ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート(イラスト募集中) ( No.153 )
日時: 2013/06/15 07:11
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第39話「胸に置かれた手」

日曜日の朝、K君がコーヒーを飲んでいると、今しがた起きてきた兄がこんなことを言っていた。

「寝てる間にすっげー腕がしびれてたみたいでさ。俺、胸の上に手を置いて寝てると思ったんだよ自分が。でも俺の腕、横を見るとあったんだよ」

つまり、亡くなったひとがするように、両手の平を胸に置いて寝てると思ったのが、実際は「十」の字みたいに、両手を横に伸ばして寝ていたというわけだ。

そういう経験ならK君もある。
寝ている間に腕がしびれて、起きた瞬間はまるで自分のじゃないみたいに感じるあれだ。

聞いてみれば、くだらない話である。日曜日の朝の、兄弟の会話とえいば、ありそうなものだが。

K君は「へー」とだけ言ってコーヒーをすする。

兄は不満そうな顔をした。もっと驚くと思ったらしい。そこで同じような話をもう一回、さっきより詳しくした。

「どんな夢を見てたか忘れたけど、ハッと起きたら朝でさ。自分の部屋の天井が見えるだろ。自分の手は胸の上にあると思ったんだよ。
そのまま、寝たままの姿勢で顔だけ持ち上げると、確かに両手が、胸の上に乗ってたんだよ。胸の上で両手の平がきちんと組んであるんだ。
さて今は何時かなと思って、枕元の携帯を取ろうとすると、俺の腕……横に伸ばしてあったんだよな。
しびれてて最初は動かなかったけど、そっちの方が俺の本物の腕だったんだよ」


自分の両手が胸の上にあったのに、横を見るとそこにも自分の腕があった、ということにある。

「おかしいなと思ってもう一度見ると、胸に置かれた手はなかったよ」

K君の兄はこう言った。

今から思い出すと、あれは自分の手にしては小さく、指が細くて長かったという。