ダーク・ファンタジー小説
- Re: ライトホラー・ショートショート(140718) ( No.164 )
- 日時: 2014/07/18 17:27
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
「ノック」
——ジュースを買ってきた子視点——
わたしの友達が、原付で転んで骨を折った。
その入院した友だちのもとへ、仲間数人で見舞いに行った時のことだ。
「わたし、飲物でも買ってくるよ。自販機あったっけ?」
「ああ、それなら、下へおりてね、それから……」
教えてもらったとおりの場所で、わたしは人数分の飲物を買った。
ところが、紙コップに注がれたジュースは、とても一人では持ち切れない。
誰か一緒に来てもらえばよかった。
そこに運よく通りがかった看護士さんが「これ使ってください」と、トレーを貸してくれた。
トレーの上に飲物を乗せ、階段をのぼり、もと居た病室を目指す。
思ったより重い。
両手でしっかり持たないと、落としてしまいそうだ。
「えーっと、203号室だから……あった。ここだ」
わたしが見つけると同時に——。
スーッと、勝手にドアが開いた。
……というわけではもちろんなくて、タイミングよく友達がドアを開けてくれたのだった。
「ただいま」
「ごめんね。ひとりで持つの大変だったよね?」
ドアを開けてくれた友達が心配してくれる。
「いいの、大丈夫。トレー貸してもらったから」
「あ、そうなんだ」
友達は言うと、ドアレバーをにぎったまま病室から顔だけ出して、左右を見渡した。
なんだか不思議そうな顔をして、
「廊下、誰もいないじゃん」
わたしに聞く。
「そうだけど? なんで?」
わたしは階段をのぼってから、この病室へ来るまで、誰にも会っていない。
「いや……なんでもないんだけど……」
友達は、トレーを持つわたしの手つきが不慣れで危なっかしいのを見て、何かに気づいてしまったような顔をした。
しかし何も言わずに黙っていた。
——ドアを開けた子視点——
「わたし、飲物でも買ってくるよ。自販機あったっけ?」
「ああ、それなら、下へおりてね、それから……」
友達は、怪我をした方の友達に自販機の場所を教わると、部屋を出ていった。
「……で、脚の具合はどうなのよ」
わたしが聞くと、怪我をした友達は「全治一か月だって」と答えた。
それから、事故の時の状況や、病院の生活が退屈なことや、学校は今頃どうなっているかとか、そんな話をした。
すると——。
コンコン。
ドアを叩く音が聞こえた。
「あ、帰ってきたみたいね」
わたしは速足でドアの方へ向かい、レバーを引いた。
「ただいま」
友達のニッコリした顔がそこにあった。
「ごめんね。ひとりで持つの大変だったよね?」
「いいの、大丈夫。トレー貸してもらったから」
「あ、そうなんだ」
わたしは友達を中に入れると、顔だけを廊下の方へ出して左右を見渡す。
真っ白で無機質な廊下に、ひとの影はなかった。
「廊下、誰もいないじゃん」
わたしが聞くと、
「そうだけど? なんで?」
ジュースを運んできた友達が、不思議そうな顔をした。
「いや……なんでもないんだけど……」
飲物を片手に、みんなはお喋りを始める。
楽しい雰囲気を壊したくないから、わたしはこれ以上は何も言わなかった。
でも本当は一つ、聞きたいことがあった。
友達はトレーを両手でしっかり持ってここまで来たのに。
「いったい、どうやってノックしたの?」って。