ダーク・ファンタジー小説

Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.22 )
日時: 2013/04/08 18:13
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第3話「同居人」

私がこのアパートでひとり暮らしを始めてから一ヶ月が経った。

都会での生活に憧れてはいたけれど、一人では何かと大変だ。
家の事も、つい怠ってしまう。

「うわ、電気代ってこんなに高いの? この前に請求された水道代も思った以上に高かったし。一人だからってそんなに安いものじゃないのね。もっと節約しないとなあ」

急いで支度をし、会社へ行くために外へ出ると、何かの作業員らしきひとたちが、ぞろぞろとやって来た。

表にはトラックが止めてある。
今の作業員たちが乗ってきた車だろう。


屋外廊下で私は同じアパートの住人に会った。
人付き合いは苦手だが、あいさつをした。

「おはようございます」

「おはよう」

「うちのアパートで、何か工事でもあるんですかね」

「え? あなた聞いてないの?」

「何をですか?」

「屋根を直すって言ったじゃない? 回覧板で渡したはずだけど……聞いてなかった?」

「えっと……」

私は聞いてない。回覧板も、もらった記憶がない。

でも私は、昼間はずっと居ないので、もしかすると、
隣のひとが回覧板を持って行っちゃったのかもしれない。
そう思った。

アパートの小さい郵便受けに、回覧板は入りきらない。
半分くらい飛び出た形になってしまう。
隣のひとが持っていくのは、簡単だ。

「すいません。ちゃんと聞いてました。忘れてましたよ。えへへ」

私は笑ってごまかしておいた。

どうせ大した情報じゃないし、回覧板なんか見なくても困らない。

それより、黙って持って行ったお隣さんが責められるのが、嫌だった。

そんなこんなで、会社へ行った。仕事を終えた。

午後から雨が降ってきたので、私は傘を差して、会社を出た。

「これじゃ屋根の工事も中止だろうな。ああいう仕事のひとは天気に左右されて、大変ね」

電車に揺られ、地元の駅に着くと、雨は止んでいた。

私は近所のコンビニに寄って、夕飯を買った。
今夜もコンビニ弁当が夕飯だ。

アパートの前まで来ると、ひとの気配はなかった。

私は部屋のカギをガチャンとひねり、ドアを開けた。

その瞬間、
「トゥルルルルル……」
と部屋から聞こえた。

電話が来ている。

私は急いで靴を脱ぐと、茶の間の電話に駆け込んだ。

「はい、もしもし」

出て損した。
それはしつこい、勧誘の電話だった。

「だってこの前、お宅のご主人が、オッケイしてくれたんですよ? 約束したじゃないですか」

なんて、めちゃくちゃなことを言う。

そんな約束をした覚えはない。

私は独身なのだ。夫なんか居ない。

声がおばさんっぽいのかな?

私はまだ二十代だ。そう言ってやりたいが、一人暮らしの女と分かると、なおさら都合が悪くなりそうだ。

なんだかんだで理由をつけ、電話を切った。

「あ、洗濯物を出したままだった」

ベランダには干したままの洗濯物。

その中には、男物の下着も混じっている。

実はここに引っ越して間もない頃、夜中になると、アパートの外にひとの気配を感じたのだ。

このアパートを見ているというより、私の部屋を見ているような気がした。

外の様子を見ようと思っても、怖くてできなかった。

そして私は、ありきたりな方法だけど、男物の下着を、私のと一緒に干すことにした。

それ以来、夜中にひとの気配を感じることはなくなった。

でも油断できないので、今でもこうやって干しているのだった。

「あーあ、お腹も空いてきたな」

私はひとりごとを言って、茶の間から、自分の部屋の方を見た。

ドアは閉まっている。

何か、さっきから気にかかっているのだ。
何か、引っかかるものがある。

私はもう一度、自分の部屋の方を見た。

普段は見ないけど、私の部屋のドアって、外から見るとこういうデザインなんだな。

一ヶ月も住んでいて、ちっとも見慣れていないことに気づいた。

何か引っかかるのだ。何かが……。

「あ、そうだ。私、コンビニに傘を置き忘れてきたんだ」

洗濯物がきっかけで、私は思い出した。

今日は午後まで雨だったじゃないか。

茶の間に居た私は、自分の部屋のドアには背を向けて、玄関へと向かった。

私はコンビニに傘を忘れてきた。

忘れ物に気づいた瞬間っていうのは、気分がすっきりするものだ。

でも私の頭に引っかかっていたのは、このことじゃない。

私は玄関で靴を履いた。
慌てて脱いだため、片一方は裏返しになっていた。

「やっぱりそうか……」

今度は、誰にも聞こえないように、小さくささやいた。

アパートを出ると、私は、近くの交番へと走った。



___【答え】___
最後に玄関で見たのは、見慣れない誰かの靴。
自分の部屋のドアが閉まっているのを初めて見た。ということは誰か閉めたひとがいる。
勧誘の電話の相手が言っていたことは本当。自分の居ない間に誰かが電話に出ていた。
自分の代わりに回覧板を受け取ったひとが居る。
電気代と水道代が思った以上に高いのも、誰かが一緒に住んでいたから。