ダーク・ファンタジー小説

Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.39 )
日時: 2013/04/10 17:51
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第8話「X号室の秘密」

電車内に置き忘れをした時は焦ったが、私たちははなんとか夜には宿に着いた。

この宿を紹介してくれたのは私の友だちだった。

私は疲れた体をロビーのソファに横たえ、友だちが受付を済ませるのを待っていた。


「え! X号室が私たちの部屋? Y号室じゃなかったんですか?」

アクシデントは続くものだ。
宿の方の手違いで、私たちの泊まる部屋も、予定と違ったらしい。

「そんな、X号室はまずいですよ! 他の部屋はないんですか?」

友だちがしつこいので、宿のひとが困っている。
私は「もう、その部屋でいいじゃん」と言って友だちを落ち着かせた。


私と友だちは、X号室に着くと、荷物を投げ出した。

「思ったよりきれいな部屋だねー。窓からはどんな景色が見えるんだろう」

そう言って私が窓のカーテンを開けようとすると、
友だちが大声を出してとめた。

「窓は開けない方がいい! 外はもう真っ暗だし、何も見えないよ」

友だちの言い方があまりに強いので、私も素直にしたがっておいた。


私の友だちはこの宿の常連だ。
近くの海はサーフィンの名所として有名で、私の友だちは、サーフィン好きの男性と知り合っていた。

その知り合いの男性がたまたま今日もこの宿に泊まっていたらしい。
部屋に招かれ、そのまま奥のテラスへと案内された。

しかし私は、自分がいても邪魔のような気がしたので、「疲れたから、部屋に戻ってるね」と言ってその場を去った。


寝間着に着替えていると、窓をこつこつ叩く音がする。

テラス側の小さな窓だ。

私はカーテンを開け、窓を開けた。

見るとそこには、友だちの手だけが伸びている。

「ねえ、私と一緒に行こうよ」

そう言って友だちは、手招きする。

「なに言っちゃってんの。私もう疲れてるから寝るよ。彼とはうまくやりな!」

私は友だちの手には触れず、窓を閉め、カーテンも閉じてしまった。


翌日、私は朝から友だちと一緒に海岸へ出ていた。
ここから、崖っぷちに立つ宿が見えた。



そして初めて、あることに気づいた。


横に居た友だちが、私に、申し訳なさそうに言った。


「ごめんね。あなた、ひどい高所恐怖症だから、言えなかったの。
宿の端っこ、崖から突き出してるでしょ? あれが私たちの泊まった部屋だよ。
窓から下を見ると目もくらむような高さだから……あなた怖がると思ってどうしてもX号室は避けたかったの。
昨日は大きな声を出したりして、ごめん」



___【解説】___
主人公たちの泊まったX号室にはテラスがなかった。
つまり、窓から手を差し伸べていたのは、友人ではなく、他の誰かだったということになる。