ダーク・ファンタジー小説
- Re: ERROR_ ( No.4 )
- 日時: 2023/05/23 22:09
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
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無機質なむき出しのコンクリートの壁には、おしゃれな時計がかけられていて、さらには観葉植物が置いてある。
「急に呼び出して何の用だ純儺先生」
不機嫌そうに言うと、目の前の女性は白衣のポケットに手を突っ込んで、イスに腰掛けた。
富樫純儺。
「悪いねわざわざ来てもらって。実はI.S.S.O.のLv.序列1400番台まで君が格上げされたから、それの報告」
Lv.序列とは、I.S.S.O.が定めた戦闘力のランキングである。
風花は夜中にバイクを飛ばしてきたことを後悔した。かなり久しぶりの運転だったので、クラッチを繋いで発進するときにエンストを繰り返して、一人で恥ずかしい思いをしたことが脳内でループ再生される。耳が熱くなっていくのがすぐにわかる。
「H.S.C.の知名度もそれなりに上がってきたし、君たちとしても安泰じゃないのか?」
「さあな。それは社長に言ってくれ」
そう言うと、用が済んだかの確認もせずに、研究室のドアを開けた。
特に止められることもなかったので、そのまま研究室から出てエレベーターに乗った。
「...」
ただいまと言うと、寝ている蒼が起きてしまうかもしれないので、そーっとドアを閉めて脱衣場に向かう。
汗で少し湿った服を洗濯機のなかに放り込んだ。
シャワーの音が浴室に反響し、心の隙間を埋めていく。この瞬間こそが、特殊武装警備員の彼にとっては至福だった。
タオルで体を拭いていると、マナーモードにしてあったスマホが一定の間隔でバイブレーションする。電話だと確信するのには、あまり時間がかからなかった。
「もしもし」
電話の相手は天汰だった。
『あら、起きてたんだ』
「起きてないときにかけたって意味ないのになんでかけようと思ったんだよ。まあ今起きてるからいいけどさ」
寝てる間に知ってて電話をかけるなんて、なんとも悪質だ。
「んで?何の用だ」
『H.C.S.にSIGMA駆除依頼が来たから行ってくれるかしら?』
「ああ、いいけど...レベルは?」
『3なんだけど』
そう答えた天汰に、言葉を失ってしまった。
SIGMAには、レベルが5段階に分けられており、レベル1の新生幼体、レベル2の終霊幼体、レベル3の新生成体、レベル4の黒曜成体、そしてレベル5白霊成体だ。レベル4は上から3番目、つまりまあまあ強い。
『どうしたの?』
「俺なんかで大丈夫か?というか俺の安全は大丈夫か?」
『報酬は膨らむけど』
まさか社員の安全よりも報酬を優先するとは、この人は本当に情はあるのだろうか。
しかし、天汰の並々ならぬ圧を感じてしまったために断れなくなっていた。
「天汰さん」
「んー?」
「稽古、つけてくれねえか?」
「お!風花と天汰、戦ってくれるのか!?」
メガネをかけて、デスクワークをしていた天汰は目を見開いて驚いていた。蒼は待ち焦がれていた稽古に、目を輝かせていた。
風花は天汰の返事を待たずに、続けた。
「今度の依頼で、へましないように強くなりたいんだ。頼む」
深々と頭を下げて、風花は頼み込んだ。
天汰はメガネを無機質で正に事務作業に特化したような机の上に置き、イスから立ち上がり胸を揺らした。
「...分かった、頭上げて。でも風花くん」
恐る恐る顔を上げると、そこには笑顔が消えた何の感情も宿っていない、天汰の顔が目に入った。
「本気でやるんだったら、私はその気持ちに応える。だから容赦はしないわ」
その圧で押し潰されてしまいそうな風花は、ゆっくりと頷いた。