ダーク・ファンタジー小説
- Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.113 )
- 日時: 2013/03/03 17:24
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
第26回「ボクは二人目のターゲット?」
その日の夕方、ボクが学校帰りの道をひとりでとぼとぼ歩いていたら、自転車に乗ったAから声をかけられた。
Aはボクのお兄ちゃんの友達で、いいひとだった。
「よう。お前の家って、SGF、持ってないんだろ?」
SGFは発売したばかりの超人気RPGで、誰でも欲しがるゲームソフトだった。
「うん。うちのお兄ちゃんが受験生だからって、親が買ってくれないんだ」
「はッ。受験勉強なんてやってらんねっつの。弟のお前には関係ないもんな。お前はやりたいだろ。どうだ、これ、欲しければあげるよ」
「ウソでしょ? ほんとにくれるの?」
「いらないんなら、他の子供にあげるぞ」
「欲しい欲しい! ボクにちょうだい!」
Aがボクにくれたのは、間違いなくSGFのソフトだった。
でも箱が土で汚れていた。見てみると、Aの制服も、そでやすそが汚れている。
「お前はいつもひとりで寂しそうだもんな。ただし、俺からもらったって、誰にも言うなよ。家に帰っても、隠れてプレイしろ。お前は口がかたいだろ」
こういう約束で、ボクはSGFを手に入れた。
ボクは家に帰ると、夢中になってゲームをやった。
迷わず、どんどん先へ進んでいくと、
「そっちじゃない」
という声が聞こえたので、反対の道を行ってみたら、正解だった。
その時はよかったけれど、しばらくして、またどこへ行けばいいか分からなくなってしまった。
「さっきの村へ戻れ。ばあさんがヒントを教えてくれる」
また声が聞こえた。ボクは「分かった」と返事をする。
そこでやっと、変なことに気づいた。
さっきから聞こえてくるこの声。ゲームのボイスかと思ったら、そうじゃない。もっと近くから、リアルに聞こえている。
ボクは、携帯ゲーム機の画面から視線をずらした。
伸ばした自分の足の先に、黒くて丸い影が出来ている。それはボールみたいに丸かった。
なんの影だろう、と思って見上げてみたら、男の子の顔がそこにあった。
ボクはおどろいて飛び上がる。「ひくっ……」と、しゃっくりみたいに短い声が出た。
「本当だったら、今ごろは僕がプレイしているはずなのに」
その男の子は、ボクと同じくらいの年齢で、首から下がなかった。
男の子の背後にあるクローゼットが、はっきり見えている。
「僕がこのゲームをもらったんだ……これは僕の物なんだぞ」
首だけの男の子が、こう言った。
でも違う。このソフトはボクのだ。Aからもらったものだけど、今はボクのだ。
ボクは勇気を出して、首をぷるぷる横に振って、「帰れ、帰れ」と頭の中で繰り返した。
「またゲームばかりして。ご飯だよ」
気づくとお母さんがドアのところにいた。
ボクははっと我に帰る。
男の子の顔は消えていた。
ボクは夢でも見ていたのだろうか。
リビングへ行くと、テレビでニュースが流れていた。ボクの住む町で殺人事件があったらしい。
【X町の山の中で、首のない子供の遺体が見つかりました。遺体は、先日から行方が分からなくなっている男の子のものではないかと、捜査を進めていて……】
ボクはニュースなんかどうでもよく、ゲームのことを考えていた。
あのゲームソフトは、やっぱり、あの男の子の物でも、ボクの物でもなく、Aの物じゃないか。
ご飯を食べながら、お母さんの顔を見ていると、自分が悪い子のような気がしてきた。
翌日もボクはひとりで、学校帰りの道をとぼとぼ歩いていた。
「よう。今日もひとりで寂しそうだな」
この場で待ち伏せていたように、Aが声をかけてきた。この道はいつも暗く、まわりを見ても、ボクとAしかいなかった。
「昨日より、もっと良い物をあげるぜ。だからさ、S山のてっぺんまで来いよ」
ボクはそれには答えず、カバンの中から、ある物を探した。
「俺は先に行って待ってるから、お前は後から来い。ひとりで、誰にも秘密で来いよ?」
Aはまるで、ひとを殺したくてうずうずしているように、目をギラギラさせ、息は荒くなっていた。
ボクは昨日の夜から考えて、結論を出していた。
Aの前に、昨日もらったSGFのソフトをつきつける。
「ごめん。やっぱりこれ返すよ! こんな高い物、もらっちゃいけないと思うから!」
Aは「あん?」と言って恐い顔をしたが、ボクはAにゲームソフトを押しつけ、振り返ると、全力で家まで走った。
ボクは後ろめたい気分がなくなり、その日の夕飯では、お母さんの顔もまともに見ることができた。
「もうすぐお前の誕生日だね。何か欲しい物はあるか」
そう聞かれて、ボクは「欲しいゲームソフトがあるんだ」と答えた。
テレビのニュース番組では、例の殺人事件の犯人がつかまったとか言って騒いでいた。犯人は少年なので、名前はふせてあった。
その後、Aには会っていない。Aの家族も遠くに引っ越していった。