ダーク・ファンタジー小説
- Re: コンステラシオン ( No.1 )
- 日時: 2023/08/10 23:47
- 名前: 流郷 泉 (ID: JU/PNwY3)
ヴィヒレア王国、世界に存在するうちの一国。
この国で18年前に起こったことは人が起こすことが出来ない
一瞬の悲劇。
「こ、これは…」
現場へ駆け付けた誰もが言葉を失った。生存者はいないように
思われた。誰も気付かない秘密。機密。これは仕組まれて
起こった悲劇。それを知っていた人物がいた。彼女は当時、騎士として
働いていた。この事件を皮切りに騎士を辞め、彼女は孤児院の
職員になった。仕組まれた悲劇の唯一の生存者と共に孤児院に来た。
そこでそだった生存者の存在は今のところ、首謀者に感づかれて
いない。
そして、18年後。大地を満たすマナの急激な高まりを検知した。
西区、絶対聖域。入ることが許される人間は限られている場所に
ルリア・ハートフィールドは足を踏み入れていた。
青々とした葉が風で揺れる。隙間から暖かい陽光が差し込む。
その光を浴びながら、気の向くまま彼女はここに来たのだ。
偶然なのか、彼女自身の運命が引き寄せたのだろうか。
この森は精霊たちの住処。精霊は神とかつて同一視されていた存在。
今でも少数派になっているが精霊信仰が存在する。精霊と人の
繋がりは非常に強い。人間の英雄、勇者と呼ばれる者たちの多くが
彼らの力を借りていたとされている。
彼女だけではない。
「ここに、人間がおられるとは思いませんでした」
ルリアはその人物を見上げる。細長い体躯の男は身を屈めた。
身にまとっているのは国の騎士団の制服だ。額にある瞳は開かれ、
他二つの瞳は閉じられている。
「驚かせて、申し訳ありません。私はサリヴァン・アーツェルンと
申します」
サリヴァン・アーツェルン、彼は人間では無い。精霊と巨人族の
血を引く混血だ。その体躯も巨人族の血を引いているからだと説明
されれば納得できる。巨人族は名前の通り、人間よりも大きな体を
持つ。蛮族のような者が多いらしいが、彼らからはそのような荒々しさを感じない。
「とても綺麗な髪ですね。まるで宝石のようです」
「ありがとう。よく色んな人に言われるの。宝石みたいな髪で
素敵だねって」
長い藍色の髪を指で撫でて言う。
「ねぇ、人間は普通ここには入れないの?」
「はい。良い人間もいれば悪い人間もいる。それを精霊は理解
しているのです。人を選ぶのですよ。ここは既に入り込んだ場所…
だからこそ珍しいのです」
「サリヴァンの母親が精霊なんだよね。彼女もこの森に?」
炎を司る精霊を母に持つ彼。それならば、ここに容易に入ることが
出来るのも納得できる。
「えぇ。ですが、もういません。精霊も死ぬのです。死ぬのですよ」
サリヴァンは何処か哀し気に呟いた。それは精霊たちが人を
選ぶ理由にも関係している。種族間での争いは何度も起こっている。
古代、神話の時代には人間や獣人、巨人族等の大地で生きる人と
天から大地を統べる神との間で戦いが起こっていた。人間側は全ての
種族で同盟を結んでいたらしい。破神同盟。神という共通の敵を
打倒することが目的だった。その戦いを終えてから。同盟は破棄
された。大地の生物の繋がりは崩れてしまった。
- Re: コンステラシオン ( No.2 )
- 日時: 2023/08/11 22:55
- 名前: 流郷 泉 (ID: JU/PNwY3)
「ここは?」
ルリア・ハートフィールドがサリヴァン・アーツェルンに導かれたのは
森の奥地。色とりどりの花々が咲く場所に墓石が幾つも並んでいる。
「私の母の墓です。といっても骨すらここには埋められていませんが。
精霊は死ぬとマナに還るんです。そして百年の時を経て、再び
精霊になる」
「サリヴァンの母親は火属性の精霊なんだね」
「はい。ですので、私も火属性の魔術は得意なのです」
肉体的特徴は巨人族の父親に酷似しているらしい。人間と他の種族の
混血は度々見かけるが、それ以外の混血は非常に珍しい。全く人間の
血が流れていない彼が人間が多く住んでいるヴィヒレア王国で騎士
として働いているとは。
「団長が色々手を回してくださったのですよ。国でも異種族を
平等に扱うべく動き出しています。騎士団も過去には入団規則に
色々ルールがあったようですが、現在の団長がその地位に就いてから
見直しがされたんです」
「今の団長は歴代最年少で今の地位を獲得したって言われているよね。
そんな優秀なのか…」
墓石を離れ、二人は森の出口を目指す。だが、小さな精霊が彼女たちの
もとへやって来た。二人が目指す出口で爆発音が聞こえた。森の木々で
羽を休めていた鳥たちが慌てて飛び出した。
森に侵入者、その対処に精霊女王ティターニアは追われている。だが
彼女に直接の戦闘能力は無いらしく、結界で相手を阻むのが精一杯。
ただ一つの出入り口から強行突破しようとしている魔物が迫っている。
敵の姿が見えた直後、サリヴァンは炎を纏わせた三叉槍を振るう。
その魔物と戦っている最中、彼は違和感を覚えた。そんじょそこらに
いる魔獣では無い。
「アマルティア…!」
数は少ないが、特に強力な魔獣はアマルティアと呼ばれる。
研究が進んでおらず、まだまだ情報が足りないがこのように群れを成し
一カ所を襲うなど聞いたことが無かった。背後から援護射撃。
発砲によって煙を出す銃口。銃を構えていたのはルリアだった。
言葉は発することなく、ただ自信あり気な顔を彼に見せる。初対面だが
二人には確かな繋がりが出来ていた。顔を見て、今の状況を理解
していれば彼女が発する言葉は声になっていなくても分かる。
「それでは、申し訳ありませんが援護は任せます」
群れの中に突っ込み、敵を穿つ。赤い炎が勢いを増す。そのマナから
遠方で結界維持に集中していた精霊女王は火属性の精霊の力を
感じ取っていた。同時に自分たちと縁があるような、不思議な人間の
存在に気付いたのだ。彼女は懐かしさを感じていた。
「この時代に、私の力を手にするに相応しい者が…」
精霊女王は年々己の力の衰えを感じていた。精霊の寿命も永遠では
無いのだ。普通の人間よりも長く生きているが、彼女の力が…寿命が
大きく削がれた出来事が過去にあったのだ。
ティターニアは最後を託せる人間のもとへ急ぐ。
精霊とルリア、サリヴァンたちの他に二人が動き出した。片や
精霊女王の力を狙う者、片や異変を解決するべく動いた猛者。
彼らが一カ所に集まったのだ。
- Re: コンステラシオン ( No.3 )
- 日時: 2023/08/11 23:56
- 名前: 流郷 泉 (ID: JU/PNwY3)
猛者とされる者が幾人か存在する。彼らが得意とする術などから
二つ名が付けられ、名前が広がった。精霊の森に雪崩れ込む
アマルティアの数を抑えられていたのは彼の尽力があってこそ。
彼もまた炎を操る力を持っていた。
「これだけ集まるのは珍しいな。やはり人為的な原因があるのか」
群れを一人で片付けた青年は剣を鞘に納める。イヤホン型
通信デバイスからは安全圏から彼をサポートしている人物が彼の
言葉に応えた。
『多分そうよ。アマルティアの群れを一人でどうにかしちゃうなんて
流石エース!化け物だよ~』
「別のものに気が散っていたからな。そうでなければ、俺だって
苦戦しているさ。この先で良いんだな」
『うん』
エースと呼ばれた青年は走り出す。彼らが探しているのは人。
その人物がいるかもしれないと考えた。遠方で自分の炎と負けず劣らず
強い炎が見えた。鋭い彼はその炎は精霊の力に近いと気付く。
火属性の精霊が戦っているのだろうか。
駆け付けた時、奥に一人の少女の姿が見えた。宝石のような美しい
藍色の髪。白磁器のような白い手には銃が握られている。腰には
剣も携えている。髪を見れば目的の人間であることはすぐ分かる。炎を
操っていた男が最後の一体を倒したところだった。
「貴方は」
「エース・アルナイルだ。色々あってお前を探していてね」
エースはサリヴァンの横に立つルリアに目を向けた。
「私を?」
「お前の親が俺の命の恩人でさ。恩を返そうと思っていたんだが
聞けばもう死んだって。お前、多分面倒な奴らに狙われているぜ」
朗らかな笑みを浮かべていたが突然彼は真剣な目を向ける。だがすぐ
表情を綻ばせる。近くにいて感じるのは高い魔力。魔力が多いこと、
それが強さにイコールでは無いが繋がりは強い。
「面倒な奴ら…ヨクト、ですか?」
「知ってるのか。あぁ、騎士団か。なら知っていても可笑しくないか」
かつては秘密結社とされており、存在があやふやだったが18年前に
存在が確認された。大地から去った神の再降臨を目標として動く
犯罪者たち。彼らは各地にいるとされる。国の権力者に取り入り、
影から国を操ったり、時には表立って争いを起こす。
「お前も強い魔力を持っている。それだけでは無いかもしれない。
不自由な思いはさせない。俺が答えられることならば、何でも
答える」
困惑するルリアを見て、エースは申し訳なさそうな顔をする。
「悪い。一度に沢山言っても、追いつかねえよな」
「ううん、気にしないで。エースさん」
「エースで良いよ。アマルティアがこうして群れで動く時は恐らく
もっと不穏な事が起こる。森を離れた方が良い―」
エースが先導しようと一歩踏み出したが、その足元に弾丸が飛んで
来た。ルリアの銃では無い。銃弾は掠らない。一人の女性が姿を
現した。長い桃色の髪を揺らす妖艶な女性。
「これはビックリ。爆炎のエース、いたのね?そちらの騎士は
精霊と巨人の混血。とっても珍しいわ」
「私もビックリですよ。よく、私がその二つの種族の混血だと
分かりましたね」
穏やかな口調だが、全く笑っていない。サリヴァンは両の目を
開いた。見つめられている女は飄々とした笑みを見せる。
「私も色々調べているのよ。貴方のその目は敵意を見抜く。貴方に
どうやら嘘は通用しないみたい。これでも演技が得意だったのだけど。
私はティファレト、よろしくね?御嬢さん」
彼女はルリアに目を向けた。得体の知れない空気を纏うティファレトに
ルリアは悪寒が走る。彼女の操る糸が辺りに張り巡らされた。
恐れるべきは銃だけではない。だがその糸をエースが簡単に断ち切る。
「切れるんだな、この糸。それとも小手調べのつもりか」
エースの剣には紅蓮の炎が燃えていた。
臨戦態勢なのは彼だけではない。ティファレトは自分は戦わない
つもりでいる。その代わり、彼女は厄介なものを連れ込んでいた。
「私の目的の為よ。正義感の強い貴方は見過ごせないでしょう」
「こんなものまで連れて来るのか…!?」
エースは驚愕していた。ルリアの隣に立つサリヴァンも顔をしかめる。
「魔神。そう、魔神なの。命を代償に従える存在」
巨大な魔神を前にエース、サリヴァン、ルリアは戦闘を余儀なく
される。魔神、神に分類される存在だ。彼らは古代より封印されており
復活することは難しい。術式を解除し、他者の命を代償にして
ティファレトは魔神を従えたらしい。
- Re: コンステラシオン ( No.4 )
- 日時: 2023/08/12 11:57
- 名前: 流郷 泉 (ID: JU/PNwY3)
魔神オセ、降臨。
鎧の巨人は森全体を覆い隠しているのではないかと思うほどの
巨大な掌を大地に向けている。
「逃げるって言ったって、どこに!?」
一撃に溜めを必要としている。それだけ大きな攻撃が迫っている。
エースは剣を抜いて、斬撃を放つ。だが敵はビクともしない。
それどころかもう片方の手でエースたちを薙ぎ払おうとしていた。
彼の横に入り、サリヴァンは槍を突く。母親譲りの力。彼の刃は
魔神の手を貫いた。
だがその一撃しか与えられなかった。
「エースさん!」
放たれた攻撃の衝撃波。エースの体が浮き、そして吹き飛ぶ。
ルリアは彼に向けて手を伸ばすも届かない。だがサリヴァンが
手を伸ばし、引き寄せる。
『小さき者よ、消えよ』
オセの言葉。だが運はこちらに向いている。魔神降臨の次は
精霊女王降臨。変わり果てた森の姿に彼女は悲し気な顔をしていた。
「魔神オセ、我らの聖域を破壊したことは許しません」
『精霊女王ティターニア。貴様に何が出来る。私が簡単に破壊できる
程度の結界しか作れぬ老いたお前に、何が出来るというのだ』
力の衰え。彼女がずっと森に隠居し続けて、人を拒絶していたのは
衰えた力の露呈を隠すため。その話は誰も知らなかった。二人の会話は
過去に対峙したことがあるような口調。もっと古い時代。精霊が神と
同類として考えられていた神話の時代。神と魔の神の間に起こった
戦争。もしかしたらその時に二人は対峙していたのかもしれない。
精霊女王ティターニアはその美しい黄金の瞳でルリアを捉える。
「確かに私の力は刻一刻と消滅へ向かっています。でも大丈夫。
私は死にません。もう新たな精霊女王がいる」
別の場所で生きているらしい。
「双子の妹です。そして私は、最後に人に力を託します。この、
“共鳴者”に」
ルリアの事を精霊女王は「共鳴者」と呼んだ。その言葉の意味を
ルリアは分からない。だがオセには理解できたようで、彼は動揺
していた。その言葉が真実だとしても、それを振り払うように
攻撃に動いた。
「勝手に色々決めてごめんなさい。お願い。私の全部、貴方に託す」
「私なんかで、良いんですか?」
「良いの。その代わり、大切に使ってね」
精霊女王の体が光の粒子、マナそのものになり、ルリアの体に。
精霊の加護を受ける者は存在する。水の精霊、ウンディーネの加護や
風の精霊、シルフィードの加護など…。語られる英雄たちと精霊の
繋がりは非常に強い。特に有名な原初の勇者は精霊女王の加護を受けて
そして戦ったのだ。それがティターニアが人間に手を貸した最初の事。
最後は自分の残りの全てを託した。
未来永劫、消えない封印。
「―聖剣結界:アヴァロン!」
魔神を取り囲むように四方に赤、青、緑、黄の剣が地面に突き刺さる。
結界が発動した。それぞれ四属性の大精霊たちの力を持っている。
凄まじい魔力量だが、心の底から安心できる優しい光だ。魔の神を
完全に封印してしまった。これが精霊女王の加護、精霊女王の力。
彼女の力で事なきを得たが、この事件は瞬く間に世界へ広まった。
魔神事件、そう名付けられた。
精霊女王が支配する不可侵の聖域に突如現れた魔神。再封印したのは
精霊女王ティターニアであるが…彼女の消滅とその力の譲渡については
誰も語っていない。
事件を終えて、エースと共にルリアは行動することにした。
別れ際にサリヴァンはルリアに忠告をする。
「国の上層部、権力者たちに動きがあります。一介の騎士である私には
分からない事が多いのですが、どうかお気を付けて。また縁があれば
会いましょう」
「うん。ありがとう、サリヴァン」
さて、序章は終わった。謎と言う謎はまだほとんど出ていない。
しかし共鳴者とは何者だろうか。それは称号なのだろうか。
その謎の答えはまだ出すことは出来ない。