ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.134 )
日時: 2013/06/30 13:38
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第32話「奈落」

その日も僕は友達と一緒にいつもの公園で遊んでいた。

「だいぶ暗くなってきたし、今日はもう帰ろうよ」

友達のうち一人が言った。

「じゃあ、最後に一回だけかくれんぼをしよう」

ジャンケンをして鬼を決めた。

「いーち、にーい、さーん……」

鬼の子がすべり台の柱に頭をもたげて数えている。

僕は特に仲のよいA君と一緒に隠れる場所を探すことにした。

「目ぼしい場所はとっくにみんな分かっちゃって、隠れてもすぐ見つかるもんな。どっかないかな」

僕が言うと、A君が、

「あそこに岩があるだろ。あれの陰に隠れようぜ」

と言い出した。

膝くらいの高さに草が茂っている、その向こうに砂をたくさん盛ったようなスペースがあって、そこに大きな岩がぽつんと一つ置かれてあった。

「あんな目立つ場所、すぐバレちゃうよ」

「だからこそ、今まで誰も隠れ場所にしなかったのさ。空は暗くなってきたし、俺とお前も黒い服だから、意外に分からないよ」

「じゅーいち、じゅーに、じゅーさん……」

鬼の子が数えていた。制限時間の20秒まで、もうすぐだ。

「よし決めた。あそこまで走るぞ!」

A君がおおい茂った草を大股に踏みつけながら、砂の上の岩に向かって走り出した。

僕は草むらの中に犬のあれが落ちてるんじゃないかと、暗い足下を、慎重に歩いてA君のあとを追った。

草むらを抜けると、猛ダッシュで砂の上まで駆けた。

「ふー、ふー……あれ?」

息を切らしながら岩に近づくと、A君の姿が見えない。

「おい、どこ行った?」

とりあえず身を低くして、岩の陰に隠れようとすると、あることに気づいた。

岩が砂地と接している面に、子供がひとり入れるくらいの、小さな亀裂があったのだ。

誰かが掘った穴なのか、それとも自然とできたものなのか、分からない。

「おーい、A君いるか?」

僕は穴の底に向かい、小さい声で呼んでみた。

返事はない。

鬼の子に聞かれるとまずいから、黙っているのかもしれない。

僕も穴に入ろうとして、ちゅうちょした。

昼間だったら穴の底も見えるんだろうけれど、真っ暗な中に飛び込んだら足を怪我しそうで怖い。

そうだ、携帯電話にライトが付いてるから、それで見てみよう。

僕はズボンのポケットから携帯電話を取り出そうとした。ストラップが引っかかって取りにくい。

「あっ」

僕の手元から携帯電話がずべり落ちた。

それが暗い穴に消えていき、三秒、四秒、五秒……。


——ガチャン。


岩肌にぶつかってこなごなになったような音が小さく聞こえてきた。






___解説___
落とした携帯が落下するまで五秒以上もかかっている。
穴が深過ぎる、というわけ。