを張る
適正ジョブ ?????????????
qwertyuioplkjhgfdsaertyuiopokjvftyujhvdrthvcdfghbvcdhbvcxsrfvbnmutyjkgudfiugugigigiuigigigyffd67tyihrs56r7t8yihguyftdr7t8y9uiuytd569uihugytd6r7t8yiguyftd6r7t8yihugyftihgrsfihbsihfiskhrrgsirehgierihseifhihgisuehiguhiseuhgfiusheruhserueirgishqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqtttttttttttttttwtwtwtwtwyfyfyfyageaghwfiuaeiwhgigaiegiawgrigiawehdlkffhaohgawihegoahgoiaheohgaohgeoahgoahgohaohgaohgoahoghahgiwahfiahifhiagigwhaeioghawohgoahgoahfoahdohawiuehaohoehghawig34ygidhaioeworeihoiawheiohwdahfaoihfeoihaierhiauhfiahifheawihfiahieahfihawifhaiwehiawuhfeahjaojgaon;onbaorqo;hgwojfdhsgsuiehfdryqwertyuijswertdefdrgthkugilhkgujfhsdhsrjdyjyffyjfjfjfyjjyyfkffkfffkykfkffkkggkgjjjgjflktygjgjfjfjkgkhhjggjjgjggjjhjhjjhjyffd67tyihrs56r7t8yihguyftdr7t8y9uiuytd569uihugytd6r7t8yiguyftd6r7t8yihugyftihgrsfihbsihfiskhrrgsirehgierihseifhihgisuehiguhiseuhgfiusheruhserueirgishqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqtttttttttttttttwtwtwtwtwyfyfyfyageaghwfiuaeiwhgigaiegiawgrigiawehdlkffhaohgawihegoahgoiaheohgaohgeoahgoahgohaohgaohgoahoghahgiwahfiahifhiagigwhaeioghawohgoahgoahfoahdohawiuehaohoehghawig34ygidhaioeworeihoiawheiohwdahfaoihfeoihaierhiauhfiahifheawihfiahieahfihawifhaiwehiawuhfeahjaojgaon;onbaorqo;hgwojfdhsgsuiehfdryqwertyuijswertdefdrgthkugilhkgujfhsdhsrjdyjyffyjfjfjfyjjyyfkffkfffkykfkffkkggkgjjjgjflktygjgjfjfjkgkhhjggjjyffd67tyihrs56r7t8yihguyftdr7t8y9uiuytd569uihugytd6r7t8yiguyftd6r7t8yihugyftihgrsfihbsihfiskhrrgsirehgierihseifhihgisuehiguhiseuhgfiusheruhserueirgishqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqtttttttttttttttwtwtwtwtwyfyfyfyageaghwfiuaeiwhgigaiegiawgrigiawehdlkffhaohgawihegoahgoiaheohgaohgeoahgoahgohaohgaohgoahoghahgiwahfiahifhiagigwhaeioghawohgoahgoahfoahdohawiuehaohoehghawig34ygidhaioeworeihoiawheiohwdahfaoihfeoihaierhiauhfiahifheawihfiahieahfihawifhaiwehiawuhfeahjaojgaon;onbaorqo;hgwojfdhsgsuiehfdryqwertyuijswertdefdrgthkugilhkgujfhsdhsrjdyjyffyjfjfjfyjjyyfkffkfffkykfkffkkggkgjjjgjflktygjgjfjfjkgkhhjggjjyffd67tyihrs56r7t8yihguyftdr7t8y9uiuytd569uihugytd6r7t8yiguyftd6r7t8yihugyftihgrsfihbsihfiskhrrgsirehgierihseifhihgisuehiguhiseuhgfiusheruhserueirgishqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqtttttttttttttttwtwtwtwtwyfyfyfyageaghwfiuaeiwhgigaiegiawgrigiawehdlkffhaohgawihegoahgoiaheohgaohgeoahgoahgohaohgaohgoahoghahgiwahfiahifhiagigwhaeioghawohgoahgoahfoahdohawiuehaohoehghawig34ygidhaioeworeihoiawheiohwdahfaoihfeoihaierhiauhfiahifheawihfiahieahfihawifhaiwehiawuhfeahjaojgaon;onbaorqo;hgwojfdhsgsuiehfdryqwertyuijswertdefdrgthkugilhkgujfhsdhsrjdyjyffyjfjfjfyjjyyfkffkfffkykfkffkkggkgjjjgjflktygjgjfjfjkgkhhjggjjyffd67tyihrs56r7t8yihguyftdr7t8y9uiuytd569uihugytd6r7t8yiguyftd6r7t8yihugyftihgrsfihbsihfiskhrrgsirehgierihseifhihgisuehiguhiseuhgfiusheruhserueirgishqqqqqqqqqqqqqqqqqqqqtttttttttttttttwtwtwtwtwyfyfyfyageaghwfiuaeiwhgigaiegiawgrigiawehdlkffhaohgawihegoahgoiaheohgaohgeoahgoahgohaohgaohgoahoghahgiwahfiahifhiagigwhaeioghawohgoahgoahfoahdohawiuehaohoehghawig34ygidhaioeworeihoiawheiohwdahfaoihfeoihaierhiauhfiahifheawihfiahieahfihawifhaiwehiawuhfeahjaojgaon;onbaorqo;hgwojfdhsgsuiehfdryqwertyuijswertdefdrgthkugilhkgujfhsdhsrjdyjyffyjfjfjfyjjyyfkffkfffkykfkffkkggkgjjjgjflktygjgjfjfjkgkhhjggjj
バグっているのか知らないがガラスは意味不明な文字を羅列し始めた、そしてガラスは音もたてずに静かに割れてしまった。
興奮が冷めない僕は理解した
ここが異世界であると。
まぁもともとおかしいところもあったけど…
ようやくわかった。
僕は異世界に来たのだ、しかも奇術を僕が使える、そのことを考えていると僕はワクワクが止まらなかった。
しかし、転移または転生はたまた食事の影響だろうか、急激な睡魔に襲われ、部屋の中央に置かれた机に突っ伏して寝てしまった。
朝起きると僕はベッドで寝ていた。
そして
僕の隣でサリーが血を流し、床にあおむけで倒れているのだった。
プロローグ2 確定していた結末、
次回へ続く…
- プロローグ3 ( No.3 )
- 日時: 2023/03/22 18:59
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
酸っぱいような生臭いようなにおいが僕の鼻をつつく。
僕「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
一体ここでは何があったのだろう。
よく周りを見ると部屋は血の海だった。
そしてサリーの他にも何人かの人が倒れていた。
その人たちは全員…
トレイト人だった。
なぜサリーは殺されたのか。
そう考えると一つしかない。
僕の所為だ。
そう理解した瞬間に僕は昨日食べたものを吐しゃ物として吐き出す。
もうだめなんだ。
ここにいてはいけない。
僕はこの街には住めない。
僕は血で湿った床を口を押えながら、踏みしめその部屋から出た。
部屋の外はもっとひどかった。
血で水たまりができている。
僕「うわぁfjgaowjgeow;iugihewl!」
また僕は枯れたはずの胃の中のものを吐き出す。
吐き出したものは血だった。
僕「jah;iwehinblahiawg」
その血を見て、僕は気が狂いリーの家を飛び出した。
その判断は間違いだったんだ。
なぜなら、
街の人たちが、家の前で倒れていたからだ。
そこで僕の中での何かが壊れてしまった。
そうだ。
全部僕の所為だ。
いや、僕以外のみんなの所為だ。
そうなんだ。
いや違うんだ。
サリーが、
街の住人が、
死んだのは、
僕は笑っていた。
涙も、吐しゃ物も何も出なかった。
そこで僕は気を失った。
??「おい」
誰かが呼んでいる、声は女の人のようだった。
??「おい」
誰だろうか、サリー…ではないか…
??「おい」
いったい何なんだ。
??「起きろ」
女の人から一瞬で男の冷たい声に変わる。
僕は目を覚ます。
青い空…ではなかった。
赤い空だった。
血のように真っ赤に燃えていて、
空には戦闘機のようなものが飛んでいる。
??「起きたか」
僕のそばには誰かが立っている。
その人はゲームでよく見るイノシシのような顔のオークだった。
オーク「早く体を動かせ、もうそろそろここにもあれが落ちる」
僕は体を起こすと、周りを見渡す。
サリーの家も周りの人たちの家も、何もなく、火の海だった。
周りの状況を瞬時に確認し、オークの指さす方を見る。
戦闘機から爆弾が何個も何個も落とされている。
その様子は歴史の授業などで見る、戦争中の戦闘機だった。
オーク「立て、早くしろ」
そういって僕を立たせると、両肩に手を置いて
オーク「いいか、絶対に今から体を動かすな、何があってもだ」
と言った。そして、何かをぶつぶつつぶやき始めた。
しかし、僕たちの真上の戦闘機から爆弾が投下された。
オークは焦っている様子もない。
爆弾は近づいてくる。
そして僕たちのところに落ちる、と思ったその瞬間、
僕の目の前には、花畑が広がった。
意味が分からない。
オークはふぅ…と一息ついてから僕に
オーク「もう動いていいぞ」
と言う。
一体この一瞬で何があったんだろうか。
さっきまで戦場にいたのに急に花畑だ。
なにがなんだか。
オーク「?なんだ、奇術見たことがないのか?」
奇術…まさか、
オーク「奇術っていうのはな―――――――――――」
そういうことか、僕はやっと理解した。
僕はそこである疑問が浮かぶ。
そして奇術について説明しているオークにこういった。
僕「あの、なんで僕を助けてくれたんですか?」
オークは話をやめて少し間を置くと、
オーク「…サリーに頼まれたんだ」
と悲しげに言ったのだった。
プロローグ3 頼まれたんだ
次回へ続く…
- プロローグ4 ( No.4 )
- 日時: 2023/03/22 19:03
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
サリーと出会った場所とは少し違う花畑の中、僕は確信した。
あぁ、やっぱりだ。
もう涙が出ない。
サリーを思い出すのにも体が抵抗する。
がたがた震える。
サリーは本当にいい人だったことはこの人の顔が物語っているのに。
オーク「今更だが…俺の名前はルソア・モルト、ワープの奇術を持っている。スキルのレベルとし
ては3で、サリーとは幼馴染の関係だ」
ルソア「お前は、サリーと同じハーフか?」
サリーと『同じ』?ハーフ?いったい何のことだろうか?
そもそもサリーはどうやってこの人に伝えたんだ?
僕の話は聞いてないのか?
とりあえず僕は一番気になっているハーフについて聞いた。
僕「サリーさんがハーフ?ってどういうことですか?」
ルソアは驚いたような顔をすると、少し悩み眉間にしわを寄せつつ僕に聞いてきた。
ルソア「…聞いていないのか…本当に聞きたいか?」
僕はルソアの目を見て力強くうなづいた。
ルソア「そうか…」
そこで僕はとんでもないことを知ることになる。
サリーはノブレス人の父とトレイト人の母から生まれたというのだ。
そして3年前両親二人とも殺された。
父親の親友であったルソアの父によって。
ルソアの父はその際、国にもこのことを報告したらしく、
サリーは逃亡生活を余儀なくすることになる。
最近引っ越してきたあの街の人たちも薄々気づいていたらしく。
この街から出ていけなどと脅迫じみた手紙を何通も送っていたようだ。
そして、僕がサリーの家に止まった時、ノブレス人の敵国が『たまたま』あの街に夜明けの時間帯に毒ガスを落としたようだ。
ここからはルソアの考察らしいが、一つ一つ説明してくれた。
まず、なぜ街の人たちがサリーの家に集まっていたのか。
おそらく、サリーへの怨み文句を言いに来たのだと思うそうだ。
しかしみんな言う前にサリーの家の前で死んでしまった。
唯一言えた人も、サリーも家の中で死んでしまった。
そこで疑問に上がるのがなぜ僕は毒がそこまで効いていなかったのか、
それはおそらく…
ルソア「サリーの奇術のおかげだろう」
ルソアは冷たい声で言う。
サリーの奇術は触った相手の運気を跳ね上げる、というものらしい。
最後の力を振り絞って僕に触ったおかげか僕は生きているのだろうとのこと。
その運のおかげか戦闘機の落とした爆弾が、
ほとんど僕のほうには当たらず家のみが周りの火によって燃えたんだろう。
その家が燃えている時にルソアが到着し、ワープして今に至たった。
とルソアは考えているらしい。
僕「…」
言葉が何も出なかった。
サリーは全世界の人の悪と戦ってたんだ。
それを僕が知らず、サリーを殺してしまった。
全部僕の所為だ。
いや違う。
ノブレス人の所為か?いや違う
ルソアの父の所為か?いや違う
悪いのは
優しい人、何もしてない人に対して差別を許し、その人たちを殺した悪人がのさばるこの世界だ。
僕の所為じゃない。
この世界だ。
いやだ、違う。
僕の所為じゃ。
ない。
僕「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
気づいた時には僕は絶叫していた。
突然の絶叫に耳をふさぐルソアが見えたのを最後に、
一つの決意を胸にまた気絶したのだった。
プロローグ4 一つの決意
次回へ続く…
- 第一話(その1) ( No.5 )
- 日時: 2023/03/26 20:26
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
??「ねぇ?なんで?」
真っ暗な世界の中で女性の声が木霊する。
しかし周りを見渡しても誰もいない、見えない。
??「ねぇなんでよ?」
女の声はどんどん近づいてきている気がした。
また周りを見るがやっぱり誰もいない。
今気づいたがその女の声はどこかで聞いたことがあるような気がした。
そんなことを思った瞬間、僕の耳元で生暖かい息が当たり、声がする。
??「なんでお前は生きてんの?」
冷たい声だった。
背筋が凍るり、足も震えるが、なんとか僕は後ろをふりかえる。
そこには肌が焼けただれた、サリーがいた。
叫びたかったが声が出ない。
??「貴方はなぜ生きてるの?なんで私が死ぬ必要があったの?」
そうだ、サリーの言う通りだ。
サリーが死ぬ必要はなかった。
あんないい人が死ぬ必要はなかった。
??「なぁ?お前が死ねばよかったんだよ?なぁ?」
ただ、僕はその声を聞いてなぜか気づいた。
僕「失せろ、幻影が」
ブワァ!っと風が吹き、サリーのような何かが居なくなりまた虚空に取り残される。
サリーはあんなことを言わない。
なぜかわからないが僕はそんな自信があった。
しかし、消えたのも束の間サリーの幻影はより現れてしまったのだ。
真っ暗な暗闇にあふれ続けるサリー、その状況はまさに異様なものだった。
僕は現れ続けるサリーを無視し、虚空を歩いた。
歩き続けた。
歩き続けた。
歩き続け――――――――――――――――――――
ドン!!
何かの物音で僕は目を覚ます。
??「わ!起こしちゃった?」
誰かが言うが、周りがぼやけて見えず誰が言っているのかわからない。
少なくともルソアではない。
目をこすりつつ、体を起こし声のほうを見る。
すると部屋のドアに、白兎がいた。
音の原因はドアの横にあるタンスにぶつかったのだろう。
赤い目、長い耳、ふわふわしそうな毛、ピシッ!としたスーツみたいな服、まるで執事みたいな格好だ。
??「えーと、どうも…」
ウサギは言う。
その時僕は、理解が追い付いていなかった。
オークのような人種でもない、エルフのような人種でもない。
じゃあこいつは何だ?
まさかノブレス人?いや、ノブレス人は黒人と白人しかいないという風に聞いている。
兎は頭を左手で少し掻きながら、呟く。
??「?まさか僕のこと知らない?結構有名だと思うんだけどな…」
そうつぶやいた瞬間、目の前から兎が消えた。
??「ねぇ?僕のこと本当に知らない??」
その声はなんと左から聞こえてくる。
恐る恐る僕は声の方へ振り返る。
そこには兎が眉間にしわを寄せ、悩んでいるような表情で立ち尽くしている。
??「これでもわからないのか…僕って有名じゃないのかな…ハァ…」
兎はそう言いため息をつくと、
??「もういいや!僕の名前はビット・ラシノミスト『割と』有名な、一応オークの兎だよ!」
ビットは自己紹介を始めた。
ビット「僕は珍しくイノシシじゃなくて、兎なんだ!ちなみに奇術は『大幅な身体能力の上昇』めっちゃくちゃ強いよ、僕(笑)」
話によると、ビットのようなイノシシ以外のオークもとても低い確率で生まれることがあるらしい(トレイト人の歴史の中でイノシシ以外のオークはビットを含めて二人しかいない)。
その珍しさから、ビットはとんでもなく有名らしい(もう一人は狸でそっちも有名らしい)。
ビットはとにかく有名ってだけでうれしいらしく、どれだけ自分が有名かを熱弁してた。
他にも有名になっている理由がある、それは、
ビットの奇術が強く身体能力もオークより遥かに高いということだ(本人談)。
それらの要素が合わさり、ビットの事を知らない人はほぼいないとのこと。
だから、僕にずっと聞いてきたのだ、「僕の事を知っているか?」と。
??「とまぁ、僕の事はこれでいいかな!じゃあさ!君の事を教えてよ!」
その言葉を聞いた瞬間、僕はおなかに殴られたような痛みが走る。
僕「カハッ…」
そのまま僕は血を吐く。
そりゃそうだ、何も食べてないのに無理に吐こうとするからだ。
またそのまま意識が飛びそうになるが、深呼吸をして、大慌てで、バケツや水、タオルを持ってきた、ビットに僕の事を伝えることにした。
第一話(その1) 思い出のサリー
次回へ続く…
- 第一話(その2) ( No.6 )
- 日時: 2023/04/03 20:39
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
僕「です…」
死ぬほど気持ち悪い、そりゃそうかサリーとの出会いが思い出されるのだから。
そんな僕にバケツと布巾を渡すビットは心配そうな顔で言う。
ビット「大丈夫か?」
ドタドタドタドタ!
何者かが走ってくる音が聞こえる。
??「大丈夫かぁ!?」
その何者かが転がるように部屋に入りそのまま壁にぶつかる。
メリメリ…
壁にひびが入るが、特に気にした様子もなくそいつは壁から埋まった部分を抜きこちらに尋ねる。
??「大丈夫か?」
そいつはルソアだった。
ルソア「ビットから聞いたよ血を吐いたってな」
僕「大丈夫です、心配をかけてしまいすいません」
何でこの人たちは僕をこんなに心配してくれるのだろうか?
たった今会ったばかりの他人なのに。
まぁ…いいか、使える奴は使っていこう。
この腐った世界を潰すために。
そんなことを思っていた僕は起きてからずっと思っていたことを二人に告げた。
僕「…あの、突然ですが僕強くなりたいです」
二人の動きが止まり、顔を見合わせる。
そしてルソアが僕のほうを向き、尋ねてきた。
ルソア「…どうしてだ?」
僕「自分の身を守るためです」
二人はまた顔を見合わせると、何かを話してから、今度はビットが僕に言う。
ビット「…いいけど、ルソアさんが教えるからね?」
僕「なぜでしょうか?」
ビット「僕が強すぎるから」
僕「強いんだったらビットさんのほうがいいのではないでしょうか?」
ビット「ダメ、護身用だったら僕は必要ない」
ビットの顔は真顔だったがどこか鬼を感じさせる表情だった。
僕「…わかりました、ルソアさん今日からよろしくお願いします」
そういうとルソアは顔をしかめ、僕に心配そうに言う。
ルソア「『今日から』?体はもう大丈夫なのか?」
僕「はい」
ルソアさんは悩んだような表情をし、眉間にしわを寄せつつ言った。
ルソア「…わかった」
一般的な訓練は反応できるように相手の行動パターンを予測し、学び実践で活用できるようにするものばかりだが、ルソアさんの訓練は簡単に言うと僕の奇術の能力を底上げするためにひたすらバリアを張りバリアの大きさを大きくするというものだった。
これが口で言うのは簡単なのだが、やってみると案外きついのだ。
そもそもゲームなどの魔法を使う時に使用するMpがないこの世界で奇術を使用する際に何を使用するかを考えてみればわかるだろう、そう体力である。
つまり、奇術を使用すればするほど疲れるのだ。
さらに厄介なことがある。
なんとこれは体力をつければいいというものでもないそうだ。
つまりこの訓練は、『体力ではない体力』を使い、その力を具現化するのが奇術という物で、それを出来るようにする訓練なのだ。
ルソアさんの説明の意味が分からん。
まぁいい、訓練内容はあぐらをかいて座り、ひたすら前方に10メートルのバリアを張り続けるだけだ。
―――――数日後―――――
ルソア「ダメだ!もっと気を保て!」
僕は今とんでもなく辛い状態だ。
数日前まで訓練を舐めてたことを後悔しているほど。
僕「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
強度はルソアさんが殴って調べてくれているため心配はないが、10メートルまで大きくするのがとんでもなくきつい…
普通に気絶するほどだ。
―――――プツン―――――
ほら、まただよ。
また気絶してしまった、目の前が真っ暗だ。
??「ね?いったでしょ?辛いって」
何者かの声で僕は目を覚ます。
すると、ビットが僕の顔を覗くような形で立っていた。
僕はどうやら野原で気絶したまま倒れ、夜まで放置されていたらしい。
何故かしたり顔のビットがもう一度僕に言う。
ビット「ね?言ったよね?辛いって」
僕「いや、言ってないと思いますよ…?」
ビットは眉間にしわをよせ不思議そうな顔をしながら
ビット「え?ホントに??」
ビット「まっいいか」
ビットはそういうと腕を頭で組み、そのまま後ろ向きで倒れる。
ドサッ!
その音とともに僕は何故か宙に浮かんだ。
ビットに蹴られたのだろうか?
僕の背中に鈍い痛みが走る。
僕「いっ…!?」
何が起きているのか理解ができないが一つ言えることがある。
このままだと頭を地面に打って死ぬ。
結構な高さまで上がり続ける僕の体を大きな足が蹴り飛ばす。
僕「ゴハァ、カハァ…」
血を吐きながらも訓練していた草原から花畑まで飛ばされ、落ちるが、
幸いクッション(花)がありなんとか一命を取り留めた。
何とか体を起こし飛ばされてきた方を見る、そこにいたのは…
アニメなどで見る軍服を着た人たちだった。
第一話(その2) 1章の始まり始まり
次回へ続く…
- 第一話(その3) ( No.7 )
- 日時: 2023/04/06 15:30
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
ガシャンガシャンガシャンガシャン…
音を立てながら軍服の人たちは銃を構える。
その様子はさながら歴史てみた織田信長の長篠の戦であった。
この人たちは一体何なんだろうか?
というかビットはどこへ?
軍服のうちの一人が音を立てて銃を発砲させる。
バシュッ!
僕に当たるギリギリで弾が落ちる。
危ない、少しでも離れない―――――
ババババババババババ…
僕「ウガァァ!」
僕の体に鉛玉が入り込み、体中から血があふれ出す。
やばい、死ぬ
生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい
生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きた
い生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい
生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生き
たい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生き
たい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生
きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生き
たい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい生きたい
死にたく
ない
軍服「うん?」
軍服「ぎゃあぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
軍服「なんだ!?なんだ!?なんだ!?」
場は阿鼻叫喚だ。
??「ふぅ、ご飯を呼びに来てみればなんだよこれは…はぁ…」
気づいたら、何故か軍服の人たちは皆倒れて、その上にはビットが立っていた。
僕「ビット…さ…ん?」
ビット「おう!小僧!」
僕「この…人…たち…は?」
ビット「え?わかってないのか?シルディア王国のスパイだよ」
僕「シル…ディア…ですか?」
ビット「うん」
僕「どこ…で…す…k―――――」
そこでまた僕は意識が途切れた。
そして…案の定、僕はまたあのベッドで寝ていた。
「お!起きたか!」
そういいながらビットが僕の顔を覗く。
ビット「いやーごめんごめんお前がすごい銃弾を撃たれているの忘れてたわ!」
頭をポリポリ搔きながら、ビットはそういう。
ビット「えーと…今更ながら大丈夫か?」
僕「ダメです…」
僕の体中に穴が開いているんだ、そんな一日二日で治る物ではない。
というか、よくあの状態で僕は助かったな。
血が出すぎていたし、心臓とかに当たっていてもおかしくないのに。
ビット「だよな…もうちょっと早く僕が来ていれば良かったのに…ごめん」
ビットはバツが悪そうな顔で謝ってきた。
全くビットは悪くないのに。
僕「いえ、僕が弱かったのが一番の問題ですので、そこまで気にしないでください、僕は助かってますし」
ビット「そ、そうか…」
ドンドンドンドン!
この部屋の扉をたたく音が聞こえた次の瞬間
バン!
っという音とともにさっきの軍服姿の人たちが入ってきたのだ。
僕「うわぁ!」
僕が驚いているのをよそにビットはそいつらの一人に足蹴りを食らわせた。
ゴン!
と鈍い音がし、蹴られたやつの首の骨が曲がっているのが見えた。
そしてあっという間にビットはそいつらをとらえて、
ビット「お前らもコイツのようになりたいか?」
首の曲がった軍服の髪を引っ張りそいつらに見せつけた。
軍服「ヒッ……………」
ビット「さぁシルディアの誰によってここへ仕向けられた?言え、さもなくばここでお前らを殺す」
しかし軍服は首を横に振るばかり、それほどの決意があるのかはたまた…
ビット「…そうか、じゃあ死ね」
軍服「いや!、ちが――」
グシャ!
ビットがそういったとともに軍服たち全員の首が飛ぶ。
軍服の首は全員苦しそうな顔をしていた。
ビット「ふぅ…大丈夫か?」
僕はその首と目が合ってしまい、気持ち悪さが続く。
あの時の事を思い出す。
僕「ウッ!うぉえ!う、うぉうぇ」
思わず吐いてしまった。
僕のベッドにこびりついた血と自分の吐しゃ物が混ざり合い、一つの物体として色を黒く変える。
ビット「…うん?」
ドタドタドタドタ…
ビット「…はぁ…ダメだねここにいちゃ、もう援軍が来たみたいだし」
そう言うとビットは僕の方へきて、僕を片手で持ち上げそのまま壁を破壊した。
ビット「とにかく君の事は気に入っているから、絶対守ってみせるよ!」
第一話(その3) 軍服の正体とビット
次回へ続く…
- 第一話(その4) ( No.8 )
- 日時: 2023/04/09 10:18
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
ビット「君は絶対守るよ!」
壁は跡形もなく消え去り、砂煙が立ちこむ中、軍服たちがまた姿を現した。
しかし今回の軍服は一味違った、なんと確認できる限りでも百人以上いるのだ。
今までの軍服たちはせいぜい十人いるかいないか…それが、いきなり百人以上だ
これは、仕組まれたな。
その中の両腕と右足が機械の者がビットの発言に対し
義手軍服「フン、たかだかトレイトごときが私たちから守り切れるとは思うなよ?」
その言葉の後に奇声を上げ、先ほどの軍服が持っていた銃とは違う散弾銃のようなものを構えた。
義手軍服「撃てぇぇぇぇ!!!!」
軍服たち「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
ガッシャン!
その散弾銃の音が鳴る『すこし』前にビットは僕を抱え込み(お姫様抱っこのように)、撃った音が聞こえた瞬間ビットと僕は軍服たちの後ろにいた。
義手軍服「なに!?消えた!?」
軍服「え?」
ビット「君はここにいて、秒で終わらすからね」
ビットは僕を軍服たちの後ろに置くと、一番後ろの軍服たちが振り向く前に、一人の軍服の首を撥ねた。
そのまま次々と首を飛ばしていくビット、態勢が立て直せない軍服たち、そして見る間もなく、ロボット義手と義足の軍服以外の首を撥ねてしまった。
ビット「ふぅ、さて最後の人はぁ~誰かなぁぁぁ?????」
義手軍服「ヒッ!?ヒィィィィ!?!?!」
ビット「お前はどうしようか?首を飛ばそうか?胴体を飛ばそうか?それとも目玉を抉り出そうか?…」
血だらけのビットは軍服からはさながら悪魔に見えたのだろう。
そこから僕は見てられなかった。
義手軍服「ヒィッ!?あ、あく、あくまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
そのまま義手軍服が銃を構えた瞬間、
ギャァァァァァァという声が聞こえ、僕は悪魔に前にやってこられ話しかけられる。
ビット「君は僕と似ている部分があるから生きてほしいんだ、此処にもすぐ援軍が来る、一緒に逃げるよ」
そう言うとまたビットは抱え込み、颯爽とルソアの家から離れていった。
ビットの体は生暖かく、僕は吐きそうになる臭いを抑えることしかできなかった。
しばらくして、ビットに抱えられた僕は全く見覚えのない場所に着いた。
ビット「よし!もう降ろすよ!」
僕「あの、此処は一体…?」
ビット「あ~ここ?ここはトレイト人に虐げられているトレイト人が住んでいる【オシャッシー】という場所だよ」
僕「オシャッシー…?」
ビット「まぁ言わば『奴隷の奴隷』の国だね」
そこはあまりいいとは言えない街並みだった。
焼け果てた家にボロボロの布を屋根代わりに住んでいる人がたくさんおり、現代の裏路地と同じものを感じる。
要するにスラム街っぽい。
僕「…大丈夫ですか?此処…」
ビット「大丈夫大丈夫僕の出身地だからさ~」
そんなことを言ってると一人のローブを着た禿げた中年男性(耳がとがっているためエルフ)が近づいてくる。
おじさん「お前は…リトロか…?」
僕「リトロ…?」
ビット「あぁ、僕の昔の名前ね、」
おじさん「やっぱりか…こっちにこい、」
おじさん「ルピフォ様が呼んでおる」
僕「???」
ビット「…そうか、わかりました、行きます」
色々、新しい単語が出てきて混乱するが、
オシャッシーはこの国の事
リトロはビットの昔の名前
ルピフォ…おそらくこの国の王様なのか?それとも地位が高い人物なのか?
っとこんな感じだろうか。
とりあえず僕はビットについていくことにした。
ついていった先は…城だった。
しかも結構な大きさの。
そしておじさんは何十メートルあるのかわからないほど大きい扉の前に立つと、
おじさん「この扉を開けなさい、ん?そこのガキは何用だ?」
ビット「あぁ、弟子ですよ、ね?」
そう言いながらビットは僕の目を見て、必死に誤魔化せと伝えてくる。
僕はとにかく首を振った。
おじさん「…そうなのか、おい小僧お前はこっちにこい」
ビット「さ、行ってこい」
ビットは僕の背中を優しく押しながら、耳打ちした。
ビット「…頑張ってね…」
頑張る…?
いったい何のことだろうか?
そんなことを考えながら、おじさんについていくと、僕は写真でしか見たことない闘技場?のような場所で止まった。
おじさん「…お前さんはリトロの『本当の』弟子なんだよな?」
僕「は、はい」
おじさん「…じゃあわしを納得させてみな」
僕「え?」
おじさん「…さぁ…行くぞ!」
そう言うとおじさんは僕のほうに一瞬で近づいてきた、そして拳を振り上げると…
第一話(その4) 謎のおじさん
次回へ続く…
- 第一話(その5) ( No.9 )
- 日時: 2023/04/15 16:36
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
当たる、そう思ったその時だった。
おじさんが僕の前から消えた。
僕「え!?」
その瞬間後頭部に痛みが走る。
そして、そのまま僕は回転しながら、闘技場の壁に激突した。
一体何が起きた、う、頭が痛い…
砂煙の中おじさんが姿を現し、手に着いた僕の血を垂らしながら話しかける。
おじさん「なぁ、お前は本当に弟子か?」
僕は血を流しながらおじさんの質問に対し頷くが、それを見ておじさんは眉間にしわを寄せた。
おじさん「お前は俺をなめてるのか?」
一瞬で空気が凍る。
そのおじさんの顔は血気迫るものがあった。
怒り、憎悪、色々な感情が混ざり、一つの鬼として今僕の前に現れたのようだった。
それに対し、何とかあいた口でおじさんに言う。
僕「なんでそうなるんですか!一体何がしたいんですか!」
そう言ったその時おじさんの手が真っ先に僕の首へと向かった。
僕「カハァ…ヒュウ……ヒュウ…」
おじさん「なぁ!なめてんだろぉ!なぁ!」
首に痕が付きそうなほど絞められる中、何とか暴れることによっておじさんの後ろへ離れた。
しかし、おじさんはそれに反応し、僕の顔に拳をたたきつける。
吹っ飛ばされる僕。
おじさん「なめてるようだから言ってやるよ俺の奇術はなぁ!」
おじさん「対象の後ろにワープする、だぁ!!」
そう言ったかと思うと吹っ飛ばされ続ける僕の後ろへワープし背中を思い切り殴りかかる。
またもや吹っ飛ばされ、崩れた闘技場の壁にぶつかり、僕の左目が潰された。
僕「グアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」
おじさん「なぁ、そんなのたいしたことないよなぁ?だって、『弟子』だもんなぁ!」
そこで僕の意識が、とぎ、れ、…
―――――――――――あのクソガキはダメだな
おじさん「おやおやぁ!戦意喪失かぁ!」
この程度で戦意がなくなってしまうなんて。
リトロお前は何でこいつを弟子にしたんだ。
おじさん「おや?」
何だ?この空気は…
さっきまでとは違う。
本当に何だ?背筋から汗がつたうこの感覚は。
あの程度のガキに俺が危機感を覚えている?
何故だ。
この短時間でこのガキ、一体何をやったんだ?
砂煙であいつの姿が見えない中、俺は奇術の使用の用意をした。
その瞬間、砂煙から何かが飛び出す。
おじさん「ん?あれは…なんだ?」
それは四角く、長く、そして透明なまるで長方形?のようなものだった。
あのガキ何しやがった。
おじさん「おい!これがお前の奇術なのか?!」
返事はない。
しかしそのガキ、いや異形の何かに俺は冷や汗が止まらなかった。
この年齢になるとおじけづくことなどありえないと思っていたのに。
ここでやらねば、何故か俺の頭の中にはそれ以外の言葉が出てこなかった。
バシュッ
またもや砂煙から何かが飛び出し、弟子の姿が現れる。
アイツだった、いやアイツだったものだった。
弟子「ケ、毛、ケ家気 毛家k け気 毛家」
おじさん「…何を言ってる」
弟子「ケ、ケ家気毛ケ家気毛ケ家気毛ケ家気毛ケ家気毛kkっケッケけっけけけけケ家気毛ケ家気毛?」
おじさん「お前は誰だ」
弟子「ケ家ケッケケッケ家気毛ケ家気毛ケ家気」
何かを言っているようだが、俺には理解ができない。
弟子「ケ――――――――――――――――――――」
アイツが何かを発したのを合図に俺は奇術を使用、後ろへと回り込んだ。
しかし、それはやってはいけないことだったようだ。
最後に見たのは、透明の何か
ただそれだけだった。
第一話(その五) 家気毛ケ家気毛餉餉気毛ケ家ケッケ
次回へ続く…
- 第二話(その1) ( No.10 )
- 日時: 2023/04/21 21:15
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
僕は何をしていたんだろう。
此処は何があったんだろう。
気絶するまで闘技場としてあった、建物がなくなり青空が見えた。
あのおじさんは?
何より、何で僕の左目は治っている?
本当に意味が分からない。
これは僕がやったのか?
いや、そんなわけない、そんなわけ。
しかし、今自分が置かれた状況からはそう推測するしかない。
が、僕にはこんな力はない、はず…
機械?みたいなやつで調べた時は…バリアしかなかったしな。
ビット「え?ここは…何があったの?」
いつの間にかいた後ろにいたビットが僕に尋ねてくる。
僕「…わかりません、気絶してから記憶が…」
ビット「…」
少しビットは悩むと、苦い顔をしながら口を開いた。
ビット「…とりあえず、ルピフォのところへ行こう」
僕「…わかりました」
――――――――――――――――――――
部屋は金ぴかで眩しく、その部屋の真ん中で宝石のようなものでできた椅子に座るその男は、
髭は王様のようで、目つきは鋭く、王と言われても恥じないほどの圧を感じさせた。
ビット「お呼びいたしました、こちらが私の弟子―――――」
??「言わんくて良い!」
ビットが僕を横に立たせ、その王とやらに紹介しようとするが、それは王の一言でかき消された。
??「まったく、何で闘技場が消え去ったのかを説明せぇい!!」
ルピフォは自分の椅子を両手でガンガン鳴らしながらビットに怒鳴る。
それに対し、ビットは困ったような顔で、王に言う。
ビット「いやはや私も何が何だか分からなくてですね…」
??「最後に使っていたのはそのガキとアイツだというのは分かる、だがアイツはこの国でナンバー2と言われる男だぞ!?」
??「なぜそんな男があんなことをしている!?しかも行方不明だというじゃないか!?」
ビット「ルピフォ様落ち着いてください」
ルピフォ「これが落ち着いていられるかぁ!?」
ビット「王様!…落ち着いてください」
そうやって何とか、ルピフォを落ち着かせている時だった。
ドンッ
突然後ろの大きなあのドアが開いた。
そして鎧を着た、十メートルほどありそうな大男が何かを持ち上げながら、ルピフォに近づいて行った。
男「王!…マルクド様が…見つかりました…こちらです…」
大男はルピフォに持っている何かを見せ、
男「マルクド様は…死んでいましたぁぁぁぁ…!!!」
ルピフォ「………………そうか」
ルピフォ「ビット、そのガキ、殺せ」
ビット「!?何でですか!」
ルピフォ「そのガキは解剖する、マルクドを殺したんだ何かに使えるかもしれん。それともなんだ?生きたまま解剖しようっていうのか?別にそれでもいいんだぞ?」
ルピフォは声を荒げ、ビットを威圧する。
ビット「だとしても!」
ルピフォ「うるせぇ!町の英雄を殺したソイツはそのくらいでしか使い道がねぇんだよ!」
そう言い放つ。
ビット「そもそも弟子が殺したかなんてわからないですよね!?」
ルピフォ「ビット、お前は俺の奇術を忘れたのか?」
その言葉に耳がビクンっと反応するビット。
ルピフォ「『全知』、知っていたんだよマルクドがとうにこの世界にいないことなど、そしてそのガキがマルクドを殺していたこともなぁぁぁ!」
ルピフォはそういうと一呼吸置いてもう一度言った。
ルピフォ「……今すぐ、そのガキ、殺せ!」
ビット「…」
ルピフォ「もういい、そのガキを捕らえろぉ!」
その言葉と共にどこからか兵が現れ始める。
まるで雪崩だ。
そしてついには鎧を着た兵で視界が埋まる。
僕はとにかくビットの手を握っていた。
その瞬間僕の体が真上に飛んだ。
僕「!?」
ビットが僕を投げ飛ばしたのだ。
そしてビットは僕に言う、前に進めと
前に、前に。
ルピフォのぎょっとした顔を落ちながら見る。
あぁこの人は強い人だな。
僕なんかじゃ敵わない。
でも、それでも僕は
僕「……僕は、死なない生きるよ」
ルピフォ「あ!?何だと!?」
僕は両手を床と平行に伸ばす。
そして、
「……能力、バリアlevel2、球体」
第二話(その1) 生と所為
次回へ続く…
- 第二話(その2) ( No.11 )
- 日時: 2023/04/26 21:40
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
僕「……能力、バリアlevel2、球体」
何故か僕はその言葉を叫んでいた。
頭の中にあった言葉でも、知っている言葉でもない。
その言葉と共に僕とビットの周りをバリアで包み込む。
ビット「おお!やったじゃん!」
ビットは嬉々として言う。
ルピフォ「ハッハッ!引っ掛かったな!全部読めてんだよ!お前らはもうそこから出れないぞ!」
僕「さぁ?それはどうかな?」
そういって僕は嫌味ったらしく言ってやった。
そして瞬間的にバリアを解除した瞬間、ルピフォが叫ぶ。
ルピフォ「そこから出ようとすることも全部知ってんだよぉ!!」
ルピフォ「兵よ!その周りを囲めぇ!!」
しかし、ルピフォの命令は少し遅いため、その一瞬を使い、ビットが僕を抱き連れて行った。
その際、兵は何とかして僕たちを捕らえようとしたがそれをすべて軽々と回避すると隠し持っていた人参をポケットから取り出し、
ルピフォへと投げつけた。
間一髪でそれを避けるルピフォと大混乱に陥りかける大量の兵。
それを後目にビットは巨大なドアを開け一言。
ビット「じゃあね、皆!」
ルピフォ「リトロォォォォ!!!」
ルピフォの怒りの声を最後に僕はビットに抱えられながら街へと向かった。
そして案の定僕は最初にきた場所で降ろされる。
そしてビットは僕に向き直って、僕をほめた。
ビット「君はすごいよ!あのルピフォと互角に戦うなんて!」
しかし僕は喜べなかった、そりゃそうだ。
僕はおじさんを……マルクドを殺したんだから。
しかもたちが悪いのは僕が全く記憶にないという点。
気が付いたら、殺していたなんてそんなの……
僕「うっ!……」
ビット「!?」
ノブレス人やこの世界と同じじゃないか。
そう思うと吐き気がまた押し寄せてきた。
僕は一体どういう奇術を持っているのだろうか?
バリアだけじゃないのか?
ビット「大丈夫?」
そういって心配そうに僕を見るビットを眺めているうちに吐き気は収まり、その代わりに疑問が浮かび上がってきた。
僕「あの……ルソアさんはどこに行ったんですか?」
何で僕は今までルソアの事を忘れていたのだろう?
しかしビットは目を泳がしながら首を横に振るばかりだった。
僕「?なんですか?どういうことですか?」
そう言ってもビットの動きは変わらなかった。
この動きに何かがあるのだろうか?
死んでいるのなら死んだと伝えればいいだけの事それを言わない時点で何かある。
僕「…死んではないんですか?」
ビット「…うん」
ビットはゆっくりと頷く。
その顔はどこか、悲しそうな雰囲気がした。
僕「では、どこにいるんですか?」
ビットはまた首を横に振るが、聞いてはいけないと目で伝えてきた。
ルソアさんは一体どこに行ったのだろうか?そしてなぜビットはそのことについて教えてはくれないのだろうか?
ビット「…おっと、もう情報が届いたようだね」
ビットはボロボロの家の住人を眺めならそう言う。
住人は槍のようなものを持ち、盾を構え、臨戦態勢を取っていた。
明らかに、敵として僕たちを認識しているようだ。
ビット「昨日の今日でまた逃げるのか…」
そう言ったと同時に、一人の住民が何かを呟く。
住民「あkljlだjぃ」
その瞬間、ビットは目を見開き、血を吐きながら吹っ飛ばされる。
住民「ハハ…!やったぞ!あとは雑魚のあいつだけだぁ!!」
一人一人が希望に満ちた笑顔だった、しかしそれはなんでだろうか。
何故僕たちを殺すことで希望が芽生えるのだろうか。
この世界はやはり腐ってる
何もしてない人までもが死ぬんだもの。
僕には怒りと似て非なる別の感情が宿り始めていた。
そしてまた住民は何かを呟く。
住民「ぁkじゃjsだjぃj」
そう言い終えた時だった。
??「ようぅぅケ?」
僕の前に何かが現れ、周りの動きがゆっくりになっていく。
??「お前が宿主かぁぁケ?」
黒く渦巻いた巨大なナニかが僕を囲うように回る。
黒いナニかは僕の目の前で動きを止めると、手のような何かを作り、差し出す。
そして僕に言う。
??「力を上げるよぉぅぅケ?触ってぇぇケ?」
触れば僕は力が手に入るのだろうか。
住民の奇術はもう使用されている。
つまり今死にたくないのであれば、この手を取るしか僕には助かる方法がない。
しかし、こんな怪しい奴の手を取っていいのだろうか。
黒いナニかは手をさらに差し伸べて言う。
??「はやくぅぅケ?」
ビットはやられ、サリーも死に、ルソアに至ってはどこにいるかも知らない。
僕はこの人たちの役に立てたのだろうか?
いや、一回も立ってない、そう思った僕は黒いナニかに手を伸ばす。
そこで僕の記憶は…途切れなかった。
黒いナニかの手に触れた直後、黒いナニかは僕の手に吸い込まれていく。
そして僕の体に何かがみなぎる。
気が付くと僕は手をまえに出していた。
そして一言
僕「limit解除 奇術 想像」
僕の前にバリアができ、何かが弾ける。
パァン!!
住民「!?…何が起きた!?空気玉が弾けたぞ!?」
そこからは酷く単純だったよ。
何せ、殺すだけだもん。
第二話(その2) 黒いナニか
- 第二話(その3) ( No.12 )
- 日時: 2023/04/29 12:43
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「これは、何だ?」
思わずそう言ってしまう。
夕焼けに飲み込まれそうな感覚を背中で感じつつ、もう一度目を擦り僕の目に映っているものを確認する。
しかしそれは変わらなかった、目の前に広がる死屍累々を意味もなく見つめなおした。
すべての死体の家族を僕は知ってる、此処に住んでたから。
いったいこれは誰がやったのだろうか。
絶望の狭間で思ったことはソレだった。
辺りを見回してみると一つの死体の山の上に誰かが立っているのを見つける。
そいつはあの子だった、いやあの子ではないあの子だった。
「あ、ビットさん起きたんですね皆殺しておきましたよ?」
ソイツは狂気じみた笑顔と血だらけの手で口元を擦りながらそう言う。
口元に血が付き、ソイツはその血を舌で舐め綺麗にすると相変わらずの笑顔でこちらを見る。
「…君は何があったんだい」
「いや?何もないですが?」
「そんなわけないだろ!」
僕は大きな声でソイツに言う。
あんなにやさしい雰囲気の子が何故。
何故。
僕の体中に苦しみの葛藤が駆け巡り、沸々と怒りがこみ上げる。
「お前は何者なんだ、殺すぞ?」
「はぁ…じゃあいいです、殺りましょう?」
そう言ったかと思うと僕の立っていた地面から物凄い勢いで何かが飛び出す。
何とか僕はそれを避けるが、後ろからまたもや何かが飛んでくる。
「!?」
それは、透明な長方形…つまりルピフォの前で見せたバリアだった。
コイツは僕が眠っている間にそれを何個も出せるように、そして詠唱も、特定の動きなども何もなしで出せるようになっていたのだ。
「ほら!ほら!殺すんだろぉ!!!攻撃してみろよぉぉぉ!!!」
ソイツは僕の周りに大量のバリアを出現させ、目にも止まらぬ速さでそれをぶつけてくる。
一撃でも当たれば死ぬということがひしひしと伝わってくるそのバリアはもはや、ただの凶器でしかなかった。
雨のように降り続けるバリアを搔い潜り、僕は男の子に向かって拳を振り落とす。
しかし落とす瞬間にバリアを張られ、当たらない。
手は痺れ、体に衝撃が集まり体中で跳ね返る。
「っ…!」
「もう、終わりなの?」
男の子はそう言い、指を鳴らすとバリアを大量に出現させる。
これは避けられない、とでも言いたそうな顔をする男の子を僕は見上げ、口角を上げた。
「!?」
驚きのあまり転げ落ちそうになっている男の子を僕はしっかりと目で捉えると、手を銃の形にして狙いを定めた。
何だ。
あの短い時間に何があった。
僕があいつを中心におびただしい数のバリアを配置し、ぶつけようとしたところまでは理解できる。
しかしあいつが目の前から消えた瞬間バリアの上にいたことは全く理解できない。
意味が分からない。
ケ
あいつは俺を見ると手を銃の形にして向けるそして
「バァン!」
俺の体へ向けて、銃を撃つふりをする。
「…っふ、ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
そう言って俺は体中からバリアを放出し、あいつへ向けて放つ。
が、そこからはあいつにとってはお遊戯に過ぎなかった。
すべてをギリギリで躱し、光の速度で俺に接近してくる。
何故だ、何故だ……何故だ
「何故だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
あいつは俺の攻撃を全て笑顔で掻い潜り、顔に今度は拳を与えた。
バリアが、出ない……………?
薄れていく自我の最中、最後の力を振り絞っても俺ができたことは
何もなかった。
「んっふぅ……へ?」
僕が見た景色は見るに堪えない死屍累々だった。
流石にもう吐くことは出来なかった、慣れてきてはいないはず。
だってこんなにも、動悸が止まらないんだから。
「はぁ……はぁ……」
「やぁ、起きたところかい?」
後ろからどうやらくたびれてはいるが、どこか明るいような聞いたことがある声が聞こえ、後ろを振り返る。
そこには、服はボロボロで手がぐしゃぐしゃになったビットが笑顔で立っていた。
「!?、何があったんですか!?それに、この状況は!?」
ビットは一呼吸を置いて歯を見せると、言う。
「何もなかったよ!!!」
いや、
「そんなわけないでしょうがぁぁぁ!?!?!?!?」
第二話(その3) 日常と異常
- 第三話(その1) ( No.13 )
- 日時: 2023/05/12 17:25
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
その後はこれまた大変だった。
何せ、もはや地平線にまで広がるであろうかという死体の山を踏みつけながらも逃げなくてはいけないのだから。
そしてなんとか、オシャッシーから脱出することは出来たが、ここからは一国とルピフォ軍から逃げるのだ、どこへ行っても逃げ場などないだろう。
一体どうなることやら……
そんなことを考えながら僕はひたすら夕日に沈む道を進んでいくビットの後ろをついていく。
一方ビットは何ともないような顔で傷だらけの体を動かし、僕を先導する。
やっぱりこの人は化け物なんだと僕に改めて感じさせる。
僕も今までうまくやってきたよ、異世界へ転移させられてからずっと死体を目にしてるし、この世界の常識を学んでいるし……人も多分殺しているし。
だから――――――――――
「おっと!」
ふとビットのほうを見るとビットの前に何者かが倒れているのを発見した。
慌てて駆け寄ろうとして、思い切り転び、うめき声をあげるビットを後ろに僕はその何かに声をかける。
その何かは、エルフ族の少女であった。
……体中傷だらけの、だが。
かろうじて息をしているようだが、ひどい熱もあり今すぐにも看病をしてあげたほうがいい状態であることは素人目に見ても確かである。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
呼吸が浅くなっていき、今にも気を失いそうな少女を僕は抱き上げるとビットのほうへ振り返り、言う。
「ビットさん、ここら辺に宿屋ってありませんか?」
「……ここら辺には一つもないね、あるのは……」
ビットは少し間を置くと、にやりと笑い言った。
「僕の仮拠点だね」
「ではすぐそこへ行きましょう!!」
仮拠点は道のそばにあった林を抜けてすぐの開けた場所にあった。
まるで、小さい木のような形をした仮拠点は久しく使われていないのか、ドアの前にはツタが絡まり一筋縄ではいかないような雰囲気を醸し出している。
しかしそのつたを手刀で一瞬にしてビットは断ち切ると、ドアを開け一言。
「螺旋階段を登ってすぐに見えた戸を開いて、目の前にある棚の三段目を開けてね、僕は……後から行く」
少し、眉間にしわが寄ったような気がしたが僕はビットの言葉を信じて目の前にある階段を駆け上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少女の体からは布越しでも熱が伝わり、呼吸が浅くまるでおぼれているかのような呼吸をし始める。
あと少し、あと少しだけ持ってくれ。
そして一番最初のバラの棘のようなものが絡みついた戸へとたどり着くとそのまま蹴破って中へ入る。
階段で付けた速度をそのままに戸へと飛び蹴りをしたため、通常の力では壊れない戸でも簡単に壊すことができたのだ。
そして目の前にある古びた棚へと一足でたどり着くと三番目の引き出しを思い切り開ける。
そこには一本の枯れた葉が置いてあった。
「は?」
思わず声が出てしまう。
何か救急箱か何かがあるのかと思ったら、たった一本のしかも枯れ葉なのだから。
とりあえず、僕はその草を手に取りあたふたする。
すると、枯れ葉から眩しいほどの光が溢れ始めた。
一体何が起きるのか分からず、暗闇の中またもやあたふたする僕。
しかしその光はすぐに消えてなくなっていった。
なんとその草が僕の手から消え、少女の熱が下がっていくのだ。
「おう!使えたか!」
声のしたほうを振り向くとビットがボロボロの体を壁で支えながら、したり顔で僕を見る。
「それは、『世界樹』と呼ばれる木の葉っぱだ、どんな万病にも効く最高の薬さ」
「まぁ、その分希少すぎてめったに手に入らないんだけどね」
舌をちょろっと出して、ウインクするビット。
それに対し、何の感情もわかない僕は
「とりあえずこの子はどうしましょうか」
と言う。
僕はこの時、少女の事で一杯だった、そんなことに気を取られている場合ではないとすぐさま判断したのだ。
しかしビットにはそれが伝わらないのかしょぼんとした顔で指をさす。
「……あそこに毛布があるからそれを使って」
ビットはそういうと部屋の明かりを静かに付けた。
ううん。
「―――だ―じ――かな」
「――も―――んさ―」
一体誰だろうか。
私は、確か今日のご飯を買いに家を出たらオシャッシ―の兵隊さんに飲まれて……
そこからの記憶は曖昧で、気が付いたら道に倒れていた。
そしてまたそこで意識が途切れて……
ここはどこなのだろうか。
そう思い静かに私は目を開ける。
「あ!起きましたよ!」
私より少し身長が小さい男の子がピョンピョンと跳ねて喜ぶ。
「そうだねぇ」
そう言いながら兎顔の英雄が顎を擦る。
「あの、ここは?そしてあなたは?」
とにかく今は情報収集だ。
もしかしたら、殺されるのかも……
まぁ、リトロさんがいるからそれはないと思うのだけれど、一応ね。
「僕の名前はビットそしてこっちが―――――」
その時だった。
突如として、何かの爆発音が聞こえたのだ。
その瞬間、私は即座に理解した。
この人たちに助けられたのだと。
オシャッシー……通称、奴隷の奴隷の国、ではなく、
最強の奴隷の国。
そんな国を潰せれば、この戦争はトレイトの負けだ、なんて噂が私の耳にも入っている。
一体そんな噂が何故流れたのかは分からないが、そんなの街の皆が昔から思っていたことだ。
いつこの場所がばれるのか、いつ殺されるのか。
そんな状態が常に続いていたのだ。
つまり、今日がオシャッシーの、
トレイトの
敗北の日だったのだ。
そんな絶望に飲まれている中、またもやリトロさんが変わらない声色で話しかけてくる。
「すごい揺れだったね、まぁここは多分大丈夫だからそんな話は置いといて、君の名前は?」
あぁ、この人たちも死んでしまうのかな。
私も。
家族も。
オシャッシーの皆も。
そんなことを考えていると、リトロさんは察したのか今度は、心配そうに聞いてくる。
「あの、名前は……?」
せめてこの人たちの役に立ちたい。
……そうか、私がこの人たちを生かすんだ。
命の恩人を助けるんだ。
そう思った私は二人の顔を見ると、決意を籠めて答えた。
「私の名前はアルトモ・キヤ、オシャッシ―の住人です」
第三話(その1) アルトモ・キヤ
- 第三話(その2) ( No.14 )
- 日時: 2023/05/16 20:49
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
この子は何かを勘違いしている。
何故か僕はその子を見てそう思った。
何か不思議なことをしていたわけでも、何かを勘違いしているかのような発言をしたわけでもない。
それでも何かが引っ掛かる。
この子の顔が、この子の――キヤの目が、何かを訴えてくる。
「……キヤは何かを勘違いしてない?」
「……え?勘違い?ですか?」
「うん、まさかオシャッシ―が滅亡したとか、そこから助けられたとか、そんな根拠のないことではないと思うけどさ、何か勘違いしているよね?」
「……え?」
まさか……
「……それかい?」
「は、はいぃ……」
図星のようだ。
根拠がないのに何でそう思ったのか……
この子はちょっと妄想癖があるようだね。
「あ、え、と、わ、た、何で、ここに!?」
「いや、道で事件現場のように倒れていたからだよ!?」
「噓でしょ!?!?」
あぁこの子、子供みたい……
とりあえず、此処からどうしようか、家に帰すにしてももう暗いしいつなんの生物に襲われてもおかしくない、が僕たちの近くにいてもノブレスとオシャッシ―に狙われる。
あれ?この子、今結構危ない状況なんじゃない?
どうしよう……
「あの、私あなた方についていってもいいですか?」
嘘だろ、この子はいばらの道を進むつもりなのか?
まぁ時期にここもバレるかもしれないし、なるべく早くどこかへ行かないといけないことは確かだけど……
だからといってその際についてくる必要は断じてない。
「お願いします!あなた方の役に立ちたいんです!」
そう言って頭を床にぶつけそうな勢いで首を振る、その姿を見るとそれは出来ないの言葉が出てこなかった。
「……一つ聞いていい?何でわざわざ僕たちについてくるの?」
「それは――」
ドン!!
その時はいつも静かにやってくる。
それを忘れていた。
嵐の前の静けさ、それはいつだってこういう時だった。
「ビットさん!早くその子を抱えて逃げてください!」
僕は気が付いたら叫んでいた。
恐らく、扉をたたいた者の異様な空気を察したからだろう。
ビットはボロボロの体を無理やり動かし瞬時に、キヤを抱え込み臨戦態勢をとる。
その時だった。
扉の外がまばゆいほど光始めたのだ。
そして―――
爆発した。
「能力 バリア level2」
その瞬間に何とかバリアを球状に作り、それのおかげで何とか防ぐことができた。
足場事守っていたため、崩れることこそなかったがそれが逆に僕らを追い詰めることになる。
しばらくして、目が暗闇に慣れ始めたころ、また僕らは絶望した。
見渡す限り、一面に機関銃を持った兵隊、空にヘリ、顔は明らかにノブレス人の人たちだった。
そして、ヘリのドアが開くと、リュクにプロペラが付いたようなものを装着した、屈強な黒人男性が額にある傷を擦りながらゆっくり降りてきた。
「さぁ、観念するんだな、殺された仲間の仇を取りに来た俺たちは強いぞ?」
絶体絶命、まさしくその言葉が正しいだろう。
「今から復讐という名の拷問を初めるぜぇ!!!」
ビットはケガで動けず、僕もバリアが連続して出せないこの状況は案の定僕たちの大敗で終わる。
そして僕は、殺されず、ビットたちも殺されず、生け捕りになった、もちろん最低限のけがを負わせ、動けないようにしてね。
その日から数日後の夜、シルディアの兵二人は酒場のカウンターで、疲れた体を癒しながら、最近来たトレイトの民の話をしていた。
「なぁ、最近のトレイトの野郎の話、聞いたか?」
一人の男がもう一人の男へと話を回す。
「あぁ聞いた聞いた、あれだろ?あの忌まわしきサリーと同じ境遇にいる子供の話だろ?」
「そうそうそれそれ、それなんだけどさー今そいつに対して何やってると思う?」
少し陽気な声が、低い声へと変わり男二人の間に不気味な空気が流れ始める。
「さぁ?」
もう一人の男は肩をすくめると、首を少し傾げた。
「ずっと体をデコボコの石で擦られてるんだってさ」
「はぁ?何だよその生ぬるい拷問は!?サリーの時と同じように、あの毒ガスで殺せばいいだろ?」
男の話に怒りを覚えた、男は勢いのあまり大声で立ち上がりそうになる。
しかしそれをもう一人の男が手で制止させると、またもや低い声で話し始めた。
「いや、話によると、気絶したり何か刺激を与えると暴走するらしいよ?だから本部もそうそう激しい拷問ができないんだって」
「術がそんなに強いのか?」
「いや、ビットやあるといわれているオシャッシ―の王よりかは強くないらしいんだ」
「はぁ?ますます意味が分からない、だったら暴走しても問題ないだろ?」
「うーん……そうなんだよ、だから俺も不思議に思っているんだけどさ」
「なぜだろうな」
「まぁ俺らが気にすることではないね、言った俺が言うのも何だけど」
「それもそうか……あぁそういえばビットと一緒に捕らえられたあの女はどうなった?」
「なんか体を色々といじられているらしいよ(笑)」
酒場からは陽気なようで、どこか狂気じみた笑い声が空へと木霊しているのであった。
第三話(その2) 拷問の恐ろしさ。
- 第三話(その3) ( No.15 )
- 日時: 2023/05/27 20:57
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
一体いつから、この拷問が始まったのだろうか。
かれこれ三時間ほど前の事だろうか。それとももっと前なのだろうか。
痛い、その感情すらも僕にはなくなりつつある。
水車のようなものに貼り付けられ、巨大なでこぼこした岩へ体を擦りつけるように回す、もちろん裸でね。
これが僕の拷問内容だ。
体中から血が噴きでるがそれもお構いなしでずっと擦りつけられる。
これは聞くだけなら割と軽く聞こえるかもしれない、でも現実はもっと悲惨なのだ。
いわば傷口に石を思い切り、何回も、擦り続けるようなものなのだから。
しかも、痛みで寝ることもできない、死ぬこともできない、精神が壊れそうになるがその際は止められる。
「アハ、アハ、アハハハハハ」
思わず笑いがこみ上げる。
これが一生続くのか、本当に面白いよ。
満面の笑みで引き続けられる僕。
それに伴い、勢いを増していく水車。
その時だった。
ドーン!
何かの爆発音がこの施設を襲う。
途端に元の意識が戻る僕。
そして勢いよく開くドア。
色々なことが同時に起きる。色々ありすぎてもう分からない。
「やぁ!」
煙をかき分けながら、何者かが部屋へと入ってくる。
ドアの前に立っていたのは、ビットだった。
「待たせてごめんね、【少し】遅れた」
――――――――とある街、フラデリ――――――――――――
こんな夜には何かある。
そう僕の第六感が言っていた。
虫の知らせ、とでもいった方が分かりやすいだろうか。
こんなのどかな街の静かな夜に一体何が起こるのだろうか、一つ言えることと言ったら僕の人生全てをひっくり返す気がする。
布団の中で窓のそとを眺めながら自分語りを始めていた僕は、今日もお決まりの妄想をしていた。
しかしそんな遊びも長くは続かなかった、僕の第六感は機能していなかったのだ。
ドーン
突然の爆発音とともに、ガラスが割れすごい勢いで吹っ飛ばされる僕。
「カハァ………!?」
一体何が、そう思った時にはもう遅かった、僕の目に映るのは延々と立ち上る黒い雲、そして空から降り続ける爆弾、崩壊し続ける隣家。
まさにこの世の終わりだった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
何もできない虚しさ、くやしさ、怒り、すべてがつまった咆哮は爆発音でかき消されていく。
ああ僕はなんて、
「無力なんだ」
そう思い上を見上げたその時、真っ赤に燃えた屋根が落ちてくる。
僕が見たのはそこまで、そこからは何も覚えちゃいない、が生き残ってしまったことだけは確かだね。
そうして僕は何もない暗い空へとしていた話を終える。
今の僕に残っているのは仲間と、復讐心だけだ。
「おーい!何やってるんすか?」
そんな僕の奇行に気づいたのか一人の出っ歯の男が話しかけてくる。
「何でもない、自分の進む道を再確認していただけだ」
「え~……また道に迷ったんですかぁ?」
「そう言うことではないが……まぁそれでいい」
今の僕にはこいつらがいる、少なくとも今は一人じゃないんだ。
今は、一人じゃない。
出っ歯の横を歩く僕に今度は白い仮面をした者が近づいてくる。
「――様、あの作戦は順調でしょうか?」
「あぁ、全く問題ない、今はとにかく待つだけしかお前らには出来ることはないと伝えておけ」
「……わかりました」
そう言うと、そいつは一度礼をすると煙となって消えていった。
「何すか?アイツは?」
「お前にはまだ早い、とにかくお前は仕事に戻れ」
出っ歯は少し眉間にしわを寄せると、口をとがらせ文句を言いながらこの場所を離れていった。
僕はそのまま少し歩き、街へと入る。
黒いコートをなびかせながら。
第三話(その3) 覆面
- 第四話 ( No.16 )
- 日時: 2023/06/29 00:33
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
時は遡り、三年前
今日は一体何人分の涙の雨が流れたのだろうか。
昨日、あんな事があってから俺はずっと自分の家の残骸に包まれながら雨に打たれていた。
もう何もする気が起きない、まさしくそれが今の僕には正しいだろう。
昨日までここには町があったんだ。
それが何故、何故。
「……一体なぜなんだよ……」
そう絞り出した声を出したその時だった。
「それはすべてシルディアの所為でございます」
どこか陽気なおじさんの声が響いたのだ。
「ところで、一体何をしているんですか?そんなところで」
そのおじさんらしきものは近づいてくると、僕を除きこむ。
傘を持ち、出っ歯でちょび髭のいわゆるお金持ちのような服装をした小柄の男だった。
「……うるせぇよ……」
「何がでしょうか?私はあなたは今何をしているのか聞いただけですが?」
男は何ともないような言い方で言い、僕を見る。
何かやり返したかったが僕には睨み返すほどの気力も残っていなかった。
「……死ぬんだよ」
「ほほう、それは何故?」
「……何故って見て分からないのかよ……!」
「はい、全く」
男はキョトンとした顔をして僕を見る、その目には何かの意思のようなものを感じた。
「……家族がみんな死んだんだよ……」
「へぇ~それは悲しかったですね、で?」
「は?」
「それだけですか?」
男はそう言い放った、途端にこみあげてくる怒り、くやしさに、憎悪。
「……お前に何が分かるんだよ……!」
「家族を失ったことのないお前に僕の何が、何が……」
どうしようもないほどの絶望に飲み込まれる。
僕は何もできなかった、あの爆弾が落ちた時ですら僕は何もできなかったんだ。
やるせなさ、不甲斐なさ、そのどれもが僕の中でうずまき、涙となってあふれ出す。
涙を拭おうとしても手は動かない、そりゃそうだ、もう意識が遠のいてきているのだから。
もう、僕に残っているのは……待っているのは……
死
それだけだ。
「取引をしませんか?」
意識が遠のく中、男の声が木霊する。
「爆弾を落とした奴らを皆殺しにしたいと思いませんか?」
それができるんだったら僕はもうしてるよ、でも僕は……無力なんだ。
「その代わりにあなたには一つ我慢をしてもらう必要があります」
「とある少女の面倒を見てほしいのです、その少女が死ぬまで」
男は続けて言う、僕は頷いてもいないのに。
「その少女の名は、」
サリー・ノエド
「この街がなくなった原因を作ったハーフの人種です」
「そして、貴方の父親が殺したトレイトのエルフの子供でございます」
それを聞いた瞬間僕の体は息を吹き返したかのような感覚に見舞われる。
そして僕は一言言ってやった。
「いいよ、その取引乗った」
僕が目指すのは、この街を壊した奴の復讐、ただそれだけだ。
少年は、いや、そのオークはボロボロの体を意識がもうろうとしながらも奮い立たせ、歩き始めた。
一つの
決意を胸に。
第四話 失うものは大切なもの
一章完結
二章へ続く……
- 第五話 ( No.17 )
- 日時: 2023/07/08 17:38
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
今日も雨が降っている。
あのときと同じ、
いつもと変わらない地獄の涙だ。
俺は出っ歯と別れてからしばらく歩き続けていた。
予定の時刻まであと3時間、それまでどうしていようかを考えながら。
とりあえず、そこら辺の酒場へと入り、カウンターへと座る。
「……マスター、カクテルを一つ」
「わかりました」
マスターは吹いていたコップを置くと、後ろの棚から液体の入った瓶を取り出し、吟味し始めた。
あと3時間、あと3時間あれば、
世界が変わる。
この世界に、この腐った世界に鉄槌を与えられる。
「――――どうぞ、フードのお兄さん」
そんなことを考えている間にどうやらできていたようだ。
俺はお礼を言いつつ、受け取ると一気に飲み干した。
飲み干すときの勢いのままフードは無慈悲にも首元へといってしまった。
「!?」
しまった、そう思った時にはもう遅い。
「お前、トレイトじゃねぇか!!」
近くにいた金髪の男が大声を上げ、それと同時に店の奥へマスターは走り始める。
「うぉぉぉぉ!」
金髪は拳を振り上げると、俺に向かってそれを落とす。
が、ソイツの拳は無残にも空を切ることになる。
「な!?」
そのまま思い切り前に転ぶと俺はそいつを蹴り上げる、無様に中を舞ったそいつはそのまま頭から床にたたきつけられると、意識を失った。
それと同時に猟銃を持ってきたマスターは躊躇なく俺に対して発砲する。
鈍い音が聞こえ、俺の腹から赤い液体が噴き出し、それが床に海を作り上げる。
そんなことはお構いなしに俺はマスターへと近づいていく。
「ヒッ!ヒッ!ヒィィィィ!!!!」
マスターは猟銃に入っている銃弾を全て使い切るとへなへなと床に座った。
「……一つ聞きたいことがある」
俺はそいつをにらむと、歯ぎしりをしながら、幼少期から思っていたことを尋ねてみた。
「何故、お前らはトレイトを意味もなく殺す?」
体からは滝のように液体が溢れる。
「こ、怖いじゃないですかぁ!?」
それにビビったのかそいつはその一言を最後にそのまま意識を失った。
「……怖い、だと……?」
誰にも届きのしない、怒りが体をめぐる。
「その程度で人を殺すんだな」
俺にはそれしか出てこなかった、もしかしたら何か理由がだなんて考えた俺が馬鹿だったよ。
あぁやっぱりこの世界は、
「腐ってやがる」
第2章の始まり始まり
第五話(その1) 腐っているのはこの世界だ
- 第五話(その2) ( No.18 )
- 日時: 2023/07/11 18:06
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
酒場での出来事から2時間後
「君に伝えないといけないことがある」
兎顔のそいつは汗だくになりながらもそう言う。
それを聞いた僕は本当の絶望を味わうこととなった。
「ルソアを止めてくれ」
兎顔……ビットは僕の目をじっと見て、必死にお願いをしてくる。
が、僕は相変わらず絶望のどん底にいるのだった。
そりゃそうだろう、さっきまで拷問されていてやっと助かったと思ったら今度はルソアを止めろって?
無理難題にもほどがあるだろう。
「ルソアを食い止められるのは君しかいないんだ」
そう言うビットの呼吸は次第に荒くなっていく、何かをこらえるかのように。
「……」
僕はどうしたらいいのだろうか、とにかk―――
「ルソアァァァ!!!!」
その声と共に、僕の体は宙に舞った。
誰かに顎を思い切り蹴られたのだ。
僕はとっさ何とか受け身を取ったことで軽症で済んだがそのまま硬い地面に激突する。
その瞬間僕の視界が真っ赤に染まり、体中から力が抜けていく。
「てめぇ、何でここに!」
ビットの声が聞こえる。
どうやらルソアと話をしているようだ。
「そんなことはどうでもいい、こいつはもらっていく」
そう言うと僕は誰かに運ばれ始める。
恐らくルソアが片腕で持っているのだろう。
そこで僕の意識は糸の千切れる音共に消えたのだった。
「行かさねぇよ、はぁ、ルソア!」
僕はとにかく叫んでみる。
ルソアはまだこっちにいるはずだ。
そう思っていたからだが、それはルソアの一言によって無残にも消え失せることとなる。
「俺はこの世界を変える、そのためにはこいつは必要だ、ずっと探していたんだこの機会を逃がしてなるものか」
そう言ったルソアは指を鳴らし、消えると同時にその場に白い仮面をつけた何かが僕の前に現れた。
「こんにちは、貴方を足止めするために来ました、白島と申します、冥途の土産にでも覚えていってください」
そう言う、ソイツの体からは煙が出ている。
爆弾……!?
そう思った時にはもう遅い。
何故なら
全てが
彼に託されているのだから。
「ごめん」
そう言った僕の目にはおそらく漆黒に染まった瞳が映し出されているであろう。
僕は昔から周りと何もかもが違っていた。
頭も、肉体も、奇術も、もちろん顔だって。
だからずっと思っていたんだ。
僕は
「最強なんだぁぁぁぁ!!!」
奇術level解放
「アマテラスオオミカミ!」
第五話(その2) 最高神、天照大神
- 第六話(その1) ( No.19 )
- 日時: 2023/07/21 19:14
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「久しぶりだね」
真っ暗の中、不意に後ろで声がした。
とっさに振り返ろううとするが体は動かない。
どこかで聞いた声、大切なあの人の声、世界を変えると誓うきっかけを作ったあの声、僕が殺した声。
くやしさ、悲しさ、怒り、すべての感情がぐちゃぐちゃになる。
「君はどんな時でも、笑顔だったよね」
彼女の声が近づいてくる。
足音一つすら立てずに。
「私は貴方の事が好きだった」
声が近づいてくる。
「ねぇ」
そして僕の前に小さい女の子が現れ、笑顔を作ると僕の方に触れる。
どうやら僕の体は小さくなっているようだ。
「貴方もそうだったの?」
声を出そうとしても出ない。
伝えたい、せめてあの命を無駄にしない為にも、最愛の人を殺めてしまった僕の決意が揺らがないよう、受け止めたい。
自分がしていることの重大さを受け止めないと意味がない。
だからここで、伝えたい。
僕もあなたが好きだったと。
「……はっ……はっ……」
僕は思わず飛び上がる、心臓はまるで目覚まし時計のようにドクドクと大きな音を鳴らす。
一体今のは何だ。
僕の事ではないのが分かるが一体誰の事なんだ。
それにあの女の子、どこかサリーに似ていたような気がする。
あぁ、僕はまだ引きづっているのか。
「おい、寝坊助!」
突如として男の怒号が部屋に響き渡る。
声のした方を振り返ると顔を真っ赤にし、涙を浮かべたビットが立っていた。
「早く起きろよ馬鹿野郎!」
そう言うとビットは僕のもとへと走りこみそのまま僕を抱きしめる。
「!?」
突然の事で全く反応できなかった僕は慌ててビットを離すと、
「一体今はどういう状況なんですか?」
「……悲しいお話とうれしいお話がある、どっちから聞きたい?」
「……では、うれしいお話からで」
僕がそう言うとビットは覚悟を決めたような顔をして、僕の方へと向き直り話し始めた。
【うれしい】お話を。
「うれしいお話っていうのは、爆弾の爆発を止められたって話だ、君がさらわれた後おそらくルソアの部下かなんかが僕を襲ってきたんだけどそいつを拘束してルソアの居場所を吐かせその場所に向かったところでルソアが爆弾の場所に君と一緒にいたんだここからが悲しい話だ、ルソアは君を地面に置くと爆弾事ワープしたんだそしてワープした直後に爆弾の時間がたち爆発したんだ、どこかでただ、おそらくルソアはもう――」
「……生きてない……ですか」
僕がそう言うとビットは頷く、それとともに僕はルソアとの日々を思い出していた。
僕を助けてくれたあの人はもうこの世に存在しない、僕に関わってくれた恩人がまた死んでしまったのだ。
途端に笑いが――――
その瞬間自分を思い切り殴る、びっくりするビットを横目に僕は宙を舞う。
笑うな、僕。
笑うことは受け止め切れていない証拠だ、僕もう二度と逃げない、逃げずに世界を
壊してやる。
壊してやる。
壊してやる。
壊してやる。
いや、
壊す。
――――――――――――――――――――
「ルソア!追い詰めたぞ!」
そう言った僕の目には目に涙を浮かべたルソアが立っていた。
「!?」
「あぁお前か、話がある」
ビックリする僕を他所に涙を拭うと、まるで僕の心までを透かしているかのような目で僕を見据え、
「賭けをしないか?」
第六話(その1) 世界を変える賭け
- 第六話(その2) ( No.20 )
- 日時: 2023/07/25 12:38
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「賭けをしないか?」
今にもあふれ出そうなほどの涙を拭いて彼はそういった。
一体何を考えているのだろうか、もうこいつにとって僕は敵のはずなのに一体何が目的なんだ。
「……賭けって何だ?」
「俺の代わりにこいつを助けてやってくれ」
彼はそう毅然とした態度で言うが、どこか悔しさ、覚悟が垣間見える。
彼の中では何かが決まっている、僕は瞬時にそれを理解するが、同時にその覚悟がどういうものなのか知りたくなった。
「どういうことだ」
「俺は、殺人、裏切り、テロ、のような非人道的行為を数えられないほど行ってきた、でも俺は気づいてしまったんだ今までやってきたことは俺の家族の弔いにはならないって、俺は今までノブレスへの復讐心だけで生きていた、だからここで俺がお前を殺せばノブレスへの復讐は完遂する、でも俺はもうそんなことはしたくないんだ」
彼はまた泣いていた、大粒の涙が地面を湿らせるほどに。
「毎日苦痛だった、ノブレスの復讐という自分の我儘のためにサリーもマルクドもそしてお前の母と父も、皆殺して生き続けていることが」
その瞬間彼のこめかみを何かが貫き、血が噴き出る。
しかし彼はそれを全く気にせず話し続けた。
「だから、彼を俺と同じような非人道的なことを犯させないようにしてくれ、それをしてくれるのなら俺はこれを海に落とす」
彼の顔を見ると僕はすぐに頷くことができなかった、顔は血で染まり、床もさっきまでの涙が上書きされるほど赤黒くなり、そんな状況の彼を助けるべきではないかと一瞬迷ってしまったのだ。
「……沈黙はそういうことだな、じゃあよろしく、体に気をつけてな」
彼は遺言のようなことを言うと爆弾の方へ向き直る、その瞬間またもやこめかみ辺りを何かが通り過ぎ血がさらに吹き出る。
「……アルハマス」
何かを呟いた彼は、それを最後に消えたのだった。
男の子を置いて。
彼が行ってすぐとてつもない喪失感が僕を襲い、無意識にうずくまってしまった。
「ルソア……」
行ってしまった彼の名だ。
喪失感に浸っている場合ではない、そう気づいたのは腕を鉛の玉が通過してからだった。
右腕に熱い液体が零れ落ちていくようだった、不思議と痛みはなくただただ熱い。
そう考えていると今度は耳を玉がかすめていった。
すぐさま男の子を左手でつかむと僕はその場を後にするのだった。
その場所から約一キロほど離れた崖の上に誰かがいるようだ。
「チッ!三等ごときが裏切りやがって」
男は舌打ちをしながらそう呟く。
右手にはスナイパーライフル、左手にはおそらくライフルの玉を握り締め怒りでわなわなと震える。
「まぁまぁ、落ち着きなさい、たかが三等ですよねぇ?いなくても変わらないですよぉ」
どこからか見覚えのある出っ歯が現れ、その男の肩に手を置く。
男は嫌そうに手を振り払うと、出っ歯にまくしたてる。
「そんなことはどうでもいい、最後に組織の名前を言ったことの方が問題だ、お前の実験としてあいつを入れていたのは理解できるが、その結果があれだろ?もしビットが攻めて来たらどう責任を取るんだ」
出っ歯は少しも悩む様子を見せることもなくこう答えた。
「別にあの兎程度だったら三等で十分ですよ?」
底なしの狂気、それを感じるのはこの男だけではない。
動物、人間、そして植物でさえ、その男の異常性を感じているのだ。
「はッ!やめだやめだ!敵わねぇよボス!」
思わず目を背ける男とそれを笑顔で見続ける出っ歯。
「ところで、新しい実験をしたいんですが―――――――――――――」
男は眉間にしわを寄せつつ話を聞き、無意識にライフルを構えた。
「あの男の子を捕まえて来てくれない?」
「……わかった、生け捕りだよな?」
「もちろん」
――――――――――――――――――――
「はぁっはぁっ……」
私は走っていた。
ビットさんのもとへ、彼のもとへ。
現在、私がいるのはとあるトレイトの村の病院だ。
どうやら彼とビットさんはケガしているらしい。
そして私は彼の病室の前に着くとドアを開けようとした。
その時、
「ありがとうございました、ビットさん」
「……何をする気だ!」
部屋からは話し声が聞こえてきた。
「何って、見てわからないんですか?」
「何で外に行こうとしている!安静にするんだ!」
「嫌です、僕はもうあなたたちに迷惑をかけたくありません、現に僕の前には何回もノブレスの人たちが現れています」
「これは僕の我儘なんかじゃありません次殺されるのはビットさんかもしれない、キヤかもしれない、ほかの人に危害が加わるかもしれない、それなのに僕が弱いままで守られてばっかなのは嫌です、少なくとも山籠もりか何かをして修行をした方が僕にとっても皆にとってもいいはずです」
「意味が分からない、ダメだ!まだ君はケガをしている、体中に穴が開いていて今にも血があふれ出そうな状態なんだぞ!」
言い争っているようだ、そんな中病室に入っていくほどの度胸が私にはなかった。
悔しかった、彼は私やほかの人、強いてはビットさんの事を考え、苦しい思いをしているのに私には支えることができない、それが何よりも一番苦痛だった。
二人の役に立ちたい、そう言って私は二人に無理やりついてきたのに何もできない。
「それで言い訳ねぇだろ、クソが……」
思わず言葉を吐き、私の中を劣等感と悲しみが駆け回りそして、
一つの覚悟へと
昇華するのだった。
第六話(その2) みんなの覚悟
- 第六話(その3) ( No.21 )
- 日時: 2023/08/03 20:49
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
気が付いたら私は病室のドアを開けていた。
「!?」
驚いた顔をする彼と、真っ赤になったビットさんの顔が見え、思わず固まる私。
「アルトモ!久しぶりだね!」
彼はすぐさまそういうが、さっきまでの会話を引きづっているくのかひどく動揺しているように見えた。
私は彼のもとまで何も言わず歩くと、率直に聞いてみることにした。
「修行……するそうですね……?」
突然の問いに目を見開く彼と、あっけにとられているビットさん。
この場は異様なほどの何かが充満し、空気が重くなっていくのを肌で感じた。
「聞いてたんだ……」
「はい……」
「私h――――――――――――――――――――」
「止めないでくれ」
遮るように彼はそう言った。
ボロボロの雑巾のような体を無理やり彼は動かし、窓から身を乗り出す。
その時だった。
「へえー泣かせてくれるじゃないか、まぁ君を捕まえるから意味ないけどね」
突如として窓から現れた金髪で糸目のその男は、張り付けたような笑顔だった。
狂気より狂喜、そんな言葉が似合いそうだ。
男はただでさえ不気味なその顔をさらに不気味にゆがめながらも笑うと男は一言こういった。
「俺も混ぜてy――――――――――――――――――――」
僕は死を確信していた。
男の体から発せられるとてつもないほどの殺気。
そのどれもが僕の体を刺し、体中の穴から血が噴き出す。
「俺も混ぜてy――――――――――――――――――――」
その瞬間、男の首はまるでおもちゃのように吹っ飛ぶ。
サリーの記憶と人影が交差する。
「え?」
それがあの不気味な男の最後の言葉である。
ドサッ
そこからは僕の記憶はない、気が付いたら嫌な空気のする薄暗い森にいた。
すぐさま僕はボロボロの体を起こし、周りを確認する。
かつて、ビットの秘密基地へ行くときに入った森ではない、何となく僕はそう思った、あの時は見たこともない花が咲き不気味な木がそびえたってはいなかったからだろう。
「ここは一体……」
そう思わず声が漏れ出てしまう。
少なくとも病院の近くには森なんてない。
おかしい、どんな移動をしたとしてもこんな場所には来れないのだ。
だが、
進むしかない。
現実を、この腐った世界を、変える為には僕が変わるしかないのだから。
――――――――――――――――――――
「……ハルマクア博士ぇまだできないのかぁね?」
「アハハ……思っていたよりも開発が難しくてね~」
「実験体はたくさんいるんだから早めに開発してほしんだがね?」
ここはとあるノブレスの国、オルボモスの城の地下。
ここでは様々な薬品を開発しており、それに伴い人体実験も行っている場所である。
この地下研究所の目標はトレイトの殲滅。
現在、研究員は一人しかおらず、それがこの天才、ハルマクアである。
「ッ!!!」
博士の声にならない驚きとともに研究所は光に包まれる。
「できたッ!できたぞッ!!ついに!ついに!」
―――――――人を操る薬ができたぞッ!!!!!!!!――――――――
第六話(その3) マリーとネット
- 第七話(その1) ( No.22 )
- 日時: 2023/08/16 15:34
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「ほう……久しぶりじゃな、童がこの森を訪れるのは……」
霧がかかった景色の中で女性の声が乱反射する。
どこかなまめかしく、怪しげな雰囲気のその女性はそばにあった大きな石に腰を掛ける。
そして霧の晴れた場所からその童がいる場所を見ていた。
一体何をしているのだろうか、こいつは誰なのだろうかそんなことを考えながらもひたすらに童を見ていた。
「……ノブレス……」
女性はそうぽつりとつぶやくと木々が激しく揺れ、鳥が鳴き、動物たちが暴れまわる。
「また……か」
悲しそうにそう言うのだった。
誰かが見ている、僕は直感的にそう思った。
最初は気のせいだと思ったが、明らかに視線を感じる。憎悪などの嫌な感情を持ちながらも何もせずただ見るだけ。
それがこの森の薄暗さと異様なほどマッチし、さらに不気味に感じさせた。
「ビットさん?」
視線を感じたほうを何気なく振り返り僕はとある人の名を口にする。
しかしそこには人も動物も木も何もなく、あるのは僕が通ってきた道だけだった。
「?」
しかしここで僕は何か異変を感じる。
「……石畳?」
そう、僕が通ってきた道に石畳が現れ始めたのだ。
そして奥には見えないほど深い霧。
死神の罠……僕にはそう見えた。
薄暗いこの森で霧が発生し、浮き出るかのように石畳も出現した、疑うには十分すぎる罠だ。
どうしようか、僕は
進むのか
進まないのか
――――――――――――――――――――
「ハルマクア!!ついにできたんやな!」
私はそう言って、階段を転げ落ちるかのように降りるとハルマクア博士に向かってダイブする。
「はいぃ!前回作った不老不死の薬をサンプルについに作ることに成功いたしました!」
そう言って博士は私にガラス張りの水槽に入った被検体を見せられる。
それは小さい女の子だった。
忌々しいトレイトのね。
「?あれ?人を操る薬を作ったんじゃないんか?」
「あぁ、私もそう思ったんですが研究員十人に試してみたところ全員死んでしまいまして……」
「はぁ……じゃあ何で我を呼んだんや?」
「この薬に適応する者が見つかったんです、つまり今回の報告はこの醜いトレイトの奇術を我々が命令をすることで使うことができる、戦況を変えられるそういう報告だったんです――」
自信満々に言う、ハルマクアを後目に私はドスの効かせた声で遮るように言い放つ。
「我は、兵隊を作れなどと言ってないが?」
その言葉を聞いた直後、ハルマクアから大量の汗が噴き出るのを見なくても感じた。
「え、えっとその、わ、私はッ――――――――――」
「黙れ」
「ッ⁉」
「我の命令を無視した、即ちそれが何を意味するか……分かるな?」
「でもッ、私はッ、貴方の命令でッ!」
「おい、黙れと言っただろう?違反、二回目」
私がそう言うと即座に騎士がハルマクアの周りを取り囲む。
「貴方は本当に優秀な博士だった、本当に残念だ」
「嫌だ……嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ハルマクアのその言葉を最後に騎士は手当たり次第にハルマクアを殴っていく。
血が出ようとも、嘔吐しようとも命乞いをしても、涙を流してもひたすら殴り続ける。
顔が腫れようが、眼球が飛び出そうが、歯が飛び出そうが、顔の原型がなくなろうが、関節が逆をむこうが、骨が折れようが、悲鳴がなくなろうが、やめない。
私が止めをかけるまで、彼らはひたすら殴り続ける、殴られる側に残るのは、痛みと憎悪と
人の恐ろしさだけだ。
―――――――――――――――――――――
「……ここはどこだ?」
「一体どこでしょうかね……?」
謎の男の首が吹っ飛び、男の子は意識を失い、突然光に包まれたかと思ったら知らない家のベッドで寝ているって色々なことがありすぎて意味が分からない。
幸い、アルトモは僕と一緒だが、あの子の姿はない。
誰かの攻撃を受けてどこかにワープした、僕が出した答えはそれだった、というかそれしか考えられない。
「ビットさん、なんかここ変じゃないですか?」
「ん?何が?」
「もし、私たちに危害を加えようとしているのであればわざわざこうやってベッドに寝かせる必要ないじゃないですか、それがちょっと意味わからないなと思いまして……」
確かに、アルトモの言う通りだが、世の中頭のおかしい奴はごまんといる、万が一でもいや億が一でも可能性があるんだったらこの場合は警戒しておくのが得策だろう。
トントン、と突然僕たちのドアが叩かれ、この場を静寂へと変える。
すぐさま臨戦態勢を取ろう……と……した……b……
「……あちゃ~また寝ちゃったか、常時奇術発動は辛いね~も~……」
第七話(その1) 常時発動
- 第七話(その2) ( No.23 )
- 日時: 2023/08/21 20:18
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
一体何でこんなことになったのだろうか、私は何もしてないのに、何で大切なものを何度も破壊されなきゃいけないんだろうか。
前の世界でも私を壊されて、この世界でもまた壊されて、何も残ってない私をまた壊される。
そんなのはもう嫌だ、我慢したくない、例え童を殺そうとも、絶対に
守りきってやる。
私はその決意を胸に手を強く、強く握りしめたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
歩けど歩けど、坂道ばかり、絵面も何も変わらずただただ体力だけが失われていく。
額には汗がにじみ、首筋をつたい地面へと落ちていく。
ぽたりぽたりと落ちていく。
心臓はバクバクと大きな音を鳴らし、呼吸も荒くなり本当に倒れてしまいそうになる。
が、僕は何とか意識を保つ。
「はっはっはっ……」
あぁこれはやばい、本当にやばい。
意識が、もう……
それでも僕は足を一歩踏み出した
つもりだった。
急に足を後ろに引っ張られそのまま前のめりに倒れたのだ。
そして僕はそのまま意識を失った。
「……やっぱりわらわには出来んな……」
白目をむき、泡を吹いて意識を失っている小さな童をわらわは気が付いたら抱き上げていた。
元の世界でもわらわは人を殺したことがなかった。
同じ仕事仲間には人を殺したことがある者もたくさんおった、がわらわはそれでも殺せなかった。
わらわの命が天秤にかかった時にも。
わらわの大切なものが壊されてる時も。
何もできなかった。
今回もそうだ。
また逃げるしかないんだ。
わらわはひとまず童を本体の前まで持って行き目の前に置くと共有していた意識を元の体へと戻す。
「……ふう……どうしたものかな」
一体これをどうしろと言うのだ。
そもそも何故この童をわらわは持ってきた、自分でもよくわかってない。
わらわはまたゆっくりと息をはきながら頭を抱えた。
何をするのが正解なのじゃろうか、元の場所に戻す?それとも……
ここで育てる……?
一瞬そんな言葉が頭の中をよぎる、がそんなのは考える間もなく〈いいえ〉じゃ。
もう傷つきたくないんじゃ。
わらわは両手で思い切り頬を叩いて喝を入れると童のほうへと向き直る。
その瞬間目を開ける童、本来わらわは見えるはずもない。
魂の寄せ集めみたいなものだからの、
それなのに、
それなのに、わらわは童と目が合ったのじゃ。
「……女の、人……」
力なく言うその童にはどこか悲しさがあった、とても辛い思いをしてそれを乗り越えかけている途中、そんな風に感じた。
不思議とその童を見ていると先ほどまであった育てるという考えが現実味を帯びていく。
鎖がつながれていく、わらわの首から童の首へと。
紡がれていく、わらわから女子のように華奢な体をしたその子へと。
伝わっていく、その子の気持ちが、わらわの思いが。
――――――――――――――――――――
「ん~っ!」
僕はそう言って体を良く伸ばす。
「あ!起きましたか!」
起きた直後の頭の中を聞いたことのない声が巡る。
まだ視界がはっきりとせず声の主が誰かは分からないが、声からしておそらく女性だろう。
「誰だ!」
とっさに拳を僕は構えるが、その誰かの手をたたく音で力が抜けていく。
「私は敵ではないです、落ち着いてください」
良く伸ばしたはずの体が重みを帯び始め、そしてベッドへと沈んでいく。
「い、一体何をした……」
力が抜けていくとともに強烈な眠気がまた僕を襲うがそれを何とか抑え、その女性に尋ねる。
「ごめんなさい、私の奇術の所為なんです」
「奇術?じゃあ使うのをやめてくれ」
「それが……できないんです、常時発動型でして……」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れ出てしまう。
そりゃそうだろう、常時発動型の奇術なんて聞いたことがない。
というか前例が多分ない。
「?大丈夫ですか?」
その女性は不安そうに聞いた来る、おそらく僕がポカーンとしていたからだろうが。
「……えーと大丈夫です……」
僕にはこれしか言えない。
「一応解除できるか試してみますね……エイッ!」
女性はそう言うと今度はもっと大きく手を鳴らした。
その瞬間霧が晴れたかのように目がさえてくる。
それと共に僕の目の前には
ノブレスの顔をした女性の姿が映るのだった。
第七話(その2) 鬼と音
- 第七話(その3) ( No.24 )
- 日時: 2023/09/20 20:43
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「閃光弾を使うなんてやりすぎだったかなぁ……」
俺がいるここは森の中にひっそりとたたずむ洋館である。
いつ、だれが、何のために作ったかは定かではないが、とにかくここは洋館のはずである。
俺はそう思いながら自分が目の当たりにした意味の分からない空間を相変わらずにらみつけた。
少し濁ってて、ぶよぶよしてはいるが普通の空気のような……
「あー!もう来たのー?!」
小さい子供のような声が突然後ろから聞こえ、振り向きざまに俺は手にしていた銃を発砲する
が、
すんでのところで躱され、逆に俺の頭がそのまま跳ねられる。
「もーダメだよ♪僕の気配ごとき察しないと!」
「と言われましても……」
血だらけになった小刀のようなものをくるくると回しつつ、男の子は俺の首を手にするとこちらへパスをした。
すかさずキャッチをする俺、そしてそのまま首に取り付ける。
「ありがとうございます」
「いえいえ♪じゃあ入口まで案内するからついてきて!」
男の子……いや、彼の名は、
イサ・ノルベール
かつてあったオシャッシ―連続殺人事件の犯人であり、わずか9歳で人を手にかけ、彼に関わった者すべてを殺してきた、そんな人物なのだが
現在なぜかこのアルハマスに所属している。
そして何より、一番彼の恐ろしい所は、
奇術、人殺し、である。
その名の通り、人を殺すことで発動される。
そしてその発動した際の内容は……
「着いたよ♪」
っとそんなことを考えている間に洋館の入り口に着いたようだ。
彼は持っている小刀をその入り口と呼ばれるところに刺すと、その瞬間ぶよぶよとしていたものが破裂する。
音は出ないが相変わらずこの爆発にはなれないな。
「はーい♪入ってい入って♪」
彼はそのままドアノブをひねり、中へと案内をする。
「こっからまっすぐ行って二番目のドアに入ってね♪」
彼はそう笑顔で、狂気じみた笑顔で、
「……せいぜい死なないようにね♪」
「ふぅ……あー疲れたぁ……」
俺はもげた腕を接合しながらそう呟く。
あそこで彼と別れてからは大変だった。
いきなり火の玉はでるわ、ナイフはとんでくるわ……もはや地獄絵図だったよ。
「フフッあなたって本当に死なないのね」
「まぁ、はい……痛覚はあるんで痛いんですが」
「でも、もう慣れたでしょ?」
「まぁ、そう、ですか、ね~……」
俺の前には今は女がいる、白いシスターの服を着て、十字架を握り締めた女がね。
彼女の名はリルト・ノルベール、さっきの子の妹である。
「それにしても、みーんな遅いね、君が来てくれなきゃこの部屋八つ裂きにするところだったよ」
ニコニコとした顔で僕を見つめながらそう彼女は言う。
「まぁ、暇つぶしにもならないけどね」
――――――――――――――――――――
「ノ、ノブレス⁉⁉」
僕はとっさにそう叫んでしまった。
やばい、このまま僕は殺されるかもしれない。どうにかしてここからキヤと逃げる方法を……
そんなことを必死に考え始めた僕に彼女は慌てながらも返してくる。
「ち、違いますよ!!」
その瞬間、部屋にあった花瓶が大きな音を立てて割れ、この場を静かにさせると彼女は落ち着きを取り戻したかのように静かにこう答えた。
「私……私は、今のように奇術が使えるのでトレイトのはずです……」
「って言われてもな……」
あの子のような人はそうそういないはずなんだけどな。
そもそもサリーさんだけで戦争の引き金になりかけたっていうのにこりねぇなホント。
とりあえず僕は彼女の話を信じてみることにするのだった。
「はぁ……」
「?どうしました?」
「いや、これからどうしようかと思ってな」
第七話(その3) 人殺しになるところだったな
- 第八話(その1) ( No.25 )
- 日時: 2024/02/21 17:56
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「……あれ……ここ……どこ……だ?」
先ほどまでとは打って変わって、電球のような形のものが部屋を明るくさせている天井が真っ先に入ってくる。
パッと辺りを見回してみても窓はない。
そして何故か僕は、そんな木造の部屋のような床で横たわっていた。
一体ここはどこなのだろうか、そんなことを考えながら体を起こし、ひとまず今までの事を整理する。
「そうだ、僕……気を失って……」
気を失った、確かにそれは覚えている、なのになぜ僕はこんな小屋にいるんだ?
ひとしきりそのことについて考えてみたが、一向に答えは出なかった。
そんなとき、部屋のドアを誰かが叩いた。
瞬間的にバリアを準備をする僕を他所に、おぼんの上のコップに水をなみなみと入れた女性が入ってくる。
その女性には血で染められたような赤黒い角が生え、トレイトのような長い耳、黒い薔薇の模様が描かれた着物に、首や両手両足に鎖を付けたきわどい和風のコスプレをしたような姿をしていた。
「もう、起きていたのか」
少し低く、何故か安心してしまうような……そんな声で彼女は僕に話しかけてくる。
この人は一体誰なのか、敵なのか、味方なのかそれは次の一言で決まった。
「えーと……もう大丈夫なのかい?」
張りつめていた空気がプツンと切れた。
そして僕はいつの間にか上げていた腰をへなへなと落とすのだった。
少なくとも敵意はない、それは彼女の言葉、彼女の表情を見れば一目瞭然だ。
「おお!?どうしたのじゃ!?どうしたのじゃ!?何かわらわがしてしまったのか!?」
「あぁ……いえ……」
気が付いたら僕は彼女に気を許していた、何故だろうか。
……理由は良くわからない。
だが、一つ言えることがある。
「あの……」
「何じゃ?」
――あなたは誰ですか?――
なみなみと注がれた、水がおぼんの上でこぼれる。
しかし、彼女は動揺したわけではない。この瞬間に何かが起きたのだ。
その何かはこの場所に揺れを引き起こし、この建物を大きく揺らした。
彼女は慌てておぼんを床に置き、ドアの外の闇へと消えていく、おそらく雑巾か何かを取りに行ったのだろう。
彼女が行ってしまってから、僕はずっと考えていた。
今のは一体何なんだろう、地震……とは少し違うような、まるで人為的に起こされたかのような違和感があった気がする。
とりあえず、僕は倒れたコップを置き直し、彼女を待った。がいくら待てど彼女は帰ってこなかった。仕方なし僕は扉の外へと向かうがその時は僕は気づいてしまった。
この扉の外、何かおかしい。普通、電気をつけていなくとも部屋からの明かりで廊下が見えそうなものだが、廊下が全く見えないのだ。
それどころか、虚空の中にポツンとドアが置いてあるようだった。
彼女は一体どこへ……?
そう思い一歩、足を踏み出したその時、後ろから小さな音が聞こえた。
パタンッと。
―――――――――――――――――――――――――
「おーきーろー!!」
真っ暗闇の世界の中で聞きなじみのある声が反響する。
「おーきーろぉぉぉぉぉ!!!」
耳元で大声を上げられ思わず飛び上がるように私は起きた。
耳がジンジンする……
「よう寝坊助!」
そう、ビットさんは私を呼んだ。
「お、おはようございます……ビットさん」
ニッコリとはにかんで笑う彼、そして
謎の女。
瞬間的にそれを認識した私は瞬時にベッドから飛び降り、拳を女へと振るった。
がしかし、寸でのところでビットさんに止められる。
ぶわっと部屋全体に風が送られたかと思うと、ビットさんは優しく私に話しかけた。
「この女の人は敵じゃないよ、家の前で倒れていた僕たちを助けてくれたらしい」
とたんに汗を垂らしながらぺこぺこするその女性は確かに悪人には見えなかった。
「……なんで喋らないんですか?」
「……!……!!……!」
「……なんかこの人奇術を常に使用しちゃってるらしいんだよね……で、さっき眠らされかけたから無言でなんとかやってもらってるんだ」
ぶんぶんと首を縦に振る女と何とも言えない顔をするビットさん。
そんな二人に私がかけた言葉は
「……はい?」
だった。
「……って訳なんだよ、分かった?」
「……まぁ、その……なんとか理解はしましたけど……」
チラッとその女性を見る。
ツヤツヤとした長い髪、ノブレスのような長いまつ毛、クリクリとした大きな目、整った顔立ち、そして圧倒的胸。
むしろそれが一番目立ってる、大きさはどのくらいあるんだろう……
服は全体的に紫色?強いていうなればマルタヤの花のような色の服を着ていて、とても自分の奇術のせいで喋れなくなっている人には見えない。
「……!」
私に見られているのに気付いたのかまたペコリとお辞儀をする。
思わずしかめっ面になる私と苦笑いするビットさん。
ノブレスとトレイトのハーフなんてまずあの人以外いないのに……
私はそのままその女の人の元へと歩いてゆく、そして
「助けてくれてありがとうございます」
そう、お辞儀をした。
―――――――――――――――――――
「……さて、皆集まったかな?」
長い机を見回して男は言った。
「では、今から特別会議を始める」
第八話(その1) 虚空と存在感のある胸
- 第八話(その2) ( No.26 )
- 日時: 2024/03/06 20:31
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
一歩を踏み出し、完全にドアの外に出たその瞬間
パタンッと音が鳴る。
どうやらドアが閉まってしまったようだった。
一面に広がるは、暗黒。
光も、重力さえもないのか、ふわふわと漂う感じがする。
そう、まるで……自分が液体になったかのような。
そんな不思議な感じだ。
「……一体……ここは……?」
ぽつりとつぶやいてみるが、応答はない。
ひたすらに誰かを呼んでみる、それでも返事は帰ってこない。
しばらくして、僕はあることに気づく。
足元にとても小さな穴が出来ているのだ。
しかももその穴はどこかに繋がっているかのように光を僕にもたらした。
僕はそれをまじまじと見つめ、その穴に指を入れ穴を無理やり大きくさせると穴の向こう側を覗く。
見えたのは二つの木だった。
一つは樹齢が何千もありそうな大きな樹、もう一つはまだまだ伸びそうな少し小さめの木。
「……めろ……」
どこか遠くから声が聞こえる。
それとともに足音も。
足を軽く引きずるような、それでいてそれがたくさんあるような。
僕はより穴に力を込める。
じわじわと広がっていき、周りの情報が分かってくる。
どうやらここは森のようだ。
「……壊す……鎮めろ……」
近くからそう聞こえる。
僕は頭からその穴に潜り込み、暗闇から抜け出す。
そして近くの木の陰から、そろりと声の方を見る。
「ッ!?」
そこにいたのは落ち武者のような姿をした大柄の男性たちだった。
そして、その落ち武者たちは皆、
こちらを凝視していた。
――――――――――――
「今回、とある報告があって皆を呼んだ……そうだな?」
机の上のランプで照らされた部屋の隅で声がする。
「……そうだね」
その声と共に、ぬらりと出っ歯の男が姿を現す。
「何があったの♪」
ランプの光を中心として周りに様々な人が集まり始めた。
ある人は殺人鬼、ある人は殺人鬼の妹、またある人は鎧を着て、またまたある人はオレンジのジャージを着て、椅子に座る。
「……皆も知っている通り、移動役として便利だったあのルソア零特等が死んだ、しかも僕らの組織の名前を言って」
その瞬間場が凍り付き、部屋の空気が重たくなる。
しかし
「ふざけるな!!」
それをかき消すかのように机をたたきながら鎧をまとった何かが立ち上がる。
「……ふざけてないけど?」
「いーやお前の言いたいことはもう部下から聞いてる、お前何を考えてるんだ」
「やめなよ♪」
「お前もか、イサ!」
「いやいや♪もしかしたら違うかもしれないでしょ♪」
「チッ」
舌打ちをしながら鎧をまとった何かは不満そうに座りこむ。
不思議と鎧の音は聞こえない。
「もし俺の考え通りだったら……覚えていろよ、イサ」
「あはは♪いいよ♪その時は殺してあげるから♪」
「……もういいかな?」
「「「「どうぞ」」」」
「……計画はそのままで行く」
「へぇ~……それまた何で?」
今度は白いシスターのような女が出っ歯に問いかける。
「それは……ソルタの部下がさっき言っていた事が関係してる」
ソルタと呼ばれた何鎧の何かはない足を机に乗せるかのような体勢でふんぞり返る。
「やっぱりそうじゃねぇか……」
「……とはいっても、それはあくまで後押しするほどの何かではないんだけどね」
「まぁでも一応関係することだからソルタ、話してくれ」
「……クソが」
先ほどまでふんぞり返っていたソルタは体勢を直し、不満げな声で話し始めた。
部下から聞いた話を。
「とまぁ、僕の父が彼の部下に勝手に言っちゃったんだよね」
「で?何で計画はそのままなんだ?オルさんよぉ」
不満げだったソルタは首を傾げ、相手を威圧するように出っ歯……いや、オルに話しかける。
「……彼がおそらく、いや確実にこの世界を壊すからだ」
「んなわけねぇだろ、聞いたところによるとボスはソイツを三等で捕まえるって言ってるんだぜ?そんなヤツが世界を壊す?聞いてあきれる、しかもボスの命令を完全に無視するようなもんだろこの作戦はよぉ」
「まぁ、これだけ言われたらそうなるか」
「あ?」
オルはズボンのポケットからぐしゃぐしゃに紙を取り出しそれを机の上に置く。
そして音を立てながらもそのしわを伸ばし広げた。
「これを見て」
「なんだこれ」
「僕の奇術で出た彼の行うことの占い結果」
「へぇ~♪」
その紙にはたった一文字だけ書かれていた。
滅
と。
――――――――――――――――――――
「ふぅ……」
僕は黒い覆面マスクをした男の頭を踏んずけながら、一呼吸を置き、青空を眺める。
さっきまでここは普通の家だった。
が、コイツのせいで家が……
「だ、大丈夫ですか?ビットさん」
アルトモと……
「ちょっと待って」
そう言うと僕は男の握っていた赤いクリスタルを拳ごと踏み砕く。
男の呻くような悲鳴と、骨が砕け血と肉がさらけ出される。
それにクリスタルが混ざることで一種の芸術のようだ。
そんな事を考えながらも僕はすぐさま口を開いた。
「もう喋っていいよ!えーと……」
「ッ……!カ、カンナです!!」
駆け寄っていたアルトモとカンナは嬉しそうにお互いの顔を見合わせた。
「喋れます!!喋れるようになりました!!」
ぴょんぴょんと跳ねるその姿はまるで兎のようだ。
「で」
「君は一体なんなんだ?シルディアの追手か?それとも」
「アルハマス」
ビクッと男の体が跳ねる。
「あたりかい?」
そう言って飛び切りの笑顔を見せてやる。
男はまたもやヒッと小さい声を漏らし、ガタガタ震え始める。
「ち、違う……俺は……雇われて……シハル国に……」
男はたどたどしく、答えた。
その瞬間、男の顔面がゆがんだ。
目を見開きながら、泡を吹き、眉間にしわを寄せ、歯ぎしりをしながら。
呼吸が荒くなっていく。
そして
「?どうした?」
「あー、あー、あぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「おい!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アルトモとカンナは思わず耳をふさぐ、しかしそれすらも貫通するほどの大声。
一体何が起きているんだ。
僕も耳をふさぎ、何とか頬を叩いて正気に戻そうとする。
がもう遅かった。
男の大きく開いた口が一瞬光ると―――――――――――――――――――――
第八話(その2) 死亡を志望
- 第八話(その3) ( No.27 )
- 日時: 2024/03/31 18:55
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「その程度か」
透き通るかのような女の声が耳に刺さる。
「ふぅ、ふぅ、はぁ……」
女は鎧をガシャガシャと鳴らしながら、こちらへ歩み始める。
「オシャッシ―の王が最強と言うからわざわざ遠征してまで来たのに……期待外れだ」
動悸が激しくなっていく。
おそらくあの女が俺の前に来た時、完全に俺は死ぬだろう。
一体何が起きているんだ、この世界は。
「じゃあね……どうした?」
俺はとっさに腹を抑えていた両手を挙げた。
「……死ぬ前にお前の名前を教えてくれ」
しばし沈黙が流れる。
その間も俺のないはずの腹からドクドクと溢れていく。
「……いいだろう、私の名前は」
「シルディア国、イルエス王の娘、マルク・イルエスだ」
「ふぅ、はぁ……そうか、ありがとよ、一緒に死んでくれて」
直後、オシャッシ―という国は地図からも歴史からも消え去ることとなる。
数時間前
オシャッシ―にキノコ雲が上がった。
まばゆい光に包まれ、そのすぐ後にはもう塵一つ残っていない。
黒い雲に光が遮られ、もはや街の跡地のような風にも見える。
突如城があったはずの場所から音がし、一メートル弱ほどの大きさの扉が現れる。
「う、嘘だろ、ワシの街が……」
その扉から出てきた、立派な髭を付けた男は思わずそう漏らす。
「これは……ひどいですね……」
男の後ろから大きな男が顔をのぞかせる。
「ルピフォ様の奇術がなければ皆死んでましたよ……」
「でも、街が……」
そう言いかけた時、空が白く染まる。
「伏せろ!!」
即座に臨戦態勢になると後ろのドアを足蹴りで閉じる。
何が起きてる?
大きな音と共にヘリコプターのようなものが降りてくる。
土煙でそのヘリコプターが見えなくなる。
すると、何者かの影がこちらへと歩み寄ってきた。
途端に奇術で先を見る。
しかし、その光景は真っ暗だった。
「は?」
言葉を発したその時、影は揺らぎ、俺は倒れていた。
脇腹が無性に痛い。
触ってみると右脇腹が丸々無くなっている。
「んー?この武器はいまいちかな~」
後ろの方で女の声が聞こえる。
どうやらこいつにやられたようだ。
「じゃあ、次は~」
何か武器を持った女が近づいてくる。
それとともに呼吸が浅く、視界が狭まっていく。
それでも何とか立ち上がった。
そして相手を見据える。
「おぉー!すごいね!そんな怪我してるのに立てるんだ!」
そこに立っていたのは金色の鎧を着たブロンズ色の髪をした美しい女性だった。
ノブレスの……だが。
女は片手で大剣を背中からヒョイと抜くとそれを構えた。
「コヒュー……ヒュー……」
女はそのままこちらへ突進すると、俺の顔面に切りかかった。
「っぐ……!」
間一髪で後ろに避けるも、右目をやられる。
「……奇術level 2 視来手」
そう言うとそのまま俺は大剣に触れる。
すると大剣はすぐさまサビていく。
女はその大剣を捨てると腰に付けてあった拳銃を構え発砲。
俺は左目を失った。
即座に俺は印を結び詠唱の省略をすると
奇術level 3 予戯言
「お前は――でしぬ……」
「君、つまらないんだよね」
俺が言い切った後女は俺の腹を剣で横一文字に断ち切った。
経験したこともないような痛みが上半身を巡り、それに比例するかの如く血が体から抜けていく。
―――――――――――――――
落ち武者と目が合った僕は急いで木陰へ隠れた。
「そこに居るのは誰じゃけぇ!!」
男の太い声が木を揺らす。
どうやら僕の方はあまり見えていなかったらしい。
甲冑の音が近づいてくる。
そして落ち武者たちが木陰を覗いた瞬間、
「level 2 球バリア!!」
球バリアは体の心臓を中心とし、生物を弾きながら急速に広がっていくその特性を利用し、落ち武者たちをバリアで弾き飛ばすつもりなのだ。
しかし結果的にそれは失敗に終わる。
第八話(その3) 思い出は消えない。
- 第九話 破壊と想像その1 ( No.28 )
- 日時: 2024/04/30 07:40
- 名前: 味海 (ID: kdYqdI6v)
「ねぇ、なんで生きてるの?死ねよ」
うるさい。
「あなたはこの世界に必要ない人間なのよ?」
黙れよ。
「キモーい、さっさと消えれば?」
消えるのはてめぇだよ。
その日は特に日が登っていた。
テレビでは異常気象として大大的に取り上げられ、その日は熱中症の患者が何人も運ばれたそうだ。
そして、そんな異常気象の日は殺人が起きる。
いつもの日より、何倍も多く。
ハル、僕もそちらへ、
すぐに行くよ。
――――――――――――――
「は?」
落ち武者たちに襲われ、僕は気を失った。
そのはずだった。
しかしいま起きていることは紛れもない事実である。
僕の目の前には赤い池が広がっていた。
そしてあたりに散らばるのは腕や足などの肉塊。
その様子はさながら地獄そのものである。
「……まぁいいか」
僕は疲れ切っていた。
サリーの死からまだ二ヶ月も経っていない。
ルソアの死からもまだ一ヶ月も経っていない。
そして、ノブレスの拷問。
それが未だに僕の体を蝕む。
バシャバシャと赤い池の液体を飛ばしながらなんとなく前を進む。
変わらず周りには肉塊と真っ暗な森が広がる。
それでも僕は前に進んだ、ただ、何も考えず。
突如、視界が開ける。
どうやら崖に来たようだ。
「……」
遠くの方にはボウッと光るような灯りが見える。
その雰囲気、大きさから察するに小さめの村といったところか。
「村、か」
閉鎖的な空間、村や学校ではとあることがよく起こる。
いじめである。
表面はなんともなくても、裏側はドス暗いそんなことは日常茶飯事だ。
でもそんな日常を
破壊してみたい。
「あぁ違うか」
破壊する。
そう思うことはなにもおかしいことではない。
※
「うぅ……」
盗人のうめき声とほとんど同時に近くで爆発音が聞こえた。
一体なにがあったのじゃろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい、妾の宝玉のほうが大事じゃ。
「一つ問うても良いか、なぜ宝玉を盗む?」
「そん、なの、きまって、るだろ」
「高値で売れる、からだよ」
盗人は深くまで被った黒いマスクからもわかるほどの大きく歪んだ笑顔を妾に見せる。
正直な話こやつはもう駄目じゃと悟った。
「……それが、その宝玉が人の命だと知ってもなのか?」
「俺の、家族のためだ、そのために、必要な犠牲だよ」
その言葉を聞いた瞬間締めていた首をより一層強く締める。
「カハァッ……」
「ふぅ」
息を少し吐いた。
男の顔を影で覆う。
「さようなら」
ぐしゃっという音が森に鳴る。
妾の心はただただ虚しい、それだけじゃった。
※
背中を夕日が刺している。
「大丈夫かーい」
そんな中見渡す限りの地平線に向かって無謀にも声を投げかけてみる。
声は返ってもこず、反響もしない。
普通であればもう死んでいると考えるのが普通だろう、だが僕の『奇術』を使った、生きているはずなのだ少なくとも。
「アルトモー!!カンナー!!」
その瞬間僕の頭に雷が落ちた。
いや、正確に言うとそういう表現なのだが、本当に雷が落ちたような感覚に近い。
僕の真後ろから人ならざる影を感じたのだ。
とっさにしゃがみ足払いを食らわせる。
しかしその脚には何にも当たらなかった。
「気づいちまったか」
崩れた態勢を何とか立て直しながらも後ろへ飛び跳ねる。
そこに立っていたのは、下半身がなくなった茶色の鎧だった。
どういうわけか浮いている。
「まぁ、とりあえず落ち着いて聞いてくれよ鬼神、ビット、俺達一応知り合いだしよ」
「……僕の知り合いには下半身のない鎧なんていないけどな」
「まぁそうなるのが普通か、じゃあこう言えばわかるか?」
彼は一度咳払いをすると聞いたことのある声が耳を打つ。
「あなたを足止めするために来ました白島、と申します」
続く
- 第九話 破壊と想像 その2 ( No.29 )
- 日時: 2024/07/15 00:03
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
一面に広がる真っ白な世界、一体なにが起きている?僕は確か、僕は村を見つけて、幸せな家族を想像して、破壊、した……?ってことは、これは、自我を失い自分でもなにも出来ない状態ってことか……?
突如人の叫び声が聞こえる、声の方を振り返ってみるとそこにはスクリーンのような物が映し出されている。真っ白な世界なのにスクリーンがある、なんとも変な気分だ。
「は?」
そこに写っていたのは、半狂乱となった僕と戦うあの鬼のような人だった。山をも変形するほどの攻撃を影のみで防ぐ彼女の腕からは血がでているようだ。
これは僕なのか、ビットさんもキヤもいない、あの人達に、皆に、迷惑をかけないように修行をしたかったのに、それがこのザマかよ。少しでも邪悪な心に飲まれた、そして人を殺した。殺人犯だ。もう良い、これを止めることができない、僕はただここで指をくわえて見ていることしか出来ない、気絶するまで、彼女に耐えてもらうしか無い。
※
「ハァ、ハァ、ハァ……」
一体なにが起きているんじゃ、妾はさきのこともあり、あまり体力を使いたくないのじゃが、なぜあの子が、こんなことを。
バシュッと鈍い音がしたとともに、全方向からの攻撃が襲い、彼の拳も飛んでくる。この手数の攻撃だと、影を使う暇もない。そう一瞬思ったその瞬間、妾の右頬を透明ななにかが掠る。思考すらさせてもらえないのはこまったものじゃな。
「おい!童!なにがあったんじゃ!答えてくれ!落ち着いてくれ!」
「ガァ毛ァァ毛ァァァァァァァ毛毛ァ!!コ毛ス」
終わったとほぼ同時に攻撃をしながら彼は印を結び始める。非常にまずい、印を結ばれてしまうと一撃の攻撃がほぼ即死になるやもしれん。印を結んでいる今、決める。行方はわからんが、一か八かにかけるしか無い。
「level 4 影弔」
「level 開放 想像」
まずい、詠唱が同時に終わった。妾の攻撃は一瞬影を大きくするという溜めと動けないというデメリットが有る。これじゃあ実質自分で首をしめただけじゃあないか。
妾の周りは影で周りが埋め尽くされ、それと反対に童の方はとてつもない程の透明なブロックに囲まれ埋め尽くされていく。その速さはもはや日が昇るかのごとし。
「シ毛ェェェェ毛ェ!!」
「ウボォォ……」
ブロックを押し止めるかのように大きな手が出現する。少し遅かったか……さて、問題はここからじゃ。これはとても体力を消費する、あまり長くはだしていられん。しかし、このブロックを破壊することはできない。あまりにも勢いが激しすぎる。滝がぶつかってきているようじゃ。重、たい。
「グッ、なんのそのぉ!!」
こういうときは気合で押し切るしか無い、妾の世界で雄が言っておった。瞬間的に力を爆発させ、バリアの根本を押し付けると同時に、ソレを包み込み。影の中へと引きずり込んだのを最後に、ちゃぽんという音がして、バリアのかたまりは消滅した。
「ふぅ、ふぅ、疲れた……」
動悸、息切れ、胸の痛み、吐き気、めまい、ここまで来るとまるで市(いち)の様じゃ。しかし、いまだ油断はできん、この深淵の先は妾にも想像がつかぬ。
いまだ戦闘の感触が残るこの場を取り囲むようにしてなにかがいることは彼女は気づいていなかった。それが敵意のないものだから気づかないのか、はたまた敵意を隠しているのか、もしくは......
「今のは凄かったねぇ〜♪」
ダメだコイツは。出会った瞬間そう感じた。ナタのような形状をした大きな大きな刃を持ったナイフを持ちコイツは現れた。しかし問題はそれじゃない。問題は......
「お主、どうやって影に触れずここまで来た」
「そんなの簡単だよ♪こうさ♪」
突如コイツは妾の前から消え、気がつくと妾の真後ろにいた。そして一言つぶやいたとほとんど同時に妾の視界は真っ暗になった。
「なーんだつまらないの」
- ありがとうございます ( No.30 )
- 日時: 2024/09/21 00:19
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
なんか気がついたら金賞なってました。
ありがとうございます。
私は元気なので、心配はなさらずに。