ダーク・ファンタジー小説

12月23日アップ ( No.79 )
日時: 2013/05/22 17:15
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第18話「今年も会いに行くよ」

除夜の鐘を聞きながら、わたしは友達と二人、神社でたかれる大きな火を見つめていた。

新年を迎えたばかり。空気だけでなく、心も澄んでいた。
この夜ばかりは、深夜の外出も許されて、わたしは初詣に来ているのだった。と言ってもすぐ近所なのだけれど。

「昔のひとはね、大晦日の晩に神さまを迎えるため、こうして大きな火をたいたのよ。細かい意味まで分からなくても、この火の美しさは、わたしたちにも分かるね」

「うん。なんだかこんな夜は、不思議なことでも起こりそう」

神社の神聖な雰囲気に、徹夜のおかしなテンションも加わり、わたしと友達はこんな言葉を平気で交わした。


「えっと……間もなく時間だわ。そろそろ帰ろっか?」

なんの時間だろう。友達は時計を見ると、わたしにこう言った。

この神社は地元のひとには有名な場所で、小高い山の上にある。
急な階段をずっとのぼってきて、わたしたちはここまで来た。

だからもちろん、帰りは同じ数の階段を降りていかなければならない。

「ごめん。ちょっとここで待って」

階段のちゅうふくまで来ると、友達は言った。もしかして休憩したいの?

振り返ると、足元のおぼつかないおばあさんが、ゆっくり階段を降りてくる。

「危ない!」

わたしはとっさに叫んだ。
おばあさんが、階段を踏み外したのだ。

「おばあちゃん!」

友達がわたしより早く駆け出し、おばあさんの身体を受け止めた。
早い、というより、まるでそこへ落ちてくるのが分かっているみたいだった。

「……ありがとう。もしかして、OOかい?」

おばあさんはお礼の後で、友達の名前を呼んだ。

「そうだよ。孫のOOだよ、おばあちゃん」

「そうかね。大きくなったもんだね」

「うん。わたし、おばあちゃんを抱えられるまでになったんだよ。ごめんね、あの時はわたし小さくて……おばあちゃんを受け止められなかった……」

そう言ってほほえむ友達の声は、なぜか涙声だった。


後で聞かされた話だが、わたしの友達は、毎年一月一日の、この時間、この場所で、おばあちゃんを待っているのだという。






___【解説】___
おばあちゃんは過去に階段を踏み外して死んでいた。
その時、主人公の友達はまだ幼かった。
おばあちゃんはこれっきり現れなくなった、と思う。