ダーク・ファンタジー小説
- Re: いつだって私達は。 ( No.2 )
- 日時: 2023/10/16 17:16
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
「おはようございます」
朝からこんなギラギラな店の中に入るのは、最初は気が引けた。今はもう慣れたのだけど。
スタッフや他の女の子達にも挨拶する。その際、荷物を持ったり調子を聞いて、好印象を持たせておくのも欠かさない。
今日も可愛いあたしを見つけてお金を堕とす客の姿が早く見たい。
日記のネタ探しにスマホをいじっていると、
「おはよう♡今日も頑張ろうね♡」
とあたしの次に人気の、今運営が推してる子、愛ちゃんが若干谷間が見えるポーズで話し掛けてきた。
__あたし、実はこの子が苦手なのだ。
声は高くて耳がギンギンするし、やたら胸強調してきて気持ち悪い。
語尾はまるで♡でも付いてるみたいな、俗に言うぶりっ子なのかもしれない。
「そうね、お互い頑張りましょ」
と軽く会話を聞ってスマホに目を向ける。愛ちゃんはそのまま自分の待機場所に戻った。
待機場所であたしが1番好きなあたしの表情、角度、ポーズで写真を撮る。
背景は事前に撮っておいた海の写真を使い、あたしが海にでもいるような合成写真が出来た。
薄い青のフィルターをかけて、お店の名前と「夏だぁ!」という文字を入力してアップ。
これで今日の客は5人ぐらい増えたと思う。
メッセージアプリを開いて、妹達と4人で使っているチャットに文字を打ち込む。
『今何してる?時間大丈夫そう?』
毎日、暇な時は送るようになったこの呟きも、割とすぐ返信が来るから嬉しい。
『スマホ見てた。今は全然暇ー」
結花が反応した。いつもスマホいじってるから当然か。
『今起きた、いつでも退屈』
瑠璃歌だ。引きこもりだし突っ込む時間は無い。
『麗奈お姉ちゃん!いつもお仕事忙しいのにありがとね。瑠璃歌お姉ちゃんも結花も、目を労ってよ~』
百合菜。みんなには会社勤めって言ってたんだっけ。今は暇ー。
その後も、しばらく雑談して解散した。
さ、まだ時間に余裕があるので、仕事関連の勉強でもしようかな。
風営法とか風適法22条の勉強や、プレイを上達させるコツとか、色っぽい声をちゃんと出す練習など、有効に時間を活用していた。
長い準備時間が終わり、いよいよ実戦タイムだ。
いつもの様に予定びっしりだから今月は大丈夫そう、と確認すると、営業スマイルで最初の客と対面する。
「麗奈です」
「よろしくね〜グヘッ」
この人ちょっと、無理だなぁ。笑い方キモいし。でも妹の為、あたしの為。キモ男が大金堕とすんだから丁度良いでしょ。
いざ部屋に入ってキスをすると、中年キモ男が胸を触ってきた。
キモいのに、嫌なのに。なのに、あたしの心は満たされる。もっと、と体が欲している。
こんなあたし、嫌い。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.3 )
- 日時: 2023/10/11 07:03
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
1人目が終わって、シャワーを浴びた後すぐ、次の客の準備を始める。
髪は一瞬で乾かして、鏡を見ては営業スマイルをする。
「キモ。本当にこれあたし?」
朝はあんなに美人だなぁと思ったのに。しかも、自己肯定感がどうとか語ったのに。
あたしは、思った以上に汚いのかもしれないと思うと、わざわざあたしと差のありすぎる愛ちゃんを運営が推す理由が分かった気がした。
「あたし…もうダメなのかな」
そう呟いたすぐ呼び出され、次々に客と行為を重ね、すべて終えて帰宅した。
部屋に入ると結花は寝ていて、起こすと悪いので小さいランプを灯して夕食を作り、さっと食べて片付けて、お風呂に入る。
その後は退勤日誌に勤務時の業務内容を軽くまとめる。
スマホを顔に向けると2:00と表示される。今日も疲れた。おやすみなさい。
「麗奈ぁ~?あんまり調子に乗らないでよね♡」
「麗奈、目障りなのよ。ブス、ブス、ブス。死ね、消えろ…」
__ネットには、こうも書き込まれているとは、本人は知らない。
あぁ、今日も朝を迎えてしまった。
嫌だ、嫌だ、あんな事したくないのに。体が、言う事聞かないから…。
でも、しないと生きていけない。
スマホで時刻を確認しようとすると、『今日は休日』と通知が来ていた。そっか…休みだ。
ぽっかり空いた心の穴を埋めるために行為をしている、でも今日はそれが無い。
嬉しいと悲しいと、わくわくとムカムカが、ぐちゃぐちゃに絡んで気持ち悪い。
風俗を始める前の休日は、より自分を高めるためにデパコスとかを買いに行ってたっけ。
今も美しさには拘るけど、昔ほど流行とかを気にしなくなった。
やる事が、無い。
そして夜になれば劣等感に襲われるだろうし、精神が不安定になるだろう。
久しぶりの休みとはいえ、これからの自分がどうなるかが手に取るように分かる。
思考を止めないと、いつまでも想像して吐きそうだ。
「朝ごはん」
ふらふらと鏡も見ずにキッチンヘ向かう。
お腹は空いてないけど、結花は食べると思うから。
いつもなら自分で「妹思いなあたし、美人~」って褒めてただろうけど、こんな仕事してるからそのお詫び、と思うと別に当然の事だなぁとも思う。
カタコトと小さく音を立てて料理をする。結花が起きない様に。
シュガートーストとカフェラテ。
甘いにおいが鼻を棘激して、心臓にもったりと埋めつけて行く。
いつもはこの勢いで結花を起こして、この甘さを毎日摂取していたのだけど。
今日は余力が無くて、またベッドに潜り込んでしまった。
しばらく経って、結花が起きた。それと共にあたしもベッドから出て、スマホを手に取るとついこんな事を考えた。
「みんなに迷惑かけるのなら.あたしは何のために生きているのだろう?」
誰かに体を売るため?でもあたしが落ち付かないからだし。
妹達を養うため?いや、妹に言われてやってる訳じゃない。
あたしの生きる意味____
あたしははっとして、結花を置いて外に出た。
続く
- Re: いつだって私達は。 ( No.4 )
- 日時: 2023/10/12 06:43
- 名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)
ほんの少しの頭痛を抑えながら、あたし達の住むマンションを駆け上がる。
風はいつもより爽やかで、空の色も綺麗な青。
「風も空も、最近は見てなかったな」
気付くとそこは屋上で、人が見えない、自然との触れ合いになっている。
目を閉じて、よく考える。
もう、風俗を続けるのは無理だろう。
年齢が年齢だし、運営ももうあたしを手放すつもりだったんだと思う。
そうすると、あたしが上手く生きていくのも無理だろう。
心が空っぽのまま、いつも通りの生活何て出来る筈ない。
そして、妹を養う事も出来無くなるだろう。
収入が悪くなって、精心的にも続けていくのは無理だ。
美しさを保つ事が出来るかでさえ不安なのだ。
ゆっくりと、目を開ける。
もう、この社会においてあたしは必要とされてない。
そして、あたしもこの生活が、自分の体が嫌いだ。
無理だよ、こんな気持ちになるまで頑張るのが。
自分の、葛藤が自分をぐちゃぐちゃに壊していく。
嫌だ、歳を取って若くなくなる自分が居るのが辛い。
___もうあたしなんて、死んじゃえ。
屋上入口から突っ走って、フェンスを避けてマンションの㟨っこに歩み寄る。
朝の白くて小さな月が、まだ視界の隅に残っている。
その月目指して軽く飛ぶ。
グシャ
「速報です。東京都港区の高級マンションに、女性の遺体が発見されました。警察は、遺体の身元を確認するとともに、くわしい死因を調べています」
_____________
甘い月光が差す夜、彼女…明鏡麗奈の勤務先の風俗店では、利益が大幅に下がり、誹謗中傷コメン卜をした可能性がある、「愛」こと木槌山愛子が店を解雇。
麗奈の遺族は葬式で、「美人で頼れるお姉ちゃんだった」と告白。
部屋にはまだ麗奈の私物が残っていて、まだ麗奈が生きている様だった。
___ちなみに、麗奈が風俗嬢だった事を、警察は妹達には言わなかった。
第1章「甘い月光」end
第2章「死神の呼び声」順次更新
明日から旅行に行くので3日間は投稿しません。すみません。