ダーク・ファンタジー小説
- Re: ERROR_ ( No.5 )
- 日時: 2023/05/26 22:15
- 名前: 神崎 (ID: 4NhhdgqM)
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ある日、風花は事務所でニュースを見ていた。
『続いてのニュースです。SIGMAによる被害は深刻化しています』
そんなこと誰もが知っているだろうと思いながら、ニュースを聞き流す。
アナウンサーが喋っている途中で映像が切り替わり、会見のようなものが行われそうな雰囲気が漂っており、黒いテープで雑にまとめられたマイクが置いてある。
『それでは武蔵野首相の会見です』
どうやら会見で間違いなかったらしい。
武蔵野風鈴、21歳という若さで東京エリアを統括している権力の塊みたいな人物だ。
『東京エリアでは、すでにSIGMAによる侵攻で、10分の1を失いました。そこで自衛隊内特別殲滅部隊DASTを編成します』
「ただいまー」
会見をぼーっと見ていた風花は、不意に玄関から聴こえた声に思わず体を揺らした。
声の主は天汰だった。見れば彼女の背中には、黒い棒状のものを背負っていた。
「まさかそれって」
「雨夜」
風花の予想は見事に的中してしまった。
雨夜というのは黒雲刀・雨夜のことだ。この刀は、風花のために作ってもらった刀だ。製造にはバルドニウム鉱石を使用しており、その上からカースヴァーナコーティングを施しており強度とSIGMAに対する威力は凄まじいものとなっている。
しかし風花にとっては、この刀はあまり好きではない。なぜならば、元々白銀だったのに、H.C.S.に所属して最初のSIGMA駆除のときに焼き色の青と紫のグラデーションがついてしまって、天汰と風花の師匠である神代杏亥に怒鳴られたからだ。
「...なんで、これが?」
「道場の方に用事があったのよ。それで師匠に『いつまでも雨夜を道場に置きっぱなしにするな』って怒ってたから、私が持ってきたの」
余計なことを...と思いながら、頭を抱える。
レベル3のSIGMAは、それなりに手強い相手でもある。風花も、以前対峙したことがあり、そのときにかなり手こずった記憶がある。
耳が痛くなるほどの静寂の森には、生き物の気配など何も感じない。
「...SSSビット射出」
静かに呟いた途端、手のひらに置いた小型のドローンが音すらたてずに浮遊した。
SSSビット、視覚を失った狙撃兵やスコープでは視認不可な超ロングレンジ戦闘などの現場で使用される。
仕組みとしては、専用インターフェースを脳波と干渉させて、電気信号を送って映像を遅延なしで送っている。
風花は実はすでに両目を失っており、ドグマ社製高度演算CPUを組み込んだ義眼で失った視覚を補っている。
「...」
サーモグラフィーに映った赤いシルエットは、生き物のそれの形をしている。シルエット的には、エビやカニなどの甲殻類が近いだろうか。
敵の姿を鮮明に見ようとして、サーモグラフィーを解除。
「なっ...」
先程まで確かに映っていたSIGMAが見えない。
再びサーモグラフィーを起動させると、確かに居る。
風花は、思考をフル回転させ、何が起こっているのかを必死で考える。あらゆる知識や経験を持ってしても、答えが出ない。
「くそっ...」
脳の限界が訪れ、SSSビットを戻す。頭をジリジリと焼くような痛みと、ヤツを殲滅する糸口が見えないことへの焦りが苛立ちとして表に出る。
しかし今はそんなことをしている場合ではない。早く殲滅しなければ。
ヤツの位置は大体把握している。それにSSSビットからの映像では、体長が推定でも7mはあるはずなので、的が大きいのは風花としてはありがたい。
「これより目標を殲滅する」
呟いた言葉に返事はないが、彼は戦闘を開始した。
腰に1m16cmの刀を差しているため、非常に動きにくい。愛刀の望んでもない帰還のせいで、任務にまで支障が出そうだ。
目標地点までたどり着き、刀の柄に手をかける。
「神代式抜刀術牙瀧破壁の構え」
肺一杯に空気を吸い込み、精神を統一する。
「ふぅ...神代式抜刀術一の型一番...天座邪逸・四連」
刹那、地面を抉りながら跳躍する。
「ハァァァァァァ!!!」
咆哮を上げながら、風花は縦一文字に刀を振り下ろす。
伝わってきた感触は、かなり固い。恐らく外骨格に当たってしまったのだろう。じーんと両手が痺れる。
刹那、SIGMAは咆哮を上げながらその姿を見せた。
「うおわ!?」
二撃目を食らわすことなく、技は途中で解除され大きく体を揺らし落とされた。
「っつつ...はっ!?」
風花は、初めてその全貌を見た。
カニのような風貌に、目がない代わりに長い触覚が4本。縦に長い腹部は、白く縁は目まぐるしく光っている。
SIGMAは、擬態が解除されてしまったことに激怒したのか、その巨体とは相反して素早く大きな鋏を振り下ろしてきた。
____その鋏は挟むもんじゃねえのか!
口に出す暇もなく、攻撃を回避した。地面が抉れ、すさまじい衝撃波が辺りに広がる。
空中で体勢を立て直すと、風花は左手で腰のグロック社製の対SIGMA拳銃を構え、巨体に向けてフルオートで全弾撃ち込む。
体勢を崩したところで、銃を投げ捨て刀を再度構える。
「神代式抜刀術二の型二番、獄火羅針!!」
刀が赤熱し、外骨格をジュウと焼き斬り、火花を散らしながら苦痛の鳴き声を上げた。
「うおりゃぁぁぁぁあ!!!」
技が終わると、刀身から白煙が立ち上ぼり、SIGMAは爆散して活動を停止した。
風花は戦闘が終わり、肩で呼吸しながら刀を鞘に納めた。カチン、という金属がぶつかる快音が鳴り、森から出た。