ダーク・ファンタジー小説

Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.32 )
日時: 2013/04/09 21:58
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第五話「X時Y分の電車」

私が急いで駅へ行ってみると、ホームはものすごい混雑だった。

事故の影響により、電車は運休を見合わせているらしい。

「なーんだ。こういうことなら、焦ることもなかったわね」

実際、そのとおりだった。

数年に一度、あるかないかの、大きな列車事故。

百人以上のひとが亡くなった。

しかも、X時Y分に発するその電車は、私が毎日のように乗っている電車だった。

それが今日はたまたま遅刻したことで、私は事故にあわずにすんだのだ。

遅刻の原因は、小さな、指のケガだった。

今朝、朝ご飯のかわりにリンゴを食べようと思って、
皮をむいていたら、包丁で切ってしまった。

指から血がにじんできた時には、焦った。

バンドエイドなんか探しているうちに、家を出る時間も遅くなってしまった。


夜になり、私は、テレビの画面と、自分の指とを、見比べた。

「こんな小さなケガでも、やった時は、ついてないなって思ったのに。おかげで電車に乗り遅れて、事故にあわずにすむなんて、不思議なものね」

どのチャンネルをまわしても、この大惨事の報道ばかりだった。

「死んじゃって、不幸なひとたち。きっと私には運が味方してくれてたんだ。日ごろのおこないがいいのかな? なんてね」

私が不謹慎なことを言うと、背後にひとの気配を感じた。

強烈な憎しみのこもったような、視線を感じたのだ。

ゾクッと寒気を感じ、後ろを見ると、誰も居ない。

「なんだ……どうりで寒いと思ったら、雪が降ってきてる」

窓の外を見ると、やわらかな雪が空を明るくしていた。

「これは積もるかもしれない」


時間の感覚がなくなるほどぐっすり寝て、私は目覚めた。

布団から出て、窓の外を見る。

「あれ? 雪、積もってないや」

空はきれいに晴れていて、雪も、積もるどころか、
アスファルトはすっかりかわいていた。

「指も、痛くないと思ったら……」

洗面台で気づいた。浅い傷だったとはいえ、昨日切った傷が、なんのあとも残さず、治っていた。

まあ指先に近い傷はすぐ治るっていうし。私もまだ若いからな。


今日は遅れることなく家を出た。

あれだけの大事故の次の日だし、まだ色々と警察の捜査なんかもあるだろう。

線路の安全も、まだ確保されてないだろうし。

人々だって、不安をかかえているはずだ。

そう思っていたのだが、私は駅に着いて、違和感をおぼえた。

昨日の大事故などなかったかのように、すべてが、いつもと一緒だったのだ。

列車のダイヤ変更があると思っていたのに、それもない。全く平常どおりだ。

駅の売店で、新聞をチラリと見てみた。

今日の夜から、明日の朝にかけて、大雪が降るらしい。

「??? ??? ???」

私の頭の中は、ハテナだらけになった。

そうするうちに、X時Y分の電車が、ホームに到着した。

私がいつも乗る電車だ。

「いっけない。あれに乗らないと遅刻しちゃう」

私は新聞をもとの位置に戻すと、電車に乗るため、階段をかけ下りる。

慣れないヒールを履いてるから、転びそうだ!



___【解説】___
前の日を繰り返している。
だから雪は積もってないし、指の怪我もなかった。
こんな不思議なことを起こしたのは、主人公が寒気を感じた時に、背後に居た誰かだろうか。