ダーク・ファンタジー小説
- 第七話(その2) ( No.23 )
- 日時: 2023/08/21 20:18
- 名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)
一体何でこんなことになったのだろうか、私は何もしてないのに、何で大切なものを何度も破壊されなきゃいけないんだろうか。
前の世界でも私を壊されて、この世界でもまた壊されて、何も残ってない私をまた壊される。
そんなのはもう嫌だ、我慢したくない、例え童を殺そうとも、絶対に
守りきってやる。
私はその決意を胸に手を強く、強く握りしめたのだった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
歩けど歩けど、坂道ばかり、絵面も何も変わらずただただ体力だけが失われていく。
額には汗がにじみ、首筋をつたい地面へと落ちていく。
ぽたりぽたりと落ちていく。
心臓はバクバクと大きな音を鳴らし、呼吸も荒くなり本当に倒れてしまいそうになる。
が、僕は何とか意識を保つ。
「はっはっはっ……」
あぁこれはやばい、本当にやばい。
意識が、もう……
それでも僕は足を一歩踏み出した
つもりだった。
急に足を後ろに引っ張られそのまま前のめりに倒れたのだ。
そして僕はそのまま意識を失った。
「……やっぱりわらわには出来んな……」
白目をむき、泡を吹いて意識を失っている小さな童をわらわは気が付いたら抱き上げていた。
元の世界でもわらわは人を殺したことがなかった。
同じ仕事仲間には人を殺したことがある者もたくさんおった、がわらわはそれでも殺せなかった。
わらわの命が天秤にかかった時にも。
わらわの大切なものが壊されてる時も。
何もできなかった。
今回もそうだ。
また逃げるしかないんだ。
わらわはひとまず童を本体の前まで持って行き目の前に置くと共有していた意識を元の体へと戻す。
「……ふう……どうしたものかな」
一体これをどうしろと言うのだ。
そもそも何故この童をわらわは持ってきた、自分でもよくわかってない。
わらわはまたゆっくりと息をはきながら頭を抱えた。
何をするのが正解なのじゃろうか、元の場所に戻す?それとも……
ここで育てる……?
一瞬そんな言葉が頭の中をよぎる、がそんなのは考える間もなく〈いいえ〉じゃ。
もう傷つきたくないんじゃ。
わらわは両手で思い切り頬を叩いて喝を入れると童のほうへと向き直る。
その瞬間目を開ける童、本来わらわは見えるはずもない。
魂の寄せ集めみたいなものだからの、
それなのに、
それなのに、わらわは童と目が合ったのじゃ。
「……女の、人……」
力なく言うその童にはどこか悲しさがあった、とても辛い思いをしてそれを乗り越えかけている途中、そんな風に感じた。
不思議とその童を見ていると先ほどまであった育てるという考えが現実味を帯びていく。
鎖がつながれていく、わらわの首から童の首へと。
紡がれていく、わらわから女子のように華奢な体をしたその子へと。
伝わっていく、その子の気持ちが、わらわの思いが。
――――――――――――――――――――
「ん~っ!」
僕はそう言って体を良く伸ばす。
「あ!起きましたか!」
起きた直後の頭の中を聞いたことのない声が巡る。
まだ視界がはっきりとせず声の主が誰かは分からないが、声からしておそらく女性だろう。
「誰だ!」
とっさに拳を僕は構えるが、その誰かの手をたたく音で力が抜けていく。
「私は敵ではないです、落ち着いてください」
良く伸ばしたはずの体が重みを帯び始め、そしてベッドへと沈んでいく。
「い、一体何をした……」
力が抜けていくとともに強烈な眠気がまた僕を襲うがそれを何とか抑え、その女性に尋ねる。
「ごめんなさい、私の奇術の所為なんです」
「奇術?じゃあ使うのをやめてくれ」
「それが……できないんです、常時発動型でして……」
「はぁ?」
思わず素っ頓狂な声が漏れ出てしまう。
そりゃそうだろう、常時発動型の奇術なんて聞いたことがない。
というか前例が多分ない。
「?大丈夫ですか?」
その女性は不安そうに聞いた来る、おそらく僕がポカーンとしていたからだろうが。
「……えーと大丈夫です……」
僕にはこれしか言えない。
「一応解除できるか試してみますね……エイッ!」
女性はそう言うと今度はもっと大きく手を鳴らした。
その瞬間霧が晴れたかのように目がさえてくる。
それと共に僕の目の前には
ノブレスの顔をした女性の姿が映るのだった。
第七話(その2) 鬼と音