ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.156 )
日時: 2013/06/23 16:44
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第42話「操り人形」1/2

夏休みに大学生の若者たち四人は肝試しをすることになった。

男三人、女一人が、いわくつきの廃屋の前に集まった。
田中が、この家にまつわる噂をみんなに聞かせる。

「この家では昔、頭のおかしくなった男が包丁で次々とひとを刺し殺したらしい。被害者の一人はこの家の住人で、ちょうど引っ越したばかりだった。そして友人たちを招いて引っ越しパーティをしたんだ。犯人の男は、その友人の中の一人だったんだよ。いきなり頭がおかしくなって包丁をにぎったと思うと、一人ひとり、殺していったんだ」

そんな事件があってから、この家には誰も住まなくなっていた。


早速、田中が肝試しのルールを説明する。

「俺、松夫、吉野、そしてミキ。みんなの名前を書いた石を用意した。
ルールは簡単だ。この家の、昔はリビングだった場所に、灰をかぶった暖炉がある。そこへ自分の名前が書かれた石を置いて帰ってくるんだ。
みんなも知っている通り、その暖炉は……」

その暖炉の前が、ちょうど殺人の起こった場所だという。
事件当日、引っ越しパーティで仲間たちが楽しく騒いでいた場所。
そして、仲間の一人が発狂して包丁をふりまわした場所。


さて、クジ引きによって、肝試しの順番が決まった。

吉野、田中、ミキ、松夫の順番となった。四人は高校時代からの仲良しで、ミキと松夫はカップルだった。

吉野が廃屋の中へと入っていった。田中が入っていった。ミキが入っていった。

最後の順番となった松夫も、三分が経過するのを待ってから、廃屋に入った。

既に気づいていたが、なぜか誰も帰って来ていない。


廃屋の中は静まりかえっていた。
夏なのに、家に入った途端に空気が冷えていた。
あまりの暗さに、前もろくに見えない。
転びそうになって壁に手をついたら、指に埃がびっしりついた。

ミシミシ——床のきしむ音を聞きながら、ゆっくり進んだ。



一方、問題の殺人現場となったリビング。

年代を感じさせる、古いデザインのソファーやインテリアが埃をかぶっている。
田中の言った通り、暖炉もある。この暖炉の上に自分の名前が書かれた石を置けば、肝試しは終了だが。

「ぷっ、くく……」
「笑うな。バレたら台無しだろ」

先に入った田中、吉野、ミキの三人が、暖炉の裏で息を殺していた。

田中だけが、なぜか死神のようなマントに身を包み、顔にはガイコツの被りものをしている。
手には、キラキラ光る包丁を持っていた。しかしこの包丁、ダンボールにアルミ箔をぐるぐる巻きつけた作り物である。

実は今回の肝試し、松夫をターゲットにしたドッキリだった。

ミキの提案で、ミキの彼氏である松夫の勇気を試すことにしたのだ。

暖炉の前には、ミキの穿いているサンダルが片方、血のりをつけて置いてある。

松夫がこれを見れば、彼女のミキに何かあったと思う。
そこへ死神のようなかっこうをした田中が包丁を片手に現れる。

その時、松夫は逃げるのか、それともミキのことを思って怒るのか。
松夫の男っぷりが試されるドッキリだった。

「おい、松夫が来るぞ。静かにしろ。絶対に笑い声とかもらすなよ」

田中、吉野、ミキの三人は暖炉の裏で息をひそめた。