ダーク・ファンタジー小説

第五話 ( No.17 )
日時: 2023/07/08 17:38
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







今日も雨が降っている。
あのときと同じ、
いつもと変わらない地獄の涙だ。






俺は出っ歯と別れてからしばらく歩き続けていた。
予定の時刻まであと3時間、それまでどうしていようかを考えながら。
とりあえず、そこら辺の酒場へと入り、カウンターへと座る。
「……マスター、カクテルを一つ」
「わかりました」
マスターは吹いていたコップを置くと、後ろの棚から液体の入った瓶を取り出し、吟味し始めた。
あと3時間、あと3時間あれば、
世界が変わる。
この世界に、この腐った世界に鉄槌を与えられる。

「――――どうぞ、フードのお兄さん」
そんなことを考えている間にどうやらできていたようだ。
俺はお礼を言いつつ、受け取ると一気に飲み干した。
飲み干すときの勢いのままフードは無慈悲にも首元へといってしまった。
「!?」
しまった、そう思った時にはもう遅い。
「お前、トレイトじゃねぇか!!」
近くにいた金髪の男が大声を上げ、それと同時に店の奥へマスターは走り始める。
「うぉぉぉぉ!」
金髪は拳を振り上げると、俺に向かってそれを落とす。
が、ソイツの拳は無残にも空を切ることになる。
「な!?」
そのまま思い切り前に転ぶと俺はそいつを蹴り上げる、無様に中を舞ったそいつはそのまま頭から床にたたきつけられると、意識を失った。
それと同時に猟銃を持ってきたマスターは躊躇なく俺に対して発砲する。
鈍い音が聞こえ、俺の腹から赤い液体が噴き出し、それが床に海を作り上げる。
そんなことはお構いなしに俺はマスターへと近づいていく。
「ヒッ!ヒッ!ヒィィィィ!!!!」
マスターは猟銃に入っている銃弾を全て使い切るとへなへなと床に座った。
「……一つ聞きたいことがある」
俺はそいつをにらむと、歯ぎしりをしながら、幼少期から思っていたことを尋ねてみた。
「何故、お前らはトレイトを意味もなく殺す?」
体からは滝のように液体が溢れる。
「こ、怖いじゃないですかぁ!?」
それにビビったのかそいつはその一言を最後にそのまま意識を失った。
「……怖い、だと……?」
誰にも届きのしない、怒りが体をめぐる。
「その程度で人を殺すんだな」
俺にはそれしか出てこなかった、もしかしたら何か理由がだなんて考えた俺が馬鹿だったよ。
あぁやっぱりこの世界は、
「腐ってやがる」












第2章の始まり始まり 




第五話(その1) 腐っているのはこの世界だ


第五話(その2) ( No.18 )
日時: 2023/07/11 18:06
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)

酒場での出来事から2時間後







「君に伝えないといけないことがある」
兎顔のそいつは汗だくになりながらもそう言う。
それを聞いた僕は本当の絶望を味わうこととなった。
「ルソアを止めてくれ」
兎顔……ビットは僕の目をじっと見て、必死にお願いをしてくる。
が、僕は相変わらず絶望のどん底にいるのだった。
そりゃそうだろう、さっきまで拷問されていてやっと助かったと思ったら今度はルソアを止めろって?
無理難題にもほどがあるだろう。
「ルソアを食い止められるのは君しかいないんだ」
そう言うビットの呼吸は次第に荒くなっていく、何かをこらえるかのように。
「……」
僕はどうしたらいいのだろうか、とにかk―――
「ルソアァァァ!!!!」
その声と共に、僕の体は宙に舞った。
誰かに顎を思い切り蹴られたのだ。
僕はとっさ何とか受け身を取ったことで軽症で済んだがそのまま硬い地面に激突する。
その瞬間僕の視界が真っ赤に染まり、体中から力が抜けていく。
「てめぇ、何でここに!」
ビットの声が聞こえる。
どうやらルソアと話をしているようだ。
「そんなことはどうでもいい、こいつはもらっていく」
そう言うと僕は誰かに運ばれ始める。
恐らくルソアが片腕で持っているのだろう。
そこで僕の意識は糸の千切れる音共に消えたのだった。





「行かさねぇよ、はぁ、ルソア!」
僕はとにかく叫んでみる。
ルソアはまだこっちにいるはずだ。
そう思っていたからだが、それはルソアの一言によって無残にも消え失せることとなる。
「俺はこの世界を変える、そのためにはこいつは必要だ、ずっと探していたんだこの機会を逃がしてなるものか」
そう言ったルソアは指を鳴らし、消えると同時にその場に白い仮面をつけた何かが僕の前に現れた。
「こんにちは、貴方を足止めするために来ました、白島しらじまと申します、冥途の土産にでも覚えていってください」
そう言う、ソイツの体からは煙が出ている。
爆弾……!?

そう思った時にはもう遅い。
何故なら
全てが
彼に託されているのだから。

「ごめん」

そう言った僕の目にはおそらく漆黒に染まった瞳が映し出されているであろう。
僕は昔から周りと何もかもが違っていた。
頭も、肉体も、奇術も、もちろん顔だって。
だからずっと思っていたんだ。
僕は
「最強なんだぁぁぁぁ!!!」
奇術level解放
「アマテラスオオミカミ!」






第五話(その2) 最高神、天照大神



第六話(その1) ( No.19 )
日時: 2023/07/21 19:14
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)








「久しぶりだね」
真っ暗の中、不意に後ろで声がした。
とっさに振り返ろううとするが体は動かない。
どこかで聞いた声、大切なあの人の声、世界を変えると誓うきっかけを作ったあの声、僕が殺した声。
くやしさ、悲しさ、怒り、すべての感情がぐちゃぐちゃになる。
「君はどんな時でも、笑顔だったよね」
彼女の声が近づいてくる。
足音一つすら立てずに。
「私は貴方の事が好きだった」
声が近づいてくる。
「ねぇ」
そして僕の前に小さい女の子が現れ、笑顔を作ると僕の方に触れる。
どうやら僕の体は小さくなっているようだ。
「貴方もそうだったの?」
声を出そうとしても出ない。
伝えたい、せめてあの命を無駄にしない為にも、最愛の人をあやめてしまった僕の決意が揺らがないよう、受け止めたい。
自分がしていることの重大さを受け止めないと意味がない。
だからここで、伝えたい。
僕もあなたが好きだったと。



「……はっ……はっ……」
僕は思わず飛び上がる、心臓はまるで目覚まし時計のようにドクドクと大きな音を鳴らす。
一体今のは何だ。
僕の事ではないのが分かるが一体誰の事なんだ。
それにあの女の子、どこかサリーに似ていたような気がする。
あぁ、僕はまだ引きづっているのか。
「おい、寝坊助!」
突如として男の怒号が部屋に響き渡る。
声のした方を振り返ると顔を真っ赤にし、涙を浮かべたビットが立っていた。
「早く起きろよ馬鹿野郎!」
そう言うとビットは僕のもとへと走りこみそのまま僕を抱きしめる。
「!?」
突然の事で全く反応できなかった僕は慌ててビットを離すと、
「一体今はどういう状況なんですか?」
「……悲しいお話とうれしいお話がある、どっちから聞きたい?」
「……では、うれしいお話からで」
僕がそう言うとビットは覚悟を決めたような顔をして、僕の方へと向き直り話し始めた。
【うれしい】お話を。

「うれしいお話っていうのは、爆弾の爆発を止められたって話だ、君がさらわれた後おそらくルソアの部下かなんかが僕を襲ってきたんだけどそいつを拘束してルソアの居場所を吐かせその場所に向かったところでルソアが爆弾の場所に君と一緒にいたんだここからが悲しい話だ、ルソアは君を地面に置くと爆弾事ワープしたんだそしてワープした直後に爆弾の時間がたち爆発したんだ、どこかでただ、おそらくルソアはもう――」
「……生きてない……ですか」
僕がそう言うとビットは頷く、それとともに僕はルソアとの日々を思い出していた。
僕を助けてくれたあの人はもうこの世に存在しない、僕に関わってくれた恩人がまた死んでしまったのだ。
途端に笑いが――――
その瞬間自分を思い切り殴る、びっくりするビットを横目に僕は宙を舞う。
笑うな、僕。
笑うことは受け止め切れていない証拠だ、僕もう二度と逃げない、逃げずに世界を
壊してやる。

壊してやる。

壊してやる。

壊してやる。

いや、

壊す。

――――――――――――――――――――
「ルソア!追い詰めたぞ!」
そう言った僕の目には目に涙を浮かべたルソアが立っていた。
「!?」
「あぁお前か、話がある」
ビックリする僕を他所よそに涙を拭うと、まるで僕の心までを透かしているかのような目で僕を見据え、
「賭けをしないか?」







第六話(その1) 世界を変える賭け




第六話(その2) ( No.20 )
日時: 2023/07/25 12:38
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)





「賭けをしないか?」
今にもあふれ出そうなほどの涙を拭いて彼はそういった。
一体何を考えているのだろうか、もうこいつにとって僕は敵のはずなのに一体何が目的なんだ。
「……賭けって何だ?」
「俺の代わりにこいつを助けてやってくれ」
彼はそう毅然きぜんとした態度で言うが、どこか悔しさ、覚悟が垣間かいま見える。
彼の中では何かが決まっている、僕は瞬時にそれを理解するが、同時にその覚悟がどういうものなのか知りたくなった。
「どういうことだ」
「俺は、殺人、裏切り、テロ、のような非人道的行為を数えられないほど行ってきた、でも俺は気づいてしまったんだ今までやってきたことは俺の家族の弔いにはならないって、俺は今までノブレスへの復讐心だけで生きていた、だからここで俺がお前を殺せばノブレスへの復讐は完遂する、でも俺はもうそんなことはしたくないんだ」
彼はまた泣いていた、大粒の涙が地面を湿らせるほどに。
「毎日苦痛だった、ノブレスの復讐という自分の我儘わがままのためにサリーもマルクドもそしてお前の母と父も、皆殺して生き続けていることが」
その瞬間彼のこめかみを何かが貫き、血が噴き出る。
しかし彼はそれを全く気にせず話し続けた。
「だから、彼を俺と同じような非人道的なことを犯させないようにしてくれ、それをしてくれるのなら俺はこれを海に落とす」
彼の顔を見ると僕はすぐに頷くことができなかった、顔は血で染まり、床もさっきまでの涙が上書きされるほど赤黒くなり、そんな状況の彼を助けるべきではないかと一瞬迷ってしまったのだ。
「……沈黙はそういうことだな、じゃあよろしく、体に気をつけてな」
彼は遺言のようなことを言うと爆弾の方へ向き直る、その瞬間またもやこめかみ辺りを何かが通り過ぎ血がさらに吹き出る。
「……アルハマス」
何かを呟いた彼は、それを最後に消えたのだった。
男の子を置いて。

彼が行ってすぐとてつもない喪失感が僕を襲い、無意識にうずくまってしまった。
「ルソア……」
行ってしまった彼の名だ。
喪失感に浸っている場合ではない、そう気づいたのは腕を鉛の玉が通過してからだった。
右腕に熱い液体が零れ落ちていくようだった、不思議と痛みはなくただただ熱い。
そう考えていると今度は耳を玉がかすめていった。
すぐさま男の子を左手でつかむと僕はその場を後にするのだった。




その場所から約一キロほど離れた崖の上に誰かがいるようだ。
「チッ!三等ごときが裏切りやがって」
男は舌打ちをしながらそう呟く。
右手にはスナイパーライフル、左手にはおそらくライフルの玉を握り締め怒りでわなわなと震える。
「まぁまぁ、落ち着きなさい、たかが三等ですよねぇ?いなくても変わらないですよぉ」
どこからか見覚えのある出っ歯が現れ、その男の肩に手を置く。
男は嫌そうに手を振り払うと、出っ歯にまくしたてる。
「そんなことはどうでもいい、最後に組織の名前を言ったことの方が問題だ、お前の実験としてあいつを入れていたのは理解できるが、その結果があれだろ?もしビットが攻めて来たらどう責任を取るんだ」
出っ歯は少しも悩む様子を見せることもなくこう答えた。
「別にあの兎程度だったら三等で十分ですよ?」
底なしの狂気、それを感じるのはこの男だけではない。
動物、人間、そして植物でさえ、その男の異常性を感じているのだ。
「はッ!やめだやめだ!かなわねぇよボス!」
思わず目を背ける男とそれを笑顔で見続ける出っ歯。
「ところで、新しい実験をしたいんですが―――――――――――――」
男は眉間にしわを寄せつつ話を聞き、無意識にライフルを構えた。
「あの男の子を捕まえて来てくれない?」
「……わかった、生け捕りだよな?」
「もちろん」




――――――――――――――――――――
「はぁっはぁっ……」
私は走っていた。
ビットさんのもとへ、彼のもとへ。
現在、私がいるのはとあるトレイトの村の病院だ。
どうやら彼とビットさんはケガしているらしい。
そして私は彼の病室の前に着くとドアを開けようとした。
その時、
「ありがとうございました、ビットさん」
「……何をする気だ!」
部屋からは話し声が聞こえてきた。
「何って、見てわからないんですか?」
「何で外に行こうとしている!安静にするんだ!」
「嫌です、僕はもうあなたたちに迷惑をかけたくありません、現に僕の前には何回もノブレスの人たちが現れています」
「これは僕の我儘わがままなんかじゃありません次殺されるのはビットさんかもしれない、キヤかもしれない、ほかの人に危害が加わるかもしれない、それなのに僕が弱いままで守られてばっかなのは嫌です、少なくとも山籠もりか何かをして修行をした方が僕にとっても皆にとってもいいはずです」
「意味が分からない、ダメだ!まだ君はケガをしている、体中に穴が開いていて今にも血があふれ出そうな状態なんだぞ!」
言い争っているようだ、そんな中病室に入っていくほどの度胸が私にはなかった。
悔しかった、彼は私やほかの人、強いてはビットさんの事を考え、苦しい思いをしているのに私には支えることができない、それが何よりも一番苦痛だった。
二人の役に立ちたい、そう言って私は二人に無理やりついてきたのに何もできない。
「それで言い訳ねぇだろ、クソが……」
思わず言葉を吐き、私の中を劣等感と悲しみが駆け回りそして、
一つの覚悟へと
昇華するのだった。







第六話(その2) みんなの覚悟




第六話(その3) ( No.21 )
日時: 2023/08/03 20:49
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)





気が付いたら私は病室のドアを開けていた。
「!?」
驚いた顔をする彼と、真っ赤になったビットさんの顔が見え、思わず固まる私。
「アルトモ!久しぶりだね!」
彼はすぐさまそういうが、さっきまでの会話を引きづっているくのかひどく動揺しているように見えた。
私は彼のもとまで何も言わず歩くと、率直に聞いてみることにした。
「修行……するそうですね……?」
突然の問いに目を見開く彼と、あっけにとられているビットさん。
この場は異様なほどの何かが充満し、空気が重くなっていくのを肌で感じた。
「聞いてたんだ……」
「はい……」
「私h――――――――――――――――――――」
「止めないでくれ」
遮るように彼はそう言った。
ボロボロの雑巾のような体を無理やり彼は動かし、窓から身を乗り出す。
その時だった。
「へえー泣かせてくれるじゃないか、まぁ君を捕まえるから意味ないけどね」
突如として窓から現れた金髪で糸目のその男は、張り付けたような笑顔だった。
狂気より狂喜、そんな言葉が似合いそうだ。
男はただでさえ不気味なその顔をさらに不気味にゆがめながらも笑うと男は一言こういった。
「俺も混ぜてy――――――――――――――――――――」




僕は死を確信していた。
男の体から発せられるとてつもないほどの殺気。
そのどれもが僕の体を刺し、体中の穴から血が噴き出す。
「俺も混ぜてy――――――――――――――――――――」
その瞬間、男の首はまるでおもちゃのように吹っ飛ぶ。
サリーの記憶と人影が交差する。
「え?」
それがあの不気味な男の最後の言葉である。
ドサッ
そこからは僕の記憶はない、気が付いたら嫌な空気のする薄暗い森にいた。
すぐさま僕はボロボロの体を起こし、周りを確認する。
かつて、ビットの秘密基地へ行くときに入った森ではない、何となく僕はそう思った、あの時は見たこともない花が咲き不気味な木がそびえたってはいなかったからだろう。
「ここは一体……」
そう思わず声が漏れ出てしまう。
少なくとも病院の近くには森なんてない。
おかしい、どんな移動をしたとしてもこんな場所には来れないのだ。
だが、
進むしかない。
現実を、この腐った世界を、変える為には僕が変わるしかないのだから。



――――――――――――――――――――
「……ハルマクア博士ぇまだできないのかぁね?」
「アハハ……思っていたよりも開発が難しくてね~」
「実験体はたくさんいるんだから早めに開発してほしんだがね?」
ここはとあるノブレスの国、オルボモスの城の地下。
ここでは様々な薬品を開発しており、それに伴い人体実験も行っている場所である。
この地下研究所の目標はトレイトの殲滅。
現在、研究員は一人しかおらず、それがこの天才、ハルマクアである。
「ッ!!!」
博士の声にならない驚きとともに研究所は光に包まれる。
「できたッ!できたぞッ!!ついに!ついに!」
―――――――人を操る薬ができたぞッ!!!!!!!!――――――――








第六話(その3) マリーとネット



第七話(その1) ( No.22 )
日時: 2023/08/16 15:34
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







「ほう……久しぶりじゃな、わらしがこの森を訪れるのは……」
霧がかかった景色の中で女性の声が乱反射する。
どこかなまめかしく、怪しげな雰囲気のその女性はそばにあった大きな石に腰を掛ける。
そして霧の晴れた場所からそのわらしがいる場所を見ていた。
一体何をしているのだろうか、こいつは誰なのだろうかそんなことを考えながらもひたすらにわらしを見ていた。
「……ノブレス……」
女性はそうぽつりとつぶやくと木々が激しく揺れ、鳥が鳴き、動物たちが暴れまわる。
「また……か」
悲しそうにそう言うのだった。




誰かが見ている、僕は直感的にそう思った。
最初は気のせいだと思ったが、明らかに視線を感じる。憎悪などの嫌な感情を持ちながらも何もせずただ見るだけ。
それがこの森の薄暗さと異様なほどマッチし、さらに不気味に感じさせた。
「ビットさん?」
視線を感じたほうを何気なく振り返り僕はとある人の名を口にする。
しかしそこには人も動物も木も何もなく、あるのは僕が通ってきた道だけだった。
「?」
しかしここで僕は何か異変を感じる。
「……石畳?」
そう、僕が通ってきた道に石畳が現れ始めたのだ。
そして奥には見えないほど深い霧。
死神の罠……僕にはそう見えた。
薄暗いこの森で霧が発生し、浮き出るかのように石畳も出現した、疑うには十分すぎる罠だ。
どうしようか、僕は
進むのか
進まないのか




――――――――――――――――――――
「ハルマクア!!ついにできたんやな!」
私はそう言って、階段を転げ落ちるかのように降りるとハルマクア博士に向かってダイブする。
「はいぃ!前回作った不老不死の薬をサンプルについに作ることに成功いたしました!」
そう言って博士は私にガラス張りの水槽に入った被検体を見せられる。
それは小さい女の子だった。
忌々いまいましいトレイトのね。
「?あれ?人を操る薬を作ったんじゃないんか?」
「あぁ、私もそう思ったんですが研究員十人に試してみたところ全員死んでしまいまして……」
「はぁ……じゃあ何で我を呼んだんや?」
「この薬に適応する者が見つかったんです、つまり今回の報告はこの醜いトレイトの奇術を我々が命令をすることで使うことができる、戦況を変えられるそういう報告だったんです――」
自信満々に言う、ハルマクアを後目しりめに私はドスの効かせた声で遮るように言い放つ。
「我は、兵隊を作れなどと言ってないが?」
その言葉を聞いた直後、ハルマクアから大量の汗が噴き出るのを見なくても感じた。
「え、えっとその、わ、私はッ――――――――――」
「黙れ」
「ッ⁉」
「我の命令を無視した、すなわちそれが何を意味するか……分かるな?」
「でもッ、私はッ、貴方の命令でッ!」
「おい、黙れと言っただろう?違反、二回目」
私がそう言うと即座に騎士がハルマクアの周りを取り囲む。
「貴方は本当に優秀な博士だった、本当に残念だ」
「嫌だ……嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ハルマクアのその言葉を最後に騎士は手当たり次第にハルマクアを殴っていく。
血が出ようとも、嘔吐おうとしようとも命乞いをしても、涙を流してもひたすら殴り続ける。
顔が腫れようが、眼球が飛び出そうが、歯が飛び出そうが、顔の原型がなくなろうが、関節が逆をむこうが、骨が折れようが、悲鳴がなくなろうが、やめない。
私が止めをかけるまで、彼らはひたすら殴り続ける、殴られる側に残るのは、痛みと憎悪と
人の恐ろしさだけだ。
―――――――――――――――――――――

「……ここはどこだ?」
「一体どこでしょうかね……?」
謎の男の首が吹っ飛び、男の子は意識を失い、突然光に包まれたかと思ったら知らない家のベッドで寝ているって色々なことがありすぎて意味が分からない。
幸い、アルトモは僕と一緒だが、あの子の姿はない。
誰かの攻撃を受けてどこかにワープした、僕が出した答えはそれだった、というかそれしか考えられない。
「ビットさん、なんかここ変じゃないですか?」
「ん?何が?」
「もし、私たちに危害を加えようとしているのであればわざわざこうやってベッドに寝かせる必要ないじゃないですか、それがちょっと意味わからないなと思いまして……」
確かに、アルトモの言う通りだが、世の中頭のおかしい奴はごまんといる、万が一でもいや億が一でも可能性があるんだったらこの場合は警戒しておくのが得策だろう。
トントン、と突然僕たちのドアが叩かれ、この場を静寂へと変える。
すぐさま臨戦態勢を取ろう……と……した……b……

「……あちゃ~また寝ちゃったか、常時奇術発動は辛いね~も~……」






第七話(その1) 常時発動

第七話(その2) ( No.23 )
日時: 2023/08/21 20:18
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







一体何でこんなことになったのだろうか、私は何もしてないのに、何で大切なものを何度も破壊されなきゃいけないんだろうか。
前の世界でも私を壊されて、この世界でもまた壊されて、何も残ってない私をまた壊される。
そんなのはもう嫌だ、我慢したくない、例えわらべを殺そうとも、絶対に
守りきってやる。
私はその決意を胸に手を強く、強く握りしめたのだった。



「はぁ、はぁ、はぁ」
歩けど歩けど、坂道ばかり、絵面えづらも何も変わらずただただ体力だけが失われていく。
額には汗がにじみ、首筋をつたい地面へと落ちていく。
ぽたりぽたりと落ちていく。
心臓はバクバクと大きな音を鳴らし、呼吸も荒くなり本当に倒れてしまいそうになる。
が、僕は何とか意識を保つ。
「はっはっはっ……」
あぁこれはやばい、本当にやばい。
意識が、もう……
それでも僕は足を一歩踏み出した
つもりだった。
急に足を後ろに引っ張られそのまま前のめりに倒れたのだ。
そして僕はそのまま意識を失った。



「……やっぱりわらわには出来んな……」
白目をむき、泡を吹いて意識を失っている小さなわらしをわらわは気が付いたら抱き上げていた。
元の世界でもわらわは人を殺したことがなかった。
同じ仕事仲間には人を殺したことがある者もたくさんおった、がわらわはそれでも殺せなかった。
わらわの命が天秤にかかった時にも。
わらわの大切なものが壊されてる時も。
何もできなかった。
今回もそうだ。
また逃げるしかないんだ。
わらわはひとまずわらしを本体の前まで持って行き目の前に置くと共有していた意識を元の体へと戻す。
「……ふう……どうしたものかな」
一体これをどうしろと言うのだ。
そもそも何故このわらしをわらわは持ってきた、自分でもよくわかってない。
わらわはまたゆっくりと息をはきながら頭を抱えた。
何をするのが正解なのじゃろうか、元の場所に戻す?それとも……
ここで育てる……?
一瞬そんな言葉が頭の中をよぎる、がそんなのは考える間もなく〈いいえ〉じゃ。
もう傷つきたくないんじゃ。
わらわは両手で思い切り頬を叩いて喝を入れるとわらしのほうへと向き直る。
その瞬間目を開けるわらし、本来わらわは見えるはずもない。
魂の寄せ集めみたいなものだからの、
それなのに、
それなのに、わらわはわらしと目が合ったのじゃ。
「……女の、人……」
力なく言うそのわらしにはどこか悲しさがあった、とても辛い思いをしてそれを乗り越えかけている途中、そんな風に感じた。
不思議とそのわらしを見ていると先ほどまであった育てるという考えが現実味を帯びていく。
鎖がつながれていく、わらわの首からわらしの首へと。
紡がれていく、わらわから女子おなごのように華奢な体をしたその子へと。
伝わっていく、その子の気持ちが、わらわの思いが。





――――――――――――――――――――
「ん~っ!」
僕はそう言って体を良く伸ばす。
「あ!起きましたか!」
起きた直後の頭の中を聞いたことのない声が巡る。
まだ視界がはっきりとせず声の主が誰かは分からないが、声からしておそらく女性だろう。
「誰だ!」
とっさに拳を僕は構えるが、その誰かの手をたたく音で力が抜けていく。
「私は敵ではないです、落ち着いてください」
良く伸ばしたはずの体が重みを帯び始め、そしてベッドへと沈んでいく。
「い、一体何をした……」
力が抜けていくとともに強烈な眠気がまた僕を襲うがそれを何とか抑え、その女性に尋ねる。
「ごめんなさい、私の奇術の所為なんです」
「奇術?じゃあ使うのをやめてくれ」
「それが……できないんです、常時発動型でして……」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れ出てしまう。
そりゃそうだろう、常時発動型の奇術なんて聞いたことがない。
というか前例が多分ない。
「?大丈夫ですか?」
その女性は不安そうに聞いた来る、おそらく僕がポカーンとしていたからだろうが。
「……えーと大丈夫です……」
僕にはこれしか言えない。
「一応解除できるか試してみますね……エイッ!」
女性はそう言うと今度はもっと大きく手を鳴らした。
その瞬間霧が晴れたかのように目がさえてくる。
それと共に僕の目の前には
ノブレスの顔をした女性の姿が映るのだった。








第七話(その2) 鬼と音

第七話(その3) ( No.24 )
日時: 2023/09/20 20:43
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)





「閃光弾を使うなんてやりすぎだったかなぁ……」
俺がいるここは森の中にひっそりとたたずむ洋館である。
いつ、だれが、何のために作ったかは定かではないが、とにかくここは洋館のはずである。
俺はそう思いながら自分が目の当たりにした意味の分からない空間を相変わらずにらみつけた。
少し濁ってて、ぶよぶよしてはいるが普通の空気のような……
「あー!もう来たのー?!」
小さい子供のような声が突然後ろから聞こえ、振り向きざまに俺は手にしていた銃を発砲する
が、
すんでのところでかわされ、逆に俺の頭がそのままねられる。
「もーダメだよ♪僕の気配ごとき察しないと!」
「と言われましても……」
血だらけになった小刀のようなものをくるくると回しつつ、男の子は俺の首を手にするとこちらへパスをした。
すかさずキャッチをする俺、そしてそのまま首に取り付ける。
「ありがとうございます」
「いえいえ♪じゃあ入口まで案内するからついてきて!」
男の子……いや、彼の名は、
イサ・ノルベール
かつてあったオシャッシ―連続殺人事件の犯人であり、わずか9歳で人を手にかけ、彼に関わった者すべてを殺してきた、そんな人物なのだが
現在なぜかこのアルハマスに所属している。
そして何より、一番彼の恐ろしい所は、
奇術、人殺し、である。
その名の通り、人を殺すことで発動される。
そしてその発動した際の内容は……
「着いたよ♪」
っとそんなことを考えている間に洋館の入り口に着いたようだ。
彼は持っている小刀をその入り口と呼ばれるところに刺すと、その瞬間ぶよぶよとしていたものが破裂する。
音は出ないが相変わらずこの爆発にはなれないな。
「はーい♪入ってい入って♪」
彼はそのままドアノブをひねり、中へと案内をする。
「こっからまっすぐ行って二番目のドアに入ってね♪」
彼はそう笑顔で、狂気じみた笑顔で、
「……せいぜい死なないようにね♪」






「ふぅ……あー疲れたぁ……」
俺はもげた腕を接合しながらそう呟く。
あそこで彼と別れてからは大変だった。
いきなり火の玉はでるわ、ナイフはとんでくるわ……もはや地獄絵図だったよ。
「フフッあなたって本当に死なないのね」
「まぁ、はい……痛覚はあるんで痛いんですが」
「でも、もう慣れたでしょ?」
「まぁ、そう、ですか、ね~……」
俺の前には今は女がいる、白いシスターの服を着て、十字架を握り締めた女がね。
彼女の名はリルト・ノルベール、さっきの子の妹である。
「それにしても、みーんな遅いね、君が来てくれなきゃこの部屋八つ裂きにするところだったよ」
ニコニコとした顔で僕を見つめながらそう彼女は言う。
「まぁ、暇つぶしにもならないけどね」



――――――――――――――――――――
「ノ、ノブレス⁉⁉」
僕はとっさにそう叫んでしまった。
やばい、このまま僕は殺されるかもしれない。どうにかしてここからキヤと逃げる方法を……
そんなことを必死に考え始めた僕に彼女は慌てながらも返してくる。
「ち、違いますよ!!」
その瞬間、部屋にあった花瓶が大きな音を立てて割れ、この場を静かにさせると彼女は落ち着きを取り戻したかのように静かにこう答えた。
「私……私は、今のように奇術が使えるのでトレイトのはずです……」
「って言われてもな……」
あの子のような人はそうそういないはずなんだけどな。
そもそもサリーさんだけで戦争の引き金になりかけたっていうのにこりねぇなホント。
とりあえず僕は彼女の話を信じてみることにするのだった。
「はぁ……」
「?どうしました?」
「いや、これからどうしようかと思ってな」











第七話(その3) 人殺しになるところだったな








第八話(その1) ( No.25 )
日時: 2024/02/21 17:56
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







「……あれ……ここ……どこ……だ?」
先ほどまでとは打って変わって、電球のような形のものが部屋を明るくさせている天井が真っ先に入ってくる。
パッと辺りを見回してみても窓はない。
そして何故か僕は、そんな木造の部屋のような床で横たわっていた。
一体ここはどこなのだろうか、そんなことを考えながら体を起こし、ひとまず今までの事を整理する。
「そうだ、僕……気を失って……」
気を失った、確かにそれは覚えている、なのになぜ僕はこんな小屋にいるんだ?
ひとしきりそのことについて考えてみたが、一向に答えは出なかった。
そんなとき、部屋のドアを誰かが叩いた。
瞬間的にバリアを準備をする僕を他所に、おぼんの上のコップに水をなみなみと入れた女性が入ってくる。
その女性には血で染められたような赤黒い角が生え、トレイトのような長い耳、黒い薔薇バラの模様が描かれた着物に、首や両手両足に鎖を付けたきわどい和風のコスプレをしたような姿をしていた。
「もう、起きていたのか」
少し低く、何故か安心してしまうような……そんな声で彼女は僕に話しかけてくる。
この人は一体誰なのか、敵なのか、味方なのかそれは次の一言で決まった。
「えーと……もう大丈夫なのかい?」
張りつめていた空気がプツンと切れた。
そして僕はいつの間にか上げていた腰をへなへなと落とすのだった。
少なくとも敵意はない、それは彼女の言葉、彼女の表情を見れば一目瞭然だ。
「おお!?どうしたのじゃ!?どうしたのじゃ!?何かわらわがしてしまったのか!?」
「あぁ……いえ……」
気が付いたら僕は彼女に気を許していた、何故だろうか。
……理由は良くわからない。
だが、一つ言えることがある。
「あの……」
「何じゃ?」
――あなたは誰ですか?――
なみなみとがれた、水がおぼんの上でこぼれる。
しかし、彼女は動揺したわけではない。この瞬間に何かが起きたのだ。
その何かはこの場所に揺れを引き起こし、この建物を大きく揺らした。
彼女は慌てておぼんを床に置き、ドアの外の闇へと消えていく、おそらく雑巾か何かを取りに行ったのだろう。
彼女が行ってしまってから、僕はずっと考えていた。
今のは一体何なんだろう、地震……とは少し違うような、まるで人為的に起こされたかのような違和感があった気がする。
とりあえず、僕は倒れたコップを置き直し、彼女を待った。がいくら待てど彼女は帰ってこなかった。仕方なし僕は扉の外へと向かうがその時は僕は気づいてしまった。
この扉の外、何かおかしい。普通、電気をつけていなくとも部屋からの明かりで廊下が見えそうなものだが、廊下が全く見えないのだ。
それどころか、虚空の中にポツンとドアが置いてあるようだった。
彼女は一体どこへ……?
そう思い一歩、足を踏み出したその時、後ろから小さな音が聞こえた。
パタンッと。



―――――――――――――――――――――――――



「おーきーろー!!」
真っ暗闇の世界の中で聞きなじみのある声が反響する。
「おーきーろぉぉぉぉぉ!!!」
耳元で大声を上げられ思わず飛び上がるように私は起きた。
耳がジンジンする……
「よう寝坊助!」
そう、ビットさんは私を呼んだ。
「お、おはようございます……ビットさん」
ニッコリとはにかんで笑う彼、そして
謎の女。
瞬間的にそれを認識した私は瞬時にベッドから飛び降り、拳を女へと振るった。
がしかし、寸でのところでビットさんに止められる。
ぶわっと部屋全体に風が送られたかと思うと、ビットさんは優しく私に話しかけた。
「この女の人は敵じゃないよ、家の前で倒れていた僕たちを助けてくれたらしい」
とたんに汗を垂らしながらぺこぺこするその女性は確かに悪人には見えなかった。
「……なんで喋らないんですか?」
「……!……!!……!」
「……なんかこの人奇術を常に使用しちゃってるらしいんだよね……で、さっき眠らされかけたから無言でなんとかやってもらってるんだ」
ぶんぶんと首を縦に振る女と何とも言えない顔をするビットさん。
そんな二人に私がかけた言葉は
「……はい?」
だった。






「……って訳なんだよ、分かった?」
「……まぁ、その……なんとか理解はしましたけど……」
チラッとその女性を見る。
ツヤツヤとした長い髪、ノブレスのような長いまつ毛、クリクリとした大きな目、整った顔立ち、そして圧倒的胸。
むしろそれが一番目立ってる、大きさはどのくらいあるんだろう……
服は全体的に紫色?強いていうなればマルタヤの花のような色の服を着ていて、とても自分の奇術のせいで喋れなくなっている人には見えない。
「……!」
私に見られているのに気付いたのかまたペコリとお辞儀をする。
思わずしかめっ面になる私と苦笑いするビットさん。
ノブレスとトレイトのハーフなんてまずあの人以外いないのに……
私はそのままその女の人の元へと歩いてゆく、そして
「助けてくれてありがとうございます」
そう、お辞儀をした。






―――――――――――――――――――
「……さて、皆集まったかな?」
長い机を見回して男は言った。
「では、今から特別会議を始める」








第八話(その1) 虚空と存在感のある胸

第八話(その2) ( No.26 )
日時: 2024/03/06 20:31
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)










一歩を踏み出し、完全にドアの外に出たその瞬間
パタンッと音が鳴る。
どうやらドアが閉まってしまったようだった。
一面に広がるは、暗黒。
光も、重力さえもないのか、ふわふわと漂う感じがする。
そう、まるで……自分が液体になったかのような。
そんな不思議な感じだ。
「……一体……ここは……?」
ぽつりとつぶやいてみるが、応答はない。
ひたすらに誰かを呼んでみる、それでも返事は帰ってこない。
しばらくして、僕はあることに気づく。
足元にとても小さな穴が出来ているのだ。
しかももその穴はどこかに繋がっているかのように光を僕にもたらした。
僕はそれをまじまじと見つめ、その穴に指を入れ穴を無理やり大きくさせると穴の向こう側を覗く。
見えたのは二つの木だった。
一つは樹齢が何千もありそうな大きな樹、もう一つはまだまだ伸びそうな少し小さめの木。
「……めろ……」
どこか遠くから声が聞こえる。
それとともに足音も。
足を軽く引きずるような、それでいてそれがたくさんあるような。
僕はより穴に力を込める。
じわじわと広がっていき、周りの情報が分かってくる。
どうやらここは森のようだ。
「……壊す……鎮めろ……」
近くからそう聞こえる。
僕は頭からその穴に潜り込み、暗闇から抜け出す。
そして近くの木の陰から、そろりと声の方を見る。
「ッ!?」
そこにいたのは落ち武者のような姿をした大柄の男性たちだった。
そして、その落ち武者たちは皆、
こちらを凝視ぎょうししていた。



――――――――――――






「今回、とある報告があってみなを呼んだ……そうだな?」
机の上のランプで照らされた部屋の隅で声がする。
「……そうだね」
その声と共に、ぬらりと出っ歯の男が姿をあらわす。
「何があったの♪」
ランプの光を中心として周りに様々な人が集まり始めた。
ある人は殺人鬼、ある人は殺人鬼の妹、またある人は鎧を着て、またまたある人はオレンジのジャージを着て、椅子に座る。
「……皆も知っている通り、移動役として便利だったあのルソア零特等ゼロとくとうが死んだ、しかも僕らの組織の名前を言って」
その瞬間場が凍り付き、部屋の空気が重たくなる。
しかし
「ふざけるな!!」
それをかき消すかのように机をたたきながら鎧をまとった何かが立ち上がる。
「……ふざけてないけど?」
「いーやお前の言いたいことはもう部下から聞いてる、お前何を考えてるんだ」
「やめなよ♪」
「お前もか、イサ!」
「いやいや♪もしかしたら違うかもしれないでしょ♪」
「チッ」
舌打ちをしながら鎧をまとった何かは不満そうに座りこむ。
不思議と鎧の音は聞こえない。
「もし俺の考え通りだったら……覚えていろよ、イサ」
「あはは♪いいよ♪その時は殺してあげるから♪」
「……もういいかな?」
「「「「どうぞ」」」」
「……計画はそのままで行く」
「へぇ~……それまた何で?」
今度は白いシスターのような女が出っ歯に問いかける。
「それは……ソルタの部下がさっき言っていた事が関係してる」
ソルタと呼ばれた何鎧の何かはない足を机に乗せるかのような体勢でふんぞり返る。
「やっぱりそうじゃねぇか……」
「……とはいっても、それはあくまで後押しするほどの何かではないんだけどね」
「まぁでも一応関係することだからソルタ、話してくれ」
「……クソが」
先ほどまでふんぞり返っていたソルタは体勢を直し、不満げな声で話し始めた。
部下から聞いた話を。
「とまぁ、僕の父が彼の部下に勝手に言っちゃったんだよね」
「で?何で計画はそのままなんだ?オルさんよぉ」
不満げだったソルタは首を傾げ、相手を威圧するように出っ歯……いや、オルに話しかける。
「……彼がおそらく、いや確実にこの世界を壊すからだ」
「んなわけねぇだろ、聞いたところによるとボスはソイツを三等で捕まえるって言ってるんだぜ?そんなヤツが世界を壊す?聞いてあきれる、しかもボスの命令を完全に無視するようなもんだろこの作戦はよぉ」
「まぁ、これだけ言われたらそうなるか」
「あ?」
オルはズボンのポケットからぐしゃぐしゃに紙を取り出しそれを机の上に置く。
そして音を立てながらもそのしわを伸ばし広げた。
「これを見て」
「なんだこれ」
「僕の奇術で出た彼の行うことの占い結果」
「へぇ~♪」
その紙にはたった一文字だけ書かれていた。

と。

――――――――――――――――――――




「ふぅ……」
僕は黒い覆面マスクをした男の頭を踏んずけながら、一呼吸を置き、青空を眺める。
さっきまでここは普通の家だった。
が、コイツのせいで家が……
「だ、大丈夫ですか?ビットさん」
アルトモと……
「ちょっと待って」
そう言うと僕は男の握っていた赤いクリスタルを拳ごと踏み砕く。
男の呻くような悲鳴と、骨が砕け血と肉がさらけ出される。
それにクリスタルが混ざることで一種の芸術のようだ。
そんな事を考えながらも僕はすぐさま口を開いた。
「もう喋っていいよ!えーと……」
「ッ……!カ、カンナです!!」
駆け寄っていたアルトモとカンナは嬉しそうにお互いの顔を見合わせた。
「喋れます!!喋れるようになりました!!」
ぴょんぴょんと跳ねるその姿はまるで兎のようだ。
「で」
「君は一体なんなんだ?シルディアの追手か?それとも」
「アルハマス」
ビクッと男の体が跳ねる。
「あたりかい?」
そう言って飛び切りの笑顔を見せてやる。
男はまたもやヒッと小さい声を漏らし、ガタガタ震え始める。
「ち、違う……俺は……雇われて……シハル国に……」
男はたどたどしく、答えた。
その瞬間、男の顔面がゆがんだ。
目を見開きながら、泡を吹き、眉間にしわを寄せ、歯ぎしりをしながら。
呼吸が荒くなっていく。
そして
「?どうした?」
「あー、あー、あぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
「おい!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああ」
アルトモとカンナは思わず耳をふさぐ、しかしそれすらも貫通するほどの大声。
一体何が起きているんだ。
僕も耳をふさぎ、何とか頬を叩いて正気に戻そうとする。
がもう遅かった。
男の大きく開いた口が一瞬光ると―――――――――――――――――――――









第八話(その2) 死亡を志望

第八話(その3) ( No.27 )
日時: 2024/03/31 18:55
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)




「その程度か」
透き通るかのような女の声が耳に刺さる。
「ふぅ、ふぅ、はぁ……」
女は鎧をガシャガシャと鳴らしながら、こちらへ歩み始める。
「オシャッシ―の王が最強と言うからわざわざ遠征してまで来たのに……期待外れだ」
動悸が激しくなっていく。
おそらくあの女が俺の前に来た時、完全に俺は死ぬだろう。
一体何が起きているんだ、この世界は。
「じゃあね……どうした?」
俺はとっさに腹を抑えていた両手を挙げた。
「……死ぬ前にお前の名前を教えてくれ」
しばし沈黙が流れる。
その間も俺のないはずの腹からドクドクと溢れていく。
「……いいだろう、私の名前は」
「シルディア国、イルエス王の娘、マルク・イルエスだ」
「ふぅ、はぁ……そうか、ありがとよ、一緒に死んでくれて」
直後、オシャッシ―という国は地図からも歴史からも消え去ることとなる。









数時間前
オシャッシ―にキノコ雲が上がった。
まばゆい光に包まれ、そのすぐ後にはもう塵一つ残っていない。
黒い雲に光が遮られ、もはや街の跡地のような風にも見える。
突如城があったはずの場所から音がし、一メートル弱ほどの大きさの扉が現れる。
「う、嘘だろ、ワシの街が……」
その扉から出てきた、立派な髭を付けた男は思わずそう漏らす。
「これは……ひどいですね……」
男の後ろから大きな男が顔をのぞかせる。
「ルピフォ様の奇術がなければ皆死んでましたよ……」
「でも、街が……」
そう言いかけた時、空が白く染まる。
「伏せろ!!」
即座に臨戦態勢になると後ろのドアを足蹴りで閉じる。
何が起きてる?
大きな音と共にヘリコプターのようなものが降りてくる。
土煙でそのヘリコプターが見えなくなる。
すると、何者かの影がこちらへと歩み寄ってきた。
途端に奇術で先を見る。
しかし、その光景は真っ暗だった。
「は?」
言葉を発したその時、影は揺らぎ、俺は倒れていた。
脇腹が無性に痛い。
触ってみると右脇腹が丸々無くなっている。
「んー?この武器はいまいちかな~」
後ろの方で女の声が聞こえる。
どうやらこいつにやられたようだ。
「じゃあ、次は~」
何か武器を持った女が近づいてくる。
それとともに呼吸が浅く、視界が狭まっていく。
それでも何とか立ち上がった。
そして相手を見据える。
「おぉー!すごいね!そんな怪我してるのに立てるんだ!」
そこに立っていたのは金色の鎧を着たブロンズ色の髪をした美しい女性だった。
ノブレスの……だが。
女は片手で大剣を背中からヒョイと抜くとそれを構えた。
「コヒュー……ヒュー……」
女はそのままこちらへ突進すると、俺の顔面に切りかかった。
「っぐ……!」
間一髪で後ろにけるも、右目をやられる。
「……奇術level 2 視来手しらいしゅ
そう言うとそのまま俺は大剣に触れる。
すると大剣はすぐさまサビていく。
女はその大剣を捨てると腰に付けてあった拳銃を構え発砲。
俺は左目を失った。
即座に俺は印を結び詠唱の省略をすると 
    奇術level 3 予戯言よざれごと
「お前は――でしぬ……」
「君、つまらないんだよね」
俺が言い切った後女は俺の腹をつるぎで横一文字に断ち切った。
経験したこともないような痛みが上半身を巡り、それに比例するかのごとく血が体から抜けていく。







―――――――――――――――


落ち武者と目が合った僕は急いで木陰へ隠れた。
「そこに居るのは誰じゃけぇ!!」
男の太い声が木を揺らす。
どうやら僕の方はあまり見えていなかったらしい。
甲冑かっちゅうの音が近づいてくる。
そして落ち武者たちが木陰を覗いた瞬間、
「level 2 球バリア!!」
球バリアは体の心臓を中心とし、生物を弾きながら急速に広がっていくその特性を利用し、落ち武者たちをバリアで弾き飛ばすつもりなのだ。



しかし結果的にそれは失敗に終わる。






第八話(その3) 思い出は消えない。

第九話 破壊と想像その1 ( No.28 )
日時: 2024/04/30 07:40
名前: 味海 (ID: kdYqdI6v)


「ねぇ、なんで生きてるの?死ねよ」
うるさい。
「あなたはこの世界に必要ない人間なのよ?」
黙れよ。
「キモーい、さっさと消えれば?」
消えるのはてめぇだよ。






その日は特に日が登っていた。
テレビでは異常気象として大大的に取り上げられ、その日は熱中症の患者が何人も運ばれたそうだ。
そして、そんな異常気象の日は殺人が起きる。
いつもの日より、何倍も多く。
ハル、僕もそちらへ、
すぐに行くよ。





――――――――――――――



「は?」
落ち武者たちに襲われ、僕は気を失った。
そのはずだった。
しかしいま起きていることは紛れもない事実である。
僕の目の前には赤い池が広がっていた。
そしてあたりに散らばるのは腕や足などの肉塊。
その様子はさながら地獄そのものである。
「……まぁいいか」
僕は疲れ切っていた。
サリーの死からまだ二ヶ月も経っていない。
ルソアの死からもまだ一ヶ月も経っていない。
そして、ノブレスの拷問。
それが未だに僕の体をむしばむ。
バシャバシャと赤い池の液体を飛ばしながらなんとなく前を進む。
変わらず周りには肉塊と真っ暗な森が広がる。
それでも僕は前に進んだ、ただ、何も考えず。
突如、視界が開ける。
どうやら崖に来たようだ。
「……」
遠くの方にはボウッと光るような灯りが見える。
その雰囲気、大きさから察するに小さめの村といったところか。
「村、か」
閉鎖的な空間、村や学校ではとあることがよく起こる。
いじめである。
表面はなんともなくても、裏側はドス暗いそんなことは日常茶飯事だ。
でもそんな日常を
破壊してみたい。
「あぁ違うか」
破壊する。
そう思うことはなにもおかしいことではない。






「うぅ……」
盗人のうめき声とほとんど同時に近くで爆発音が聞こえた。
一体なにがあったのじゃろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい、妾の宝玉のほうが大事じゃ。
「一つ問うても良いか、なぜ宝玉を盗む?」
「そん、なの、きまって、るだろ」
「高値で売れる、からだよ」
盗人は深くまで被った黒いマスクからもわかるほどの大きく歪んだ笑顔を妾に見せる。
正直な話こやつはもう駄目じゃと悟った。
「……それが、その宝玉が人の命だと知ってもなのか?」
「俺の、家族のためだ、そのために、必要な犠牲だよ」
その言葉を聞いた瞬間締めていた首をより一層強く締める。
「カハァッ……」
「ふぅ」
息を少し吐いた。
男の顔を影で覆う。
「さようなら」
ぐしゃっという音が森に鳴る。
妾の心はただただ虚しい、それだけじゃった。






背中を夕日が刺している。
「大丈夫かーい」
そんな中見渡す限りの地平線に向かって無謀にも声を投げかけてみる。
声は返ってもこず、反響もしない。
普通であればもう死んでいると考えるのが普通だろう、だが僕の『奇術』を使った、生きているはずなのだ少なくとも。
「アルトモー!!カンナー!!」
その瞬間僕の頭に雷が落ちた。
いや、正確に言うとそういう表現なのだが、本当に雷が落ちたような感覚に近い。
僕の真後ろから人ならざる影を感じたのだ。
とっさにしゃがみ足払いを食らわせる。
しかしその脚には何にも当たらなかった。
「気づいちまったか」
崩れた態勢を何とか立て直しながらも後ろへ飛び跳ねる。
そこに立っていたのは、下半身がなくなった茶色の鎧だった。
どういうわけか浮いている。
「まぁ、とりあえず落ち着いて聞いてくれよ鬼神、ビット、俺達一応知り合いだしよ」
「……僕の知り合いには下半身のない鎧なんていないけどな」
「まぁそうなるのが普通か、じゃあこう言えばわかるか?」
彼は一度咳払いをすると聞いたことのある声が耳を打つ。
「あなたを足止めするために来ました白島、と申します」




続く

第九話 破壊と想像 その2 ( No.29 )
日時: 2024/07/15 00:03
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)


 一面に広がる真っ白な世界、一体なにが起きている?僕は確か、僕は村を見つけて、幸せな家族を想像して、破壊、した……?ってことは、これは、自我を失い自分でもなにも出来ない状態ってことか……?

 突如人の叫び声が聞こえる、声の方を振り返ってみるとそこにはスクリーンのような物が映し出されている。真っ白な世界なのにスクリーンがある、なんとも変な気分だ。

「は?」

 そこに写っていたのは、半狂乱となった僕と戦うあの鬼のような人だった。山をも変形するほどの攻撃を影のみで防ぐ彼女の腕からは血がでているようだ。

 これは僕なのか、ビットさんもキヤもいない、あの人達に、皆に、迷惑をかけないように修行をしたかったのに、それがこのザマかよ。少しでも邪悪な心に飲まれた、そして人を殺した。殺人犯だ。もう良い、これを止めることができない、僕はただここで指をくわえて見ていることしか出来ない、気絶するまで、彼女に耐えてもらうしか無い。



「ハァ、ハァ、ハァ……」

 一体なにが起きているんじゃ、妾はさきのこともあり、あまり体力を使いたくないのじゃが、なぜあの子が、こんなことを。

 バシュッと鈍い音がしたとともに、全方向からの攻撃が襲い、彼の拳も飛んでくる。この手数の攻撃だと、影を使ういとまもない。そう一瞬思ったその瞬間、妾の右頬を透明ななにかがかする。思考すらさせてもらえないのはこまったものじゃな。

「おい!童!なにがあったんじゃ!答えてくれ!落ち着いてくれ!」

「ガァ毛ァァ毛ァァァァァァァ毛毛ァ!!コ毛ス」

 終わったとほぼ同時に攻撃をしながら彼は印を結び始める。非常にまずい、印を結ばれてしまうと一撃の攻撃がほぼ即死になるやもしれん。印を結んでいる今、決める。行方はわからんが、一か八かにかけるしか無い。

「level 4 影弔かげとむらい

「level 開放 想像ハカイ

 まずい、詠唱が同時に終わった。妾の攻撃は一瞬影を大きくするという溜めと動けないというデメリットが有る。これじゃあ実質自分で首をしめただけじゃあないか。

 妾の周りは影で周りが埋め尽くされ、それと反対に童の方はとてつもない程の透明なブロックに囲まれ埋め尽くされていく。その速さはもはや日が昇るかのごとし。

「シ毛ェェェェ毛ェ!!」

「ウボォォ……」

 ブロックを押し止めるかのように大きな手が出現する。少し遅かったか……さて、問題はここからじゃ。これはとても体力を消費する、あまり長くはだしていられん。しかし、このブロックを破壊することはできない。あまりにも勢いが激しすぎる。滝がぶつかってきているようじゃ。重、たい。

「グッ、なんのそのぉ!!」

 こういうときは気合で押し切るしか無い、妾の世界でが言っておった。瞬間的に力を爆発させ、バリアの根本を押し付けると同時に、ソレを包み込み。影の中へと引きずり込んだのを最後に、ちゃぽんという音がして、バリアのかたまりは消滅した。

「ふぅ、ふぅ、疲れた……」

 動悸、息切れ、胸の痛み、吐き気、めまい、ここまで来るとまるで市(いち)の様じゃ。しかし、いまだ油断はできん、この深淵の先は妾にも想像がつかぬ。

 いまだ戦闘の感触が残るこの場を取り囲むようにしてなにかがいることは彼女は気づいていなかった。それが敵意のないものだから気づかないのか、はたまた敵意を隠しているのか、もしくは......

「今のは凄かったねぇ〜♪」

 ダメだコイツは。出会った瞬間そう感じた。ナタのような形状をした大きな大きな刃を持ったナイフを持ちコイツは現れた。しかし問題はそれじゃない。問題は......

「お主、どうやって影に触れずここまで来た」
「そんなの簡単だよ♪こうさ♪」

 突如コイツは妾の前から消え、気がつくと妾の真後ろにいた。そして一言つぶやいたとほとんど同時に妾の視界は真っ暗になった。

「なーんだつまらないの」




ありがとうございます  ( No.30 )
日時: 2024/09/21 00:19
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)

なんか気がついたら金賞なってました。
ありがとうございます。
私は元気なので、心配はなさらずに。