ダーク・ファンタジー小説

Re: ライトホラー・ショートショート(最終更新8月12日) ( No.167 )
日時: 2015/08/12 16:52
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)


   「隣町のカラオケ」



隣町に、安くて穴場っぽいカラオケボックスがある。

まねきとか、そういう有名なチェーン店ではない。「なんとか若丸」とかいう、変な名前の店だ。

もう何年も前から「持ち込み自由」で、最初の一時間が10円。

今でこそ、このシステムの店は増えてきているが、「なんとか若丸」は昔からこの安さだった。


しかし店の中は古い汚い。

部屋のドアはガタガタで綺麗に閉まらないし、壁紙ははがれかけたままになっている。

トイレは全体がタイル貼りで、不快な臭いがしみついている。ゴキブリ用のトラップが、目に入る位置に堂々と置いてあった。


でも料金の安さに加え、「持ち込み自由」は大きかった。


私は数年前の夏、友達と夜中にここへ行った。もちろん、食べ物や飲み物はコンビニで買って持ち込んだ。

都会でもないので部屋数は多いのだが、ほとんどが空き室になっていた。

私たち以外の客といえば、たまに集まった仲の良い友達どうしか、あるいは、仕事もない暇な若者ぐらいだったろう。

私と友達は夜が明けるまで歌って、一人1500円もかからなかった。

こんなんで、やっていけてるのか。店の経営状態が気になるほどだった。


それは何年も前のことであったが、つい最近、この時に一緒だった友達に会った。


お盆休みなんかに、またカラオケでも行こうかと。

その時は、またあの店でいいんじゃないかと。そんな話しをした。


しかし友達は、できれば他の店にしたいと言う。

以前は確かにあの店が飛び抜けて安かったが、今は他にも、同じくらい安い店がある。
地元のまねきでさえ、数ヶ月前にリニューアルしてからは持ち込み自由になっていた。


友達が言うなら、私はそれでいい。

でも、なぜあの店をそんなに嫌がるのか。

私は他にも理由がある気がして、友達に聞いてみた。



すると友達は、こんな話をしてきた。



数年前の夏に私と一緒にあの店へ行った時のことである。

深夜のフリータイムは22時から始まっていて、私たちはそれを見計らい、時間ちょうどくらいに入室した。

店がボロボロなのに最初は驚いたが、だんだんと慣れてきて、歌ったり飲んだりしているうちに夜中になっていった。

ところが突然、友達は変なことに気付いた。


物が焦げるような臭いがするのだ。


タバコでもないし、何かが燃える臭いであるにしても、あまり嗅いだことのない臭いだ。


言葉で表すなら、それは「火事の臭い」だったという。


そして今度は、ゾクゾクっと嫌な感じがしてきた。


ここには居たくない! そう思えるほどの、不快な感じだった。


一緒に居る私といえば、なんにも気づいていないようだ。

本当に火事が起こったとか、そういうわけではないらしい。


友達はトイレへ行くことにした。


廊下に出てから、またあることに気付いた。


さっきの「嫌な感じ」が、どこから来ているのか、分かったのだ。


それは非常口の方からしていた。


非常口のドアの前には、なぜか大きな観葉植物がドンと置かれていて、通れないようになっていたという。



本当のことは分からないが、できればあの店は行きたくない。

友達がそんなことを言っていた。