ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート(7月25日更新) ( No.165 )
日時: 2014/07/25 19:39
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   「出席」



高校一年の最後の日——。

四月にはクラス替えがあって離れてしまう子も居る。

だから最後に、クラスのみんなでパーティーをすることにした。

教室の机をくっつけて、お菓子やジュースを並べるだけのもの。

あーだこーだ、笑い声をまじえながらさんざん喋りまくった後で。

高橋さん、という女子がこんな話をした。



入学して間もない頃の、朝だった。

まだ先生も教室に来る前で、クラスのみんなは思い思いに雑談していた。

高橋さんの席は窓辺の後ろで、特に話し相手も居ないから、ぼけーっと教室全体を見渡していた。

そのうちに始業のベルが鳴った。生徒たちもぞろぞろと自分の席に戻っていく。

先生が教室に入ってきた。

出席を取り始めた。


「相原」

「はい」

「石橋」

「はい」

「内山……」


五十音順に生徒の名前が呼ばれ、その度に「はい」と返事が聞こえる。

四月の初めのことで、高橋さんもまだクラス全員の顔と名前を覚えていなかった。

「……渡辺」

「はい」

全員の出席が取り終わった。

その直後、誰かは分からないが女子の声が聞こえてきた。

「せんせー、中山さん来てません」

「来てない? そんなバカな」

おかしい、と思って先生は教室内を見渡した。


確かに、廊下側の席がぽっかり一つ、空いていた。


「んー、誰か代わりに返事したな? 誰だ、中山さんに頼まれたのは」

先生がギロッとした目つきで、生徒たちの顔をにらみつける。

もちろん、自分から名乗り出るひとなど居なかった。

「……まあいい。もうしないように」

先生は溜息をついて、出席簿を閉じた。

そして授業が始まった。何事もなかったかのように。


だが高橋さんは、窓辺の席から見ていた。

さっき先生が出席を取っていた時には、席は全部うまっていたのである。



「ちょっと、それおかしいよ」

「高橋さん、記憶違いじゃないの?」

話を終えた直後、そばに居た子たちは「信じられない」という顔をした。

「だって、中山さんなんて子、うちのクラスに居ないじゃないの。初めから」


次の日には空いている席もなくなっていた。

それから高橋さんはクラス全員の顔と名前を覚えていったが、「中山さん」という子はこのクラスに居なかった。


やがて、そんなことがあったことさえ忘れ、一年が経過した。


今から考えると、あれは一体なんだったんだろう。