ダーク・ファンタジー小説

第七話(その1) ( No.22 )
日時: 2023/08/16 15:34
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







「ほう……久しぶりじゃな、わらしがこの森を訪れるのは……」
霧がかかった景色の中で女性の声が乱反射する。
どこかなまめかしく、怪しげな雰囲気のその女性はそばにあった大きな石に腰を掛ける。
そして霧の晴れた場所からそのわらしがいる場所を見ていた。
一体何をしているのだろうか、こいつは誰なのだろうかそんなことを考えながらもひたすらにわらしを見ていた。
「……ノブレス……」
女性はそうぽつりとつぶやくと木々が激しく揺れ、鳥が鳴き、動物たちが暴れまわる。
「また……か」
悲しそうにそう言うのだった。




誰かが見ている、僕は直感的にそう思った。
最初は気のせいだと思ったが、明らかに視線を感じる。憎悪などの嫌な感情を持ちながらも何もせずただ見るだけ。
それがこの森の薄暗さと異様なほどマッチし、さらに不気味に感じさせた。
「ビットさん?」
視線を感じたほうを何気なく振り返り僕はとある人の名を口にする。
しかしそこには人も動物も木も何もなく、あるのは僕が通ってきた道だけだった。
「?」
しかしここで僕は何か異変を感じる。
「……石畳?」
そう、僕が通ってきた道に石畳が現れ始めたのだ。
そして奥には見えないほど深い霧。
死神の罠……僕にはそう見えた。
薄暗いこの森で霧が発生し、浮き出るかのように石畳も出現した、疑うには十分すぎる罠だ。
どうしようか、僕は
進むのか
進まないのか




――――――――――――――――――――
「ハルマクア!!ついにできたんやな!」
私はそう言って、階段を転げ落ちるかのように降りるとハルマクア博士に向かってダイブする。
「はいぃ!前回作った不老不死の薬をサンプルについに作ることに成功いたしました!」
そう言って博士は私にガラス張りの水槽に入った被検体を見せられる。
それは小さい女の子だった。
忌々いまいましいトレイトのね。
「?あれ?人を操る薬を作ったんじゃないんか?」
「あぁ、私もそう思ったんですが研究員十人に試してみたところ全員死んでしまいまして……」
「はぁ……じゃあ何で我を呼んだんや?」
「この薬に適応する者が見つかったんです、つまり今回の報告はこの醜いトレイトの奇術を我々が命令をすることで使うことができる、戦況を変えられるそういう報告だったんです――」
自信満々に言う、ハルマクアを後目しりめに私はドスの効かせた声で遮るように言い放つ。
「我は、兵隊を作れなどと言ってないが?」
その言葉を聞いた直後、ハルマクアから大量の汗が噴き出るのを見なくても感じた。
「え、えっとその、わ、私はッ――――――――――」
「黙れ」
「ッ⁉」
「我の命令を無視した、すなわちそれが何を意味するか……分かるな?」
「でもッ、私はッ、貴方の命令でッ!」
「おい、黙れと言っただろう?違反、二回目」
私がそう言うと即座に騎士がハルマクアの周りを取り囲む。
「貴方は本当に優秀な博士だった、本当に残念だ」
「嫌だ……嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
ハルマクアのその言葉を最後に騎士は手当たり次第にハルマクアを殴っていく。
血が出ようとも、嘔吐おうとしようとも命乞いをしても、涙を流してもひたすら殴り続ける。
顔が腫れようが、眼球が飛び出そうが、歯が飛び出そうが、顔の原型がなくなろうが、関節が逆をむこうが、骨が折れようが、悲鳴がなくなろうが、やめない。
私が止めをかけるまで、彼らはひたすら殴り続ける、殴られる側に残るのは、痛みと憎悪と
人の恐ろしさだけだ。
―――――――――――――――――――――

「……ここはどこだ?」
「一体どこでしょうかね……?」
謎の男の首が吹っ飛び、男の子は意識を失い、突然光に包まれたかと思ったら知らない家のベッドで寝ているって色々なことがありすぎて意味が分からない。
幸い、アルトモは僕と一緒だが、あの子の姿はない。
誰かの攻撃を受けてどこかにワープした、僕が出した答えはそれだった、というかそれしか考えられない。
「ビットさん、なんかここ変じゃないですか?」
「ん?何が?」
「もし、私たちに危害を加えようとしているのであればわざわざこうやってベッドに寝かせる必要ないじゃないですか、それがちょっと意味わからないなと思いまして……」
確かに、アルトモの言う通りだが、世の中頭のおかしい奴はごまんといる、万が一でもいや億が一でも可能性があるんだったらこの場合は警戒しておくのが得策だろう。
トントン、と突然僕たちのドアが叩かれ、この場を静寂へと変える。
すぐさま臨戦態勢を取ろう……と……した……b……

「……あちゃ~また寝ちゃったか、常時奇術発動は辛いね~も~……」






第七話(その1) 常時発動

第七話(その2) ( No.23 )
日時: 2023/08/21 20:18
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







一体何でこんなことになったのだろうか、私は何もしてないのに、何で大切なものを何度も破壊されなきゃいけないんだろうか。
前の世界でも私を壊されて、この世界でもまた壊されて、何も残ってない私をまた壊される。
そんなのはもう嫌だ、我慢したくない、例えわらべを殺そうとも、絶対に
守りきってやる。
私はその決意を胸に手を強く、強く握りしめたのだった。



「はぁ、はぁ、はぁ」
歩けど歩けど、坂道ばかり、絵面えづらも何も変わらずただただ体力だけが失われていく。
額には汗がにじみ、首筋をつたい地面へと落ちていく。
ぽたりぽたりと落ちていく。
心臓はバクバクと大きな音を鳴らし、呼吸も荒くなり本当に倒れてしまいそうになる。
が、僕は何とか意識を保つ。
「はっはっはっ……」
あぁこれはやばい、本当にやばい。
意識が、もう……
それでも僕は足を一歩踏み出した
つもりだった。
急に足を後ろに引っ張られそのまま前のめりに倒れたのだ。
そして僕はそのまま意識を失った。



「……やっぱりわらわには出来んな……」
白目をむき、泡を吹いて意識を失っている小さなわらしをわらわは気が付いたら抱き上げていた。
元の世界でもわらわは人を殺したことがなかった。
同じ仕事仲間には人を殺したことがある者もたくさんおった、がわらわはそれでも殺せなかった。
わらわの命が天秤にかかった時にも。
わらわの大切なものが壊されてる時も。
何もできなかった。
今回もそうだ。
また逃げるしかないんだ。
わらわはひとまずわらしを本体の前まで持って行き目の前に置くと共有していた意識を元の体へと戻す。
「……ふう……どうしたものかな」
一体これをどうしろと言うのだ。
そもそも何故このわらしをわらわは持ってきた、自分でもよくわかってない。
わらわはまたゆっくりと息をはきながら頭を抱えた。
何をするのが正解なのじゃろうか、元の場所に戻す?それとも……
ここで育てる……?
一瞬そんな言葉が頭の中をよぎる、がそんなのは考える間もなく〈いいえ〉じゃ。
もう傷つきたくないんじゃ。
わらわは両手で思い切り頬を叩いて喝を入れるとわらしのほうへと向き直る。
その瞬間目を開けるわらし、本来わらわは見えるはずもない。
魂の寄せ集めみたいなものだからの、
それなのに、
それなのに、わらわはわらしと目が合ったのじゃ。
「……女の、人……」
力なく言うそのわらしにはどこか悲しさがあった、とても辛い思いをしてそれを乗り越えかけている途中、そんな風に感じた。
不思議とそのわらしを見ていると先ほどまであった育てるという考えが現実味を帯びていく。
鎖がつながれていく、わらわの首からわらしの首へと。
紡がれていく、わらわから女子おなごのように華奢な体をしたその子へと。
伝わっていく、その子の気持ちが、わらわの思いが。





――――――――――――――――――――
「ん~っ!」
僕はそう言って体を良く伸ばす。
「あ!起きましたか!」
起きた直後の頭の中を聞いたことのない声が巡る。
まだ視界がはっきりとせず声の主が誰かは分からないが、声からしておそらく女性だろう。
「誰だ!」
とっさに拳を僕は構えるが、その誰かの手をたたく音で力が抜けていく。
「私は敵ではないです、落ち着いてください」
良く伸ばしたはずの体が重みを帯び始め、そしてベッドへと沈んでいく。
「い、一体何をした……」
力が抜けていくとともに強烈な眠気がまた僕を襲うがそれを何とか抑え、その女性に尋ねる。
「ごめんなさい、私の奇術の所為なんです」
「奇術?じゃあ使うのをやめてくれ」
「それが……できないんです、常時発動型でして……」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れ出てしまう。
そりゃそうだろう、常時発動型の奇術なんて聞いたことがない。
というか前例が多分ない。
「?大丈夫ですか?」
その女性は不安そうに聞いた来る、おそらく僕がポカーンとしていたからだろうが。
「……えーと大丈夫です……」
僕にはこれしか言えない。
「一応解除できるか試してみますね……エイッ!」
女性はそう言うと今度はもっと大きく手を鳴らした。
その瞬間霧が晴れたかのように目がさえてくる。
それと共に僕の目の前には
ノブレスの顔をした女性の姿が映るのだった。








第七話(その2) 鬼と音

第七話(その3) ( No.24 )
日時: 2023/09/20 20:43
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)





「閃光弾を使うなんてやりすぎだったかなぁ……」
俺がいるここは森の中にひっそりとたたずむ洋館である。
いつ、だれが、何のために作ったかは定かではないが、とにかくここは洋館のはずである。
俺はそう思いながら自分が目の当たりにした意味の分からない空間を相変わらずにらみつけた。
少し濁ってて、ぶよぶよしてはいるが普通の空気のような……
「あー!もう来たのー?!」
小さい子供のような声が突然後ろから聞こえ、振り向きざまに俺は手にしていた銃を発砲する
が、
すんでのところでかわされ、逆に俺の頭がそのままねられる。
「もーダメだよ♪僕の気配ごとき察しないと!」
「と言われましても……」
血だらけになった小刀のようなものをくるくると回しつつ、男の子は俺の首を手にするとこちらへパスをした。
すかさずキャッチをする俺、そしてそのまま首に取り付ける。
「ありがとうございます」
「いえいえ♪じゃあ入口まで案内するからついてきて!」
男の子……いや、彼の名は、
イサ・ノルベール
かつてあったオシャッシ―連続殺人事件の犯人であり、わずか9歳で人を手にかけ、彼に関わった者すべてを殺してきた、そんな人物なのだが
現在なぜかこのアルハマスに所属している。
そして何より、一番彼の恐ろしい所は、
奇術、人殺し、である。
その名の通り、人を殺すことで発動される。
そしてその発動した際の内容は……
「着いたよ♪」
っとそんなことを考えている間に洋館の入り口に着いたようだ。
彼は持っている小刀をその入り口と呼ばれるところに刺すと、その瞬間ぶよぶよとしていたものが破裂する。
音は出ないが相変わらずこの爆発にはなれないな。
「はーい♪入ってい入って♪」
彼はそのままドアノブをひねり、中へと案内をする。
「こっからまっすぐ行って二番目のドアに入ってね♪」
彼はそう笑顔で、狂気じみた笑顔で、
「……せいぜい死なないようにね♪」






「ふぅ……あー疲れたぁ……」
俺はもげた腕を接合しながらそう呟く。
あそこで彼と別れてからは大変だった。
いきなり火の玉はでるわ、ナイフはとんでくるわ……もはや地獄絵図だったよ。
「フフッあなたって本当に死なないのね」
「まぁ、はい……痛覚はあるんで痛いんですが」
「でも、もう慣れたでしょ?」
「まぁ、そう、ですか、ね~……」
俺の前には今は女がいる、白いシスターの服を着て、十字架を握り締めた女がね。
彼女の名はリルト・ノルベール、さっきの子の妹である。
「それにしても、みーんな遅いね、君が来てくれなきゃこの部屋八つ裂きにするところだったよ」
ニコニコとした顔で僕を見つめながらそう彼女は言う。
「まぁ、暇つぶしにもならないけどね」



――――――――――――――――――――
「ノ、ノブレス⁉⁉」
僕はとっさにそう叫んでしまった。
やばい、このまま僕は殺されるかもしれない。どうにかしてここからキヤと逃げる方法を……
そんなことを必死に考え始めた僕に彼女は慌てながらも返してくる。
「ち、違いますよ!!」
その瞬間、部屋にあった花瓶が大きな音を立てて割れ、この場を静かにさせると彼女は落ち着きを取り戻したかのように静かにこう答えた。
「私……私は、今のように奇術が使えるのでトレイトのはずです……」
「って言われてもな……」
あの子のような人はそうそういないはずなんだけどな。
そもそもサリーさんだけで戦争の引き金になりかけたっていうのにこりねぇなホント。
とりあえず僕は彼女の話を信じてみることにするのだった。
「はぁ……」
「?どうしました?」
「いや、これからどうしようかと思ってな」











第七話(その3) 人殺しになるところだったな