ダーク・ファンタジー小説

Re: いつだって私達は。 ( No.5 )
日時: 2023/10/18 06:31
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)

第2章・明鏡瑠璃歌「死神の呼び声」

 出来ない、出来ない、出来ない。
 どう足掻いたって、努力したって、人と関る事なんて出来ない。
 暗い部屋の中で髪をぐしゃぐしゃにしながら、その瞳に涙を滲ませ、顔を覆っている。
 「私もう無理、誰かと会話がしたい、笑いながら手を取り合いたい…」
 視界は涙で潤んで風景がはっきりとしない。目を閉じてゆっくりと開ける。

 ピコ、という通知音がしたのでスマホを手に取り、わざわざアプリを開いて既読を付ける。
 『瑠璃歌お姉ちゃん、朝ごはん出来たけど、食べる?』
 どうしようかと考えてる内に、
 『もちろん買ってきたやつだよ!』
 と追記した。
 『なら』
 とだけ応答して、潔癖症みたいだなぁと呟く。

 _____私はサイコキラー、所謂サイコパスなのだ。
 症状も結構な重症で、私は人の顔も声も音もすべて駄目で、見たり聞いたりするとすぐに体が興奮しておかしくなる。
 だから百合菜もスマホから会話をしているのだ。
 だって、自分の命が無くなると困るから。

 でも、私だって人を殺したい訳じゃない。
 だから部屋に引き篭もって人と関わらない事を選んだ。
 それでもやっぱり、サイコキラーが発覚する前の、仲良く4人で遊んでいた頃に戻りたい。
 うじうじ、またもやもやスマホを置いて椅子に座る。
 いつまで引き篭もってんのよ、とか麗奈には言われるんだろうな。
 会いたいよ麗奈ぁ。
 百合菜も、私の為にいろいろ考えてくれてるんだよね。
 百合菜ありがとう。
 しばらく結花も会ってないな、またお買い物しよう?
 「みんなぁ…」
 やっぱり私、弱いんだなぁ。
 でも、でもね。人と関わりたいのに関われない人の気持ちなんて、わからないでしょ。
 「わかってくれたら…嫌、わかっても変わらないか」
 無理だ、と思った矢先、私にはとある思考が脳裏を過った。

 誰かに助けてもらうのでは無く、私からサイコキラーを克服できるようにすれば良い。

 今すぐ外に出よう。麗奈にデパコスと、百合菜にマカロン、結花にワンピースを買って来よう。
 なるべく人は見ないようにして、克服したって報告したい。
 また、あの日の様に……!












 この日の外出がどれだけ大変だったか何て、今の私には知る術もない。

 続く


 <解説>
 違う世界観なので伝説の風俗嬢、麗奈は生きてます。
 それと、朝ごはんを運んで来たのは次のヒロインであり三女の百合菜です。
 瑠璃歌は麗奈ほど強いメンタルを持ってないので人によっては苦手かもです…。

Re: いつだって私達は。 ( No.6 )
日時: 2023/10/20 07:15
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)


 同居している百合菜は今、仕事中なので居ない。
 でも連絡するのも面倒なので、黙って出掛ける事にした。
 ずっと着てなかった去年の誕プレのワンピースを身にまとうと、百合菜のメイク道具を借りて無理矢理色を押しつける。
 「似合わないなぁ」
 私は夏だけど百合菜は春だっけ、と昔の会話を内容だけ思い出す。
 立ち上がって玄関まで歩み寄る。自分の靴なんて10年位前の靴だから勿論残って無い。
 なので百合菜の靴を借りて外に飛び出す。

 「わぁ」
 久しぶりに見た街の風景に、胸が踊る。何もかもが新鮮で、大きくて広い。
 エレベーターで下に降りて、近くのデパートまで行く事にした。
 人の声が聞こえると思って無音という音楽をイヤホンに再生させて移動した。
 人を見ないでスマホの地図アプリだけを見つめて、長い長いデパートへの旅が終わった。

 1階は化粧品売り場。
 アイシャドウがたくさん並んでる所が空いていたから見てみる。
 麗奈の目って確か青くてめちゃ綺麗なんだよな…。
 青系の色がたくさん入ってるのを手に取る。
 「レジって、人がいるんだっけ」
 今更思い出す。わたくし瑠璃歌、もうピンチです。
 覚悟して上を向くと、〔セルフレジは→〕と書いた看板を見つけた。
 セルフレジがあるのか、良かった。
 私はセルフレジヘ向かい、無事に麗奈へのプレゼントを買う事ができた。

 次にエレベーターに乗って地下の食べ物売り場に来た。
 匂いでスイーツのお店を探す。
 野生的だって?何でも良いじゃないか。
 すると、はちみつの甘~い匂いが鼻に入った。
 顔を上げると、はちみつレモンケーキというケーキが2、3個ホールケーキのまま売っていた。
 めちゃくちゃ美味しそうだけど、マカロンを買いに来たのでスルー。
 何歩か進むと、色とりどりのマカロンが陳列されているケースを見つけた。
 私はその中の、抹茶と苺とチョコの3種類を買う事にした。
 スマホのメモを開いてお店の人に読ませ、ちゃんと買う事ができた。

 次は5階の服売り場へ。
 無人で防犯カメラがあるお店に入って、ワンピースを選ぶ。
 結花は青と白か、その間の色が似合う筈。
 ちょっと裾が広い方が可愛いかなぁ、とぐるぐる思考を巡らせる。
 いろんな服を見て、1周して結花に1番似合いそうな青いふんわりしたワンピースを無人レジで買った。

 これでみんな分の買い物を終えた。
 よし、何も問題は無かったし、サイコキラーを克服できたって事で良いのかな。
 ニコニコで帰る私に、人がぶつかった感触がした。

Re: いつだって私達は。 ( No.7 )
日時: 2023/10/22 10:09
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)


 ドンッ

 その音と共に、私の防音イヤホンは外れ、一瞬で人の声が流れ込んで行く。
 慌てて耳を塞ごうとするが、もう遅い。
 ぶつかった人が、私があまりにも動揺しているから、
 「大丈夫ですか」
 と目を合わせて声を放った。

 プツン

 死神の呼ぶ声が、聞こえた気がした。

 心配する若い男性に向かって、勝手に手が伸びる。
 首にグッと爪を立て、皮膚を破っていく。血が流れる。
 血を見てさらに興奮してしまい、男性の頬を掴んで右にまわす。
 大きく目を見開いて、あちこちから血を流す彼を、どうしても殺したい。
 ___やっぱり私は、サイコキラーを克服できなかった。
 目から涙が溢れる。紙袋に血が付く。
 「ごめん、私…もう抑えきれないや」
 その言葉を放ってからは、何一つ覚えていない。













 気が付くと、辺りは血だらけになっていた。
 原型が無いぐらいぐちゃぐちゃで、眼球はちゃんと2つずつ転がっている。
 私に意識が向かい、自分の姿を確認すると、手には血が。足には包丁が。
 あぁ、私、殺っちゃったんだ。
 お土産の紙袋にも血が付着していて、中身を確認すると、まだ無事だった。
 持って帰るか。
 でも、服や靴の血が気になる。足も痛い。
 無人レジ___デパートの人を全滅させたから、全部無人だけど。
 服と靴を適当に買って、ちゃんとお金を置いて、着る事にした。
 付着した血を取りたいのでトイレに行き、ワンピースと百合菜の靴を水で洗った。
 だいたい取れたので袋に入れて、緊急時用の梯子でデパートを出る。

 防犯カメラなんて付いてない。それぞれの店内にしか付けてない、頭の悪いデパートで良かった。
 だから、私が犯人だという確信には至らない。
 証言者も居ない、原型が無いから指紋採取もできない。
 靴の跡だけじゃ特定できないし、私物はお持ち帰り済みだ。
 本当、サイコキラーには良いデパートだったな。

 音の無い音楽を、イヤホンで再生する。
 下を向いて、点字ブロックを足で辿る。何て事無い、サイコキラーの日常。
 今日、人を殺して無くともこう帰っていたのだろう。
 エレベーターに乗って、住んでいる部屋まで歩く。

 百合菜に手紙を書いて、冷蔵庫にマカロンを入れておく。
 隣の麗奈と結花の部屋にワンピースとアイシャドウ、私の手紙を置いて帰った。
 きっと今日の事はニュースになるんだろうな。
 別に、証拠隠滅した訳じゃないんだけど、サイコキラーが悪いから、私は悪くない。
 そう思うからこそ、私は人を殺したくない。

   続く

Re: いつだって私達は。」 ( No.8 )
日時: 2023/10/26 17:33
名前: のゆり (ID: 7NQZ9fev)

 私は悪くない。
 そうは思っていても、今日の事はちょっと後悔してる。
 きっと、「デパートで連続殺人事件、何百人死亡」
 というコンテンツを姉妹きょうだいが観て、私が買い物した事とつなげれば、割とすぐ気付いて、守ってくれる気がする。
 だって、今までそうだったから。

 でもそれでいつも心配されて、迷惑かけて、ちょっと怒られる。
 サイコキラーだけが悪いだけじゃない、と。
 まぁ確かに、今日も私が克服しようとか思って外に出なければ起きなかった事でもある。
 どうせこうなる事は予測できていたのだから。
 それでも諦められないのは、私の悪い癖なんだろう。

 もう迷惑は、かけたくない。
 気付いたら私は、カッターを手に持って自分に向けていた。
 大きく刃を出して、腕に当ててから力を入れる。
 ザシュ
 痛みと共に訪れるのは快感で、自分の血がこんなに醜く美しいものだというのも初めて知った。
 ザシュ ザシュ ザシュ
 段々と血の面積が広くなり、入れる力も強くなっていく。
 次第に腕だけでは足りなくなって、足や顔にもその刃が向く。
 足りない。血が足りない。自分の血で興奮する。もっと、もっと血が見たい。

 グサッ グサッ グサッ ザシュ ザシュ
 「切りすぎたかなぁ…。まぁいっか!私、もう死んじゃうんでしょ?」
 口から血を吐いて、その場にしゃがみ込む。
 視界がモノクロになって、声が出ず、目を開けるのが難しい。
 「死ぬ…時…てさぁ、ッ、泣い…た方がっ、いいの…?」
 私が殺した人達は、よく泣いていた。
 だから、私も泣いた方が、リアルに死んだっぽい。
 無理矢理涙を流して、ゆっくり目を閉じる。
 ___さようなら、世界。



















 〖港区高級マンション女性死亡、連続殺人との関連は〗
 本当、的外れな警察だなぁ。
 彼女は、きっとそんな事を考えただろう。
 打たれ弱くて、ちょっとサイコパスな彼女。
 事件の後、同居の妹に抱きしめられたのは黙っておこう。

 第2章「死神の呼び声」end

 第3章「夜に染まれ」順次更新


 <作者から>
 第2章、完結しましたね!更新の無い日が多かったですけど。
 サイコキラー、ちょっと難しかったですね…。
 次の第3章ですが、第1章同様、ちょっと大人なお話になっています。
 苦手な方は回れ右。
 それでは、また第3章1話で会いましょう~!