ダーク・ファンタジー小説
- 「クラスメイト」1/3(3月25日アップ) ( No.123 )
- 日時: 2013/03/30 16:15
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
第29話「クラスメイト」 1/3
三月の初旬——三年生たちは体育館で、近日に迫った卒業式の予行演習を繰り返していた。
「俺が教師になって初めて受け持った生徒たちも、いよいよ卒業か。できれば全員を卒業させてやりたかったなあ……」
平岡は生徒ひとりひとりの顔を思い出すと、感慨深かった。
みんなは卒業し、離ればなれになってしまう。
そして四月になれば、自分はまた新しい生徒たちを受け持つ。
いちいち未練なんか残していられない。
教師というのは、そういうものなのかもしれない。
平岡は、放課後の誰も居ない教室を見渡して、溜息をついた。
ふいに、頬を冷たい風が撫でた。
「先生……」
「わっ!」
突然聞こえた声に、平岡はおどろいた。
声の主を探すと、ひとりの女生徒が、教卓の陰に座り込んでいた。
寂しそうに、膝をかかえている。
「お前、岸本じゃないか。一体どうしたんだ、こんなところで」
平岡は不思議に思って、あたりを見渡した。
自分と岸本以外に誰の姿もなく、音もない。
止まった時の中に居るみたいだった。
「先生、わたしもみんなと一緒に卒業したかった」
膝を抱えて座り込んだまま、岸本が言った。
「仕方ないさ。でもみんなだって、きっとお前のこと忘れないと思うよ」
平岡は平常心を保ち、教卓に肘をついて、岸本を見下ろした。
岸本の真っ白な顔が、こちらを見上げて目が合った。瞳が透き通るようで、とても美しかった。
「おほん」
平岡はひとつ、咳払いをして、
「せっかく来てくれたことだし、大っぴらにはできないけど、お前とみんなの最後の思い出作りの方法でも、考えてみるよ」
「ありがとう。先生大好き」
岸本がニッコリ微笑んだ。
平岡が岸本からこう言われるのは、初めてではなかった。
その度に平岡は「はいはい」と流していたが、今日は少し違った。
今ならもういいだろう、という思いで、平岡は岸本の頭に触れた。
触れることができた瞬間、ずっと胸に秘めていた思いがどっと溢れ出しそうで、鼻の奥がツンとした。
二年の月日が経った。
平岡はあの時の卒業生の連絡先をできる限り調べあげ、同窓会を開いた。
「みんなが大学を卒業して忙しくなる前に、一回だけでも集まりたい」
そんな思いを伝えた。
夏期休暇中で暇なひとが多かったし、男子も女子も酒が飲める年齢になって、そろそろ高校時代の異性が恋しくなってきた頃に違いなかった。
ほとんどのひとが集まってくれた。
(つづく)