ダーク・ファンタジー小説

第八話(その1) ( No.25 )
日時: 2024/02/21 17:56
名前: 味海 (ID: qWWiRdBA)







「……あれ……ここ……どこ……だ?」
先ほどまでとは打って変わって、電球のような形のものが部屋を明るくさせている天井が真っ先に入ってくる。
パッと辺りを見回してみても窓はない。
そして何故か僕は、そんな木造の部屋のような床で横たわっていた。
一体ここはどこなのだろうか、そんなことを考えながら体を起こし、ひとまず今までの事を整理する。
「そうだ、僕……気を失って……」
気を失った、確かにそれは覚えている、なのになぜ僕はこんな小屋にいるんだ?
ひとしきりそのことについて考えてみたが、一向に答えは出なかった。
そんなとき、部屋のドアを誰かが叩いた。
瞬間的にバリアを準備をする僕を他所に、おぼんの上のコップに水をなみなみと入れた女性が入ってくる。
その女性には血で染められたような赤黒い角が生え、トレイトのような長い耳、黒い薔薇バラの模様が描かれた着物に、首や両手両足に鎖を付けたきわどい和風のコスプレをしたような姿をしていた。
「もう、起きていたのか」
少し低く、何故か安心してしまうような……そんな声で彼女は僕に話しかけてくる。
この人は一体誰なのか、敵なのか、味方なのかそれは次の一言で決まった。
「えーと……もう大丈夫なのかい?」
張りつめていた空気がプツンと切れた。
そして僕はいつの間にか上げていた腰をへなへなと落とすのだった。
少なくとも敵意はない、それは彼女の言葉、彼女の表情を見れば一目瞭然だ。
「おお!?どうしたのじゃ!?どうしたのじゃ!?何かわらわがしてしまったのか!?」
「あぁ……いえ……」
気が付いたら僕は彼女に気を許していた、何故だろうか。
……理由は良くわからない。
だが、一つ言えることがある。
「あの……」
「何じゃ?」
――あなたは誰ですか?――
なみなみとがれた、水がおぼんの上でこぼれる。
しかし、彼女は動揺したわけではない。この瞬間に何かが起きたのだ。
その何かはこの場所に揺れを引き起こし、この建物を大きく揺らした。
彼女は慌てておぼんを床に置き、ドアの外の闇へと消えていく、おそらく雑巾か何かを取りに行ったのだろう。
彼女が行ってしまってから、僕はずっと考えていた。
今のは一体何なんだろう、地震……とは少し違うような、まるで人為的に起こされたかのような違和感があった気がする。
とりあえず、僕は倒れたコップを置き直し、彼女を待った。がいくら待てど彼女は帰ってこなかった。仕方なし僕は扉の外へと向かうがその時は僕は気づいてしまった。
この扉の外、何かおかしい。普通、電気をつけていなくとも部屋からの明かりで廊下が見えそうなものだが、廊下が全く見えないのだ。
それどころか、虚空の中にポツンとドアが置いてあるようだった。
彼女は一体どこへ……?
そう思い一歩、足を踏み出したその時、後ろから小さな音が聞こえた。
パタンッと。



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「おーきーろー!!」
真っ暗闇の世界の中で聞きなじみのある声が反響する。
「おーきーろぉぉぉぉぉ!!!」
耳元で大声を上げられ思わず飛び上がるように私は起きた。
耳がジンジンする……
「よう寝坊助!」
そう、ビットさんは私を呼んだ。
「お、おはようございます……ビットさん」
ニッコリとはにかんで笑う彼、そして
謎の女。
瞬間的にそれを認識した私は瞬時にベッドから飛び降り、拳を女へと振るった。
がしかし、寸でのところでビットさんに止められる。
ぶわっと部屋全体に風が送られたかと思うと、ビットさんは優しく私に話しかけた。
「この女の人は敵じゃないよ、家の前で倒れていた僕たちを助けてくれたらしい」
とたんに汗を垂らしながらぺこぺこするその女性は確かに悪人には見えなかった。
「……なんで喋らないんですか?」
「……!……!!……!」
「……なんかこの人奇術を常に使用しちゃってるらしいんだよね……で、さっき眠らされかけたから無言でなんとかやってもらってるんだ」
ぶんぶんと首を縦に振る女と何とも言えない顔をするビットさん。
そんな二人に私がかけた言葉は
「……はい?」
だった。






「……って訳なんだよ、分かった?」
「……まぁ、その……なんとか理解はしましたけど……」
チラッとその女性を見る。
ツヤツヤとした長い髪、ノブレスのような長いまつ毛、クリクリとした大きな目、整った顔立ち、そして圧倒的胸。
むしろそれが一番目立ってる、大きさはどのくらいあるんだろう……
服は全体的に紫色?強いていうなればマルタヤの花のような色の服を着ていて、とても自分の奇術のせいで喋れなくなっている人には見えない。
「……!」
私に見られているのに気付いたのかまたペコリとお辞儀をする。
思わずしかめっ面になる私と苦笑いするビットさん。
ノブレスとトレイトのハーフなんてまずあの人以外いないのに……
私はそのままその女の人の元へと歩いてゆく、そして
「助けてくれてありがとうございます」
そう、お辞儀をした。






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「……さて、皆集まったかな?」
長い机を見回して男は言った。
「では、今から特別会議を始める」








第八話(その1) 虚空と存在感のある胸