ダーク・ファンタジー小説
- Re: いつだって私達は。 ( No.2 )
- 日時: 2023/10/16 17:16
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
「おはようございます」
朝からこんなギラギラな店の中に入るのは、最初は気が引けた。今はもう慣れたのだけど。
スタッフや他の女の子達にも挨拶する。その際、荷物を持ったり調子を聞いて、好印象を持たせておくのも欠かさない。
今日も可愛いあたしを見つけてお金を堕とす客の姿が早く見たい。
日記のネタ探しにスマホをいじっていると、
「おはよう♡今日も頑張ろうね♡」
とあたしの次に人気の、今運営が推してる子、愛ちゃんが若干谷間が見えるポーズで話し掛けてきた。
__あたし、実はこの子が苦手なのだ。
声は高くて耳がギンギンするし、やたら胸強調してきて気持ち悪い。
語尾はまるで♡でも付いてるみたいな、俗に言うぶりっ子なのかもしれない。
「そうね、お互い頑張りましょ」
と軽く会話を聞ってスマホに目を向ける。愛ちゃんはそのまま自分の待機場所に戻った。
待機場所であたしが1番好きなあたしの表情、角度、ポーズで写真を撮る。
背景は事前に撮っておいた海の写真を使い、あたしが海にでもいるような合成写真が出来た。
薄い青のフィルターをかけて、お店の名前と「夏だぁ!」という文字を入力してアップ。
これで今日の客は5人ぐらい増えたと思う。
メッセージアプリを開いて、妹達と4人で使っているチャットに文字を打ち込む。
『今何してる?時間大丈夫そう?』
毎日、暇な時は送るようになったこの呟きも、割とすぐ返信が来るから嬉しい。
『スマホ見てた。今は全然暇ー」
結花が反応した。いつもスマホいじってるから当然か。
『今起きた、いつでも退屈』
瑠璃歌だ。引きこもりだし突っ込む時間は無い。
『麗奈お姉ちゃん!いつもお仕事忙しいのにありがとね。瑠璃歌お姉ちゃんも結花も、目を労ってよ~』
百合菜。みんなには会社勤めって言ってたんだっけ。今は暇ー。
その後も、しばらく雑談して解散した。
さ、まだ時間に余裕があるので、仕事関連の勉強でもしようかな。
風営法とか風適法22条の勉強や、プレイを上達させるコツとか、色っぽい声をちゃんと出す練習など、有効に時間を活用していた。
長い準備時間が終わり、いよいよ実戦タイムだ。
いつもの様に予定びっしりだから今月は大丈夫そう、と確認すると、営業スマイルで最初の客と対面する。
「麗奈です」
「よろしくね〜グヘッ」
この人ちょっと、無理だなぁ。笑い方キモいし。でも妹の為、あたしの為。キモ男が大金堕とすんだから丁度良いでしょ。
いざ部屋に入ってキスをすると、中年キモ男が胸を触ってきた。
キモいのに、嫌なのに。なのに、あたしの心は満たされる。もっと、と体が欲している。
こんなあたし、嫌い。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.3 )
- 日時: 2023/10/11 07:03
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
1人目が終わって、シャワーを浴びた後すぐ、次の客の準備を始める。
髪は一瞬で乾かして、鏡を見ては営業スマイルをする。
「キモ。本当にこれあたし?」
朝はあんなに美人だなぁと思ったのに。しかも、自己肯定感がどうとか語ったのに。
あたしは、思った以上に汚いのかもしれないと思うと、わざわざあたしと差のありすぎる愛ちゃんを運営が推す理由が分かった気がした。
「あたし…もうダメなのかな」
そう呟いたすぐ呼び出され、次々に客と行為を重ね、すべて終えて帰宅した。
部屋に入ると結花は寝ていて、起こすと悪いので小さいランプを灯して夕食を作り、さっと食べて片付けて、お風呂に入る。
その後は退勤日誌に勤務時の業務内容を軽くまとめる。
スマホを顔に向けると2:00と表示される。今日も疲れた。おやすみなさい。
「麗奈ぁ~?あんまり調子に乗らないでよね♡」
「麗奈、目障りなのよ。ブス、ブス、ブス。死ね、消えろ…」
__ネットには、こうも書き込まれているとは、本人は知らない。
あぁ、今日も朝を迎えてしまった。
嫌だ、嫌だ、あんな事したくないのに。体が、言う事聞かないから…。
でも、しないと生きていけない。
スマホで時刻を確認しようとすると、『今日は休日』と通知が来ていた。そっか…休みだ。
ぽっかり空いた心の穴を埋めるために行為をしている、でも今日はそれが無い。
嬉しいと悲しいと、わくわくとムカムカが、ぐちゃぐちゃに絡んで気持ち悪い。
風俗を始める前の休日は、より自分を高めるためにデパコスとかを買いに行ってたっけ。
今も美しさには拘るけど、昔ほど流行とかを気にしなくなった。
やる事が、無い。
そして夜になれば劣等感に襲われるだろうし、精神が不安定になるだろう。
久しぶりの休みとはいえ、これからの自分がどうなるかが手に取るように分かる。
思考を止めないと、いつまでも想像して吐きそうだ。
「朝ごはん」
ふらふらと鏡も見ずにキッチンヘ向かう。
お腹は空いてないけど、結花は食べると思うから。
いつもなら自分で「妹思いなあたし、美人~」って褒めてただろうけど、こんな仕事してるからそのお詫び、と思うと別に当然の事だなぁとも思う。
カタコトと小さく音を立てて料理をする。結花が起きない様に。
シュガートーストとカフェラテ。
甘いにおいが鼻を棘激して、心臓にもったりと埋めつけて行く。
いつもはこの勢いで結花を起こして、この甘さを毎日摂取していたのだけど。
今日は余力が無くて、またベッドに潜り込んでしまった。
しばらく経って、結花が起きた。それと共にあたしもベッドから出て、スマホを手に取るとついこんな事を考えた。
「みんなに迷惑かけるのなら.あたしは何のために生きているのだろう?」
誰かに体を売るため?でもあたしが落ち付かないからだし。
妹達を養うため?いや、妹に言われてやってる訳じゃない。
あたしの生きる意味____
あたしははっとして、結花を置いて外に出た。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.4 )
- 日時: 2023/10/12 06:43
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
ほんの少しの頭痛を抑えながら、あたし達の住むマンションを駆け上がる。
風はいつもより爽やかで、空の色も綺麗な青。
「風も空も、最近は見てなかったな」
気付くとそこは屋上で、人が見えない、自然との触れ合いになっている。
目を閉じて、よく考える。
もう、風俗を続けるのは無理だろう。
年齢が年齢だし、運営ももうあたしを手放すつもりだったんだと思う。
そうすると、あたしが上手く生きていくのも無理だろう。
心が空っぽのまま、いつも通りの生活何て出来る筈ない。
そして、妹を養う事も出来無くなるだろう。
収入が悪くなって、精心的にも続けていくのは無理だ。
美しさを保つ事が出来るかでさえ不安なのだ。
ゆっくりと、目を開ける。
もう、この社会においてあたしは必要とされてない。
そして、あたしもこの生活が、自分の体が嫌いだ。
無理だよ、こんな気持ちになるまで頑張るのが。
自分の、葛藤が自分をぐちゃぐちゃに壊していく。
嫌だ、歳を取って若くなくなる自分が居るのが辛い。
___もうあたしなんて、死んじゃえ。
屋上入口から突っ走って、フェンスを避けてマンションの㟨っこに歩み寄る。
朝の白くて小さな月が、まだ視界の隅に残っている。
その月目指して軽く飛ぶ。
グシャ
「速報です。東京都港区の高級マンションに、女性の遺体が発見されました。警察は、遺体の身元を確認するとともに、くわしい死因を調べています」
_____________
甘い月光が差す夜、彼女…明鏡麗奈の勤務先の風俗店では、利益が大幅に下がり、誹謗中傷コメン卜をした可能性がある、「愛」こと木槌山愛子が店を解雇。
麗奈の遺族は葬式で、「美人で頼れるお姉ちゃんだった」と告白。
部屋にはまだ麗奈の私物が残っていて、まだ麗奈が生きている様だった。
___ちなみに、麗奈が風俗嬢だった事を、警察は妹達には言わなかった。
第1章「甘い月光」end
第2章「死神の呼び声」順次更新
明日から旅行に行くので3日間は投稿しません。すみません。
- Re: いつだって私達は。 ( No.5 )
- 日時: 2023/10/18 06:31
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
第2章・明鏡瑠璃歌「死神の呼び声」
出来ない、出来ない、出来ない。
どう足掻いたって、努力したって、人と関る事なんて出来ない。
暗い部屋の中で髪をぐしゃぐしゃにしながら、その瞳に涙を滲ませ、顔を覆っている。
「私もう無理、誰かと会話がしたい、笑いながら手を取り合いたい…」
視界は涙で潤んで風景がはっきりとしない。目を閉じてゆっくりと開ける。
ピコ、という通知音がしたのでスマホを手に取り、わざわざアプリを開いて既読を付ける。
『瑠璃歌お姉ちゃん、朝ごはん出来たけど、食べる?』
どうしようかと考えてる内に、
『もちろん買ってきたやつだよ!』
と追記した。
『なら』
とだけ応答して、潔癖症みたいだなぁと呟く。
_____私はサイコキラー、所謂サイコパスなのだ。
症状も結構な重症で、私は人の顔も声も音もすべて駄目で、見たり聞いたりするとすぐに体が興奮しておかしくなる。
だから百合菜もスマホから会話をしているのだ。
だって、自分の命が無くなると困るから。
でも、私だって人を殺したい訳じゃない。
だから部屋に引き篭もって人と関わらない事を選んだ。
それでもやっぱり、サイコキラーが発覚する前の、仲良く4人で遊んでいた頃に戻りたい。
うじうじ、またもやもやスマホを置いて椅子に座る。
いつまで引き篭もってんのよ、とか麗奈には言われるんだろうな。
会いたいよ麗奈ぁ。
百合菜も、私の為にいろいろ考えてくれてるんだよね。
百合菜ありがとう。
しばらく結花も会ってないな、またお買い物しよう?
「みんなぁ…」
やっぱり私、弱いんだなぁ。
でも、でもね。人と関わりたいのに関われない人の気持ちなんて、わからないでしょ。
「わかってくれたら…嫌、わかっても変わらないか」
無理だ、と思った矢先、私にはとある思考が脳裏を過った。
誰かに助けてもらうのでは無く、私からサイコキラーを克服できるようにすれば良い。
今すぐ外に出よう。麗奈にデパコスと、百合菜にマカロン、結花にワンピースを買って来よう。
なるべく人は見ないようにして、克服したって報告したい。
また、あの日の様に……!
この日の外出がどれだけ大変だったか何て、今の私には知る術もない。
続く
<解説>
違う世界観なので伝説の風俗嬢、麗奈は生きてます。
それと、朝ごはんを運んで来たのは次のヒロインであり三女の百合菜です。
瑠璃歌は麗奈ほど強いメンタルを持ってないので人によっては苦手かもです…。
- Re: いつだって私達は。 ( No.6 )
- 日時: 2023/10/20 07:15
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
同居している百合菜は今、仕事中なので居ない。
でも連絡するのも面倒なので、黙って出掛ける事にした。
ずっと着てなかった去年の誕プレのワンピースを身にまとうと、百合菜のメイク道具を借りて無理矢理色を押しつける。
「似合わないなぁ」
私は夏だけど百合菜は春だっけ、と昔の会話を内容だけ思い出す。
立ち上がって玄関まで歩み寄る。自分の靴なんて10年位前の靴だから勿論残って無い。
なので百合菜の靴を借りて外に飛び出す。
「わぁ」
久しぶりに見た街の風景に、胸が踊る。何もかもが新鮮で、大きくて広い。
エレベーターで下に降りて、近くのデパートまで行く事にした。
人の声が聞こえると思って無音という音楽をイヤホンに再生させて移動した。
人を見ないでスマホの地図アプリだけを見つめて、長い長いデパートへの旅が終わった。
1階は化粧品売り場。
アイシャドウがたくさん並んでる所が空いていたから見てみる。
麗奈の目って確か青くてめちゃ綺麗なんだよな…。
青系の色がたくさん入ってるのを手に取る。
「レジって、人がいるんだっけ」
今更思い出す。わたくし瑠璃歌、もうピンチです。
覚悟して上を向くと、〔セルフレジは→〕と書いた看板を見つけた。
セルフレジがあるのか、良かった。
私はセルフレジヘ向かい、無事に麗奈へのプレゼントを買う事ができた。
次にエレベーターに乗って地下の食べ物売り場に来た。
匂いでスイーツのお店を探す。
野生的だって?何でも良いじゃないか。
すると、はちみつの甘~い匂いが鼻に入った。
顔を上げると、はちみつレモンケーキというケーキが2、3個ホールケーキのまま売っていた。
めちゃくちゃ美味しそうだけど、マカロンを買いに来たのでスルー。
何歩か進むと、色とりどりのマカロンが陳列されているケースを見つけた。
私はその中の、抹茶と苺とチョコの3種類を買う事にした。
スマホのメモを開いてお店の人に読ませ、ちゃんと買う事ができた。
次は5階の服売り場へ。
無人で防犯カメラがあるお店に入って、ワンピースを選ぶ。
結花は青と白か、その間の色が似合う筈。
ちょっと裾が広い方が可愛いかなぁ、とぐるぐる思考を巡らせる。
いろんな服を見て、1周して結花に1番似合いそうな青いふんわりしたワンピースを無人レジで買った。
これでみんな分の買い物を終えた。
よし、何も問題は無かったし、サイコキラーを克服できたって事で良いのかな。
ニコニコで帰る私に、人がぶつかった感触がした。
- Re: いつだって私達は。 ( No.7 )
- 日時: 2023/10/22 10:09
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
ドンッ
その音と共に、私の防音イヤホンは外れ、一瞬で人の声が流れ込んで行く。
慌てて耳を塞ごうとするが、もう遅い。
ぶつかった人が、私があまりにも動揺しているから、
「大丈夫ですか」
と目を合わせて声を放った。
プツン
死神の呼ぶ声が、聞こえた気がした。
心配する若い男性に向かって、勝手に手が伸びる。
首にグッと爪を立て、皮膚を破っていく。血が流れる。
血を見てさらに興奮してしまい、男性の頬を掴んで右にまわす。
大きく目を見開いて、あちこちから血を流す彼を、どうしても殺したい。
___やっぱり私は、サイコキラーを克服できなかった。
目から涙が溢れる。紙袋に血が付く。
「ごめん、私…もう抑えきれないや」
その言葉を放ってからは、何一つ覚えていない。
気が付くと、辺りは血だらけになっていた。
原型が無いぐらいぐちゃぐちゃで、眼球はちゃんと2つずつ転がっている。
私に意識が向かい、自分の姿を確認すると、手には血が。足には包丁が。
あぁ、私、殺っちゃったんだ。
お土産の紙袋にも血が付着していて、中身を確認すると、まだ無事だった。
持って帰るか。
でも、服や靴の血が気になる。足も痛い。
無人レジ___デパートの人を全滅させたから、全部無人だけど。
服と靴を適当に買って、ちゃんとお金を置いて、着る事にした。
付着した血を取りたいのでトイレに行き、ワンピースと百合菜の靴を水で洗った。
だいたい取れたので袋に入れて、緊急時用の梯子でデパートを出る。
防犯カメラなんて付いてない。それぞれの店内にしか付けてない、頭の悪いデパートで良かった。
だから、私が犯人だという確信には至らない。
証言者も居ない、原型が無いから指紋採取もできない。
靴の跡だけじゃ特定できないし、私物はお持ち帰り済みだ。
本当、サイコキラーには良いデパートだったな。
音の無い音楽を、イヤホンで再生する。
下を向いて、点字ブロックを足で辿る。何て事無い、サイコキラーの日常。
今日、人を殺して無くともこう帰っていたのだろう。
エレベーターに乗って、住んでいる部屋まで歩く。
百合菜に手紙を書いて、冷蔵庫にマカロンを入れておく。
隣の麗奈と結花の部屋にワンピースとアイシャドウ、私の手紙を置いて帰った。
きっと今日の事はニュースになるんだろうな。
別に、証拠隠滅した訳じゃないんだけど、サイコキラーが悪いから、私は悪くない。
そう思うからこそ、私は人を殺したくない。
続く
- Re: いつだって私達は。」 ( No.8 )
- 日時: 2023/10/26 17:33
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
私は悪くない。
そうは思っていても、今日の事はちょっと後悔してる。
きっと、「デパートで連続殺人事件、何百人死亡」
というコンテンツを姉妹が観て、私が買い物した事とつなげれば、割とすぐ気付いて、守ってくれる気がする。
だって、今までそうだったから。
でもそれでいつも心配されて、迷惑かけて、ちょっと怒られる。
サイコキラーだけが悪いだけじゃない、と。
まぁ確かに、今日も私が克服しようとか思って外に出なければ起きなかった事でもある。
どうせこうなる事は予測できていたのだから。
それでも諦められないのは、私の悪い癖なんだろう。
もう迷惑は、かけたくない。
気付いたら私は、カッターを手に持って自分に向けていた。
大きく刃を出して、腕に当ててから力を入れる。
ザシュ
痛みと共に訪れるのは快感で、自分の血がこんなに醜く美しいものだというのも初めて知った。
ザシュ ザシュ ザシュ
段々と血の面積が広くなり、入れる力も強くなっていく。
次第に腕だけでは足りなくなって、足や顔にもその刃が向く。
足りない。血が足りない。自分の血で興奮する。もっと、もっと血が見たい。
グサッ グサッ グサッ ザシュ ザシュ
「切りすぎたかなぁ…。まぁいっか!私、もう死んじゃうんでしょ?」
口から血を吐いて、その場にしゃがみ込む。
視界がモノクロになって、声が出ず、目を開けるのが難しい。
「死ぬ…時…てさぁ、ッ、泣い…た方がっ、いいの…?」
私が殺した人達は、よく泣いていた。
だから、私も泣いた方が、リアルに死んだっぽい。
無理矢理涙を流して、ゆっくり目を閉じる。
___さようなら、世界。
〖港区高級マンション女性死亡、連続殺人との関連は〗
本当、的外れな警察だなぁ。
彼女は、きっとそんな事を考えただろう。
打たれ弱くて、ちょっとサイコパスな彼女。
事件の後、同居の妹に抱きしめられたのは黙っておこう。
第2章「死神の呼び声」end
第3章「夜に染まれ」順次更新
<作者から>
第2章、完結しましたね!更新の無い日が多かったですけど。
サイコキラー、ちょっと難しかったですね…。
次の第3章ですが、第1章同様、ちょっと大人なお話になっています。
苦手な方は回れ右。
それでは、また第3章1話で会いましょう~!
- Re: いつだって私達は。 ( No.9 )
- 日時: 2023/11/01 16:36
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
第3章・明鏡百合菜「夜に染まれ」
「私には、彼氏がいるの」
同居の姉は訳あって人前に出ないのだが、椅子は配置している。
その席には勿論誰も居ないけれど、彼女には姉が見えているようだった。
「フフッあのね、その彼氏はね、普通じゃないんだ」
言いたくてうずうずしている彼女。その様子は、まるで恋する乙女そのもの。
「いまをときめく人気アイドルと、付き合ってるの」
私は百合菜。区役所に勤務している、至って普通の社会人。
そう、傍から見ればね。
私はいつか、熱愛として出るかもしれない『側』の人間と付き合っている。
人気ソロアイドル、海和。
今でこそトップに羽ばたいているが、実際は2年前から活動していた。
私は海和の古参ファンで、デビュー時からずっと推している。
収入はすべて海和に費やし、麗奈お姉ちゃんが毎月養ってくれるお金で生活を続けている。
私は海和を推しているから、まだ売れてなかった頃の海和は嬉しかったのだろう。
「僕と付き合わないか」
そんな風に海和から告げるのだから。
私は海和と付き合い始めた。
海和とはたまに会っている。そして夜には愛を確かめる。
私への愛があると知っているから、貢ぐ事をやめられない。
海和の2年間が、どれだけ辛く、大変な事だと思ってるの?
売れなくて、努力して、でも売れなくて…
私のお金を彼がどれだけ必要としてただろう。
それでも活動を続けてくれた事、本当に本当に感謝している。
今売れているのが、私にとって複雑ではあるけど嬉しい。
人気になるのは嬉しいけど、人気だから尻尾振って来た海和リスナーを名乗る人達は好かない。
今まで目に留めなかった癖に。
古参であればある程、海和は愛をくれる。
一番私が昔から海和を推している、愛しているから、付き合って当然なんだ。
人気になってから現れた同担拒否とか無理すぎる。
自分勝手にも程がある。推してる自分が好きな癖に。
そういえば、私と1対1だった売れる前、2人目のファンの事も覚えてる。
貢いだ額が抜かされないように必死だったような。
そう思う内に、ピコ、という通知音が聞こえたので、同居の姉、瑠璃歌かと思いすぐ目を通す。
するとそこには、思いもしない人物からの、久しぶりのメッセージが寄せられていた。
続く
- ごめんなさい ( No.10 )
- 日時: 2024/01/13 18:38
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
謝罪文を出さなければいけない事態になってしまいました。
第1章1話を消してしまいました。
大変申し訳ございませんでした。心より反省しております。
念のため1章1話の内容をざっくり書かせていただきます。
・基本は朝のルーティーン
・麗奈、自己肯定感が高い
・風俗店でお金をたくさん稼いで、家族を養っている
・そういう行為をする事で承認欲求を満たしている
・本心ではそんな事したくない
という感じの内容でございました。
非常に勝手な真似をしてしまい申し訳ございませんでした。
- Re: いつだって私達は。 ( No.11 )
- 日時: 2023/11/05 06:44
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
「何で」
______『夏樹瀬 栞凪』
私が1番嫌いで、1番会いたくなかった人の名前。
スマホに映し出されたその5文字を睨みながら、昔の事を思いだす。
~2年前~
今日も小さなライブ会場で、私の推しは歌っている。
私以外のお客さんは居なくて、それでも海和は歌っている。
「愛してるよ」
息を切らしてそう告げる彼に、胸の鼓動が早くなる。
「わっ私も…!愛してる!」
まだ貢いだ額が少ない頃の私。
自分しか居ないから、自分だけに愛を伝えていると思うと、やっぱりキュンとする。
「かんなもー!海和様ぁ~♡」
突然、知らない女の声が聞こえる。
「フッ…栞凪かい?相変わらず騒がしいね」
え?どういう事?今まで私、欠かさずライブに行ってたのに。誰とも会わなかったのに。
恐ろしい程の嫉妬と憎悪が、体中に込み上げる。
「あれ?君も海和様のファン?」
栞凪という人物が、私の事を覗き込んで来た。
地雷系ファッションに身を包んだ、いかにもな女の子だった。
「そうだけど…」
海和のファンが自分だけだと思いたくて、推しの顔を窺う。
「ハハッ、実はね。百合菜に伝えていなかったけど、路上ライブをしたんだ」
「そーそー!かんなね~?そこでガチ恋したの~!」
「初耳だよ」
うふふ、あはは。
私の知らない所で、推しがガチ恋客を作った…?
あり得ない、あり得ない!
私が海和の知らない事なんて、無かったのに!何で!何で⁈
私はこんなに愛してるのに、貢いでるのに何でよ!
「栞凪ちゃんだっけ、私は百合菜。海和の1号客だよ」
「マジかー!かんな2番目だったの~?」
無理無理無理無理無理無理!!
私の海和なんだけど。1番の古参は私なんだけど?
脳内が栞凪という人物を拒絶しているけれど、私は麗奈お姉ちゃんみたいに態度には出さない!
平常心、平常心よ、百合菜。
「えへへ、海和にもファンが増えて良かったねぇ」
推しに嫌われるよりも、嫌いな人と遊ぶ方がマシだよ!
「あぁ、百合菜と栞凪、2人共可愛いから照れちゃうな」
海和。私の方が可愛いよ。この子、絶対すっぴんヤバいって。
「え~?私そんな可愛くないよ~?」
そうだね。私の方が可愛いよ。私を見て。
「じゃあ、そろそろ歌おうかな」
「ヒューヒュー!海和様Love you~!」
「……」
それからずっと、私の目に栞凪が居るだけで、私から海和を奪っていった。
だから、心の底から、私は栞凪が嫌いだ。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.12 )
- 日時: 2023/11/08 19:15
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
『百合菜~!海和様、ドラマに出るんだって!最近すごいよね~♡』
腹立つなぁ、栞凪。私は海和と付き合ってるんだから知ってて当たり前だし。
『うん。私も海和から聞いたよ。楽しみだね」
前デートした時に聞いたんだっけ。その日以来会ってないな。体の関係も途絶えてる。
「海和、会いたいな」
仕事中にもそんな事ばっかり考えて、全然頭が回らないので早退した。
『今会える?』
海和のスケジュールは把握しているので、多分大丈夫だろう。
したいな、海和と。
合鍵を握り締めて誰もいない事を確認して、マネージャーのフリをして部屋に入る。
「海和!会いたくて、来ちゃった」
乙女のようなこの甘いセリフは、私に良く似合う。
部屋をキョロキョロ見渡す。早く、海和来ないかな。
「あれ?」
おかしいな、海和が来ない。いつもすぐ来るのに。
急な仕事?家族の私用?嫌、全部把握してる筈。
不安になったので一応付けていたGPSのアプリを開く。
「海…和?」
『ホテル』
勿論、ビジネスじゃない、ラブの方の。
一気に崩れ落ちて、涙を流す。
あの愛の言葉も、アイドルとしての嘘だったのかもしれない。
海和にとって、古参も新参も変わり無かったのかもしれない。
考えるにつれて、精神が擦り減っていく気がした。
海和、海和、海和。
その夜は、割とすぐ眠った。
翌日、[相手は?]という疑問が脳裏に浮かび、海和がよく話す人の事を思い出す。
マネ…は男性だったし、他の関係者とあまり接点はない。
ファン?ファンの誰かと…?私と付き合ってるのに…?
じゃあファンの中で1番よく聞く名前は…
「栞凪」
さっとスマホを手に取り、『夏樹瀬栞凪』の欄に触れる。
違う、海和は栞凪にそんな欲求____ッ!
『ねぇ栞凪』
『あ、百合菜!どーしたの?』
『昨日、海和と何かあった?』
『えっ』
返信が途絶える。
『海和様と…デート、しちゃった!』
嘘、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!
『それって、大人の関係アリ?』
『…そう、かも?』
『そっ……か、ごめんね、言いづらい事聞いて』
『いーよいーよ!丁度、誰かに言いたかったし?』
『ありがと、そういう時はいつでも頼って?』
『ありがとー!百合菜大好き!』
「なら、良かった」
私はスマホを握って、大好きな海和の夜に、染まる事にした。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.13 )
- 日時: 2023/11/12 20:43
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
「待っててね、海和」
SNSアプリを開く。
名称が変わって慣れないけど、1番便利なので使う事にした。
星の数程あるアカウントの数々。
その中の、ちょっと有名な人にメッセージを送る。
「海和、私は結構…重いよ」
ニヤっと口角を上げた私、今までと違う可愛い私。
『海和、実は私と交際してるんです。
私はずっと海和のファンで、ずっと海和の彼女でした。
でも、それだけでも駄目なのに、私以外の女とラ〇ホテルに行ってたみたいなんですよね。
証拠としてGPSのスクショと、相手女性とのメッセージのスクショを載せときます』
これは、私が暴露系のSNSアカウントに送ったメッセージ。
私は被害者だから、海和にもどん底に堕ちる感覚を味わってもらう。
悲しみを感じるのが私だけなんて、私が可哀想じゃない?
海和の罪の重さを、たぁんと味わってもらおう。
海和だけが悪い訳じゃないし、同罪の栞凪にも仕返しだね。
ずっと嫌いだった栞凪に、こんなにも素敵な体験をさせるなんて。
ピコン
〔海和、一般女性と交際・浮気、クズアイドルの真相〕
「本当、よく言うなぁ」
海和に批判が殺到し、現在進行形で炎上中だ。
ネットの意見に目を通すのは楽しくて、絶望した海和の顔を想像しただけで気持ち良い。
栞凪との連絡も途絶えて、私の理想とする人間関係を完成させた。
あんなに推して推して推しまくっていた海和がこんなにも地獄を見ているなんて。
今はもう冷めた海和への愛。
今さら体の関係を持とうとか馬鹿みたい。海和、私の事全然知らないのね。
ワンタップで完全に関係をブロックできて良かった。
今も、海和は栞凪とホテルにいるかもしれない。
でももう私には海和への愛も栞凪への嫉妬も何も無いから気にしない。
今まで貢いだ額は数えきれないけれど、これからは自分のお金は自分の為に使おう。
1人で生きられる人間になろう。
そう考えた私は、平凡な社会人として生きることを誓った。
終わり
第3章「夜に染まれ」end
第4章「哀の戯れ」 順次更新
< 第4章について>
第4章ですが、大人表現はありませんが、
不快すぎる表現(人を拒絶、外見を馬鹿にする)が含まれるかもしれません。
ご注意ください。
では、また4章1話で。
- Re: いつだって私達は。 ( No.14 )
- 日時: 2023/11/20 06:26
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
第4章・明鏡結花「哀の戯れ」
〔今日は原宿でいちごクレープ食べたよ!おいしかった♡〕
他にも何やらハッシュタグがたくさん付いていて、写真はというと投稿主が顔の横にクレープを並べてよくわからない顔をしている。
そんな写真を広い部屋で1人、流し見する女性がいた。
「きっしょ、何がおいしかった♡だよ、加工しすぎて原型も残ってない笑、キモ」
容赦ない言葉を投げかける、ネット依存の女性。
何でもできるでしょ、ネットがあれば。
ベッドの中で小さな液晶を弄る。その目に光は無くて、ただただスマホと1対1の状況。
「うわ、この人めっちゃこの女優に嫉妬してる、重い人間はブスだよ」
クククとニヤつく私。私のお姉ちゃん達はみんな美人なので、顔には自信がある。
単に人嫌いなのもあるけど、SNSを見てるとみんなキモくて笑えてくる。
「ぶっさ。こいつ絶対マスク美人だったよね。鼻でかいし唇が太い」
こんな外見でも生きていく事のできる現代社会に感謝してよ。
私が天皇だったら、ブスは産まれてきた事を謝罪して、土下座させるからね。
はぁ、何かブスばっか見てたら頭痛くなってきた。
「ゲームでもしよっかな」
ゲームといっても、瑠璃歌お姉ちゃんがやってるようなガチの奴じゃなくて、スマホゲー。
今のイベントがすごく好みだから、頑張ってランキング上位に入れるようにしてる。
「…飽きた」
ずっと画面を叩いていたけれど、飽きた。
スマホの電池も3%で、そろそろ充電しないといけないかな。
カチャンとコードに差して、スマホを手から離すと、体中がだるくなった。
「やっぱ私、スマホ・ネット依存だな…」
めまいがするので薬を飲んで、しばらく寝てしまおう。
スマホが無いと回復しないけど、起きた頃には充電は終わっていると思うし。
あぁ、スマホ触りたいな。
またあの光を浴びて、たくさんの事を調べたい。
私、知ってるんだ。
麗奈が風俗やってる事も、
瑠璃歌がサイコキラー…なのは隠してないか。
百合菜がアイドルと付き合ってる事も。
怖いよね、ネットって。
麗奈が日記を投稿する事によって、多少違うとはいえ顔を出している。
自分が何も言わなくとも、周りの人がバラす事もある。
だから、私に特定された。
私がネットをやめる理由がどこにあるの?
今までお姉ちゃん達と比べられて疎外された私が、仕返ししない訳ないでしょ。
残念だけど私のスマホで、死んでよね。お姉ちゃん達?
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.15 )
- 日時: 2023/11/25 14:13
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
私は今まで、お姉ちゃん達と比べられては見捨てられてきた。
顔はすごく可愛い。それは自覚しているけど、
麗奈お姉ちゃんのような綺麗な目や女性らしい体つきはしていない。
瑠璃歌お姉ちゃんのような儚い声や綺麗な指先は持っていない。
百合菜お姉ちゃんのような長くて綺麗な髪や優しい目つきはしていない。
私唯一の特徴、大きい目も瑠璃歌お姉ちゃんと百合菜お姉ちゃんの目のハーフのような物だ。
すべてにおいてお姉ちゃん達の二番煎じで、特有の物を持っていない。
良く言えばいいとこどりで、悪く言えば個性が無いという事。
それで取り残された私は、私を肯定してくれる場所に溺れた。
自分はまだ良い方だと思えるから。自分の下が居て安堵できるから。
私のどうしようもない承認欲求を、誰かが満たしてくれるから。
_____お姉ちゃん達に復讐が出来るから。
「………」
目が覚めた。体中がだるい。
簡易本棚にあるスマホを手に取り、コンセントを抜く。
画面を開いてしまえば、もう電池が尽きるまで離さない。
可能な限り、自身の欲を満たして、誰かを貶す。
やめられないし、やめて良い事は無い。だからこんなに体をボロボロにしながらも続けている。
辛いし苦しいけど楽しい。
一時的に自分が偉くなれると嬉しくて、やっぱりやめるのは無理だ。
ピコン
使っているチャットツールに通知が来る。
『木槌山愛子』
あぁ、麗奈を潰すために手を組んだブスの子か。やたら胸のデカいデブね。
『ゆったん〜!私ぃ、超ダイエットしてぇ、痩せてるのに巨乳な女子になれたよぉ♡』
あっそ。多少胸は小さくなっただろうけど、風俗で働けるならいいんじゃない。
『お疲れ。お店特定してるから、すぐ面接いけるようにしてよ』
『おっけぇい♡』
麗奈の方は大丈夫そうか。
次は瑠璃歌だけど、いつ外に出るかわからないから、ニート男に頼んで正解かな。
で、百合菜か。
『夏樹瀬栞凪』
『栞凪、どう?海和となら、いい関係を築けそう?』
しばらく経って、返信が来た。
『そーだね!2年前からずっと百合菜とは仲良しだけど』
『百合菜と海和って人の距離が近い分、かんなも海和を誘惑できるし』
栞凪は演技が上手だから、信頼できる気がする。
『ありがと、百合菜をよろしく』
完璧だ。私の思うままに姉が翻弄される。
「楽しみだなぁ」
思わず漏れたその声は私が貶した誰よりもキモかった。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.16 )
- 日時: 2023/11/30 06:20
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818
とりあえずみんなと連絡を取ったので、次はお姉ちゃん方に様子を聞こう。
『暇?』
『10分後から大事な会議があって』
なるほど、お客さんが入ったのねぇ。
『ごめん、ちょっとゲームに集中したい』
お、出掛ける計画を立て始めたのかな。
『結花、ごめんちょっと寄り道するから部屋行けない』
路上ライブやるんだ。おっけ、理解したよ。
『じゃあまた』
現状、お姉ちゃん達が何をしているかが分かればそれで良い。
それぞれに今何をしているか伝える。
あと、えーと…そうだ!
愛子と栞凪にそれっぽい服を買ってやるか。
愛子には男性受けの良いピンクっぽいワンピースを買おう。
あいつが運営に推してもらうなら、あのデカ胸を強張してもらわないとな。
栞凪は地雷系で良いか。本人も持ってるみたいだし。
いつの間にか熱くなった液晶を冷ますために氷をあてる。
一旦やめないのかって?忘れたの?私ネット依存なんだけど。
病み垢に呟く姉への嫉妬、ブスやデブヘの怒り。
幸せそうな奴らを見ては酷く嫉妬し、このアカウントに吐き出してきた。
今見るとかなり理不尽だったり自己中だったりで笑える内容ばかりだ。
『お姉ちゃん嫌い。何で私ばっかり___!』
『お姉ちゃんって妹ばっか見下してる。いじりのつもりならマジで無理』
『承認欲求が溢れてキモい。誰か私、愛して』
『哀情を、下さい』
思い返せばこの時は怒り狂ってたな。
馬鹿馬鹿しいと思っても、お姉ちゃんの事はずっと嫌いだし、まぁいいかとも思っている。
時は経ち、ついに瑠璃歌が外に出るのをGPSで確認した。
なのでクソニート男に連絡し、瑠璃歌お姉ちゃんの行く先を報告する。
ここからが私達の出番だ。
『愛子、麗奈と運営にも胸強張して。もうお店から推されてるでしょ』
『うん♡麗奈しゃまぁ、どんな顔ぉするのかなぁ~?』
『栞凪、もう海和誘っても大丈夫。結構靡いてると思うし』
『りょ!海和とかんな合うかな~?楽しみ!』
よし、順調だ。
まず瑠璃歌の心の中の死神を、ニート男が呼び覚ましてくれればそれで良い。
次は麗奈、愛子が頑張って働いて休みを作り、自殺する暇を与える。
最後が百合菜。毎日のスマホチェックで、栞凪と海和がホテルにいるのに気付かせる。
「良いね、良いんじゃない。あは、楽しみだな」
ふと、スマホを確認する。
〖港区高級マンション女性死亡、連続殺人との関連は〗
私はただただ、素直に喜んだ。
次回、最終話
- Re: いつだって私達は。 ( No.17 )
- 日時: 2023/12/08 08:56
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
- 参照: https://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?no=13818
計算通り。ニート男は犠牲になったけど、そんなのはどうでも良かった。
「お姉ちゃんがこのまま私の思い通りになったら、私の今までの頑張りが報われる」
その為に私は善意という善意を押し殺して、こんな人間になったのだ。
____崩壊した家族。
お母さんは私達、娘を自分の理想の娘に変えた。
だから麗奈より早く産まれたの本当の長女はお母さん本人に直接捨てられた。
瑠璃歌も孤児院から引き取った子で、本当のお母さんの娘じゃない。
すべてはお母さんの理想を実現させるため。
お父さんはそんなお母さんを見てられずに自殺。
やがてお母さんも捨てた長女に待ち伏せされて殺された。
でも私はお母さんが捨てたお姉ちゃんと面識が無いし、別に会う気も無い。
お姉ちゃん達みたいに特別可愛くも無いし、私に何かした訳でも無いから、ネットで特定しようとも思わなかった。
私達は、4人姉妹だからね?
その後、麗奈も無事に自殺したし、
百合菜は死ななかったけど、だいぶ精神に来ていると思う。
百合菜は優しいのか、ただ馬鹿なのか、こんなに身内に不幸があったのに私だけ無事なのを怪しいとか、微塵も疑わない。
不思議だなぁ、と思った。
私は大切にされていたらしい。
将来は私をアイドルにするってお母さんがずっと言ってたらしくて、お姉ちゃん達にずっと守ってもらってたらしい。
よく考えれば、車道側を歩いた事も無いし、嫌いな食べ物を2度出された事も無い。
我儘は全部聞いてくれたし、学生の頃は毎日送迎してもらってた。
ぽた、と涙が出て来た。
私がやった事がどれだけの事か、ようやく分かった。
今まで愛してくれてたのに、ずっと愛情を貰っていたのに。
勝手に勘違いして、ただの八つ当たりでこんな大罪犯して。
昨日まであんなに会いたくなくて消えてほしかったのに、今は会えなくなってしまったのに会いたくて仕方ない。
「お姉ちゃんに、謝りたい」
その言葉を地球に置いて、私は静かにこの世を去った。
いつだって私達は、すれ違い、時にぶつかり合いながら生きている。
小さい頃のように、互いに言いたい事が言えなくなった最近。
それでもお互いを思うその気持ちは変わらない。
家族に言えないような仕事に就いて、嫌悪感を抱えながら働いても。
感性が周りとずれていて、前に進む事が難しくても。
推しと好きな人の境界線が無くなって、未来の形が分からなくても。
自分に自信を付けたくて、ネットに依存してしまっても。
それぞれが大好きだって気持ちは変わらない。
いつだって私達は、そうやって、歪みながら生きていくのだ。
「いつだって私達は。」end