ダーク・ファンタジー小説
- 第六話(その1) ( No.19 )
- 日時: 2023/07/21 19:14
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「久しぶりだね」
真っ暗の中、不意に後ろで声がした。
とっさに振り返ろううとするが体は動かない。
どこかで聞いた声、大切なあの人の声、世界を変えると誓うきっかけを作ったあの声、僕が殺した声。
くやしさ、悲しさ、怒り、すべての感情がぐちゃぐちゃになる。
「君はどんな時でも、笑顔だったよね」
彼女の声が近づいてくる。
足音一つすら立てずに。
「私は貴方の事が好きだった」
声が近づいてくる。
「ねぇ」
そして僕の前に小さい女の子が現れ、笑顔を作ると僕の方に触れる。
どうやら僕の体は小さくなっているようだ。
「貴方もそうだったの?」
声を出そうとしても出ない。
伝えたい、せめてあの命を無駄にしない為にも、最愛の人を殺めてしまった僕の決意が揺らがないよう、受け止めたい。
自分がしていることの重大さを受け止めないと意味がない。
だからここで、伝えたい。
僕もあなたが好きだったと。
「……はっ……はっ……」
僕は思わず飛び上がる、心臓はまるで目覚まし時計のようにドクドクと大きな音を鳴らす。
一体今のは何だ。
僕の事ではないのが分かるが一体誰の事なんだ。
それにあの女の子、どこかサリーに似ていたような気がする。
あぁ、僕はまだ引きづっているのか。
「おい、寝坊助!」
突如として男の怒号が部屋に響き渡る。
声のした方を振り返ると顔を真っ赤にし、涙を浮かべたビットが立っていた。
「早く起きろよ馬鹿野郎!」
そう言うとビットは僕のもとへと走りこみそのまま僕を抱きしめる。
「!?」
突然の事で全く反応できなかった僕は慌ててビットを離すと、
「一体今はどういう状況なんですか?」
「……悲しいお話とうれしいお話がある、どっちから聞きたい?」
「……では、うれしいお話からで」
僕がそう言うとビットは覚悟を決めたような顔をして、僕の方へと向き直り話し始めた。
【うれしい】お話を。
「うれしいお話っていうのは、爆弾の爆発を止められたって話だ、君がさらわれた後おそらくルソアの部下かなんかが僕を襲ってきたんだけどそいつを拘束してルソアの居場所を吐かせその場所に向かったところでルソアが爆弾の場所に君と一緒にいたんだここからが悲しい話だ、ルソアは君を地面に置くと爆弾事ワープしたんだそしてワープした直後に爆弾の時間がたち爆発したんだ、どこかでただ、おそらくルソアはもう――」
「……生きてない……ですか」
僕がそう言うとビットは頷く、それとともに僕はルソアとの日々を思い出していた。
僕を助けてくれたあの人はもうこの世に存在しない、僕に関わってくれた恩人がまた死んでしまったのだ。
途端に笑いが――――
その瞬間自分を思い切り殴る、びっくりするビットを横目に僕は宙を舞う。
笑うな、僕。
笑うことは受け止め切れていない証拠だ、僕もう二度と逃げない、逃げずに世界を
壊してやる。
壊してやる。
壊してやる。
壊してやる。
いや、
壊す。
――――――――――――――――――――
「ルソア!追い詰めたぞ!」
そう言った僕の目には目に涙を浮かべたルソアが立っていた。
「!?」
「あぁお前か、話がある」
ビックリする僕を他所に涙を拭うと、まるで僕の心までを透かしているかのような目で僕を見据え、
「賭けをしないか?」
第六話(その1) 世界を変える賭け
- 第六話(その2) ( No.20 )
- 日時: 2023/07/25 12:38
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
「賭けをしないか?」
今にもあふれ出そうなほどの涙を拭いて彼はそういった。
一体何を考えているのだろうか、もうこいつにとって僕は敵のはずなのに一体何が目的なんだ。
「……賭けって何だ?」
「俺の代わりにこいつを助けてやってくれ」
彼はそう毅然とした態度で言うが、どこか悔しさ、覚悟が垣間見える。
彼の中では何かが決まっている、僕は瞬時にそれを理解するが、同時にその覚悟がどういうものなのか知りたくなった。
「どういうことだ」
「俺は、殺人、裏切り、テロ、のような非人道的行為を数えられないほど行ってきた、でも俺は気づいてしまったんだ今までやってきたことは俺の家族の弔いにはならないって、俺は今までノブレスへの復讐心だけで生きていた、だからここで俺がお前を殺せばノブレスへの復讐は完遂する、でも俺はもうそんなことはしたくないんだ」
彼はまた泣いていた、大粒の涙が地面を湿らせるほどに。
「毎日苦痛だった、ノブレスの復讐という自分の我儘のためにサリーもマルクドもそしてお前の母と父も、皆殺して生き続けていることが」
その瞬間彼のこめかみを何かが貫き、血が噴き出る。
しかし彼はそれを全く気にせず話し続けた。
「だから、彼を俺と同じような非人道的なことを犯させないようにしてくれ、それをしてくれるのなら俺はこれを海に落とす」
彼の顔を見ると僕はすぐに頷くことができなかった、顔は血で染まり、床もさっきまでの涙が上書きされるほど赤黒くなり、そんな状況の彼を助けるべきではないかと一瞬迷ってしまったのだ。
「……沈黙はそういうことだな、じゃあよろしく、体に気をつけてな」
彼は遺言のようなことを言うと爆弾の方へ向き直る、その瞬間またもやこめかみ辺りを何かが通り過ぎ血がさらに吹き出る。
「……アルハマス」
何かを呟いた彼は、それを最後に消えたのだった。
男の子を置いて。
彼が行ってすぐとてつもない喪失感が僕を襲い、無意識にうずくまってしまった。
「ルソア……」
行ってしまった彼の名だ。
喪失感に浸っている場合ではない、そう気づいたのは腕を鉛の玉が通過してからだった。
右腕に熱い液体が零れ落ちていくようだった、不思議と痛みはなくただただ熱い。
そう考えていると今度は耳を玉がかすめていった。
すぐさま男の子を左手でつかむと僕はその場を後にするのだった。
その場所から約一キロほど離れた崖の上に誰かがいるようだ。
「チッ!三等ごときが裏切りやがって」
男は舌打ちをしながらそう呟く。
右手にはスナイパーライフル、左手にはおそらくライフルの玉を握り締め怒りでわなわなと震える。
「まぁまぁ、落ち着きなさい、たかが三等ですよねぇ?いなくても変わらないですよぉ」
どこからか見覚えのある出っ歯が現れ、その男の肩に手を置く。
男は嫌そうに手を振り払うと、出っ歯にまくしたてる。
「そんなことはどうでもいい、最後に組織の名前を言ったことの方が問題だ、お前の実験としてあいつを入れていたのは理解できるが、その結果があれだろ?もしビットが攻めて来たらどう責任を取るんだ」
出っ歯は少しも悩む様子を見せることもなくこう答えた。
「別にあの兎程度だったら三等で十分ですよ?」
底なしの狂気、それを感じるのはこの男だけではない。
動物、人間、そして植物でさえ、その男の異常性を感じているのだ。
「はッ!やめだやめだ!敵わねぇよボス!」
思わず目を背ける男とそれを笑顔で見続ける出っ歯。
「ところで、新しい実験をしたいんですが―――――――――――――」
男は眉間にしわを寄せつつ話を聞き、無意識にライフルを構えた。
「あの男の子を捕まえて来てくれない?」
「……わかった、生け捕りだよな?」
「もちろん」
――――――――――――――――――――
「はぁっはぁっ……」
私は走っていた。
ビットさんのもとへ、彼のもとへ。
現在、私がいるのはとあるトレイトの村の病院だ。
どうやら彼とビットさんはケガしているらしい。
そして私は彼の病室の前に着くとドアを開けようとした。
その時、
「ありがとうございました、ビットさん」
「……何をする気だ!」
部屋からは話し声が聞こえてきた。
「何って、見てわからないんですか?」
「何で外に行こうとしている!安静にするんだ!」
「嫌です、僕はもうあなたたちに迷惑をかけたくありません、現に僕の前には何回もノブレスの人たちが現れています」
「これは僕の我儘なんかじゃありません次殺されるのはビットさんかもしれない、キヤかもしれない、ほかの人に危害が加わるかもしれない、それなのに僕が弱いままで守られてばっかなのは嫌です、少なくとも山籠もりか何かをして修行をした方が僕にとっても皆にとってもいいはずです」
「意味が分からない、ダメだ!まだ君はケガをしている、体中に穴が開いていて今にも血があふれ出そうな状態なんだぞ!」
言い争っているようだ、そんな中病室に入っていくほどの度胸が私にはなかった。
悔しかった、彼は私やほかの人、強いてはビットさんの事を考え、苦しい思いをしているのに私には支えることができない、それが何よりも一番苦痛だった。
二人の役に立ちたい、そう言って私は二人に無理やりついてきたのに何もできない。
「それで言い訳ねぇだろ、クソが……」
思わず言葉を吐き、私の中を劣等感と悲しみが駆け回りそして、
一つの覚悟へと
昇華するのだった。
第六話(その2) みんなの覚悟
- 第六話(その3) ( No.21 )
- 日時: 2023/08/03 20:49
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
気が付いたら私は病室のドアを開けていた。
「!?」
驚いた顔をする彼と、真っ赤になったビットさんの顔が見え、思わず固まる私。
「アルトモ!久しぶりだね!」
彼はすぐさまそういうが、さっきまでの会話を引きづっているくのかひどく動揺しているように見えた。
私は彼のもとまで何も言わず歩くと、率直に聞いてみることにした。
「修行……するそうですね……?」
突然の問いに目を見開く彼と、あっけにとられているビットさん。
この場は異様なほどの何かが充満し、空気が重くなっていくのを肌で感じた。
「聞いてたんだ……」
「はい……」
「私h――――――――――――――――――――」
「止めないでくれ」
遮るように彼はそう言った。
ボロボロの雑巾のような体を無理やり彼は動かし、窓から身を乗り出す。
その時だった。
「へえー泣かせてくれるじゃないか、まぁ君を捕まえるから意味ないけどね」
突如として窓から現れた金髪で糸目のその男は、張り付けたような笑顔だった。
狂気より狂喜、そんな言葉が似合いそうだ。
男はただでさえ不気味なその顔をさらに不気味にゆがめながらも笑うと男は一言こういった。
「俺も混ぜてy――――――――――――――――――――」
僕は死を確信していた。
男の体から発せられるとてつもないほどの殺気。
そのどれもが僕の体を刺し、体中の穴から血が噴き出す。
「俺も混ぜてy――――――――――――――――――――」
その瞬間、男の首はまるでおもちゃのように吹っ飛ぶ。
サリーの記憶と人影が交差する。
「え?」
それがあの不気味な男の最後の言葉である。
ドサッ
そこからは僕の記憶はない、気が付いたら嫌な空気のする薄暗い森にいた。
すぐさま僕はボロボロの体を起こし、周りを確認する。
かつて、ビットの秘密基地へ行くときに入った森ではない、何となく僕はそう思った、あの時は見たこともない花が咲き不気味な木がそびえたってはいなかったからだろう。
「ここは一体……」
そう思わず声が漏れ出てしまう。
少なくとも病院の近くには森なんてない。
おかしい、どんな移動をしたとしてもこんな場所には来れないのだ。
だが、
進むしかない。
現実を、この腐った世界を、変える為には僕が変わるしかないのだから。
――――――――――――――――――――
「……ハルマクア博士ぇまだできないのかぁね?」
「アハハ……思っていたよりも開発が難しくてね~」
「実験体はたくさんいるんだから早めに開発してほしんだがね?」
ここはとあるノブレスの国、オルボモスの城の地下。
ここでは様々な薬品を開発しており、それに伴い人体実験も行っている場所である。
この地下研究所の目標はトレイトの殲滅。
現在、研究員は一人しかおらず、それがこの天才、ハルマクアである。
「ッ!!!」
博士の声にならない驚きとともに研究所は光に包まれる。
「できたッ!できたぞッ!!ついに!ついに!」
―――――――人を操る薬ができたぞッ!!!!!!!!――――――――
第六話(その3) マリーとネット