ダーク・ファンタジー小説
- 「見えたまま」 ( No.120 )
- 日時: 2013/03/16 18:50
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
第28話「見えたまま」
K子ちゃんは内気で、自分から話しかけてくるような子ではなかった。
彼女が風邪をひいて学校を休んだ日、親しい友達も居ないというので、家の近い私がプリントを届けに行った。
ベッドの上でK子ちゃんは絵を描いていた。それは窓からの景色を描いたもので、本当に写真みたいな、見えたままそっくりの上手な絵だった。
私はもっと見せてとお願いした。彼女はスケッチブックを見せてくれた。
町並みや、自然の景色を描いたもの。犬や猫、鳥や虫を描いたもの。どれもすごく上手い絵だった。
でも私は、何かが足りない気がした。そうだ。ひとの絵がないんだ。
K子ちゃんはこんなに絵が上手なのに、どうしてひとの絵は描かないの?
私が聞くと、彼女は、「小さい頃、ママに言われたの。ひとの絵を描くのはやめなさいって。幼稚園や学校で描いたら、きっと虐められるからって」と言った。
なんでだろう。
描けばいいのに。
私は今日まで、K子ちゃんがこんなに絵が上手だって知らなかった。クラスのみんなも、知ったらきっとK子ちゃんのこと見直すと思う。
しばらく経って、学校の美術の授業で、クラスメイトの似顔絵を描くことになった。
写生の練習なので、イラストみたいな絵にしちゃダメ。見えたままを描きなさい。
そう先生が言っていた。
私は絵が下手っぴだ。その上、描くのが遅い。他の子たちはどんどん描き終わっていく。
ふいに教室内がざわめいた。
非難するような声で「K子ちゃん!」と聞こえた。
私は振り向いてそっちを見た。
K子ちゃんの絵のモデルになった女の子が、しくしく泣いている。その子を取り囲んで、数人の女子がK子ちゃんを責めていた。
「見えたまま描きなさいって言ったでしょ。上手じゃなくてもいいのよ。でもこんな描き方されたら、誰だって傷つくわよ。謝りなさい!」
先生も怒っていた。
K子ちゃんの絵を見てみると、そこにはモデルの女の子が描かれている。
でもなぜか顔だけが真っ黒だった。
微笑む女の子の口元は見えるのに、鼻から上の部分が、真っ黒なうずを巻いたように塗りつぶされている。まるでブラックホールみたいだ。
K子ちゃんは「見えたままなんです。ほんとです……」と言って泣くだけで、その子に謝らなかった。
K子ちゃんはみんなから嫌われた。
私はそれでもK子ちゃんが心配だったから、帰り道「どうしてあんなことしたのさ。あれはK子ちゃんが悪いよ」と言ってあげた。
でもK子ちゃんは「見えたまま描いただけなの。信じて」と言うだけだった。
こんな嘘つく子とは付き合えない。
私もK子ちゃんに話しかけるのは、もうやめようと思う。