ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート(7月27日更新) ( No.163 )
日時: 2013/07/27 18:13
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   番外編1「小エビ入り」

高校生のケイコと由美は、その日も仲良く教室でランチを取っていた。

ケイコは最近料理にハマっていて、自分で作ってくる弁当のグレードが日に日に上がっていた。

「ねえ由美ちゃん、これ見て。小エビ入りのたまご焼き」

ケイコは得意気に、たまご焼きを箸でつまんで見せる。
形の良いたまご焼きに小エビのピンク色が混じって、見た目にも美味しそうだ。

「こってるなぁ。わたしなんかコンビニのおにぎりばっかりで、もう飽きちゃったよ」

「だったら、明日から由美ちゃんの分も作ってきてあげるよ、お弁当」

「うん。それはありがたいんだけどね……」

由美は言葉をにごして、コンビニのおにぎりを一口かじる。

ケイコがこう言ってくれても、やはり友達に弁当作りを頼むのは悪い気がした。

「あれ? わたしのおにぎり、小ユビ入りだ」

「うそー?」

「ほんとだって。ほら」

由美はおにぎりの中身をケイコに出して見せた。

「えー? 普通の『たらこおにぎり』でしょ?」

確かに、由美の手の平に乗っていたのは、真っ白なたらこだった。
火であぶったような、コリコリした真っ白なたらこ。

「これのどこが小エビ入り?」

ケイコは首をかしげる。

「違う違う。小ユビだよ。こ、ゆ、び」

ボト——。真っ白なそれが机の上に落ちた。

爪の付いた、男性と思われる小指。切り口からは骨がのぞいていた。



「製造元に聞いてみようか」

由美はおにぎりに貼られたラベルを頼りに、お客様サポートへ電話をかける。

「確認いたしますので、少々お待ちください」

電話の声が言った。『エリーゼのために』がエンドレスで流れ、通話口に当てた耳が熱くなった頃、係のひとが電話に出た。

「確認が取れました」

向こうの説明によれば、例の小指は、おにぎり工場の従業員のものらしい。
その従業員は誤って機械に指を挟み、小指を切断されてしまったのだそうだ。

切断された小指はおにぎりに混入し、具のたらこと一緒にビニールでパッケージされ、由美がいつも通っているコンビニに出荷されていた。

「それでは、これからも弊社の商品をお引き立てくださいますよう、よろしくお願い申し上げます」

電話の声が言った。また『エリーゼのために』がエンドレスで流れ、二分くらいすると電話もプツリと切れた。



翌日から由美はケイコの作った弁当を食べるようになったという。