ダーク・ファンタジー小説
- 1月20日アップ ( No.90 )
- 日時: 2013/05/22 17:20
- 名前: あるま ◆p4Tyoe2BOE (ID: Ba9T.ag9)
第20話「誰も住めなくなった階」
E君は先日、15階建てのマンションに引っ越してきた。
30歳そこそこで、都会のマンションに住んでいるE君。あとは綺麗な奥さんでももらえれば、言うことない。
勤務先が近いから、つい気がゆるんで、遅刻ぎりぎりで部屋を出たE君は、あわただしくエレベーターに乗り込んだ。そして、1階のボタンを押した。
数秒ゆられて、ドアが開くと、なぜかそこは15階だった。
エレベーターが故障しているのだろうか? E君は舌打ちし、もう一つある、隣のエレベーターに乗った。
自分の身体が下へ運ばれるゆれを感じながら、上の表示を見てみると、確かに15階から14階、13階……と移動していって、1階に着いたところで、ドアが開いた。
出た場所は、薄暗いフロアだった。人の気配が全くない。窓の外には、青空だけが広がっている。
それは、エレベーターに乗り込む前に見た景色と一緒だった。
E君は、自分のマンションを外から眺めた時に、最上階だけいつも明かりがついていなかったことを思い出した。このフロアは、使われていないのだろうか。
E君は焦って、今度は階段で行くことにした。
階段のおどり場には「15/14」と書かれている。下へおりれば、14階のはずだ。
ところが、階段をおりたその先も、同じ景色だった。照明がついておらず、誰もいない。
E君は怖くなって、今度は階段をあがっていった。
おどり場には「R/15」と書かれていた。Rは屋上だ。そんなところへ行っても仕方ないのだが、とにかくここを出たかった。
でもやはり、階段をのぼり切ると、自分は15階にいた。
どうしよう。このフロアには誰もいないし、安全上の問題なのか、窓には真新しい格子が取り付けられている。どっち道、15階の高さじゃ声も届かない。エレベーターの非常電話を使うか? でも何と言って説明すればいいんだ。
そうだ、おどり場の「15/14」の表示だ。
15階から下へおりて15階に着くのなら、あれがどっかで「R/15」に変わっているはずだ。その瞬間を見てやれ。
E君はゆっくり階段をおりた。
そしておどり場まで来ると、今度は後ろ向きに階段をおりる。
手すりにしっかりつかまって、一段、一段、おりていった。
「15/14」の表示は変わってない。やった。あと数歩で14階へ行ける!
突然、E君の背中に重い衝撃が走った。
二つの手の平が、思い切り彼の背中を押したのだ。
E君は苦しさに目を閉じた。視界が真っ暗になった。
目を開けても、どうせまた自分は15階にいるのだろう。
嫌になったE君は、フロアのすみずみにまで響き渡るような声で、
「もういいかげんにしろおおおおォォォォ!!」
と叫んだ。
14階に住む人たちをびっくりさせてしまったが、どうにかE君は会社に間に合った。
___【解説】___
その「二つの手の平」が主人公を迷わせた。
でも怒られたので引いた。
「怒られると(いたずらを)やめる幽霊」というわけ。
不思議なことが起こるから15階は誰にも貸していない。
窓に真新しい格子がハマっていたのは、以前そこから誰か飛び降りたからか。