ダーク・ファンタジー小説

Re: ERROR_ ( No.3 )
日時: 2023/05/21 09:42
名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)

第1章「異質」
1


時刻は18時を回った頃、空は茜色に染まり、パトカーのランプが赤く発光していた。
KEEP OUTと書かれた黄色のテープの前では警官と刑事が立っていた。
「ん?H.C.S.に害虫駆除を頼んだつもりはねえんだがな」
強面にしゃがれたか声は、背筋を震え上がらせる。
鮫島翔太さめじましょうただ。
「悪いな。でも依頼なんで仕方がねえ」
「っち、いつまでも警察の邪魔しやがって。民間の警備会社のくせに」
不機嫌そうに舌打ちをしながら、風花の方を睨み付ける。
今回の依頼は、神社の敷地内に突然変異体『SIGMA』の駆除。
「社長さんは来ねえわけだ」
「ウチの社長は忙しいんでな」
「その代わり私だ」
「なんだこのガキ」
目を見開いて驚く翔太に、ガキ呼ばわりされて生原蒼はいばらあおは怒った。
「誰がガキだ!私はもう11歳、ガキと呼ばれる筋合いはない!」

テープの内側に入り、風花は対SIGMA拳銃を装備した。
「そんなんでいいのかよ」
「これは対SIGMA戦を想定して作られた銃だ。見た目はただの拳銃でも、威力は下手すりゃショットガンにまで匹敵する。それに銃弾はカースヴァーナコーティング弾だから、折り紙つきってわけだ」
「ほー」
翔太は話を聞いていたのか聞いていなかったのか分からないような返事で答える。
鳥居を潜ると、そこには5mはある大型の蜘蛛が境内を破壊していた。
「こちら鮫島、SIGMAレベル2を確認。これより殲滅作戦を開始す___」
「っ!」
翔太が無線で連絡している間に、風花と蒼はSIGMAに向かって攻撃を仕掛けた。
風花は照準を合わせ、マガジン内の16発を全弾命中させた。
「おい!全然効いてねえじゃねえか!」
「っち!やっぱりか!」
「風花、来るぞ!」
蒼からの警告で、SIGMAの長い脚から繰り出される攻撃は回避できたが、地面は抉られ余計に足場が悪くなってしまった。
風花はロングマガジンを装填し、蒼に指示を仰ぐ。
「蒼!俺がヤツの気を引かせるから、お前が攻撃しろ!」
蒼は返事をせずに頷くだけで、恐ろしい速さで移動した。
セファルキーパーの身体能力には驚かされるばかりだが、風花もSIGMA-DNA組み込まれた死に損ないなので、負けていられない。
スライドを引いて、狙いを合わせる。トリガーに指をかけた。
すると、辺りに炸裂音が鳴り響き、火薬の臭いが充満する。思わず咳き込みそうになるが、そんなことをしている場合ではない。
「今だ!蒼!」
風花が叫ぶと、上空から蒼が踵落としをしながら落下し、SIGMAの頭部を叩きつけた。
「はぁぁぁぁぁ!!」
金属と金属がぶつかり合ったような甲高い音が響き渡り、紫色の体液を撒き散らしながらSIGMAは活動を停止した。
戦闘が終わったことによる疲労なのか、息が上がり肩で呼吸する。
「...もしもし、天汰さん。ああ、終わったよ」
天汰に連絡を取り、任務が終わったことを知らせると、通話を終了させてそのまま死体処理の手伝いもせずに帰った。

「ただいまー」
いつもなら返事が帰ってこないはずだが、電気が点いており誰かが部屋のなかに居るということが想定できる。
「おかえりなさい」
しかし不審者だとか、そういう心配をする必要はなかった。
漆黒の長い髪を、後ろでまとめている少女。
「悪いな天汰さん、夕飯まで作ってもらって」
「いいのよ、どうせ私は前線に立てないんだから」
その言葉に、少しだけ風花は悲しい顔を浮かべた。
天汰は中学生の頃両親をSIGMAに殺され、その時に腎臓の半分が機能を停止し、そのため短時間でもスピードとパワーを生かした刀を使う戦闘スタイルの天汰は、もう前線には立てない。
「でも私は見たいぞ、天汰が刀を使っているところ。免許皆伝なのだろ?」
「あのな、蒼___」
天汰は風花の言葉を遮り、優しく微笑みを浮かべて言った。
「じゃあ今度、私と風花くんが模擬戦するから、審判よろしくね」
「おー!やったー!」
無邪気に喜ぶ蒼を横目に、風花は勝ち目がないと心の底で思った。