ダーク・ファンタジー小説

Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.110 )
日時: 2013/02/24 16:10
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第25回「泣き声が聞こえる」

母が亡くなったあと、父は、十歳になる姉と幼いわたしを連れて、そこへ引っ越してきた。
まわりは田んぼばかりで、山は見えるし、近くにはきれいな川もあった。
途中から、アスファルトもしかれてないような道を車で走り、わたしたちは新居にたどり着いた。

「古いけど、わりとシックなおうちだね。こんな村の中にあるにしては、ちょっと場違いかな。夜になるとお化けでも出そうな洋館だ」

父の感想はこうだった。そばにいた姉は、

「長いこと誰も住んでなかったっていうし、ほこりがすごいね」

と言ったあと、わたしの方を向いてしゃがみ込み、視線を合わせると言った。

「あなた、ちょっとその辺で遊んでなさい。中へ荷物を運んで、掃除もするから、まだおうちには入れそうにないわよ」

引っ越し屋のおじさんが、大きなタンスや冷蔵庫なんかを運んでいた。

わたしは邪魔にならないよう、姉の言うとおり、その辺を歩いた。
家の裏にまわってみると、物置のような小屋があり、そこから子供の泣き声がしていた。

「なにしてるの」
わたしは声をかけた。小さい男の子が座り込んでいた。

「お腹が空いちゃった。ここは暗くて怖い。でも家には戻りたくないの」

「なんで」

「……君のパパやママはやさしい?」

「やさしいよ。わたしたち、今日この家へ引っ越してきたの」

「そうなの? ボクのパパとママは? どこへ行ったの?」

「知らないよ」

「そっか。もう、いないんだね!」

男の子は喜んだように立ち上がり、走り出した。わたしも立ち上がり、そのあとを追う。

「待って待って。たいくつだから一緒に遊んで」
男の子はそのまま、わたしの家の中にまで入っていく。

「ちょっと! まだ入ってきちゃダメだって言ったでしょ!」

姉に怒られてしまった。
掃除を手伝ってくれていた管理人さんが、「どうしたの」と様子を見に来ると、姉は「すみません。この子、言葉もまだ覚えたてなので……。チョウチョとでも話してたんでしょう」と言って苦笑いした。

わたしは男の子を探すのをあきらめ、家のすぐ前で、アリの行列なんかを見ていた。
すると間もなく、姉と同じくらいの年の、やんちゃそうな男の子が通りかかった。

「近所の方ですか? ここへ引っ越してきた、Kです。よろしくお願いします」

姉はその子に気づくと、礼儀正しくあいさつした。顔をあげ、にっこり微笑む。

男の子は、姉に微笑みかけられると、人見知りでもしたように顔を伏せ「……Nです」と、自分の名字をつぶやいた。

「何年生?」姉が聞いた。

「……五年」

「五年生? わたしと同じね。わたし、明日からXX小学校に転校するの」

姉がそう言って近づくと、男の子は緊張に耐えられなくなったように逃げ出した。
そして遠くから、「やーい! お前の家、お化け屋敷だぞー!」と叫んだ。

「なんですってー! あんた、明日会ったら覚えてなさい!」

姉は逃げる男の子にこう叫び返した。
姉は、前に住んでいた町でも男の子とよく喧嘩をしていた。でもそういう時、仲が悪いようには全然見えなかった。

引っ越しが終わって、慣れない台所でカレーを作って食べて、お風呂に入り、家族三人で布団に入った。


わたしは夜中、目を覚ました。昼間に聞いた、あの男の子と同じ泣き声がしていた。
その泣き声は、二階のいちばん奥の部屋から聞こえていた。

「どうしたの。まだ泣いてるの」

「思い出したんだ。ボクほんとは今、土の中で眠ってるの。誰かに見つけて欲しい……」

部屋が暗くてよく見えないが、男の子の身体は傷だらけのように見えた。

うしろから、わたしの名を呼ぶ姉の声がした。

「トイレはそっちじゃないでしょ。ほらこっち来なさい。もう、寝ボケちゃって」