ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート ( No.158 )
日時: 2013/06/28 18:02
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   最終話「日常はかけがえのないもの」1/2

2013年X月Y日——。
空はきれいに晴れ渡り、温かい日差しに恵まれたその日——。

昨日と同じ一日が、また始まった。
いつもと変わらぬ、平凡で平和な日常。

こんな日がずっと続くと思っていた。



ここはS県内の高校のパソコン室。

そこに女子生徒が三人、回転式の椅子にもたれてダベっている。
そのうちの一人、色白で綺麗な顔をした女の子——美幸が言った。

「近くの土手に怪獣が出るんだってさ」

それを聞いて、麻衣とヒナは黙っている。

麻衣はキリッとした顔立ちでクールな雰囲気。ヒナは垂れ目でぼんやりした雰囲気。

二人の反応を見て、美幸は首をかしげる。

「……無視ですか?」

「いきなりそんなこと言われて、どう反応すればいいんだよ」

麻衣がめんどくさそうに答えた。

「いや。だから、近くの土手に怪獣が出るらしいよ。おどろきなさいよ」

「あー、そうだな。おどろきだよ。本当だとすればな」

「本当だよ。本当だとも。見たひとがいるんだよ」


美幸の話によれば、自分たちも学校の行き帰りに通る、この町の住人なら誰でも知っているような土手に、怪獣が出るのだという。

S県と東京都を分ける、大きな川。
その川辺は芝生の斜面になっていて、土手の上を毎日、犬を散歩するひとや、ジョギングするひと、学校へ行く生徒たちが通る。

遠くには電車の走る鉄橋が見える。ドラマにもよく出てくる風景だ。

その有名な土手に怪獣が出るらしい——。


「だいたい、なんだよ『怪獣』って」

麻衣が言った。

「他に呼び名がないのよ。目撃者によれば、図鑑で見るティラノサウルス? ステゴサウルスだったかな? とにかく、恐竜そのままだったってさ」

「大きさは」

「高さ7メートルくらいだって言ってたよ」

「でかっ!」

「でも全身を見たわけじゃないんだってさ。川をね、すいーって泳いでたんだって。トカゲみたいな皮膚で、ツノとか、トサカみたいなものが背中に生えてたって」

「曖昧だな。ティラノサウルスだったり、ステゴサウルスだったり、トカゲだったり」

「あくまで噂ですからね」

「バカらし……」

「今から見に行かない?」

「なんでだよ。噂じゃなかったのか? そもそも、見に行けば見られるものなの? そんな簡単に見つかったら今ごろ大騒ぎになってるだろ」

「あたしらで発見してさ、写真に収めるのよ。スクープだよ。うまくいけば、あたしら有名になれるわよ」

三人は帰宅部の暇人で、いつもこんな下らない会話をしては面白がっている。

この日も、土手を適当に探して「やっぱ嘘だよな」と結論づけて帰るつもりだった。



「写真部の友達からカメラ借りてきたよー」

昇降口のところでヒナが言った。

しかし美幸と麻衣の反応はイマイチだ。

「な……なんて言って借りてきたの?」

と麻衣。

「もちろん。土手に怪獣を撮りに行くからカメラ貸してって」

「あちゃー。そこまでしなくてもねー」

美幸が「やれやれ」と頭をおさえる。

「どうして? カメラあった方がいいでしょ」

「そこまでしなくてもいいんだよヒナ。どうせ美幸の言うことだもの。本気で探しに行くわけじゃないから」

「えー? 冗談だったの?」

ヒナが意表をつかれたような顔をする。

三人とも付き合いは長いが、ヒナは素直過ぎる良い子で、美幸と麻衣の冗談を本気でとってしまうことがある。

「ヒナの友達には明日、誤解をといておかないとね。こんなこと高校生にもなってマジでやってるなんて思われたら恥ずかしいよ」

「うぅ……ヒナは本気だと思ったもん。恥ずかしいよぉ」

ヒナが落ち込んだ。

「そうよ! 土手に怪獣がいるとか言い出して、ヒナ、あんた高校生にもなってほんとに恥ずかしいやつだよ!」

美幸がビシィっと指さした。

「お前が先に言い出したんだろ」

麻衣が美幸の頭を叩く。


カバンを肩にかけ、三人は学校を跡にした。