ダーク・ファンタジー小説

第四話 ( No.16 )
日時: 2023/06/29 00:33
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)




時は遡り、三年前



今日は一体何人分の涙の雨が流れたのだろうか。
昨日、あんな事があってから俺はずっと自分の家の残骸に包まれながら雨に打たれていた。
もう何もする気が起きない、まさしくそれが今の僕には正しいだろう。
昨日までここには町があったんだ。
それが何故、何故。
「……一体なぜなんだよ……」
そう絞り出した声を出したその時だった。
「それはすべてシルディアの所為でございます」
どこか陽気なおじさんの声が響いたのだ。
「ところで、一体何をしているんですか?そんなところで」
そのおじさんらしきものは近づいてくると、僕を除きこむ。
傘を持ち、出っ歯でちょび髭のいわゆるお金持ちのような服装をした小柄の男だった。
「……うるせぇよ……」
「何がでしょうか?私はあなたは今何をしているのか聞いただけですが?」
男は何ともないような言い方で言い、僕を見る。
何かやり返したかったが僕には睨み返すほどの気力も残っていなかった。
「……死ぬんだよ」
「ほほう、それは何故?」
「……何故って見て分からないのかよ……!」
「はい、全く」
男はキョトンとした顔をして僕を見る、その目には何かの意思のようなものを感じた。
「……家族がみんな死んだんだよ……」
「へぇ~それは悲しかったですね、で?」
「は?」
「それだけですか?」
男はそう言い放った、途端にこみあげてくる怒り、くやしさに、憎悪。
「……お前に何が分かるんだよ……!」
「家族を失ったことのないお前に僕の何が、何が……」
どうしようもないほどの絶望に飲み込まれる。
僕は何もできなかった、あの爆弾が落ちた時ですら僕は何もできなかったんだ。
やるせなさ、不甲斐なさ、そのどれもが僕の中でうずまき、涙となってあふれ出す。
涙を拭おうとしても手は動かない、そりゃそうだ、もう意識が遠のいてきているのだから。
もう、僕に残っているのは……待っているのは……

それだけだ。

「取引をしませんか?」
意識が遠のく中、男の声が木霊する。
「爆弾を落とした奴らを皆殺しにしたいと思いませんか?」
それができるんだったら僕はもうしてるよ、でも僕は……無力なんだ。
「その代わりにあなたには一つ我慢をしてもらう必要があります」
「とある少女の面倒を見てほしいのです、その少女が死ぬまで」
男は続けて言う、僕は頷いてもいないのに。
「その少女の名は、」
サリー・ノエド
「この街がなくなった原因を作ったハーフの人種です」
「そして、貴方の父親が殺したトレイトのエルフの子供でございます」
それを聞いた瞬間僕の体は息を吹き返したかのような感覚に見舞われる。
そして僕は一言言ってやった。
「いいよ、その取引乗った」
僕が目指すのは、この街を壊した奴の復讐、ただそれだけだ。


少年は、いや、そのオークはボロボロの体を意識がもうろうとしながらも奮い立たせ、歩き始めた。
一つの
決意を胸に。




第四話 失うものは大切なもの 



一章完結



二章へ続く……