ダーク・ファンタジー小説

1月7日更新 ( No.84 )
日時: 2013/01/12 02:46
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第19回「ALIVE」(前)

Aは放課後になるといつも図書室へ行き、数年前の卒業アルバムをながめていた。写真の中の、その女性に会うためである。

数日前のことだった。
クラス委員の仕事でTと二人、倉庫を整理していたら、昔の在学生が学園祭で使った看板、パネル、演劇部の衣装などが出てきた。
それらと一緒に、この学校の歴史について記した、素人製の本が出てきた。

Aはその本を読み、作者がどんな人か気になった。
そして図書室に置いてある「平成O年度」の卒業アルバムからその人の写真を見つけた時には、すぐ恋に落ちてしまった。

どんな人だったんだろう。Aは少しでもその人の素性が知りたくて、当時から在任している教諭に聞いてみた。

しかし結果はショックだった。今ではもう結婚して子供もいて——ということならまだよかった。彼女は、卒業して一年後には、亡くなっていたのである。

自分は故人に恋してしまったんだ。しかしAはあきらめられなかった。今もこうして、卒業アルバムを開いてみては、アンニュイなため息をつく。

「また見てるのね、A。亡くなった人の写真なんて……」

気づくと机の脇にしゃがみ込んで、自分を見上げてくるTがいた。

「放っといてくれ。卒業アルバムなんて、図書委員にいくら頼み込んでも貸してくれないからな。この人に会えるのは放課後のこの場所だけなんだ」

閉校時間も近づいて、図書室にはもう、ひとけがない。それでもTは、Aが下校するまで待ってくれていた。

「その人に、会いたい?」

「もちろん。会えるもんなら、会ってみたい」

「ふーん」Tは、ちょっといたずらっぽく笑って、「実は、夜のO時頃にね、XXの交差点で、その女性らしき幽霊を見たって子がいるのよ」

「なんだって!」

思った以上にAがくいつくので、Tは少しおじげつつ、

「うん。その人、事故死だったらしいんだけどさ。今夜、お花でもたむけに行ってみたら?」

「おお。行く、絶対行く!」


果たして、その夜のO時頃、Aは小遣いで買った花を持って、XXの交差点に来てみた。

幽霊でもいいから彼女に会いたい。
そうは思って来たものの、恐ろしい気もする。事故死だったっていうし、彼女の顔が、写真で見るような美しさを保っているだろうか。

しかし、そんな不安は、恋の歓喜と、幸福感への身ぶるいへと変わった。

横断歩道をはさんで、向こう側に、その女性は立っていた。
長い髪と、季節外れのワンピース。一本の街頭に照らされ、写真で見たままの美しい顔が、こちらを見てほほえんだ。

「あ……あ、あのッ!」

Aは声をかけようとした。
しかし、目の前を車が一台、二台と通り、夜の静寂をやぶる。信号を見れば赤だ。Aは悔しくて、足踏みした。

車が視界をさえぎっている間に、彼女の姿は見えなくなっていた。

(つづく)