ダーク・ファンタジー小説

二日目 洞窟の主 ( No.9 )
日時: 2023/10/27 22:26
名前: オコボ ◆TVCSPRoRFE (ID: jo2UR50i)

小山の周辺は大きいもので2m近い岩もあれば小さいものまである
かつての天井であったであろう
レキ場となっている
入り口近くは土の地面となっており緩やかとは言えない角度で下っている

「あれは何をしているんだ?」
リーダーが疑問を呈する
杖のゴブリン(以降ゴブリンシャーマンと呼ぶ)がぶつぶつと壊れたレコーダーのように同じフレーズを繰り返すたびに空中に魔法陣が現れては消えを繰り返していた
「≪幻影≫?」
「魔法陣を描写してるのか?
何の意味があるんだ?」
「さぁ…?」
駆け出しで最近弓を使い始めた
少年がリーダーに尋ねる
「あの、杖の上で回ってるの
何スかね?」
「ああ、アレは≪石弾ストーンバレット≫だ。
事前に詠唱してスタックしておくんだ。サイズで威力がわかるぞ」
「スタック?」
「いつでも発射できるように
止めとくんだよ」
「え、そんなことができるんですか」
「あのサイズなら、虎の前足並みの威力はあるんじゃない? 前にアレを腹に食らったヤツを治そうとしたけど手遅れだったわ。」
「マジスカー。帰りてー」
「帰ったらテメェの取り分なしだかンな。」
「冗談ですよー!!
もうカネ無いンスから!!」
「うっせーよ。はしゃぐな。
アホ共が。」
「うス」
「ああ。で、どうすんだよ。リーダーさんよ。作戦はあんのか?」
「…」
「あ、魔法陣が消えたっス」
「…?」
「何も起こらない?」


ゴブリンシャーマンは
背もたれの上でじっとして動かず頭上では相変わらず
5つの岩塊が回転している。


緊張感が薄れつつあるのか後ろから小声でやり取りが聞こえる
「なんで、仕掛けてこないんだ」「待ってんだよ」
「待ってどうすんだ?」
「…そりゃ、いつかかかってくるって思ってんだろ」
「そんなん、わかんねェじゃん。いつまでもにらみ合ってることだってできるぜ」
「…そしたら。どうなんだ?」
「そりゃ、腹が減って。そのままいったら、お互い飢え死にだな。」「バカじゃねぇか」
「…そりゃ、互いに飢え死にになったら。馬鹿だろうが、そうならねぇだろ」

「なんで」「どっちかがしびれ切らして動くからだよ」「ふ〜ん」

松明を部屋へ投げ入れる

「なんで?」
「挑発に乗って来てくれれば、通路を後退しながら向かい打てる。でないなら、光源になる」
「なるほどス」

「よし、弓使える奴は。アチャコと…。ヨイチ。
ミシュランの後ろについて射程に入ったら当てられそうなヤツを
狙って撃て。」
「あいよ」「ここで弓使うとか、初めてだな」
列の後ろから、部屋の入り口までやってくる。
「ミシュランはラージシールドを使ってくれ。疲労は大丈夫か?」
「れるぞ。ン題ない」
「じゃぁたのむ「ああ」」






ラージシールドを構えながら3人はゆっくり部屋の中に入ると
射撃可能な位置で止まった。

矢をつがえようと動いたとき
岩塊は発射された
2人は動作を中断しミシュランの後ろに身を低くして隠れる。
ミシュランはラージシールドを地面に押さえつけて角度を与えて衝撃に備えた。

その様子を後ろから見守る一行
鍾乳石の玉座まで水平距離で20m 高さは8m相当
速度は 80km/h 位だろう 22.2m/sに相当する

弾道はミシュランたちの上方を
大きく飛び越し
やや弧を描きながら通過した
通過する直前に次弾が発射された
着弾位置はリーダーたちが潜む
通路の入口だったのだ

当然それも予想していたため
慌てることなく一行は身を隠す

入口までの距離は27m

「はずした」

か、に思えた。
岩塊は部屋の入り口の手前1m強の地面に着弾した
そのまま何も起こらない
はずであった

起こるとすれば地面で跳弾ちょうだんした石塊が入口の正面の通路の壁にめり込むであろうくらいだろうか

しかし、そうはならなかった
地面に接触した瞬間



はじけた



閃光を放ち、轟音とともに
細かく砕けた鋭い岩の破片が衝撃でまき散らされる
ほぼ同時に3発目が発射


直接目撃はしなかったが
通路に撒き散らされた鋭い石片と音と光が状況を理解させた

一行は青ざめた

先行した3人は思わず振り返った

2発目は天井の鍾乳石に衝突して破裂し破片をまき散らした
天井から地面の石筍せきじゅんとつながりかけている長い鍾乳石の先に当たったのだ

迫りくる破片を避けるため
一斉に身を低くする

3発目が3人に迫る中
4発目が発射された

1発目の残骸が上方から
降り注ぐ中

ミシュランの右後ろ1m
ヨイチからは60cmもない地面に
次弾は接触した
3人は盾の側面からモロに直撃を受けたのだ
ヨイチは右側面を中心にやや背部も含めて右腕で影になった右太もも以外にまんべんなく破片が突き刺さった
左足を立てていたので左ひざ側面の一部も被弾した

特に致命的なのは右こめかみへのダメージであろう。それにより、意識を手放した。
一方、ミシュランは鎧によって
まったくの無傷であった。
アチャコはヨイチの影になってはいたが、面積にして1/3程度の被弾率であった

2発目の破片も続いて絶え間なく降り注いでくる

耳鳴りと訳の分からない状況に
アチャコは半分パニック状態になりつつあった。
あと一押しあれば突発的な行動を起こしかねない危険な心理状態に追い込まれた

4発目はミシュランの手前に着弾
破片の影響をすべて防ぎ切った
しかし、これが引き金となって
アチャコは入口へ走り出す
完全にパニックに陥ったのだ

3人とそして部屋の外で身を隠す残りの一行は気づかなかったが、
ゴブリンシャーマンが杖を掲げると、影の中に控えていたゴブリンが一斉に動き始めた


このときリーダーたちは5発目を待って中に踏み込むつもりでいた
爆発音は聞こえず、ゴブリンたちの足音で状況を察した
「いくぞ!!」
リーダーは部屋に踏み込む

「まだ撃ち尽くしてないだろ」
「ブラフだって!!」
「ブラフってなんスか?」
「いいから行くんだよ!」
遅れてメンバーが続く


狙ったかのように入口に向かって最後の石弾が発射された


「いやぁっ!!もうダメ!!助けて!助けて!」
アチャコがリーダーに組み付いて助けを求め始めた

「おまっ!おちつけぇぇ!!オイ!」

そして石弾はアチャコの足元で
炸裂し凶悪で鋭利な破片を存分に解き放ち二人を巻き込んだ

破片の被害は深刻であった
まずアチャコの両足をまんべんなく引き裂いた。
これによりアチャコは気を失った
続いて
リーダーの足に著しく歩行を困難にさせる傷を負わせた
その場に尻もちをつき身動きが取れなくなった

残ったメンバ7人は扇状に広がりゴブリンを迎え撃つ構えを見せた
後方の隙間に不安な陣形である

少年が抜き打ちで矢をでたらめに放つと幸運にも先頭の1匹を射貫いた
「はっ!!」隣の男が賞賛の意味を込めて短く笑い声を上げる
にやっと笑い弓を足元に捨てて槍を構えた

リーダーは気絶した2人を
引きずりながら入口へ這ってゆくが鈍亀のごとき歩みで遅々として進まない

7人の壁を突破しようとする
小人を巧みにさばいてゆくが
じりじりと後退せざるを得ない
回り込もうとするのを後退を含む動作で制すためだ

数の圧力に抗いかねる一行

少しずつ負傷が累積してゆくが
ついに一角が崩れることとなった

少年が木の槍を鎧の継ぎ目から腹に突き刺されたのだ。

「ダメみたいっス…」


リーダーはしばし考え…

「俺たちを置いて後退しろ!!」
「えっ!?」
「ぁかった!!」
「なっ…!!」

6人は後退速度を早めた。
少年も慌てて続く。

ミシュラン達は短いやり取りで
リーダーたち3人を見捨てる選択を取ったのだ

リーダーは孤軍奮闘を見せる
円形盾とブロードソードで2匹を切り裂くが見る間に血濡れに変ってゆきがむしゃらに剣を振り回すのみとなり果てた
ゴブリンらの攻撃により
やがて、動かなくなった。

ゴブリン達は気絶中の2人は無視して先にこちらを片付ける腹積もりであるようだ

後退により、17匹のゴブリンを行動不能に陥らせることに成功するがまだ50匹以上が健在だ
陣形を折りたたむように狭い通路へ後退してゆくが、後ろが見える訳ではないので意識を散らしながら戦闘を行うため、一人は腹に槍を。もう一人は喉を槍で衝かれて
ミシュランがフォローしながら退避させたが、ミイラ取りがミイラになり、さらに二人が四肢に深手を受けながら後退した。
その後、
迎え撃つ構えで入口から通路へ後退したが、ミシュランのスタミナ切れが顕著に現れ。明らかにゴブリンへの打撃が鈍り始めた。
前の通路での疲労が取れていなかったのだろう。
そこで狭い通路であることを利用しミシュランは防御に徹し後ろから仲間が槍で応戦する。
ゴブリンを戦闘不能に追い込む
ペースは低下し二人並べる広さの通路まで後退させられてしまう
ここまでで、倒せたのは5匹のみ
10分以上かかってしまっている
ひどい泥仕合の様相を呈してきた

ミシュランは固定で前衛を入れ替えながら後退しつつ応戦する
ミシュラン以外は大した疲労も無いためDPS(DamagePerSeconds)は
劇的に改善した



一部で前衛の使っていたブロードソードが折れるなどのハプニングはあったものの
ゴブリンをあらかた片付けると満を持して大柄のゴブリンがミシュランの前に立ちはだかった

が、勝負は一方的であった。
後退中にほぼ動く甲冑に徹してスタミナ回復に務めたミシュランの
堅実な攻めに大柄ゴブリンは一方的にいいようにされて沈められた
ゴブリンは所詮ゴブリンであった



一行の内3人が速やかに広間へ戻る
気絶したメンバーがいるからだ。
それに、ミシュランは疲労困憊。
ほかのメンバーも応急処置を必要としていた
4人を残して急行する




ゴブリンシャーマンは再び幻影を空中に投影して壊れたレコーダーのような行為を始めた
とどめを刺すべく近づいてゆくと
「ひひ、来たぞ」
ゴブリンがつぶやいた

中空から何の前触れもなく
何者かが現れた。




それは…、






インプであった。





「あるぇ??」



「悪魔召喚に失敗した?」
「あの反復は≪悪魔召喚≫の
魔法だったのか?」
「いや、だってインプって
悪魔じゃん」
「うん…。なんだか、
あっけない幕切れだね。」

その後淡々と、ゴブリンシャーマンを殺した

インプは天井の隙間から逃げて行った。

そのとき、インプの手にはホカホカの胸当ブラジャーが握られていたことに誰も気づかなかった

傷の治療など諸々を始めた。

ミシュランが入口を警戒する。





「お願い。ころしてぇ…」
アチャコは意識を取り戻し自分は二度と歩けない事実を認識すると死を懇願した
「ぁかった」
ミシュランはこめかみにピックを突き刺すと、その体はだらりと力を失った。

ふと足元を見ると弓に足が挟まっていた
いままで気づかずにアチャコが手放した短弓ショートボウをひっかけたまま動き回っていたのだ

取り外すとアチャコの物であった背嚢に押し込んだ
彼女は動物系統の魔法の使い手だった。
動物は魔法抵抗が弱くレジストされにくい。
手ごわい相手や、旨味の少ない猛獣などを相手取るときには非常に重宝した。
動物系統魔術の習得条件は動物との共感性が求められる。
彼女は動物が好きだった。しかし動物は必ずしもそうではなかったようだ。
それでも。楽しげだったとミシュランは記憶している。
皆でしばし哀悼をささげた。
ついでにリーダーにも。
(リーダー「ひでぇ!」)






―――――――――――――――
本文中に明かされなかったナゾを
一部解説させていただきます。
・レキ場
崩落でできた大小の岩が転がる場所のこと。最後のシーンの広間の天井の穴は天井の崩落で空いた穴で岩はその残骸。
・ピック
バランスの悪い武器 つるはし
・なぜ、部屋の中に3人は入っていったのか
入口からでも矢は命中するでしょうが、命中率は落ちます
ヨイチの予定では15,6mまで接近するつもりでした。
部屋は暗く、彼らの弓の腕はそれほどでもありません。
アチャコの弓の腕はもっと近づかなければ自信の持てない距離でした。
あのままにらみ合っていてもらちが明かないと判断して、ああいった手段をとなりました。
部屋を通り過ぎた先の通路は未確認でしたし、途中で分かれた6人のその後も未確定です。気が逸ったという理由もあり解決を急いだのです。
・なぜ、ミシュラン?アチャコ?ヨイチ?
適当です。アチャコはArcherから、ヨイチは那須与一です。ミシュランは…、想像にお任せします。
・どういった集まりだったのか?
とある手引きで集められた人間です。とはいっても、大体同じメンツです。
リーダーはなんとなくリーダーなのです。さすがりーだー。
今回はゴブリンの巣に打撃を与えることで集められました。
そのあとは現地解散となる予定でした。討伐証明部位さえあれば十分というわけです。
・ミシュランは何故一人だけ重装備なの?
なぜか彼らのコミニュティでは重装歩兵の装備であるフルプレートアーマーは金さえ払えば一般人でも買えてしまえます
彼らは以前に発掘品で一山当てましたその金で「買ってみた」訳です。アホですね
しかし、使ってみれば。ゴブリン討伐をほぼ無傷でこなせるその防御性能の高さに気づきました
味を占めた彼らは戦術の核心として扱うようになりましたが、そうそううまい話はありません。
遠くない未来、鎧を修理に出した時そのコスパの悪さに気づくことでしょう。
・ゴブリンが大量発生する理由
世界の管理システムがPOPさせている
・POP
一部のゲームではエリアを切り替えると倒したはずのモンスターが再配置されています。
アレをPOPと呼ぶわけですが。この世界では、ある条件下でシステムが作成したモンスターをPOPしたいランダムな位置まで転送。
POPする種類はその地形の種類ごとのモンスターテーブルを参照して決定しています。
モンスターテーブルの要素には条件が含まれそれに基づき判定されます。
出力されるモンスターにはある程度の幅が設けられます。人間に個体差があるように、モンスターにも個体差が設定されるのです
・スラムの由来
北東2日の距離にあった都市国家が壊滅したのでそこの難民が作ったもの
・裸の男をとらえた理由
奴隷として売るつもりだった
・ゴブリンシャーマンの詠唱
≪悪魔召喚≫などではありません。魔法を失敗すると稀に、悪魔などが召喚されます。「悪魔の法」というわけです。
ゴブリンシャーマンはそれを知っていて。ゲーム風に表現するならMP回復>MP である魔法を連発していたわけです。
・ゴブリンシャーマンが使った爆裂弾を何故一行は知らなかったか
爆裂系の魔法は火系統の専売特許で。≪爆裂弾≫は未知の魔法でした。この世界では誰かが新しい魔法を開発して行使すると。その情報がPOPの魔術テーブルに加えられることがあります。
≪爆裂弾≫も誰かが開発して魔術テーブルに加えられたものが、POPしたゴブリンシャーマンに配置されたというわけです。
爆裂系の魔法は非常に認知度の高い魔法です。であれば、爆裂系の他系統の魔法もあってもいいのでは?と考えるのは自然なことです。
この世界ではこういった事故は日常茶飯事です。
・何故、地球と共通の幻想生物がいるの?
あれらは、記号です。名前や、姿を多少変えても矛盾なく成立するはずです
例えば、本文のゴブリンという単語をコボルトと一括置換しても違和感なく受け入れられると思います