ダーク・ファンタジー小説

Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.28 )
日時: 2013/04/08 18:19
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第4話「カギ」

なんてこった。

あろうことか、家のカギを落としてしまったみたいだ。

その晩は、近所の友だちの部屋に泊めてもらった。

お互いに貧乏な独身生活だから、困った時は親切にしてくれるものだ。

「どこでカギをなくしたか、分からないの?」

友だちが言った。

「もしかすると、誰か、悪いひとが持ってるかもしれないよね」

「やだなー、変なこと言わないでよ」

「最近、この近くで殺人事件あったじゃん?
ひとり暮らしの若い女性が殺されたっていう」

「もう。やめてったら……」

「ごめんごめん。でもさ、どっかで誰かがカギを持ってるって思うと、気持ち悪いし。
カギ穴から変えてもらった方が、いいかもしれないよね。
そうすれば、あなたの落としたカギを持ってても、もうそのカギではドアを開けられないよ」


というわけで、次の日の夜、大家さんに相談してみた。

「なるほど。でも今日はちょっと無理かもなあ……こんな時間だし」

「なんとかなりませんかね。台所の生ゴミも放置したままだし、今日中には部屋に戻りたいんですが」

「そうか。じゃあ間に合わせでよければ、私がつけてあげるよ、カギ穴」

「ほんとですか? 大家さん、そんなことできるんですか?」

「ああ。間に合わせでよければな」


大家さんにそう言われて、わたしは、友だちの部屋で、カギの取り付けが終わるのを待った。


「もうできたよ。来てみな」


携帯で連絡を受け、行ってみると、アパートのわたしの部屋の前に、大家さんが居た。

ドアのカギ穴も、確かに新しくなっていた。


「これがカギだ。好きなの選びな」

大家さんはそう言って、工具入れみたいな箱をさし出した。

変なこと言うひとだ。「好きなの選びな」とは、どういうことだろう?

箱の中を見てみると、色々な形をしたカギが、何十個も入っている。

この中から、自分の部屋のドアに合うカギを探すなんて、大変なんじゃないか?


「じゃあ……これでいいです」

わたしは、その中からひとつ、気に入ったのを選んだ。

「おう。さっそく、試してみな」


おそるおそる、カギ穴へ差し込み、回してみると——。


がちゃり。


「開いた! 開きましたよ、大家さん」

一発目で合うカギを当てるなんて、今日のわたしはついてるかもしれない!


「うん。じゃあこれで済んだね。さよなら」

わたしは二日ぶりに自分の家に帰り、心配だった生ゴミの処理もして、安心した。

お風呂から出て、リラックスしながらテレビをつけると、例の、この近所での殺人事件についての報道をしていた。

まだ犯人は捕まっていないそうだ。


「カギ穴、変えておいて正解だったかも。
自分の落としたカギをどっかの誰かが持ってるなんて、気持ち悪いもんね」


お風呂あがりの髪もかわいたことだし、わたしはテレビを消し、電気を消した。


「おやすみなさーい」

真っ暗な部屋。静かな夜。

あたたかい布団。心地よい疲れ。

部屋の暗さに目も慣れてきたころ。


がちゃり。


カギの回る音がした。

そして、ドアの開く気配が——。



___【答え】___
大家さんの「好きなの選びな」という言葉の通り、どんなカギでもドアは開いた。
夜中に突然カギを開けて入ってきた人物と、大家さんとの間には、なんら関係もないらしい。