ダーク・ファンタジー小説
- 第三話(その1) ( No.13 )
- 日時: 2023/05/12 17:25
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
その後はこれまた大変だった。
何せ、もはや地平線にまで広がるであろうかという死体の山を踏みつけながらも逃げなくてはいけないのだから。
そしてなんとか、オシャッシーから脱出することは出来たが、ここからは一国とルピフォ軍から逃げるのだ、どこへ行っても逃げ場などないだろう。
一体どうなることやら……
そんなことを考えながら僕はひたすら夕日に沈む道を進んでいくビットの後ろをついていく。
一方ビットは何ともないような顔で傷だらけの体を動かし、僕を先導する。
やっぱりこの人は化け物なんだと僕に改めて感じさせる。
僕も今までうまくやってきたよ、異世界へ転移させられてからずっと死体を目にしてるし、この世界の常識を学んでいるし……人も多分殺しているし。
だから――――――――――
「おっと!」
ふとビットのほうを見るとビットの前に何者かが倒れているのを発見した。
慌てて駆け寄ろうとして、思い切り転び、うめき声をあげるビットを後ろに僕はその何かに声をかける。
その何かは、エルフ族の少女であった。
……体中傷だらけの、だが。
かろうじて息をしているようだが、ひどい熱もあり今すぐにも看病をしてあげたほうがいい状態であることは素人目に見ても確かである。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
呼吸が浅くなっていき、今にも気を失いそうな少女を僕は抱き上げるとビットのほうへ振り返り、言う。
「ビットさん、ここら辺に宿屋ってありませんか?」
「……ここら辺には一つもないね、あるのは……」
ビットは少し間を置くと、にやりと笑い言った。
「僕の仮拠点だね」
「ではすぐそこへ行きましょう!!」
仮拠点は道のそばにあった林を抜けてすぐの開けた場所にあった。
まるで、小さい木のような形をした仮拠点は久しく使われていないのか、ドアの前にはツタが絡まり一筋縄ではいかないような雰囲気を醸し出している。
しかしそのつたを手刀で一瞬にしてビットは断ち切ると、ドアを開け一言。
「螺旋階段を登ってすぐに見えた戸を開いて、目の前にある棚の三段目を開けてね、僕は……後から行く」
少し、眉間にしわが寄ったような気がしたが僕はビットの言葉を信じて目の前にある階段を駆け上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少女の体からは布越しでも熱が伝わり、呼吸が浅くまるでおぼれているかのような呼吸をし始める。
あと少し、あと少しだけ持ってくれ。
そして一番最初のバラの棘のようなものが絡みついた戸へとたどり着くとそのまま蹴破って中へ入る。
階段で付けた速度をそのままに戸へと飛び蹴りをしたため、通常の力では壊れない戸でも簡単に壊すことができたのだ。
そして目の前にある古びた棚へと一足でたどり着くと三番目の引き出しを思い切り開ける。
そこには一本の枯れた葉が置いてあった。
「は?」
思わず声が出てしまう。
何か救急箱か何かがあるのかと思ったら、たった一本のしかも枯れ葉なのだから。
とりあえず、僕はその草を手に取りあたふたする。
すると、枯れ葉から眩しいほどの光が溢れ始めた。
一体何が起きるのか分からず、暗闇の中またもやあたふたする僕。
しかしその光はすぐに消えてなくなっていった。
なんとその草が僕の手から消え、少女の熱が下がっていくのだ。
「おう!使えたか!」
声のしたほうを振り向くとビットがボロボロの体を壁で支えながら、したり顔で僕を見る。
「それは、『世界樹』と呼ばれる木の葉っぱだ、どんな万病にも効く最高の薬さ」
「まぁ、その分希少すぎてめったに手に入らないんだけどね」
舌をちょろっと出して、ウインクするビット。
それに対し、何の感情もわかない僕は
「とりあえずこの子はどうしましょうか」
と言う。
僕はこの時、少女の事で一杯だった、そんなことに気を取られている場合ではないとすぐさま判断したのだ。
しかしビットにはそれが伝わらないのかしょぼんとした顔で指をさす。
「……あそこに毛布があるからそれを使って」
ビットはそういうと部屋の明かりを静かに付けた。
ううん。
「―――だ―じ――かな」
「――も―――んさ―」
一体誰だろうか。
私は、確か今日のご飯を買いに家を出たらオシャッシ―の兵隊さんに飲まれて……
そこからの記憶は曖昧で、気が付いたら道に倒れていた。
そしてまたそこで意識が途切れて……
ここはどこなのだろうか。
そう思い静かに私は目を開ける。
「あ!起きましたよ!」
私より少し身長が小さい男の子がピョンピョンと跳ねて喜ぶ。
「そうだねぇ」
そう言いながら兎顔の英雄が顎を擦る。
「あの、ここは?そしてあなたは?」
とにかく今は情報収集だ。
もしかしたら、殺されるのかも……
まぁ、リトロさんがいるからそれはないと思うのだけれど、一応ね。
「僕の名前はビットそしてこっちが―――――」
その時だった。
突如として、何かの爆発音が聞こえたのだ。
その瞬間、私は即座に理解した。
この人たちに助けられたのだと。
オシャッシー……通称、奴隷の奴隷の国、ではなく、
最強の奴隷の国。
そんな国を潰せれば、この戦争はトレイトの負けだ、なんて噂が私の耳にも入っている。
一体そんな噂が何故流れたのかは分からないが、そんなの街の皆が昔から思っていたことだ。
いつこの場所がばれるのか、いつ殺されるのか。
そんな状態が常に続いていたのだ。
つまり、今日がオシャッシーの、
トレイトの
敗北の日だったのだ。
そんな絶望に飲まれている中、またもやリトロさんが変わらない声色で話しかけてくる。
「すごい揺れだったね、まぁここは多分大丈夫だからそんな話は置いといて、君の名前は?」
あぁ、この人たちも死んでしまうのかな。
私も。
家族も。
オシャッシーの皆も。
そんなことを考えていると、リトロさんは察したのか今度は、心配そうに聞いてくる。
「あの、名前は……?」
せめてこの人たちの役に立ちたい。
……そうか、私がこの人たちを生かすんだ。
命の恩人を助けるんだ。
そう思った私は二人の顔を見ると、決意を籠めて答えた。
「私の名前はアルトモ・キヤ、オシャッシ―の住人です」
第三話(その1) アルトモ・キヤ