ダーク・ファンタジー小説

Re: 私が聞いたようで見ていない、ちょっぴり怖い話(怪談集) ( No.87 )
日時: 2013/01/12 02:43
名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)

   第19回「ALIVE」(後)

「どうだった? 昨日、例の女性には会えた?」

翌朝、学校へ来ると、Tがそのことを聞いてきた。

「会えた会えた! すぐ消えちゃったけど……でも、きれいな人だった!」

「そっか。きれいだったか」

「ああ。写真より、もっときれいだった」

「そっかそっか。写真の人よりきれいか」

Tはくすくす、うれしそうに笑った。

「俺、今夜もまた会いに行くよ。幽霊でもいいから、あの人と仲良くなりたい!」

「んー……」Tは思案げに、あごへ指を当て、「もう、来ないんじゃないかな」

「なんでだよ」

「いや、なんとなく」


Tはそう言っていたけれど、実際、Aがその夜も同じ交差点へ行ったところ、彼女は現れなかった。

その代わり、O時をとっくに過ぎた頃、Tが差し入れを持って現れた。

「はい、肉まん」

「ありがと」

「待ちぼうけだね。きっと、その人だって、生きてる女性と恋をして欲しいって思ってるよ。生きてる人間がさ、幸せになってあげなくっちゃ」

「そんなこと言っても……俺にはあの人しか見えないよ」

ガードレールに腰かけ、Aは肉まんを食べながら、昨晩あの人の現れた街灯の下ばかり見つめていた。

「まったく、Aったら……」
TはAの横顔を見つめ、何かを思いついたように、
「実はさ、その女性の命日がX月Y日なんだって。その日なら、もしかすると会えるかもよ?」

「ほんとか? お前、よく知ってるな」


まだ二ヶ月あまりも先のことだが、Aは待つことにした。
放課後の図書室で卒業アルバムを開き、写真の中の彼女に会うのだけを楽しみにして。

それでもがまんできない日には、学校帰りに例の交差点へ行ってみるのだった。もちろん、O時を過ぎても彼女は現れない。

「もー、来月には会えるんだよ。もう少しなんだからさ、待てないかなー君は!」

Tがポニーテールのおさげを撫でながら言う。Tは最近、髪を伸ばすようになった。

「そんな不満を言うんなら、わざわざ俺について来なくてもいいんだぞ」

「わたしん家、こっから近いの! あーあ、早く伸びないかな、わたしの髪」

ふくれっつらになるTを見て、Aは思った。

そういや今まで気にしなかったけど、こいつの顔ってあの人に少し似てるかもな。やれやれ、怒ってばっかで、いつも何か言いたげで、めんどくさいやつだよ。


そしてやって来たX月Y日の夜。

どうやらAは、あの交差点で出会うことができた。

でもそれは、写真の女性ではなく、この日まで伸ばした髪をおろしたTだった。


Tのお姉さんは事故死ではなく、病死だったのだ。こんな交差点でいくら待っても、幽霊なんて出るはずがない。

初め、Aが写真の中のお姉さんを好きだと知った時、すぐにでも真相を教えてやりたかった。
でもそうすると、「姉妹つっても、似てねえよな」なんて言われて、Aはもうわたしを見てくれないと思った。

一度でいいから、Aの目をわたしに向けさせたい。
そんなわけで、昔の演劇部の衣装からカツラを拝借し、長い髪の——お姉ちゃんそっくりの女性となってAの前に現れたのだ。

作戦はうまくいった。Aは長い髪のわたしを見て、胸をときめかせたんだ。一度だけじゃなく、二度目にも……。


「ほんとにAってば、にぶいんだよ! お姉ちゃんとは同じ名字で、顔も似てるのに!」

Tは幸せのような、ムカムカするような、複雑な気持ちで胸が熱くなっていた。

「お前の顔なんて、気にしたことなかったもの」

「気にしろよ! わたしだって、きれいになれるんだから!」

「いいんじゃないか。お前は、そのままで」

Aが笑みを浮かべて言った。
この瞬間、Tは初めて、亡くなったお姉ちゃんのことを思って涙を流した。