ダーク・ファンタジー小説
- Re: ライトホラー・ショートショート ( No.124 )
- 日時: 2013/03/30 16:22
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
第29話「クラスメイト」2/3
会費は一人三千円。テーブルには何種類もの飲物やごちそうが並んだ。
みんなが思い思いの席に着き、隣り合ったひとと初めは探りながら会話をしていたが、酒も入って、だんだん話が弾んできた。
「いやー、今日は楽しいれす。おれ、三月まれ補習を受けてどうにかみんなと一緒に卒業れきました。だから今日はこうしてみんなに会えたんれす。ありがとうと言いたい!」
「はは。ありがとうって誰にだよ。でもほんと、留年確実かと思ってたのに、奇跡の追い上げだったよな、お前」
「俺だけ同窓生じゃないって、嫌だもんな!」
酔いのせいもあって、意味もなく笑い声がおこった。真昼間から、がんがんに日の差した部屋で飲むのは、気分も格別だった。
「本当は、岸本さんも一緒に卒業できたらよかったのにね……」
一人の女子が、高校時代の岸本の面影を思い出しながら、悲しそうに言った。
同窓の三年生は三十一人。そのうち卒業できたのは三十人。
岸本だけが、卒業することができなかった。
「かわいいひとだったよ。実を言うと俺、あのひとのこと好きだったんだ」
「ずるいぞお前、酔った勢いで急にぶっちゃけるなんて。俺だって岸本さんのこと好きだったのにずっと黙ってたんだ」
男たちは火がついたように、岸本の話で盛り上がり始めた。
みんなが、あの時の、十七歳の岸本のイメージを思い浮かべて。
「いやー、ほんと、どうして俺たちの記憶の中に居る岸本さんは、こんなに美しく輝いているんだろうな」
「ああ。かわいいとか、愛らしいとかを超えて、もはや神々しいぐらいの美しさで」
「うん。おそらくきっとそれは、その儚げな美しさが、十七歳で時を止めたことにより、老いを見ることのない永遠の美しさを手に入れたからであろう」
一人の、大学で西洋哲学を専攻している、大きな黒ぶち眼鏡の男子がタバコをふかしながらこう言うと、さすがに周りの女子からは「キモい」の声があがった。
「二十歳よりやっぱ、十七歳だよな」
また一人の男子が、同窓会に来ている女子たちを見回しては、こう言った。
まるで、二十歳を迎えた同級生女子と、十七歳の岸本を比較するように。
「二十歳だってぜんぜん若いよ! あんたら、いい加減にしなさいよ!」
一人の女子がキレる。
「岸本さんだって、あんな事故にあいさえしなければ、今日みんなとここに集まって、お酒を飲みながらゲラゲラ笑ってたに違いないわよ!」
「岸本さんがそんなことするわけないだろ」
「ああ。あの岸本さんが、そんなことするわけない。俺らの岸本さんが」
岸本がすっかり神格化されたころ、元担任の平岡が、みんなに声をかけた。
「今日は集まってくれて、本当にありがとう。渡しそびれる前に、先生からみんなにこれを渡しておきたい」
平岡は、手紙一枚くらいの小さな白い封筒を配った。
同窓生たちは中に何が入っているのか気になり、その白い封筒を天井のあかりにかざしたりしている。
「帰ったら見といてくれ。これが本当の、クラス全員の集合写真だ」
(つづく)