ダーク・ファンタジー小説
- Re: ライトホラー・ショートショート ( No.130 )
- 日時: 2013/04/07 18:17
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
第30話「智也お兄ちゃん」1/3
日奈子ちゃんは転校してきたばかりで不安だった私に最初に話しかけてきてくれた、優しい子だった。
すぐに友達になり、私たちはお昼ご飯もいつも二人で食べていた。
「百合愛(ゆりあ)ちゃん家は一人っ子なんだ? ひなにはお兄ちゃんが居てね、とってもとっても優しくてカッコよくて素敵で頭がいいんだよ」
付き合い出して間もなく気づいたが、日奈子ちゃんはお兄さんのことが大好きだ。
ご飯の時も、帰り道でも、いっつもお兄さんの話ばかりしている。
最初のうちは、仲が良くて幸せそうだな、ぐらいに思っていた。ところが、
「夜になってひなが恐くて眠れないって言って枕を持っていくと、お兄ちゃんは一緒に寝てくれるんだ。今度、お兄ちゃんがお風呂に入ってる時にひなも入るーって飛び込んでみようかな。きゃー、ドキドキする!」
わたしにこう話して、恥ずかしそうに顔に手を当てている日奈子ちゃんは、本気みたいだった。
わたしたちはもう高校生だ。
兄妹の仲が良いにしたって、ちょっと普通じゃない。
わたしはだんだん恐くなってきた。
ある日、クラス委員をやっている真面目な子が、真剣な顔で、わたしに話してくれた。
「あなた、転校生で友達が居ないっていうんで日奈子さんと付き合ってるのかもしれないけど、早いうちに、もっとまともな友達を作った方がいいよ。あの子はね……」
わたしがこの学校へ転校してくる前の日奈子ちゃんのことを、色々と教えてもらった。
わたしはその子の情報をもとに、その夜、あるブログに行ってみた。
『ブログを読んでくれてる皆さん。ひな、今日いよいよ大好きなお兄ちゃんと一緒にお風呂に入っちゃいましたー。って言ってもひなはタオルをしっかり巻いてだけど。お兄ちゃんの背中を流してあげて、ひなとっても幸せでした! 今日は記念すべき日です』
それは日奈子ちゃんの書いたブログだった。
名前なんかそのままだし、内容も、昼間学校でわたしに話してくれたことと一致する。間違いない。
金曜の夜、わたしは日奈子ちゃんの家に呼ばれて、夕飯をごちそうになりに行った。
本当は行くのがちょっと恐かった。
でも日奈子ちゃんは転校生のわたしとすぐに仲良くしてくれた。
そういう恩もあるから、わたしはわたしで、日奈子ちゃんのためになってあげたかった。
あの子は変なんだ。でもそれを直してあげられるとすれば、クラス内ではもうわたししか居ないと思った。
緊張しつつ日奈子ちゃんの家に行くと、家はとても広く、そして静かだった。
「うちの両親はね、金曜の仕事が終わると二人で旅行へ行っちゃうんだ。それで日曜の夜に帰ってきて、月曜からまた二人ともお仕事」
「そうなの……日奈子ちゃんの親って仲が良いのね。やっぱり日奈子ちゃん、親が家に居なくて寂しかったの?」
「うん。寂しかった。でも今は寂しくないよ! お兄ちゃんが居るからね!」
「日奈子ちゃん……」
わたしは日奈子ちゃんが作ってくれた夕飯をいただいた。
喉を通りづらかったので、お茶を何杯ももらった。
「ごちそうさま。とても美味しかった。洗い物だけ、わたしにさせてくれる?」
わたしは台所を借りて、泡立ったスポンジでお皿やカップを洗い始めた。ほんのお礼のつもりだった。
「お兄ちゃん、今日も食べてくれない……ひなの作った料理、美味しくないのかなぁ」
日奈子ちゃんが落ち込みながら、トレイに乗ったお皿を持ってきた。
どうやら日奈子ちゃんの言うお兄さんは、二階の部屋に居るらしく、三十分ほど前に日奈子ちゃんがお兄さんのもとへ運んだトレイは、お皿の料理が何ひとつ手をつけておらず、箸や、水の入ったコップも、触れた形跡さえなかった。
「日奈子ちゃん。あのね」
わたしは洗い物を終え、水道を止めた。
「なーに? 百合愛ちゃん」
日奈子ちゃんが無邪気な目でわたしを見つめながら、首をかしげた。
「わたし、クラスの子から聞いちゃったんだけど」
わたしは勇気を出して日奈子ちゃんと目を合わせた。
濡れたスポンジから垂れた水滴が、ステンレスの流しの上に落ちる音がした。
「あなた、本当はわたしと同じで、一人っ子なんでしょ? どうして、お兄さんが居るなんて嘘をつくの?」
(つづく)